【特別企画】
ゲーマーをターゲットにしたオンラインカジノの実態を知ろう
「Counter Strike 2」界隈で蔓延する“スキンギャンブル”、その巧妙な手口
2025年2月28日 00:00
近ごろ、芸能界の相次ぐ摘発が発端となって、オンラインカジノの話題を耳にする機会が増えた。賭博が禁止されている日本においては、たとえ海外に拠点を置くオンラインカジノであったとしても、そこでギャンブルに興じることは違法行為である。
昨今の動向を受けて初めてこの事実を知った人も多いだろう。国際カジノ研究所の調査結果によれば、オンラインカジノの違法性認識が2020年と比較して正答率が31ポイントも上昇していることが報告されている。
しかし難しいのは、オンラインカジノをどのように避けるかという点だ。現代人は、日々ネット上で数えきれないほどの広告に晒されている。有象無象の広告に混ざってオンラインカジノの広告が流れてきたとしても、そこに違法性を見出すことは容易でない。
さらに言えば、もはや我々の日常の一部分となったソーシャルゲームのガチャなども、疑似ギャンブルの様相を呈しているため、どこまでがゲームで、どこからが賭博とされるのか分かりづらいのが現状である。特にゲーマーにとって、その線はかつてないほど曖昧であろう。
ひるがえってゲーム業界でもギャンブル行為が問題化しつつある。本稿では啓発の意味を込めて、「Counter Strike 2」のプレイヤーベースで蔓延する 「スキンギャンブル」 ついて紹介する。多様化するオンラインカジノの様態を知ることで、不注意のうちに賭博に手を染めないよう自衛してもらえれば幸いだ。
世界的ゲーム「Counter Strike 2」とは何なのか
そもそも「Counter Strike 2」(以下、CS2)とは、2023年9月に配信開始となった、Valve社が運営する基本プレイ無料のオンライン対戦ゲームである。大ヒット作である「Counter Strike: Global Offensive」を前身にもち、ゲームエンジンやUIが刷新されてはいるものの、ゲーム内容はほとんど前作と同じだ。しかしプレイヤー数は前作からさらに伸びており、同時接続者数が100万人を越えることも珍しくない。まさに全世界的なゲームである。
そんな「CS2」では、前作に引き続き、ゲーム内で使える装飾品(銃やナイフのスキン)を排出するガチャが用意されている。抽選を受けるには約2.5ドルを支払って「鍵」を購入する必要があり、その後ランダムなレア度のアイテムがひとつ手に入る。ある推算によれば、前作から数えたガチャの累計販売数は20億アイテムに迫るというから、その売り上げは膨大な額にのぼると予想される。
「CS2」のガチャが他のゲームと大きく異なるのは、入手したアイテムをプレイヤー間で売買できる点である。「CS2」のアイテムはすべて、Valve社が運営するSteamコミュニティマーケット上で、Steamウォレットの残高を使って自由に売買できるのだ。
この際、各アイテムの価格は販売者が自ら決めるため、その相場は需要と供給のバランスに従って上下する。特に人気が高いアイテムには何万ドルという値がつくこともある。つまり理論上は、2.5ドルの投資で何万ドルもの価値を手にすることが可能なのだ(ちなみに、売買が成立すると販売価格の一部はValve社が手数料として徴収する仕組みになっている)。
「CS2」に内在する危ういギャンブル性
もちろん、ここでいう「ドル」はSteamウォレットの残高であって実世界の通貨ではない。従って「CS2」のガチャを回すこと自体が賭博に相当するわけではない……と言いたいところだが、実はこの時点ですでにグレーゾーンに突入している。
なぜなら、外部の仲介サイトを使えば、手に入れたアイテムを実世界の通貨に換金できてしまうからだ。これはいわゆるリアルマネートレードで、日本ではこれ自体を直接に禁止する法律はない。もちろんSteamの利用規約には反することになるが、Valve社がリアルマネートレードを行った個人に対して訴訟を起こした事例も少なく、ほとんど黙認と言っていい状態である。
ここで重要なのは「CS2」のアイテムが実世界で通用する価値を有している点だ。つまり「CS2」のガチャ自体、「財物の得喪を争う遊戯」すなわち賭博として考えられないこともない。実際「CS2」プレイヤーのなかには、レアアイテムをトレードすることを見込んでガチャを回す人もいるはずだ。日本においては(たとえ結果的にレアアイテムに恵まれなかったとしても)、この行為すらグレーゾーンにあると言わねばならない。
アイテムを担保に取るオンラインカジノの手口
以上のように「CS2」のガチャには構造的な危うさがあるのだが、これ自体がスキンギャンブルではない。さらにこのガチャを悪用する巧妙なオンラインカジノが存在している。これらのオンラインカジノは、プレイヤーが所持する「CS2」のアイテムを担保に取って、疑似的なギャンブルサービスを提供する。これが「スキンギャンブル」と呼ばれるものだ。
これらのサイトにアクセスすると、まずSteamアカウントを使ってログインするように求められる。サイト側がAPIを通じてSteamインベントリにアクセスするためだ。その後プレイヤーは自分が所持する「CS2」アイテムを、時価に応じたレートでサイト内通貨に変換し、その通貨を用いてスロットやルーレットなどをプレイできる。運がよければ所持通貨は増え、最終的には元よりも時価の高い「CS2」アイテムを受け取ることができるのだ。
つまりここには、日本のパチンコ産業に酷似した賭博の形態が成立している。スキンギャンブルを提供するサイト自体は「CS2」アイテムの交換を媒介しているだけだが、そうして手に入れたアイテムは外部の交換所を介して簡単に実世界の通貨に換金できてしまう。全体像を見れば賭博が行われていることは明白だが、サイト側に責任を負わせることが極めて難しい構造だ。
またスキンギャンブルが特に厄介な背景には、始めるのが容易だという事実もある。普通のオンラインカジノでギャンブルをしようと思えば、クレジットカードや年齢確認証が必要になるから、未成年が手を出すのは難しい。しかしスキンギャンブルを始めるために必要なのは多くの場合「CS2」のアイテムだけ。「CS2」に課金するには、コンビニで販売されているプリペイドカードを買えばよいので、現金さえあればよい。
肥大化する業界とその影響
スキンギャンブル企業はSteam上に多数のBotアカウントを抱えており、ユーザーから徴収したアイテムを首尾よくトレードすることによって、多額の利益を得ている。2016年にはBloombergが、スキンギャンブルの市場規模は全体で74億ドル(約1兆円)で、その後も成長する見込みがあると推算している。
スキンギャンブル業界が莫大な資金力を得るとどうなるか。各企業が顧客獲得のため、こぞって広告を打ち始めるのである。「CS2」のeスポーツシーンに目を向けてみると良い。G2 Esports、Natus Vincere、Mouzをはじめ、世界ランキング上位の名門チームは軒並みスキンギャンブル企業にスポンサーされている。またFaze ClanのCEOであるBanks氏は、チーム創設時に資金調達のためスキンギャンブルサイトを運営していたことを認めている。
もっとも、プロチームによっては賭博が合法化されている国に本社を置いている場合もあるため、スポンサードを受けること自体が違法であるわけではない。また、トップチームの多くがスキンギャンブル企業から多額の資金を得ている以上、他のチームも競争のために同様の道を辿らなければならないのが現状であり、特定のチームを糾弾することはできない。
重要なのは、消費者である我々が、贔屓のプロチームのジャージにロゴが載っているからといって、そのサイトをむやみに信用しないことである。先にも述べたように、特に危険なのは若者だ。法律に関して分別のない中高生であれば、プロの配信で広告を見かけたことをきっかけにスキンギャンブルに手を染めてしまうのも無理はない。
しかし若いうちにギャンブルを始めると、それだけギャンブル依存症に陥る可能性が高まる。近ごろはギャンブルの違法性ばかりが注目されているが、真に恐ろしいのは依存症の問題であり、これこそがギャンブルを避けるべき一番の理由である。ひとたび発症してしまえば自制が利かなくなり、財産が尽き果てるまでギャンブルに溺れ続けることになるのだから。
もし周りに「CS2」に熱中する若者がいるなら、ギャンブルに手を染めていないか確認するため、いちど動向を探ってみるべきだろう。
なぜスキンギャンブルが野放しになっているのか
「CS2」が世界的なゲームタイトルであるだけに、この問題の影響は大きい。例えば2021年にオーストラリアで発表された研究によると、調査対象となった12〜17歳の子供のうち、約14.5%がスキンギャンブル経験者だったという(オーストラリアでは賭博自体は合法だが、未成年の賭博は違法である)。この他にも、「CS2」がきっかけとなってギャンブル依存に陥った若者の事例が多数報告されている。
スキンギャンブルは「CS:GO」時代から問題視されていた。例えば2016年には、Valve社が本社を置くワシントン州のギャンブル委員会が、この件に関する報告書を発表している。そこにはスキンギャンブルを通じて違法な賭博が成立していること、そしてValve社がこの構造から利益を得ていることが明記されている。
しかし先にも述べたように、巧妙な形態をもつスキンギャンブルを直接取り締まるのは極めて難しく、米国ではこのような報告書があっても、運営会社に対する法的措置には至らなかった(米国ではギャンブル事業者はライセンスを取得しなければいけないが、スキンギャンブル企業の多くは今でもこれを免れている)。
ちなみにValve社はこの報告書を受けて、いくつかの大手スキンギャンブリング運営企業からAPIの利用資格を剥奪する処置をとった。しかし構造的には何も変化がなかったため、その跡を継ぐように新たな企業が林立したのは言うまでもない。また2024年にも、ガチャから入手したアイテムを10日間トレード不能とする仕様を導入したが、これも根本的な解決には至っていない。
Valve社がスキンギャンブルを根絶しようと思えば、Steamマーケットプレイスを廃止するか、アイテム販売時の価格に上限を設けるなどの措置をとる必要がある。しかしこのどちらも大きな経済的損失をもたらすので、Valve社が自主的に実施する見込みはないだろう。
国によっては、スキンギャンブルサイトをブラックリストに入れ、アクセス禁止処分にしている場合もある。しかし日本においては、Webサイトブロッキングの法制化が遅れているのが現状だ。ただこの手段も、VPNという抜け道には対応できないため、やはり根本的な解決とはならない。
従って、我々ゲーマーは、スキンギャンブルの存在を認めた上で、こうした文化から自主的に距離を置かなければならない。また、eスポーツやゲーム配信の界隈においては、極めてグレーなサービスが公然と宣伝される場合があることも知っておかなければならない。
ただ純粋に「CS2」を楽しんでいたつもりが、いつのまにかギャンブル中毒になっていた、などといったことが起こらないよう、日頃から警戒を高めておくのが得策だ。