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【GDC 2014】元Zynga VPが語るSocial Casinoの最新動向
Social Casinoはギャンブルではない。“毎日手軽に”がこれからのトレンド
(2014/3/22 17:18)
GDC 2014が5日間の長い会期を終えた。GDCはカンファレンスとして非常に巨大であり、1日あたり100セッション以上、会期中で優に500を超えるセッションが開かれる。このため現地取材でカバーできるセッションの数は全体から見ればわずか1部であり、全メディアは過去のノウハウやアジェンダのチェックなどを通じて“当たり”セッションを引こうとやっきになる。
当たりが記事になり、ハズレがボツになるが、中でも個人的にボツの割合が高かったのは、17日と18日に実施された「Free to Play Design & Business Summit」だ。正直に言って、Free to Play(F2P)、つまり基本プレイ無料のアイテム課金制のゲームは、いつのまにか日本の方が圧倒的に先を行っており、学べるものはほとんどない、とまでいうと若干傲慢な物言いだが、正直そう思った。DeNAやGREE、gumi、Cygames、コロプラ、セガネットワークス等々、ソーシャルゲームに新たなトレンドを生み出してきたソーシャルゲームメーカーがGDCで競うように最新動向を講演したら、参加者は目を白黒させるのではないかとすら思った。
そうした中でおもしろいなと思ったのはSocial Casinoに関するセッション「The Design and Business of Social Casino」だ。F2Pのソーシャルゲームは日本でも飽和状態になりつつあるが、カジノを正面から取り扱ったゲームはほとんどない。セッションでは、ソーシャルカジノの知られざる現状が報告された。
講師を務めたのは、Microsoft Game Studiosを皮切りに、ハーバードMBA、Playdom VP、Rivet Games CEO、ZyngaVPを経て、現在はコンサルティング等を手がけるBlue Crystal Labs CEOのJesse Janosov氏と、様々なメーカーでカジノゲームを手がけ、現在、ソーシャルカジノを提供するGSN GamesのSenior DirectorのBrian Mahnoey氏の2人。
セッションを受けてみてもっとも予想外だったのは、“ソーシャルカジノ”という甘美な響きとは裏腹に、そんなにブルーオーシャンの分野でもないということだ。セッションではApp Annieのデータを引用して市場規模を紹介していたが、ソーシャルカジノ全体としては10%ほど成長しているものの、トップ10では40%下落している。すでに多くの新規参入が現われ、既存タイトルの牙城が崩されている現状が浮き彫りになっている。
ソーシャルゲームの基本フォーマットになっているのは、アンロックを含めたプログレションシステムを採用したもの、オンラインゲームのようなマッチングロビースタイル、そして仮想空間にカジノを再現したバーチャルカジノの3種類。
ソーシャルカジノに共通してるのは基本プレイ無料のF2Pが基本になっていることだが、実際は場代やコインに現金が必要となり、稼いだコインは現金には換えられない。あくまで健全なカジノゲームとしてソーシャル性をウリに運営が行なわれている。
提供するゲームは3段階のピラミッド構造になっており、1つ目は単純に繰り返し遊べる「Core Loop」にカテゴライズされるタイプのゲーム。これにはスロットやビンゴ、ポーカーなど、定番のゲームが該当する。いずれも中毒性が高く、繰り返し遊べるゲームとなる。
2つ目は、「Retention Game」と定義づけられたゲームで、「Core Loop」に、ダブルアップ等の連続挑戦ができるプログレッションシステムや、繰り返しプレイすることで遊離になるレベルアップ、あるいはアーチブメントや他のコンテンツが獲得できるシステムなどを組み込んだものとなる。
3つ目は、コアなファン向けに設計された「Superfan Game」。鉄火場に身を置くことに興奮を感じるいわゆるハイローラー向けのサービスで、観戦要素や競争要素などを盛り込む。
「Core Loop」で重要なのは、遊び手が望むことを実現して上げることだという。それは様々な勝利パターンや、リーチの演出をしたり、勝ちを見せたりして、掛けたプレイ時間に対して満足を提供することとした。そのためには、親しみやすさや感動を提供しながら、その一方でプレーヤーの疲労感や悲観的な態度に気をつけなければならない。その上で、マネタイズも重要となる。
「Core Loop」に飽き足らなくなった人が次に目指すのが「Retention Game」となる。ソーシャルカジノの提供元としては以下にこのレイヤーまで引き込むかが重要となる。なぜなら、ここからはRPGのように、次のステップが見え、遊びに広がりが生まれ、それらが遊び手が戻ってくる理由になるからだ。
「Retention Game」で採用されているゲームデザインの多くがプログレッションシステムと呼ばれるもので、現実世界のカジノと同じように、遊べば遊ぶほど、勝てば勝つほど、さらに大きく勝つチャンスが生まれるというものだ。画面内にライバルを表示し、競争意欲を煽るだけでなく、トーナメントシステムなどを搭載して直接的間接的な対戦を実現していく。
「Superfan Games」については具体的な形は見せず、熱狂的なファンに向けた現実世界同様のプレミアムなサービスや、ソーシャルサービスを提供していくことが大事だと説明した。
ここで2人は話題を各ゲームの市場規模に移したが、どちらかというとネガティブな話題ばかりで、ソーシャルカジノビジネスの難しさ、シビアさがひしひしと伝わってきた。
まずポーカーは、iPhone、iPad、Androidの3つのプラットフォームですべて数が減っている。理由は、現金を絡めやすいゲーム性であることから、詐欺や資金洗浄に利用されているためだという。
ビンゴもポーカー同様に数が減っている。ポーカーより運営が楽な反面、長時間遊ぶテーブルゲームであるためコミュニティ運営がやっかいで、客単価も低い。さらに客の呼び込みに有力IPを使わざるを得ないため、非常に収益性が低いようだ。ただ、ゲーム性的には、通常のゲームに近いところがあるため、ゲームを有利にするパワーアップ要素や集めるとリワードが貰えるコレクション要素といった機能を盛り込みやすく比較的参入障壁が低い分野でもあるようだ。
スロットはおもしろい結果が出ていた。iPhoneのみ数が減り、iPadとAndroidは数を増やしている。最小のネットワークインフラ、コミュニティでサービスできるだけに、多様なコンテンツでいかに他社と差別化できるかが重要であるようだ
4つ目の「Other」は上記以外のすべてのゲームとなるが、このその他がもっとも現在成長しているという。具体的には、他のテーブルゲームや、カジュアルゲームのカジノ版
スクラッチゲーム、スポーツベッティングなどを挙げた。
端から見ていると、このようにソーシャルカジノが機能を強化していくと、現実のカジノとの境目がなくなり、現実世界のカジノがいつしかなくなってしまうようにも思えるが、実はそうではないという。市場規模については、この10年で、ギャンブル市場は30%以上成長している一方で、オフラインギャンブルとオンラインギャンブルの差はほとんど変わっていない。つまり、オフラインからオンラインに移行するという流れは生まれていない。
もちろん、ここでいうオンラインギャンブルにはソーシャルカジノは含まない。英国やフィリピン、北米の一部地域で公式に認められているオンラインでのギャンブルのみのデータとなる。
比率で見ると、スポーツベッティングをはじめとした各種賭け事がもっとも多く39%、次いでカジノ22%、ポーカー18%と続く。2人はリアルマネーギャンブルとの決定的な違いについて、導入コストの小ささ、差別化のしやすさ、リアルかバーチャルかの違いの3点を挙げ、その上でソーシャルカジノの強みとして、関心の引きやすさ、持続性の高さを引き合いに、プレーヤーに日々遊びに来てもらう仕組みや長期間関心を持続してもらう取り組みの重要性を説いて講演を終えた。
ソーシャルカジノは、賞金を現金に換えたり、リアルなギャンブルではないと再三にわたって説明していたのが印象的で、多くの見えない敵や無理解と戦いながら、細心の注意を払いながら、カジノが仮想体験できるオンラインゲームとして独自のF2Pビジネスを解いていたのが印象的だった。日本ではカジノに縁がないお国柄であるため、ソーシャルカジノが退去して押し寄せてくることは今後もなさそうだが、海外展開する上で、欧米市場ではこういった特異なエンターテインメント市場が存在することは意識しておいた方がいいかもしれない。