【特別企画】

ファミコン版「ドルアーガの塔」40周年! RPGの概念をアーケードから直輸入。“裏ドルアーガ”も楽しめた移植作品

【ドルアーガの塔(ファミリーコンピュータ版)】
1985年8月6日 発売
価格:4,900円

 今からちょうど40年前、任天堂のファミリーコンピュータが発売されてから2年後の1985年8月6日にファミリーコンピュータ用ソフト「ドルアーガの塔」がナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)から発売された。

 本作は、1984年にアーケードでリリースされた同名タイトルをファミコンへと移植したもので、画面構成やグラフィックス、サウンドなどはファミコンのハード性能に則った内容となっているが、主人公の「ギル(ギルガメス)」が迷路状の60フロアに隠された宝箱を取りながら敵と戦って上階を目指すゲームシステムは、ほぼそのまま再現されていた。

ファミコン版「ドルアーガの塔」。1985年8月6日発売。価格は4,900円。本稿のゲーム画面は、指定のあるもの以外はNintendo Switchの「ナムコットコレクション」収録のものを使用している
【「ドルアーガの塔」紹介動画(映像はアーケード版のもの)】

 ナムコの家庭用ゲーム向けブランド「ナムコット」にて、同社を代表するアーケードゲームのヒットタイトルがファミコンで発売され、この「ドルアーガの塔」はその8本目のラインナップとなった。

 本作は筆者が当時まだ持っていなかったファミコン本体を本気で欲しくなったタイトルで、最初に手に入れたファミコンソフトでもある思い入れの強い1本である。本稿ではそんなファミコン版「ドルアーガの塔」を、本作が収録されたNintendo Switchソフト「ナムコットコレクション」のゲーム画面で振り返ろう。

40年前に筆者が購入した「ドルアーガの塔」のゲームソフト。ナンバリングは「07」だが、「08」の「ワープマン」が先に発売されたため、本作は8本目となる
中を見てみると、説明書などの同梱物の他に、本作の裏技が載った当時の雑誌の切り抜きが入っていた

アーケードで確立したRPGライクなゲームシステムをファミコンへ移植

 筆者のアーケード版「ドルアーガの塔」との出会いは、リリースされた1984年よりも遅く、既にゲームセンターからその存在が消えかけている頃だった。そもそも筆者が育った東京大田区の大森駅周辺のゲーセンで本作を見た記憶は1度しかなく、実際にプレイすることもなかった。ナムコの直営店もあった隣の蒲田駅まで行けば遊べたのかもしれないが、中学生の経済事情では本作を根気よく遊ぶことはできなかったと思われる。

アーケード版「ドルアーガの塔」。現在は「アーケードアーカイブス」やSwitchの「ナムコミュージアム」でプレイ可能。これは前者の画面だ

 本作に興味が沸いたのは、「ポケモン」などで知られるゲームフリークが、まだアマチュアのゲームサークルだった頃に発行した同人誌をコミックマーケットで偶然手に入れてからのことだ。これは当時としては珍しく、アーケードゲームの本格的な攻略を扱った同人誌で、それに掲載されていた杉森健氏が描く登場キャラクター達が実に魅力的で、執筆者の田尻智氏による攻略記事は、本作をあまり知らない筆者をも強く惹きつける内容だった。

アーケード版「ドルアーガの塔」の攻略特集が載った同人誌「GAME FREAK 15」。表紙のカイのイラストを描いているのも杉森氏だ

 その「ドルアーガの塔」がファミコンで発売されるというニュースを聞いたときは、同じファミコンで「ゼビウス」が出たとき以上の衝撃があった。ゲームセンターでは遊べなかった憧れの「ドルアーガの塔」が自宅でいつでも遊べるようになる。高校生になっていた筆者は、同じクラスのちょっと裕福な友人に頼み込んで、コントローラーの調子が悪かったファミコンを安価で譲ってもらい、それを自分で修理して念願のファミコンユーザーとなって、夏休み中にこの「ドルアーガの塔」をお迎えした。

ファミコン版に付属のミニカタログ。このときから既に本作を「RPG」とうたっている

内容の一部は簡素化されたもののプレイ感覚はかなり近い

 当時アーケード版を遊び尽くしたプレーヤーにとっては、ファミコン版のグラフィックスやサウンド、画面構成や迷路の形が違うなど、違和感を覚えるところは多かったと思われる。しかし筆者にとっては初体験の「ドルアーガ」であり、その全てが新鮮だった。

これはファミコンの実機で撮影したもの。家庭用テレビ向けの横画面になり、迷路の形や色味も違っている

 操作自体は簡単で、方向ボタンによるギルの4方向移動と、A・Bボタン共通の剣の出し入れのみ。プレイヤーは原則1フロアに1つ隠された宝箱を探し、宝を取ってパワーアップをしながら、フロアのどこかにあるカギを取り、扉を開けて次のフロアへと進んでいく。

 本作は、宝箱に入った宝を取ることで強くなっていくRPGテイストなゲームシステムを導入している。当時はまだ「ゼルダの伝説」や「ドラゴンクエスト」なども発売されておらず、キャラクターを育てて強くし、強敵と戦っていく要素を初めて体験できたファミコンソフトと言える。

剣や防具を取ることでギルの攻撃力や体力が上がっていく。取った宝の一部は画面下に表示されている

 各フロアにはギルの行く手を阻む敵キャラクターが登場。その攻防も単純ながら、よく考えられている。ギルは通常時、剣をしまっていて前方に盾を構えている。敵の呪文による攻撃は、その方向にギルを向けることで防御できる。

 攻撃をするときはボタンを押して剣を出し、敵と交差することでダメージを与えられるわけだが、盾はこのときギルの左側に位置するので、剣を出した状態でもギルの向きを素早く変えれば呪文を防ぐことができる。ギルの剣の出し入れはフロア26の宝を取るまでは遅いので、それまでの重要な攻略テクニックとなるわけだ。単純な操作で奥深い敵との攻防を成立させたゲームデザインは実に画期的だった。

剣の出し入れが敵との攻防のカギ。盾の位置も意識できると、呪文を使う強敵マジシャン達の呪文も上手くあしらえる
フロア26の宝「ブルーガントレット」を取ると、剣を出し入れする速度が劇的に上がり、呪文を出して消えるマジシャンにも対応しやすくなる

 ギルの体力が画面に表示されていないことも、ゲームプレイに緊張感をもたらした。前述の通り、戦闘はギルが剣を出した状態で敵と交差すると行えるわけだが、このときは敵にダメージを与えると同時にギルの体力も削られていく。敵を倒すとギルの体力がリカバリーするルールもあるが、ギルの装備が少ない序盤で複数の敵と行う戦闘は緊張感があり、宝箱を出すために敵と戦わなければならないフロアではそれが倍増した。

ナイトなど体力のある敵と戦うときは必ず剣を出して歩くこと。止まっているだけでは剣を出していても一方的にダメージを受けてしまう

アーケード版の一部テクニックは使えず。追加要素「裏ドルアーガ」も登場

 本作の攻略において、最も重要なギルをパワーアップさせるためのアイテムが入った宝箱の出し方は、一部を除いてアーケード版と同じだったので、前述の「ゲームフリーク15」が役に立った。ただしファミコンへの移植にあたり、一部の宝箱の出し方や宝の効果が微妙に変更されていて、同誌に載っていた「剣を振ってファイアーエレメントを消す」、「ギルが剣を出した状態で上の壁に向かって足踏みをすると、左方向から来る敵を倒せる」といったアーケード版のテクニックは使えなくなっていた。

特定の宝箱を取らずに進むと、マップが見えなくなってしまうなんてことも
ギルの姿にあまり変化がないファミコン版で、ブルーヘルメットは取ると頭にツノが生えるのも嬉しかった

 ファミコン版の宝箱の詳細な出し方については、ゲームとほぼ同時期に発売された攻略本「ドルアーガの塔のすべてがわかる本」が詳しかった。この本はアスキー出版局(現:角川アスキー総合研究所)の「月刊ログイン」編集部によって作られたもので、前述のゲームフリークの田尻氏も編集協力で参加している。全60フロアのマップと登場する敵、宝箱の出し方とその中身が主な攻略情報として書かれていたこの本は、アーケード版と一部方法が異なる宝箱の出し方も詳細に書かれていたので、ゲームプレイのお供に重宝した。

「ドルアーガの塔のすべてがわかる本」。情報が少なかった当時は、このような攻略本はソフトとセットで購入するもので、特に本作には必須だった
「ナムコットコレクション」に収録された説明書。そこに宝箱の情報などは書かれていない。当時このファミコン版をアーケード版の知識や攻略本を使わずに自力でクリアできた人はいるんだろうか……?

 このファミコン版の追加要素としてインパクトがあったのが「ANOTHER DRUAGA」の存在だ。全60フロアをクリアして、エンドロールが流れたあとに表示されるコマンドをタイトル画面で入力すると、宝箱の出し方が変わる通称「裏ドルアーガ」をプレイすることができたのだ。

宿敵ドルアーガと対峙。ギルや他の敵キャラと同じ大きさで、ドット絵もなんだか可愛らしく、あまり迫力はなかった
石にされたカイを救出し、3本のクリスタルロッドを返還して60フロアを制覇。続編「イシターの復活」はこのシーンから始まる
エンディングで表示されるコマンド。これを入力すると、タイトルロゴの色が変わって裏ドルアーガをプレイできる

 裏ドルアーガの宝箱の出し方は、先の「ドルアーガの塔のすべてがわかる本」には、いわゆる虫食い状態の情報に提示されたワードを読者が任意にはめ込んで推理する形で、17フロア分が掲載されていたわけだが、正直それで攻略できるはずもなく、全ての出し方はもっと後のゲーム情報誌で入手してクリアした記憶がある。ちなみに裏ドルアーガのエンドロールは通常と内容が異なり、登場キャラクター名やBGMのタイトルが表示されるのも斬新だった。

宝箱の出し方の難易度が上がった裏ドルアーガのタイトル画面。このような「裏面」はその後のナムコのいくつかのファミコンタイトルにも存在している

 「ドルアーガの塔」はその後複数のハードに移植されるわけだが、アーケード版の完全移植作を遊ぶには、ファミコン版の発売から11年後のプレイステーションタイトル「ナムコミュージアム VOL.3」まで待たなければならなかった。筆者はこのときもう現在の仕事に就いていて、同作に収録された「ドルアーガの塔」の攻略記事をファミコン版のときに得た知識を活かして手がけることになるわけだが、その話はまた別の機会に。

 アーケードで生まれた「ドルアーガの塔」だが、本作を筆頭とする「バビロニアン・キャッスル・サーガ」の4部作は、この後アーケード版の「イシターの復活」を挟み、続く2作品は家庭用ゲームで続いている。またアーケード版は2024年、ファミコン版は本日40周年を迎え、それを記念する公式の資料集「『ドルアーガの塔』40周年記念公式記録全集」や、いくつかの記念グッズが発売された。

「ドルアーガの塔」はその後「イシターの復活」、「カイの冒険」、「ザ・ブルークリスタルロッド」と続いていく(画像はアーケードアーカイブス「イシターの復活」)
アーケード版が40周年を迎えた際に「40周年記念公式記録全集」も販売された

 リメイクや新作などの動きは残念ながら見られなかったが、本稿で使用した「ナムコットコレクション」や「アーケードアーカイブス」のように過去の名作を未来へ残す施策は現在も各社によって行われている。このファミコン版「ドルアーガの塔」もその1本として、当時遊んだ人の記憶とともに未来へと残していきたい。

筆者がファミコン版「ドルアーガの塔」を語るために残していた一式。これに電波新聞社の「ALL ABOUT namco」なども加わる