【特別企画】

「ゴースト トリックDemo」インプレッション

数多の死を乗り越えて、運命を”逆転”させる巧舟氏の傑作が、13年ぶりに蘇る

【ゴースト トリック】

6月30日 発売予定

価格:
パッケージ版:4,389円
ダウンロード版:3,990円

 カプコンから6月30日に発売予定のプレイステーション 4/Xbox One/Nintendo Switch/PC「ゴースト トリック」。本作は、2010年にニンテンドーDSで発売されたソフトで、タッチペンでの直感的な操作が特徴となっているゲームだった。後にiOS/Androidへと移植されている。ディレクターは、「逆転裁判」シリーズなどで知られる巧舟氏が務めている。

 ゲームのジャンルは「謎解きミステリーアドベンチャー」。プレーヤーは死んで魂の姿となった「私」となり、時間を遡ったり、ギミックを操作したりする。そして登場するキャラクターの死を回避しながら、「私」の死の真相をはじめ、散りばめられた多くの謎を解いていく。

 非常に根強いファンが多い作品で、筆者も未だに本作を気が向いた時に遊び直したり、サウンドトラックを聴いたりしているファンのひとりである。今回発売されるのはその“高解像度版”だ。そして発売に先立って配信されるのが、本稿でご紹介する体験版だ。さっそく、PS4版のレポートをお送りしていきたい。

【ゴースト トリック プロモーション映像】

「私」の死から始まる物語

 本作の物語は、とあるひとりの「私」の死から始まる。そして、「私」は記憶を失っていた。だが、「死」に戸惑う時間すら与えられず、目の前では見知らぬ女性が次の死を迎えようとしていた。

 「私」は目の前の出来事に手を出せず、”魂の世界”側から女性が死んでいくのを見守るしかなかった。しかし、そこに「クネリ」と名乗る不思議な電気スタンドが現れる。クネリは、「私」が特別な存在であり、”死者のチカラ”という不思議な能力を持っていることを告げる。「私」はクネリに導かれるままに力を操り、時間を巻き戻し、女性が死を迎えることを阻止してみせた。

 だが、「私」に残された時間が今夜一晩しかないことが、クネリから告げられる。「私」は自分の正体、殺された理由を探る一晩の物語を過ごすこととなる。

トリツク、アヤツル、そして巻き戻す

 体験版では物語の序章となる第2章までをプレイすることができる。そして「私」の正体は第2章であっさりと判明する。その名は「シセル」だ。以降は主人公の名をシセルと称していきたい。

名前はすぐにわかるのだが、何故今晩あの場所にいたのか、殺された理由などは、まだ判明しない

 さて、シセルは謎の力を手に入れた死者である。魂の存在となったシセルが使える能力は、”モノ”に「トリツク」、憑りついたモノを「アヤツル」、そして死者の時間を死の4分前に巻き戻すという、主にこの3つだけの、非常にシンプルなものとなっている。そのため、誰でも簡単にプレイできるのが特徴だ。

「トリツク」はL1ボタン。「アヤツル」は×ボタンで、シンプル(アヤツルが×ボタンなのは、PS5でプレイしているため。各ハードで決定ボタンの位置が異なる)

 ジャンルはミステリーアドベンチャーだが、一部リアルタイムに時間が更新され、ドキドキハラハラしながら進めていく場面もある。ただしリアルタイムに動いていく場面で失敗してもゲームオーバーにはならないのが、本作の大きな特徴。何度でもやり直せるので、リアルタイムで進んでいくのが苦手な人でも安心してプレイできる。

死の4分前に戻ってからは一定時間ごとに時間が経過していき、また自身の行動で運命が更新されていく(※実際の4分ではなく、ゲーム内時間で経過していく)

 「トリツク」はその名の通り、「モノ」のコアに憑りつくことができる能力。コアを持つ様々な物体を次々と経ながら、シセルの魂は移動していく。ただし、現在位置から一定の範囲にある物体にしか移動することができず、あまり遠くにあるコアには移動できない。

死者の世界でだけ見える「コア」

 「アヤツル」は、「トリツク」で憑りついたモノを、「アヤツル」ことができる。操ることでどのような出来事が起こるかは憑りついたモノによって変わるが、操れるモノは憑りついた時に画面上の文字で確認可能だ。「トリツク」は死者の世界でのみ可能な能力に対して、「アヤツル」は現世でのみ可能な能力となっており、死者であるシセルが”現在”に介入することができる、重要な能力。ただし、憑りついたモノが全て操れるわけではない。とりあえずは操れるものをかたっぱしから操って、何が起こるのかを確認すると良いだろう。

アームに憑りついたら「ヒラク」が使えるようだ

 そして「死の4分前に時間を戻す」という能力だが、これは死んで間もない亡骸に「トリツク」ことでその人物が死ぬ4分前に戻れる能力。とはいえ、プレーヤーとしてやることは「トリツク」と「アヤツル」だけなので、時間を巻き戻せるという能力自体は実際のプレイの中ではあまり気にしなくて良いだろう。ちなみに憑りついた亡骸とは、死者の世界で会話が可能だ。

時には犬も死ぬ。ちなみにポメラニアンのミサイルは、本作のディレクター巧舟氏の愛犬がモデルである
ミサイルの死の4分前へと戻る
シセルの言う通り、手がかりはこの4分の中に必ずある。「トリツク」「アヤツル」を駆使しよう
「巧舟節」は本作でも健在。ところどころに、クスっと笑ってしまう小ネタが挟まれている

 さらに、シセルにはもうひとつだけ移動手段がある。それが「デンワ線」だ。電話に「トリツク」ことで、番号がわかっている場所のどこにでも移動が可能である。これによって、ワープのように一瞬で別の場面へと移動することができるのである。

電話に憑りついた時にその電話の通話先が、新しい番号として入手できる

 このように、とにかく「トリツク」「アヤツル」のふたつを使い、画面上の物体を動かして対象の行動を変化させ、運命を更新していく。一種のパズルゲームとミステリーアドベンチャーが組み合わさったような内容とも言えるだろう。

シナリオなど各種へのこだわりはさすがの巧氏!

 ふたつの操作だけのゲームだが、「どのタイミングで操るか」「動いたギミックにタイミングよく憑りつくか」など、咄嗟の判断が求められる場面が多く、基本トライ&エラーを繰り返していく。一見「これがなに?」と思うようなことにも、とんでもなく大きな意味がある場合もある。

操っても何もないこともある。しかし「何も関係なさそう」に見えつつも、「AとBを組み合わせて操ることによって、道がつながる」という場合もあり、軽視できない

 また、各ステージに設置されたギミックはいずれも個性的で、巧氏らしさが溢れている。一見触らなくても良さそうなものまで、全部片っ端から「アヤツル」をして、場面上にいるキャラクターがどのような反応をするのかまで、ついついチェックしたくなるような楽しさだ。

 実際にステージを進めていくには、いかに「気付きを得る」かが重要となっており、ヒントがある箇所もあればノーヒントなところもあるため、少々難易度が高めなようにも感じられるが、序盤は操作に慣れるためのチュートリアルだということをしっかり念頭に置いて、「こういう組み合わせで、こういうことができるのか」ということを覚えておくと良い。特に第2章で詰まりそうな部分は、「組み合わせとタイミング」である。

 なお、巧氏らしさはテキストにも表れている。「逆転裁判」でもそうだったが、「死」という一見重いテーマでありながら、巧氏のユーモアあふれるテキストが全体的な雰囲気を明るくさせており、本作をコメディタッチに仕上げている。

 シセルはどちらかというとカッコいいクールなキャラクターなのに、周囲がコミカルすぎてまるでツッコミ役のようになっているし、悪の組織のエラい人っぽいキャラクターも巧氏の手に掛かれば、部下に振り回されるオジサンになってしまうから恐ろしい。

悪の組織のエラい人っぽいキャラクターもトホホな展開だ

 シナリオやステージ作りだけではなく、もうひとつ重要なのはキャラクター。ヒロインとなるリンネなどのキャラクターも、とても魅力的だ。

殺し屋「ド近眼のジーゴ」
ヒロインのリンネ。恐ろしく逃げ足が遅い。ツッコミは的確である
リンネを殺す寸前のジーゴ
以上が、物語冒頭部分での筆者の非常に好きなやり取りのひとつ。「ド近眼のジーゴ」というネーミング自体もなかなかひどいが、「キミの寿命の残り秒数とかけてオレの視力と解く。そのココロは、どちらも0.3だッ!」というセリフも相当ひどい。まさにリンネのツッコミ通り、殺し屋をする前にメガネを買いに行くべきである

 巧氏による悪役すら憎めないキャラクター作りはもちろんのこと、面白いのはセリフだけではない。それがアニメーションだ。本作のキャラクターはポップな2Dイラストのような表現となっており、これが想像以上にヌルヌル動く。

 そしてその動きが、とてもコミカルなのだ。「逆転裁判」と違い、基本的に全身像が入るように描かれており、そのことがキャラクターの個性をより浮き彫りにさせている。

リンネの隣人のマダム「エンマ」。静止画では伝わりにくいが、肉感的なボディをゆらゆら揺らしながら歩いてくるのが特徴。ミサイルの鳴き声に過敏なほど反応し、壁越しに罵声を浴びせてくる

 本稿ではまだ紹介できないキャラクターたちにもたくさん登場する。個性的なキャラクターが揃っているので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

高解像度化はもちろん、納得のBGMアレンジ版も収録

 今回PS4版をプレイしたが、これまではとにかく”タッチ”での操作に特化した内容だっただけに、PSでも直感的なプレイができるのか不安だったのだが、その点は一瞬にしてクリアされた。

 シセルの魂が進むコアはスティックで簡単に選択可能になっているし、むしろこれまでタッチペンを使って「アヤツル」ボタンをタップしなければならなかったことに比べても、決定ボタンだけで「アヤツル」ができるのはさらに楽になったとも言えるだろう。 なお言語設定は、日本語以外に英語やフランス語、イタリア語、韓国語など9か国語に対応している。

 ここまでのスクリーンショットや公開済みの映像でおわかりいただけるように、本作は高解像度化もされているうえに、高フレームレート化もされている。「本作といえば滑らかなアニメーション」というイメージをまったく崩すことなく最適化されている。

 そして、BGMが「逆転裁判」の杉森雅和氏によるオリジナル版と、「大逆転裁判」の北川保昌氏によるアレンジ版とで切り替えができるようになった。

 BGMについては、杉森氏の原曲はやはり13年前のDS音源ということもあり少々くぐもったような音に聞こえてしまうのだが、アレンジ版は原曲の良さを活かしつつ現環境にぴったりなクリアな音質となっている。

 体験版では第2章までしかプレイできないため、BGMもほんの一部しか聞けなかったものの、オリジナル版にはオリジナル版の良さがもちろんある上で、アレンジ版はよりモダンさの感じられる楽曲となっている。オリジナル版のサウンドトラックを今でも聞いている筆者からしても、アレンジ版は難なく受け入れることができる良アレンジだった。さらに、ゲーム中いつでも好きなタイミングでオリジナル版とアレンジ版で切り替えられるのが良い。

 筆者は個人的に、音楽に思い入れが深すぎるとアレンジ版へと入りにくい性格のため、アレンジ版にはもう少し難色を示すかもしれない……と思っていたが、北川氏の洗練されたアレンジにはそんな不安もひとっとびであった。

 なお、本作にはミステリアスなBGMから緊迫したBGM、コミカルなBGMまで、多種多様な音楽が登場する。ファンからは今でもサントラの支持が熱い作品だけに、初めてプレイする人はその点にも注目してほしい。

 体験版では第2章までと少々短いシセルの物語だったが、本編ではまだまだシセルの旅は続く。第2章までで「肌に合う」と感じられれば、必ずこの作品はプレーヤーの心に刻まれる一本となるはずだ。パズルゲームのようなアドベンチャーである本作は、13年前のゲームながら、今プレイしてみても「新感覚」を味わえるだろう。

 ファンはもちろんのこと、未体験の人はまず体験版をプレイしてみてほしい。