【特別企画】

“廃墟ゲーセン”こと「ウェアハウス川崎店 電脳九龍城」に丸1日浸って実感したゲームセンターの存在意義

【ウェアハウス川崎店 電脳九龍城】

11月17日閉店

 JR川崎駅南口を出て、西に向かって10分ほど歩いた所にそびえる1棟の不気味なビル。正面にはガラス窓が一切なく、サビだらけの金属をイメージした塗装で覆われ「ここは廃墟か!?」と思わず目を疑うような、ひと際異彩を放つそのビルの正体は、ゲオホールディングスが経営するゲームセンター、その名も「アミューズメントパークウェアハウス川崎店 電脳九龍城」(以下、「電脳九龍城」)だ。

【「アミューズメントパークウェアハウス川崎店 電脳九龍城」】
交通量の多い幹線道路沿いにそびえるサビだらけのビルは、ひと際異彩を放っていた
初めて訪れた客が、思わず入店をためらうほどの怪しげな鉄扉も、この店ならではの味だった

 「電脳九龍城」は2005年12月にオープンし、2,500坪のフロアに約800台のゲーム機類を設置。内装も香港の九龍城をイメージして、わざとゴミやボロボロの看板を飾ったり、照明を暗めにすることで、まるでお化け屋敷のような世界観を演出しており、一度訪れたた容易に忘れない、実に個性的な店だ。最新のビデオやメダル、プライズゲームはもちろん、懐かしのレトロゲームコーナーやビリヤード・卓球・ダーツコーナーに加え、九龍城を模した店内を回遊しながら楽しむ「謎解きゲーム」も遊べて、最上階には24時間営業するインターネットカフェも併設。24時間いてもすべてを遊びきれないほどの、さまざまな遊びを提供する大型店舗だ。

 店舗スタッフによると、「ゲームセンターと言うのは、どこも同じような造りのうえ、中に入っているゲーム機では他店舗との差別化が難しいため、内外装での差別化を図りました。いろいろな工作物を他店舗でも作っていましたが、川崎店が九龍城になったのは、建物との相性や地域性、話題性等を鑑みた結果、今回は九龍城で行こうという結論になりました」とのことだった。

【1階フロアの写真】
九龍城をリアルに再現した店内は、お化け屋敷かと思うほどに不気味だ
実は、1階にはゲーム機類を1台も置いていない。エレベーターかエスカレーターを使用して上階へ進むことになる(提供:ゲオホールディングス)

 同店では、18歳未満の入場を禁止するハウスルールを設けている。「『大人のデートスポット』というコンセプトで展開したためです。賑やかな雰囲気ではなく、落ち着いた空間造りを目指しました」(同店スタッフ)というのがその理由だ。また、ダーツやネットカフェなどを併設したのは、「ゲーム機そのものでの差別化が難しいことに加え、大人の遊びとしてダーツやビリヤードは最適だと考えたからです。ネットカフェに関しても、差別化という点と『24時間ウェアハウスで楽しんでいただきたい』と考えた結果、ネットカフェが最適だと考えたためです」(同)とのことだった。

 多くのゲーム・サービスが楽しめる環境と独創的な世界観を作り上げ、おそらく全国でも有数の規模を誇る「電脳九龍城」だが、実は残念なことに11月17日をもって閉店となってしまった。同店を経営するゲオホールディングスによると、閉店したのは「オーナー様との契約終了のため」だという。先月15日に、公式のTwitterアカウントで閉店が公表された直後、筆者は店の近くで偶然別の用事があったので久々に足を運んでみた。すると、以前にも増してかなり混雑していた印象を受けた。「これだけ大きな店が、どこのフロアも混んでいるのを見たのはいつ以来だろう?」と思うほどにびっくりしてしまった。

 当日はあまり時間がなかったため、ちょっと遊んだだけですぐ店を出てしまった。だが、帰宅後すると「そういえば、業界内ではいわゆる都市型・複合型アミューズメント施設と呼ばれるような店って、いつの間にか少なくなってしまったなあ。こういう店で、1日ゆっくり過ごしたのはいつ以来かなあ、そもそも、こういうゲーセンは何のためにあるのかなあ……」などという疑問がふと脳裏に浮かんだ。そこで、改めて店に足を運び、店内の人の動きやゲームの稼働状況を観察しつつ、自らもじっくりゲームを遊びながら、「『電脳九龍城』とは何ぞや? ゲーセンとは何ぞや?」と、改めて考えてみることにした。

 以下、本稿では「電脳九龍城」ならではの魅力とは何だったのか、そしてゲームセンター、アーケードゲームの楽しさとはいったい何なのかを、この場を提供していただいたGAME Watch編集部のご厚意のもと、筆者の思い付くままに書いていくことにする。

【2階フロアの写真】
2階から3階にかけての吹き抜け、壁のデザインや肉屋のオブジェなど、九龍城を忠実に再現(提供:ゲオホールディングス)

異様な世界観の店内でゆっくり、じっくりと遊んでみた。最初で最後の「電脳九龍城」観察日記

 営業最終週となった11月某日、筆者は改めて「電脳九龍城」に足を運んでみた。

午前10時

 近くの交差点で信号待ちをしていると、カメラやスマホを片手に「廃墟ビル」を撮影する人を5人も発見。確かにインパクトのある外観とはいえ、こんな朝からカメラマン(?)がたくさんいるとは驚かされた。

 1階正面の鉄扉を手で開き、さらに奥にある自動ドアが開くと、プシューッという空気を送る大きな音を鳴らして客を軽く脅かす、名物の仕掛けは今日も健在。さびれた小屋のセットや千切れたビラ、古ぼけた看板があちこちに飾られた光景や、中国語と思しきしゃべり声を、店内のスピーカーからわざわざ流す演出も相変わらずで、まるでお化け屋敷だ。ちなみに、この店では1階にはゲームを1台も置いていない。外からも中の様子は一切わからい、まさに常識外れのフロア構成だ。

 2階に上がると、まだ午前中なのに結構な数の客がいる。筆者が某大型ゲーセン勤務時代にも、平日の朝からこんなに客が来ることはまずあり得なかったので、いやはや驚いた。閉店のニュースを一部のメディアが報じた機に、ネットや口コミによる宣伝効果が生じたのだろうか?

 ビデオゲームコーナーには、いかにも普段からゲームをやり込んでいそうな、1人で遊ぶ男性客が目立ち、キャリーバックを引いた中国人の観光客のグループもちらほら見掛ける。そして、その多くがカメラやスマホを片手に、「ダライアス」や「アウトラン」、「スペースハリアー」などの古い筐体を見付けては、楽しそうに撮影していた。

 残念なことに、故障のためモニターに「調整中」の貼り紙があったり、発色がかなり悪い筐体も散見されたが、それでも「ガントレット」や「ラッドモビール」、初代「ストリートファイタ」など、今では滅多にお目に掛かれない、貴重な筐体が並ぶレトロゲームコーナーの品揃えは壮観だった。実際にお金を入れて遊ぶ人は皆無だったが……。

レトロゲームコーナーの看板もこれまた不気味。左奥にあるの筐体は、懐かしの「ガントレット」(発売)だ(写真提供:ゲオホールディングス)

 プライズゲームコーナーも回ってみた。プライズ専用に開発された菓子類が随分たくさんあるなと思った一方、遊ぶ客はまだ誰もいなかった。対照的に、最新の音楽ゲームが並んだ奥のフロアでは、早くも常連と思しき若者たちが夢中で遊び、傍目にも実に楽しそうだった。

 筆者も「ガントレット」を久々に遊んでみた。モニターは発色が悪くてもうクタクタだったが、そのおかげもあってか、本作が新作だった当時にゲーム仲間と協力プレイを楽しんだことを思い出し、なおかつレバーとボタンがきちんとメンテナンスされ、最後まで問題なく遊べたのでとてもうれしかった。筆者も含め、オッサンたちが黙々とレトロゲームに興じる周りでは、ヒントが書かれた紙を片手に「謎解きゲーム」に興じる、女性グループやカップルが行き交うその光景は、まさにカオスという表現がぴったりだ。

自動販売機や「UFOキャッチャー」をも、サビでボロボロに見える塗装を施す徹底ぶり(写真提供:ゲオホールディングス)

 3階フロアへ移動すると、麻雀ゲームのほか、メダルゲームコーナーには「グランドクロス」、「スターホース3」、「ビンゴギャラクシー」など、新旧の大型マスメダルゲームや、パチンコ・パチスロ系のシングル台もズラリと並ぶ。もし運良くジャックポットを獲得しても、店に余ったメダルを預けたところでその寿命はわずかとなってしまったが、ご年配の常連と思しき方の姿がもうポツポツと見られた。

 それにしても、このフロアでもレトロゲームコーナーの充実ぶりはどうだ。エスカレーターを降りると、すぐ目の前に「Qバート」と「チェルノブ」なんてマニアックなタイトルが並ぶ店が今どき存在するとは……。その奥にある、「グラディウス」「究極タイガー」「F/A」など、往年の名作シューティングゲームが並んだコーナーの品ぞろえも文句のつけようがない。ここでも、こんな早い時間から遊んでる人が何人もいたのでまた驚いた。しかしまあ、この一角は本当にオッサンが多いなあ、人のことを言えないけど(苦笑)。

 4階は広いスペースにビリヤードや卓球、ダーツがたくさん並んでいたが、遊ぶ客が皆無だったこともあり、下のフロアとは打って変わって静寂に包まれていた。有線放送のBGMを一切流さず、「三国志大戦」や「FOOTISTA」などのカードゲーム筐体のボリュームも抑えめにしてあるので、落ち着いて画面や盤面に集中して遊べるのがうれしい。筆者も「FOOTISTA」にしばし没頭していたが、実況やボタンを叩く音が心地よく響き、快適に遊ぶことができた。ゲームの合い間にカウンターに目を向けると、「謎解きゲーム」にエントリーする客をさばくスタッフが、早くも忙しそうに働いていた。

2階フロアに置かれた不気味なポスト。謎解きゲームの重要スポットにもなっていたようだ(写真提供:ゲオホールディングス)

午前12時

 どのフロアも、客がかなり増えてきた。若い女性が多く、レストスペースでは楽しそうに写真を撮りまくる、欧米からやって来たであろう外国人もかなり目立つ。女性モデルとカメラマンが、九龍城の看板類をバックに撮影する姿も見られ、カオスぶりがさらに増してきた。それでも、プライズコーナーは相変わらず閑散としており、辺りを行き交う客の大半は「謎解きゲーム」目当てのようだ。

 2階に置いてあった「ダライアス」を遊ぼうと思ったら、何と若い女性2人が物珍しそうに、恐る恐る100円玉を投入していたのでびっくり。もっとも、ゲームのルールがよくわからないまま、すぐゲームオーバーになってしまったが……。気が付けば、近くにあった「モナコグランプリ」の画面表示が乱れ、プレイ不可能な状態になっていて残念無念。それにしても、故障した古い筐体の列は、薄暗い「電脳九龍城」の店内では寂しがさらに引き立ってしまい悲しい。対戦格闘ゲームコーナーの品ぞろえも豊富だが、対戦に興じる客はまだいない。音楽ゲームコーナーは、引き続き若者たちが夢中で遊んでは、レストスペースで談笑を繰り返していた。

 3階のレトロゲームコーナーも客が増え始めていた。夕方の混む時間帯になる前に、筆者も今のうちに遊びたいゲームをプレイしておこうと、しばしここで過すことに。「スラップファイト」、「タイガーヘリ」、「飛翔鮫」、「究極タイガー」に「バツグン(スペシャルバージョン)」……。今は存在しないメーカーが開発した、古いゲームがまとめて遊べるだなんて、ここは本当に2019年の現代なのかと錯覚してしまうほどのラインナップだ。しかも、筐体には本コーナーの運営を手掛ける有志たちお手製の、連射速度や音声のボリュームが調整できるのツマミとヘッドフォンジャックも付いていて、メンテナンスもバッチリ。スタッフからの、「どうぞ気持ちよく遊んでください」というメッセージと、ゲームに対する愛情が筐体を通じて伝わってくる、そんな快感が得られるのもゲーセンならではなのかもしれない。

 随分昔に、筆者はこれらのゲームのゲームミュージックCDを購入し、もう数え切れないほど聴いているのに、ゲーセンで筐体のスピーカーから直接流れてくる「本物」のサウンドを聴くのは、いまだに飽きないのもまた不思議なことだ。店内を意図的に薄暗くしているおかげでモニターが見やすいこともあり、周囲の目を気にせず黙々とゲームに集中できるこの環境……。まるで少年時代に遊んでいた、1980~90年代のゲーセン、あるいは駄菓子屋に舞い戻ったかのようだ。こんなにも快適に遊ばせてくれるくれるのに、1プレイの料金は50円とは、何だか申し訳ない気持ちにもなってしまう。しかしまあ、今どき100円玉を50円玉2枚にくずす両替機が置いてあるとは……絶句である。

午後3時

 昼食休憩のため、いったん外に出てから再入場。1階の駐車場は、いつの間にかほぼ満車になっていた。「謎解きゲーム」の新たな挑戦者がひっきりなしに現われているのか、1階の狭い通路にまで人が密集し、このままでは店内が満杯になって入場規制が掛かるのではないかと心配になるほどのにぎわいだった。

 昼頃まではほとんど遊ぶ人がなかったが、2階のビデオゲームコーナーの壁際、横一列に22台もズラリと並んだ「クイズマジックアカデミー 軌跡の交叉」コーナーは、この時間になるとほとんどの席にプレイヤーが座るようになり、そのスケールもプレーヤーの熱気も圧巻だった。シリーズ第1弾が登場したのは16年前という超ロングラン作品だが、筆者はこれだけの台数をまとめて置いた店は、過去に見た記憶がない。その迫力を目の当たりにすると、「俺は今、すごい所にに来ているんだ!」というワクワク感が、いやがうえにも沸き上がる。確か「電脳九龍城」は、本シリーズの熱心なプレーヤーから長らく聖地とみなされ、メーカー公式大会を開催すると、凄まじい熱気に包まれていたと聞く。そんな彼らが、間もなくその場を失うことになるという悲しみは、はたしていかばかりであろうか?

 音楽ゲームコーナーも引き続き盛況で、その隣りのレースゲームコーナーでは、学生らしき若い男性グループが「湾岸ミッドナイト マキシマムチューン6」や「頭文字D ARCADE STAGE Zero」の全席を埋め、大はしゃぎしていていた。どうやらこの店には、レースゲームにも濃い常連メンバーがいるようだ。さらにそのすぐ近くでは、「スパイクアウト」や「D&D II」のようなマニアックなゲームも置いてあった。今でも4人協力プレイができる環境を整備し、なおかつ常連と思しきプレーヤーが、息の合ったプレイで延々とワンコインで遊び続ける光景を見たのは、いったいいつ以来だったか……。

 ひんぱんに遊ぶ人を見掛ける、「ダライアス」や「スペースハリアー」のすぐ横で、「ラッドモビール」はいつの間にか「調整中」になってしまった。そう言えば今から11年前、筆者の知人であるライターの天野譲二氏が、「スペースハリアー」をプレイ中に筐体の足元の部分が突然壊れてV字型に折れ曲がる、大アクシデントが発生したことをふと思い出した。もはや致命傷に近い大破損をしながらも、その後修理をして見事復活させたのだから、関係者の努力には本当に頭が下がる(ただし、可動筐体の駆動部分は止まったままだが)。ちなみにアクシデント発生時の様子は、天野氏自身のブログ「隊長日誌」にまとめている。非常に面白いので、興味のある方はぜひこちらもご一読を。それにしても、機械も人間も無事で本当によかった……。

 3階のメダルゲームフロアに移動すると、マスメダルゲームは総じて客が多かったが、「スターホース3」とシングル台はガラガラ。ギャンブル好きが多い印象のある川崎だけに、この光景は意外だった。懐かしの名作、「COOL104」も現役で動いていたが、遊ぶ人は朝から誰ひとりとして見られないのもちょっと寂しかった。逆に、若い女性のグループが増えたせいなのか、ずっとすいていたプライズゲームコーナーはぼちぼちにぎわい始め、景品の補充をするスタッフの姿も見掛けるようになった。

 そう言えばビデオ、プライズゲームコーナーのスタッフは、普段どこにいるのかと思うほど、朝からその姿をまるで見掛けなかったことに今気が付いた。早番の人数が少ないせいかもしれないが、スタッフの顔が見えないというのはやっぱり寂しい。制服をビシッと身に着け、接客やメンテナンス、時にはイベントのMCもこなす、店員の存在も含めてこその「ゲーセン」なのだから。

午後6時

 日が暮れても(店内には窓がないため外の様子は見えないが……)、客足は落ちるどころかさらに増してきた感がある。4階のカウンター前では、「謎解きゲーム」に参加したい若者たちが列を作り、ダーツコーナーも卓球もほぼ満席に。これだけ多くの客が来てくれたら、仕事はたいへんだがスタッフの皆さんも大いにやりがいがあることだろう。これだけ多くの客がいるのに、カードゲームのコーナーは静けさを保ち、落ち着いてプレイできる環境になっていたのも、これまた摩訶不思議な光景であった。逆に、3階に置いてあったキッズ用カードゲーム、「キラッとプリ☆チャン」と「けものフレンズ3」は、朝からプレイしている人を一度も目撃できていない。「大きなお友達」しかいない店には、やはり置くべきタイトルではなかったのだろうか?

 音楽やレースゲーム、「クイズマジックアカデミー」のコーナーも相変わらず盛況。格闘ゲームやレースゲームで遊ぶ、いかにも鼻っ柱の強そうな若者も増え始め、ゲーセンらしい暑さ、もとい熱さがひしひと伝わってきた。プライズゲームもにぎわい、ゲットした景品を手にする女性の姿も目立つようになり、見ているこちらも何だかうれしくなってしまった。

 そして、この時間になっても「謎解きゲーム」の客が絶えず、記念撮影に興じる外国人客やレトロゲームマニアの何と多いことか! それにしても、外国人がこれほどまでに多く、そしてこれほどカメラを手にした客の割合が多いゲーセンが過去にあっただろうか? もうかれこれ40年近くゲーセン通いを続けている筆者も記憶にない、それは異常なまでの数だった。

午後9時30分

 名残惜しいが、翌日の仕事の準備があるため退店することに。途中で何度か席を外したが、自身の好きなレトロゲームコーナーだけでも、1日だけでは遊び切れないほどのボリュームと品揃えだったので本当にうれしくなった(しかも、故障中の台が目立ったにもかかわらず!)。

 思えば90年代は、「1日遊んでも遊びきれない」というキャッチコピーで宣伝をしていた大型店舗を、大手のオペレーターが大都市の駅前、あるいは郊外のロードサイドに続々オープンさせていた時代だった。「電脳九龍城」は、そんな当時の「都市型アミューズメントパーク」(もはやこの言葉も死語に近いが…)に極めて近い存在だったと、自身も終日遊んでみて改めて思った。

 なお、幸いなことにレトロゲームコーナーの筐体は、「自社内移動の予定です」(店舗スタッフ)とのこと。輸送やメンテナンスには手間が掛かるだろうが、またいつの日か別の店に並べられ、少しでも多くの人に楽しんでもらえるようになることを切に願いたい。

【トイレも「九龍城仕様」に……】
何と、トイレもご覧のとおりの九龍城仕様に。なお便器や洗面台は、スタッフが日々きれいに清掃していた。念のため(提供:ゲオホールディングス)

ゲーセンには良い意味でのカオスな空間、コミュニティがあってこそ

 お気に入りのゲームで自らの限界に挑戦するだけでなく、見知らぬ相手との対戦や、仲間と他愛のない雑談を交わしながらの協力・対戦プレイに興じたり、あるいはご近所さんと一服しながらメダルを投じたり、欲しい景品を見付けてムキになってみたり。それぞれの楽しみ方、過し方を持つ老若男女が集まってゲームに興じるとともに、そこには自然とコミュニティが形成され、日々新たな交流が生まれる……。ゲーセンとは、今も昔もそんな場所であるのだなと、日がな一日「電脳九龍城」で遊んでみて改めて思った(同店は18歳未満限定だが)。

 九龍城の不気味な世界観のもと、世間のことはしばし忘れてアーケードゲームやダーツに没頭するプレーヤーがあふれ、その合い間を縫うようにして、ヒントが書かれた紙を手にした「謎解きゲーム」のチャレンジャーたちが各フロアを四六時中歩き回る、良い意味でのカオスな世界。その独特の光景は、これぞ「アミューズメントパークウェアハウス川崎店 電脳九龍城」という店の本質であり、ほかでは味わえない魅力・面白さを確かに提供していたように思う。

 ゲーセン、アーケードゲーム好きのひとりとしても、閉店してしまったのは実に寂しい。だが、同店はオープン直後から、とりわけ都心に住むアーケードゲーム好き、レトロゲームファンにはその存在を広く知られていた一方、近くに住む筆者の知人に話を聞いてみると、「普段はそれほど混んではいなかった」と証言し、閉店が間近に迫った最近の混雑ぶりに驚いていた人もなかにはいた。

 そこで念のため、閉店を告知して以来、本当に客が増えたのかと店舗スタッフに質問すると、「告知してから、お客様の数が尋常ではないほどに増え、本当に多くの皆さんから愛されていた店舗なのだと再認識しました。ここ最近では海外からのお客さまも増え、年齢・人種・性別を超え、さまざまな人を引きつけるものが何かあったのではないかと感じています」(同店スタッフ)とのことだった。

 近年はインバウンド需要が増し、さらに閉店のニュースを一部のメディアが報じたことでネット上でも話題となって以来、筆者も初めて来店した客の割合がかなり多くなったのではないかという印象を現地で率直に受けた。皮肉とは言わないまでも、閉店が決まってから客数が大幅に増えたという事実には、元現場経験者でもある筆者としては、何とも複雑な気持ちにさせられた。

 そして、改めて思う。閉店の理由は「オーナーとの契約が終了したから」とはいえ、川崎という大都市のターミナル駅近くに、あれだけ多くのゲーム・サービスが楽しめる店がそこにあったことが、商圏に住む住民や、近くに通勤・通学する人たちにも、はたして十分に伝わっていたのだろうか? そして我々メディアの人間も、そんな面白い場所があるという情報を、もっともっと伝えておくべきではなかったか? 「貴重なレトロゲームが遊べなくなって寂しい」「聖地がまたひとつ消えた」などと言うのであれば、それが続くためのアクションを何か起こすべきではなかったのかと……。

 今となっては後の祭りだが、もし普段からもっと客がいたならば、オーナーが契約更新に乗り気になってくれたかもしれない。「電脳九龍城」14年の歴史が終焉を迎え、消費税率アップという強烈な逆風も吹いた2019年、今後はゲーセン、アーケードゲームはどうあるべきなのか? とりわけ業界・メディア関係者は、いま一度考え直さなくてはいけないと痛感した。自らの生活の糧を得るだけでなく、ひとりでも多くの人にゲームの楽しさを教え、コミュニティを生み出すきっかけを提供するためにも。

【駐車場も不気味さ満点】
駐車場につながる通路もまさにカオス。ゲーセンに限らず、我々がこんな個性的な駐車場を利用する機会は、もう一生ないのかもしれない……(提供:ゲオホールディングス)