インタビュー

台湾MSIの次の一手は“アイトラッキング”と“VR ReadyのリビングPC”

台湾本社で新型ゲーミングPC「GT72 Tobii」と「Vortex」を触ってきた

1月取材



会場:MSI本社

 ゲーミングノートPC市場をリードするMSI。スタイリッシュなアルミボディにゲーミング性能を詰め込んだ「GS」シリーズを筆頭に、重量級のハイエンドモデル「GT」、メインストリームの「GE」、コストパフォーマンス重視の「GP」など、あらゆるPCゲーマーに向けて様々なラインナップを用意している。

 今年も、台湾台北市で行なわれたTaipei Game Show取材に合わせて、旧正月前にMSI本社に赴き、今年リリースされる最新モデルを取材してきた。それぞれ短時間ではあったものの、ほぼ製品同等の開発中のモデルを触れることができたのでインプレッションをお届けしたい。なお、今回紹介するモデルはいずれも日本での発売を予定しているが、発売時期や価格についてはMSI Japanの正式発表をお待ちいただきたい。

【MSI台湾本社】
1年ぶりにMSI台湾本社を訪れたところ、会社のロゴの隣にゲーミングノートPCブランド「G」シリーズのロゴが併記されるようになった。MSIは名実共にゲーミングPCメーカーになった

「GT72S 6QE Dominator Pro Tobii」 VR元年にあえてアイトラッキングで攻める

「GT72S 6QE Dominator Pro Tobii」
ヒンジ部分に取り付けられているのがアイトラッキングデバイス「Tobii EyeX」
使用する前に初期設定を行なう
これはペインティングの中に人の顔を探し出す「Eye-tracked Paintings」
「Tobii EyeX」サポートサイトでは、様々なアプリが紹介されている

 「GT72S 6QE Dominator Pro Tobii」は、同社のハイエンドモデル「GT72 2QE Dominator Pro」に、スウェーデンのTobiiが開発したアイトラッキングデバイス「Tobii EyeX」をビルトインしたゲーミングPC。2015年のComputex Taipeiで正式発表され、いよいよ発売となる。

 アイトラッキングとは、VRヘッドセットが実現しているヘッドトラッキングやポジショントラッキングと同様に、眼球の動きをトラッキングし、入力に反映させるテクノロジーとなる。

 「GT72S 6QE Dominator Pro Tobii」に搭載された「Tobii EyeX」は、「Tobii Pro X2-30」相当のテクノロジーが採用されており、30Hzレートで視線キャプチャできる性能を備えている。Tobiiのアイトラッキングデバイスは、マーケティングリサーチや学術研究、医療など分野ですでに多くの採用実績があり、この分野ではトップシェアを誇る。PCの性能向上と、アイトラッカーデバイスのコンパクト化により、ノートPCへの組み込みが可能となり、Windows 10が採用する新たな認証システム「Windows Hello」対応デバイスとして発売される。

 もちろん、そこはゲーミングPCに搭載されるということもあり、ただ単にWindowsのログインに使えるだけでなく、ゲームへの適用も強く意識された設計になっている。

 今回はほぼ完成状態の開発モデルを特別に触らせて貰った。まず始めに行なうのは、「Tobii EyeX」の個人登録とそのキャリブレーションだ。最初に名前を入力し、裸眼なのか、コンタクトなのか、メガネなのかを選ぶ。あとはタッチペンのキャリブレーションのように、画面に表示される点を目で追うことで調整完了となる。

 その後は、自分がノートPCを開いて目の前に来れば、自動的にログインし、視界を一定時間外す(デモでは5秒)ことでサスペンド状態となる。そのクイックな反応と精度の高さは、PCに監視されているようでちょっと気持ち悪いぐらいだ。

 まずは操作に慣れるために、いくつかのミニゲームで遊ばせてもらったが、これまでカーソルを目で操作するということに慣れていないため、思うように動かせず、反動を付けようとして反対方向に動いてしまって、なかなか隔靴掻痒の感がある。このもどかしさはちょうど「WiiFit」の体重移動で操作する感覚に近い。

 また、アイトラッキング時は、眼球を意識的に四方八方に動かす感じになるが、これによる目の疲れと、いつまぶたを閉じていいかわからず、目が乾く印象があった。ただ、説明してくれたスタッフによれば、その手のインプレッションは、初回プレイ時に誰もが通る道で、数回プレイする事で慣れるとのこと。

 今回、AAAタイトルでは、「Assassin's Creed Rogue」をプレイする事ができた。マウス/キーボードならマウスによる操作、ゲームパッドなら右アナログスティックを使って行なう視点操作を、「Tobii EyeX」によるアイトラッキング操作のみで行なうことができるのだが、まるで魔法を使っているような感動がある。

 視点を左に寄せれば、ゲーム内の視界が左に動き、上に挙げれば真上に動いていく。現実と同じ動きをするヘッドトラッキングとは異なり、目だけを動かす感じが未知のエンターテインメントに体が追いついていない感じがあっておもしろい。今回のプレイでは、アイトラッキングになれず、視界が左右にふらついてしまうところもあったが、慣れてしまえばマウス無しで、キーボードとアイトラッキングというかつてない操作方法でゲームが楽しめそうだ。

【Gaming enters a new era - Assassin's Creed Rogue implements eye tracking】

マウスから手を離してPCゲームが遊べる感覚は新鮮。右手が完全に自由になるため、新しい遊び方も生まれそうだ

 ひととおりプレイしてみて向いていると感じたのは、まずはアイトラッキングをポインタ代わりに使うタイプの2Dベースのカジュアルゲーム。モグラ叩き、風船割り、間違い探し、パズル、このあたりのゲームはアイトラッキングととても相性が良く、快適に楽しめる。純粋に目の動きだけで楽しめるゲームも多く、新しいUI、UXによるゲームの実現というだけでなく、手が不自由な人に対しての強力なソリューションにもなると感じた。

 AAAタイトルでいえば、「Assassin Creed Rogue」のような3人称視点のアクションゲームは相性がいいと感じた。逆に、正確なエイミングが要求されるファーストパーソンシューター(FPS)は、マウスやゲームパッドによるエイミングほど素早い正確な操作が難しいため、あまり向いていないのではないかという印象を持った。ただ、遊び込めば、ひょっとするとマウス以上に高速かつ正確な操作が可能になるかもしれず、リリース後のコアゲーマーによる評価が楽しみだ。

 「GT72S 6QE Dominator Pro Tobii」は、2月下旬以降に発売予定で、価格は40万円前後を予定。「Tobii EyeX」対応タイトルとしてUbisoftのオンラインRPG「Division」がバンドルされる。多くの人にとって未知のエンターテインメントとなるアイトラッキングゲーム。まずは店頭で試してみてはいかがだろうか。

MSIが満を持して放つゲーミングデスクトップ「Vortex」は、VRを強く意識した1台

受付に張り出されているポスター。日本では未展開だが、MSIにはデスクトップPC「NIGHTBLADE」シリーズもあり、「Vortex」と直接競合する製品となる
「Vortex」。高さはわずか23.5cmで極めて小さなタワーPCだ
「G」シリーズを象徴するドラゴンのマーク

 お次は今年1月のCESで正式発表されて話題を集めたゲーミングPC「Vortex」。キャッチフレーズは、“世界最小のゲーミングタワーPC”ということで、社内向けのお披露目会では、「Vortex」本体を、宇宙最強のゲーミングPCとして知られるALIENWAREの「AREA-51」の筐体から取り出し、そのコンパクトさを見せつけたという。

 スペックの詳細についてはまだ非公表で、筐体内部についてもまだプロトタイプにつき撮影できなかったが、担当者にそのコンセプトについて話を聞くことができた。

 まず、このPC、デスクトップPCでありながら、デスクトップPC事業部の新製品ではなく、ノートPC事業部の新製品となる。Gシリーズこそ名乗っていないものの、筐体にはGシリーズのシンボルデザインである赤いドラゴンが描かれている。

 そうなると、次の疑問は、「なぜノートPCにこだわってきた彼らがわざわざ自社競合となるデスクトップPCの領域に踏み込んだのか?」ということだ。

 その答えの1つは「VR」。台湾は、HTC Viveを手がけるHTCのお膝元ということもあり、日本と同様、VR熱は高まっている。その一方で、PC向けVRが要求するPCスペックは下限がGeForce GTX 970で、MSIを含めた多くのゲーミングノートPCはそのスペックを満たしていない。このため、ノート向けにもデスクトップ向けGeForce GTX 980が解禁されたこともあり、GシリーズとしてVR ReadyのPCを提供したかったという。

 もうひとつは「リビングPC」だ。実際問題としてVRで遊ぶ際、どこでどう遊ぶのか? というのは避けて通れない問題だ。かつて、ゲームファンはXbox 360のジェスチャーデバイスKinectを設置する際、置き場所の確保に苦労したが、それと同じ苦労が再びVRでやってくる。とりわけHTCが手がけるHTC Viveは、ルームスケールのトラッキングシステムを採用しており、HTC Vive導入を検討するゲームファンは、その設置場所やスペースの確保に頭を悩ませることになるだろう。

 この問題において、PCメーカーが提供できるのは、省スペースでどこにでも置けるコンパクトなPCだが、この点においてGシリーズで培ったノウハウが活かせると考えたという。この「Vortex」、高さはわずか26.3cm、容積は6.5リットルしかない。この中に電源アダプタを内蔵しており、ケーブルを差すだけで使うことができる。

 現時点では、GeForce GTX 980 SLIモデルと、GeForce GTX 960 SLIモデルの2モデルを用意。公表されているPCスペックは、CPUはCore i7-6700K、メインメモリはDDR4、GPUにはデスクトップ用のGeForce GTX 980をSLI構成で搭載している。これならどんなVRシステムでも楽々動かせるというわけだ。

 また、リビングに置いて楽しめるように静音性にも気を配っている。実際に起動して確かめることはできなかったが、使用時で37dB、アイドル時で22dBを実現。VRへの没入感をさらに高めてくれる。

 ケースは金属製で高級感があり、下部から空気を取り入れ、上部に放出する空冷システムが構築されている。内部はMSI独自のヒートパイプが幾本も上下に伸び、Mac Proのような特殊な構造になっている。まさにMSIノート事業部の技術の粋を集めて作られたPCだ。

 現時点では、GeForce GTX 980 SLIモデルと、GeForce GTX 960 SLIモデルの2モデルを考えており、価格は980 SLIモデルで50万円前後を予定。発売時期は今春を予定し、Oculusがリリースされる3月28日をターゲットに、開発の最終調整中とのことだった。

 MSIは、Oculusが主導するOculus VR推奨PCプログラム「Oculus Ready」に参加していないものの、NVIDIAが推進するVRプログラム「GeForce GTX VR Ready」プログラムには参加し、様々なVR Ready PCを提供しており、「Vortex」もその1台となる。また、台湾HTC Viveとの協業も進めており、HTC Vive発売に合わせてコラボモデルがリリースされる可能性も高い。「Vortex」はスペックも価格もまさにMSIといった感じだが、発売が非常に楽しみな一台だ。

【MSI Vortex - a powerful compact gaming tower】

【「Vortex」のディテールをチェック】
真上から見たところ。大型のファンがあり、ここから廃棄される
下部には空気を取り入れる隙間がある
左右側面は何もない
入出力端子は後部に集中配置されている
6.5リットルというサイズながら、デスクトップPCと同様に電源アダプタを内蔵しており、ケーブルを挿すだけで利用できる

【「Heroes of The Storm」エディションを発見】
取材時に日本で2月20日より発売される「Heroes of The Storm」エディションのGE62版を発見。「Heroes of The Storm」のファンで、プライベートで自費で購入したものだという。日本で発売されるのはGT72Sとなる。

(中村聖司)