【特別企画】
EVOJの4タイトルでパッド勢が優勝!格ゲーパッド時代の到来
ゲーセンから続くアケコン文化。コンシューマ版がパッドの普及を後押し
2024年5月14日 00:00
- 【EVO Japan 2024 presented by ROHTO】
- 会期:4月27日~4月29日
- 会場:有明 GYM-EX(ジメックス)
4月27日~4月29日に有明 GYM-EXにて開催された、日本最大級の格闘ゲーム大会「EVO Japan 2024」。「ストリートファイター6(以下、スト6)」が新規プレーヤーを巻き込んでの大きなブーム呼んだ影響もあり、今年から有料イベントになったにもかかわらず出場エントリー数は8,996人と過去最多を記録した。
人でごった返す会場内で自然に目が行ったのは、それぞれのプレーヤーが持つデバイスだ。「EVO Japan 2024」をはじめ、こういった格闘ゲームの大会では対戦で使うコントローラーは各々で持参するのが基本である。
格闘ゲーム王道の「アーケードスティック」、時代の最先端を行く「レバーレスコントローラー」と並んで、コンシューマゲームでお馴染みの「パッド」を使用するプレーヤーを今年は数多く目にした。「スト6」をきっかけに格闘ゲームを始めたプレーヤーには一番馴染みのあるデバイスだと思うので、そういった理由もあるだろう。
一見ライトユーザー向けという印象のパッドだが、「スト6」、「鉄拳8」、「GUILTY GEAR -STEVE-」、「グランブルーファンタジーヴァーサス -ライジング-」のメインタイトルの優勝者が4人ともすべてパッドプレーヤーという結果が今格闘ゲーム界隈で話題を集めている。古くからアケコンで格ゲーをプレイしてきたプレーヤーたちにとって、この結果は驚きを持って受け止められている。
本稿では、様々な格ゲーをプレイするゲーマー目線で、操作デバイスの歴史とを振り返っていきたい。
日本のゲームセンター文化が生んだ、格ゲー=アーケードスティックという常識
筆者はいろいろなデバイスで格闘ゲームをプレイしており、静音性や携帯性などの利点から最近ではパッドをメインで使用しているのだが、やはり友人の”格ゲーオジ”からは「よくパッドで格ゲーできるな」と言われることはしょっちゅうだ。
まず1つ目の理由は、アーケードスティック>パッドという認識が古くからあるからだろう。これには格闘ゲームはゲームセンターでプレイするものだったのが大きい。
当時のアーケード筐体は、今のように自分のデバイスを持参して使用するなんてことは当然ながらできないので、必然的に筐体に備わったレバーとボタンでプレイすることになる。
90年代には「ストリートファイターII(以下、ストII)」をきっかけに空前の格ゲーブームが起こり、多くのプレーヤーが対戦の中で日々レバーテクニックを磨いていた。
「ストII」や「餓狼伝説」などの人気タイトルは後にスーパーファミコンなどのコンシューマハードに移植されるが、当時はアーケード版よりもグレードダウンした劣化移植が当たり前だった。
レバーとパッドでは物理的に別物なので当然かもしれないが、スーパーファミコンのパッドでプレイする「ストII」の操作感はアーケード版と“全くと言っていいほど別物であった”。
アーケードと比べてただ操作感が変わるだけではなく、複雑な必殺技コマンドを入力することなど想定していないスーパーファミコンの十字キーはとにかく必殺技が出づらかった。
さらに、近年のパッドと違いLとRのボタンはそれぞれ1つずつしか備わっていないので強パンチがLボタンに設定されている。これがどういうことかというと、強の必殺技を出すには左手の親指でコマンドを入力しつつ左手の人差し指でLボタンを押さなければいけないのだ。相手の飛びを見て強昇龍拳を安定して出すのはかなりの練習が必要だった。
ここから“パッドで格闘ゲームはキツイ”というマイナスイメージを植えつけられ、パッド=格闘ゲームに不向きなデバイスという印象が格ゲー界隈で潜在的に残り続けているのだと思う。
1990年代中頃になるとコンシューマハードにPS1やセガサターンが登場し、その高いマシンパワーもあってアーケードの格闘ゲームがほぼ忠実に移植されるようになる。
ゲームパッドもスーパーファミコンの頃とは違い、セガサターンのパッドは天面6ボタン式で、十字キーも斜めの入力がしっかりと入る円形の形状を採用しており、今なお格闘ゲームに特化したパッドと呼び声が高い。
それでもなおパッドが軽視されていたのは、パッドでプレイしても“ゲームセンターや大会ではその経験がまったく活きない”からだ。
“アーケードのクオリティを家でも遊べる”、“パッドの操作性も圧倒的に向上した”と謳っても、当時の対戦格闘ゲームの主戦場はあくまでゲームセンターだ。
格闘ゲームの大会も今とは違いアーケード筐体を使用するので、格ゲーガチ勢にとってはいくらパッドで腕を磨こうが全くの無意味なのである。
移植版をプレイするのはアーケードでプレイするための練習用という側面が強く、そういったプレーヤーはゲームセンターで同じ感覚でプレイできるよう、パッドという選択肢は無く、コンシューマ版でもアーケードスティックでプレイしていた。
アーケードスティック一択の時代から、デバイスの多様性の時代へ
当時は、新作の格闘ゲームのリリースはアーケードで先行稼働し、半年~1年後くらいにコンシューマに移植されるという流れが定番だった。
しかし、メインハードがPS3やPS4の頃になるとオンライン機能が標準で備わり、それにともない格闘ゲームもオンライン対戦が当たり前の時代になってくる。
家にいながら24時間対戦ができるという快適過ぎる環境が備わったため、ゲームセンターに通って対戦相手を探して、1プレイに100円を払うという意味が薄くなってしまった。
そういった時代の流れにより格闘ゲームのメイン舞台はアーケードからコンシューマへと移り変わっていった。「ストリートファイター」シリーズもアーケード先行という形は「ストリートファイターⅣ」を最後に、「ストリートファイターⅤ(以下、ストⅤ)」以降はコンシューマでのリリースの後にアーケード版が後発で稼働するという形になった。
格闘ゲームの時代の変化とともに、「ストⅤ」の頃には国内国外ともに若手プロゲーマーが数多く誕生した。
ゲームセンターでの格ゲーブームを通っていない新世代のプロゲーマーはアーケードスティックが唯一無二のデバイスという訳ではなく、レバーレスコントローラーやパッドなど様々なデバイスを使用している。格闘ゲームはアーケードスティック一択という時代が終わり、現在に至っている。
「ストⅤ」ではボタンのホールド操作や、上下同時入力上優先などがあったため、アーケードスティックやレバーレスに優位性があったが、それらの要素は「スト6」では廃止された。
「スト6」で追加されたパッド操作に特化した「モダンタイプ」はもちろん、従来の操作系であるクラシックタイプもパッド操作でまったく支障はない。近年の格闘ゲームはデバイスの差が出ないよう、ゲーム側でしっかりとバランスが調整されている。
近年では格闘ゲーム専用のパッドもさまざまなメーカーから発売されており、一時期は入荷しても即完売するほど注目を集めていた。
パッドは他のデバイスと比べて拡張性の弱さが挙げられるが、今年の「EVO Japan 2024」のHORIブースでは付け替え用十字キーの試作品が展示されており、パッドの可能性にさらなる広がりを見せた。
国内のベテランプロゲーマーが誰ひとりとしてパッドを使っていないことからもわかるように、過去のパッドのダメな印象は今も残っているが、今後のプロシーンではパッドプレーヤーの活躍がさらに増えればその印象も変わってくることだろう。
今回は、デバイスとしてはあまり日の目を浴びることの無いパッド勢が目覚ましい活躍を見せた。誰も注目していなかったが実はパッドがもっとも優れたデバイスである――なんてことは勿論なく、プレーヤーがいかに練習を積み重ねて、その実力を発揮できるデバイスを選択するかが重要である。
7月にアメリカ・ラスベガスで開催される「EVO 2024」では、どんなデバイスを使うプレーヤーが活躍するのか、今から楽しみである。