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「牧場物語 3つの里の大切な友だち」、はしもとよしふみ氏インタビュー

大きく異なる3つの世界を舞台としたシリーズ最新作

6月14日~16日 開催

会場:Los Angeles Convention Center

 「牧場物語 3つの里の大切な友だち」は、日本では6月23日に発売されるほのぼの生活ゲームである。今回E3では、「STORY OF SEASONS: Trio of Towns」のタイトルで、日本語版の試遊台を出展していた。

 今回E3会場を訪れていた本作のプロデューサーはしもとよしふみ氏にインタビューをすることができた。「牧場物語 3つの里の大切な友だち」はシリーズ20周年の作品だ。今回は作品の魅力と共に、シリーズや、北米展開への想いも聞くことができた。

シリーズ20周年、3つの里を舞台とした集大成となる作品

 はしもと氏は最初に「牧場物語 3つの里の大切な友だち」を語った。20周年を記念し、集大成ともいえる要素を凝縮した作品となっている。タイトル通り3つの里が登場し、農業はより手軽に楽しめるようにし、さらに「パワーサークル」という要素でやり応えも盛り込んでいる。

本作のプロデューサーはしもとよしふみ氏
様々な作物を育て、農業体験が楽しめる
3つの里が登場する
里はそれぞれ、生活のリズムが異なる
釣りの要素も

 里は今までのイメージを受け継ぐ、北米風のイメージのする「ウェスタウン」、もう1つが和の香り漂う「つゆくさの里」、そしてもう1つが南国風の「ルルココ村」となっている。それぞれは風景、住人、季節のイベントなどが大きく異なり、主人公は3つの里の住人と交流しながら自分の牧場を経営していく。

 3つの里は住人達の生活リズムも違う。ウェスタウンは朝早くから人々は働き1日まじめに仕事をしているが、ルルココは“シエスタ(小休み)”があり、お昼にお店も閉まってしまう。ルルココは夜も早かったりする。里の人々の生活の違いを感じられる要素だ。

 「パワーサークル」は畑の力を増す要素で、例えばかかしを畑に置くと、収穫数が多くなる。サボテンを置くと甘みが増すといったように、作物をよりよくできる。手軽な要素と、作物の出来にとことんこだわれるポイントも盛り込んでいるのだという。

 里はプレーヤー自身が3つに関わっても、1つにこだわるのも自由だ。感謝祭は北米、花火は日本というようにお祭りが開催される時期が違い、それらの積極的に関わるというプレイもできる。もちろん、3つの里で恋人を作ることも可能だ。恋愛要素も本作では楽しい要素の1つである。

 3つの里と言うことは、開発の作業量も跳ね上がる。はしもと氏がアイディアを提示したとき、開発チームの雰囲気は明るいものではなかったという。しかし3つの里の違いや、それぞれの里の時間の要素など、3つの村があることで実現できるアイディアの面白さなど、メカニクスを考えていくところで開発者のモチベーションは大きく跳ね上がったとのことだ。

 はしもと氏から話を聞いていると、本物の農業、世界各地への興味などを感じる。20年間も農業をテーマにした「牧場物語」を作り続けるこだわりの部分はどこなのだろうか。

 初代「牧場物語」を発売したのは1996年。発売直後はユーザーから評価を得られなかった……売れなかったという。シューティングやアクションなど戦うゲームが全盛の時代、理解を得られなかった。しかし徐々に口コミで人気を得て、その後のシリーズへ繋がっていった。

 はしもと氏はもちろん様々なゲームも手がけている。しかし、「牧場物語」シリーズを作り続けているのはユーザーからの“声(メール)”が大きな力になっているからだ。その声の内容、ユーザーからの反応が他のタイトルとは全く異なる。

 「シリーズが大好きです」、「親子2代、娘と一緒にやっています」、何らかの理由で外に出られない様な方が外に触れる体験を楽しんでいるなど、様々なユーザーが自分がこのゲームをいかに好きかを語ってくれるという。「こういうゲームは続けるのが大変だと思いますけど、がんばってください」というメールを見れば、何が何でも続けたいとはしもと氏は思うという。

 「ゲームって自由だと思うんです。『牧場物語』はその自由なことを、せかされずにできる。今はそういうゲームも増えてきて、時代が私たちに追いついたのか、それともみんなが疲れてしまったのかわからないですけどね(笑)。“癒やしが欲しい”と思う気持ちはわかります」とはしもと氏は語った。

 北米でも「牧場物語」は人気のタイトルだが、実は北米のユーザーは日本とだいぶ毛色が違うという。北米では1997年、初代「牧場物語」からのユーザーは「将来、農業で暮らしたい人」がゲームを手に取っていたというのだ。若くして稼ぎ、財産を成してそれを農業につぎ込んでのんびり生活したい。そう考えるユーザーが、将来の夢のシミュレーションとして「牧場物語」を手に取っているというのだ。日本ではある意味“ファンタジー”として牧場生活を楽しむのだが、北米ユーザーの感覚はずっとリアルだという。

 北米で販売を行なうXSEEDはマーベラスの関連会社で、密に連絡を取り合い、メッセージ部分をより英語圏の人に伝わるように変えることができている。言葉を単純に翻訳するのではなく、意味を伝えることができるようになった。

 「でも実は丁寧にしようとすると今はあまり使われない表現だという。キャラクターに合った言い方に調整しています」とはしもと氏は語った。

 テストプレイでも両国の違いが出た。日本のプレーヤーは効率重視、1日の時間を有効に使うため、この時間はここ、デートはこれだけ時間を取られるから合間に水やりをやって……とタイムテーブルをきっちり作るが、北米ユーザーはのんびり、ゆっくりプレイする傾向がある。一方、日本のユーザーは時間を気にして常に走っているとのことだ。

 もちろん、「牧場物語」そのものも変化し続けている。初期のシリーズはまさに自由の農業が楽しめた。しかし「何をして良いかわからない」、「色々な要素があるのはいいが、指示して欲しい」といった意見もあった。「昔のゲームって“発見する楽しさ”があった。しかし今はそうではない人も多い。だからこそストーリーを語りながら、様々な要素を紹介するようにはしています。“説明的”になり過ぎないよう気をつけていますが」。

 一方で、ゲームでこれだけ農業を掘り下げ、描いていると、はしもと氏自身が農業をしたくなるのではないだろうか? はしもと氏は「実はやっています」と答えた。タイミングを見て農家などに寄っているそうだ。最近は行けてないのですが、以前は地引き網を手伝ったこともありますよ、現在は京都の動物園や水族館にいってずっと見ているのが多いそうだ。

 様々な動物もシリーズの魅力だが、例えば「アルパカ」は本当は飼うのが難しい動物であることをはしもと氏は取材を通じて知ったという。アルパカは臆病で寂しがりで群れを好む。こういった所は実際の取材でわかったことだという。しかし実は最近のアルパカはずいぶん人に慣れ、のんびりした感じになってしまっているようだ。

 農業は楽しいだけではない、時には苦しく、難しいことも多い。過去のシリーズでは水をやらなければ作物はすぐしおれてしまうし、畑を耕すのも手間がかかった。現在はこれらは低減される傾向にある。しかしそれでも「世話をしなくてはいけない」というのは守り続けたい要素だ。動物も餌をやるのを怠れば、死んでしまう場合もある。

 実は初期シリーズでは「死ぬのや枯れるのはやめて欲しい、ショックが大きすぎる」という声も多かった。しかし10年続いたあたりから「なくさないでくれ」という声が大きくなったとはしもと氏は語った。「自分も当時ショックを受けたが、子供に命の大事さを教えるのに役立っている」という意見が出てきたとのことだ。

 また、「何故農家を目指したか」というアンケートで、「『牧場物語』をプレイしたから」という声がかなり多く、世代を超え「農業」を伝える1つのコンテンツとなっている。ソーシャルゲームなどでの農業ゲームの人気は、結果農業を知るお客さんが増え、ジャンルが広がるのも良いことではないかとはしもと氏は考えているようだ。

 「まもなく『牧場物語 3つの里の大切な友だち』が発売されます。うちの会社では20年間展開し続けているシリーズで、集大成と言えます。すごくはいりやすく作りました。ぜひプレイしてもらえればと思います」と最後にはしもと氏はユーザーにメッセージを贈った。