インタビュー
【特別企画】夢の実現! 「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」開発者インタビュー
最凶、最強の悪のSDガンダム・ガンキラーはいかにして商品化を成し遂げたか?
(2016/2/25 11:01)
バンダイは通販サイト「プレミアムバンダイ」にて組み立て式商品「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」を発売する。発送時期は8月、価格は3,888円(税込)。本日魂ウェブ商店にて、2月25日16時より注文を受け付ける。
「元祖SDガンダムワールド」とは、プラモデルの「SDガンダムBB戦士」と双璧をなす「SDガンダム」を題材にした組み立て式商品であり、「ガンキラー」とは講談社の児童向け雑誌「コミックボンボン」で連載されていた「超戦士ガンダム野郎(ハイパーせんしガンダムボーイ)」に登場する“悪役”である。正直、かなりマニアックなモチーフだ。
今回のこの商品はバンダイコレクターズ事業部の開発担当M氏の“夢”が実現したものである。「『元祖SDガンダムワールド』シリーズを大人向けに復活させたい、そして何としても、何としても『ガンキラー』を立体化したい!」M氏はコミックボンボンを読んでいた子供時代にこう決心し、思い続けて大人になり、そしてバンダイに入社し、ついにその思いを実現したのだ。
まさに“当時子供だった大人に向けてのアイテム”として、商品化が実現したのである。今回は「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」の試作品を前に、M氏の濃く、熱い想いを取り上げたい。「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」はM氏の“夢”だけにあらん限りのこだわりの詰まった商品であり、今後の「元祖SDガンダムワールド」シリーズの展開を見据えたアイテムとなっている。商品の魅力を紹介しよう。
主人公の10倍のパワー! 最強メカをズタズタにして登場した強敵・ガンキラー
まず、モチーフとなった「ガンキラー」についてきちんと掘り下げていきたい。ガンキラーは1989年から1993年までコミックボンボンに連載されたコミック「超戦士ガンダム野郎」に登場する“悪役”である。
「超戦士ガンダム野郎」は「プラモ狂四郎」を手がけたやまと虹一氏の作品であり(原作:クラフト団、原案・監修:大河原邦男氏)、プラモデルを“プラモシミュレーター”により操縦して戦うという「プラモ狂四郎」の流れを汲む。こちらは「SDガンダム」が中心で、作中のオリジナルプラモデルは、バンダイの「SDガンダム」の商品展開に影響を及ぼしている。
ガンキラーはコミックスの中盤に登場する“圧倒的強さを持つ敵”である。「超戦士ガンダム野郎」はキャラクター(プラモデル)の強さを示すのに「SDスピリット指数」という数値があり、主人公達の当時の数値が100~200程度の時にいきなり1,000という桁違いの数字で初登場時に提示された。そして圧倒的な強さ、多彩な武器を見せつけ、そのときの最強の機体であった「大福将軍」をズタズタに引き裂き、主人公・天地大河を昏睡状態にさせるという、当時の読者だった子供達に大ショックを与えるデビューをしたのだ。
その圧倒的な強さ、絶対的な絶望感は本当にすごかったと開発担当のM氏は語る。しかし一方でその凶悪すぎる強さにM氏は魅了された。そして組み立て式商品である「元祖SDガンダムワールド」での商品として絶対に欲しいと、当時少年だったM氏は強く願ったという。しかし、その想いは実現しなかった。「元祖SDガンダムワールド」は、1988年から1996年まで商品展開を行なっていたが、No.0088(新ナンバー)を最後に、シリーズは中断してしまったのだ。ガンキラーは結局、発売されなかった。
「元祖SDガンダムワールド」はプラモデルである「SDガンダムBB戦士」と双璧を成す“SDガンダム”をモチーフとした組み立て式の商品シリーズで、同じ組み立て式でありながら価格も比較をすると高め(BB戦士が300円、500円に対し元祖は480円~1,500円)で、肉厚のABS樹脂を使い、細かな色分け、メッキパーツの多用などで豪華な雰囲気があった。販売店も「元祖SDガンダムワールド」は玩具店中心でパッケージも派手で、模型店で販売される「SDガンダムBB戦士」とは子供の視点で大きく違った。何よりも“おもちゃ”として組み立てた後もグリグリ遊べ、M氏は「元祖SDガンダムワールド」シリーズが大好きだったという。
そしてM氏は「元祖SDガンダムワールド」で、「ガンキラー」を商品化したい! という想いを温め続けて大人になり、そしてついに実現したのである。何故そこまでM氏はガンキラーにこだわったのか? 「当時のボンボンに“フルスクラッチ(完全自作)”の作例としてガンキラーの写真が載っていたんです。その格好良さに僕はシビれた。絶対欲しいと思って、商品化されるのを待ち望んだんです。しかしそれはかなわなかった。……それならば僕が実現するしかないなと。だからこそ『元祖SDガンダムワールド』復活第1弾、そして再開されるNo.0089をつけられる機体はガンキラーしかないんです」とM氏は力を込めて語った。
もちろんM氏のみならず、多くのファンが「元祖SDガンダムワールド」シリーズの復活を待ち望んでいた。“豪華なSDガンダムの立体物”というラインでバンダイコレクターズ事業部は合金素材を使用した「SDX」というシリーズを展開している。しかしそれだけではなく「元祖SDガンダムワールド」そのものもきちんと商品シリーズとして復活させたい。コレクターズ事業部は今後もSDXシリーズは継続しつつ、こちらの技術をフィードバックしながら組み立て式商品である「元祖SDガンダムワールド」シリーズを再開していく予定だ。
2015年10月に開催された「魂ネイション 2015」では、シルエットとしてガンキラーと「SD SPRIT 1,000」という表示による展示が行なわれた。まさに“わかる人にしかわからない”この情報に、ファンは反応し、Twitterなどで期待を語った。その声はM氏をはじめとした開発スタッフを強く元気づけたという。そしてついに「元祖SDガンダムワールド」の復活、そして復活第1弾であり、No.0089としてガンキラーの発売が発表されたのである。「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」はここまで濃い、そして熱い開発者と、ファンの声で実現した商品なのである。
「僕はこのガンキラーが欲しかったんです!」、ほとばしる開発担当者M氏の想い
「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」はM氏の夢であり、「元祖SDガンダムワールド」シリーズの“復活”の「シンボル」としてM氏をはじめとしたバンダイの開発者達のあらん限りのこだわりが詰め込まれている。それでは、商品の詳細、“手触り”を紹介したい。
本商品のコンセプトは「当時の子供だった大人に向けて届けるこだわりの逸品」である。このためガンキラーはコミックスの“怖さ”、“力強さ”を再現しながら、悪役らしい鋭さ、凶悪さを原作以上にシャープに表現している。体の各部は細かく色分けされているが、これらはほとんどを成形色で再現し、ここにメタリックな光沢を放つシールを使用するだけで、デザイン通りに組み立てることができる。
手足の付け根はボールジョイントで、短い手足は肘と膝にきちんと関節が組み込まれており、しっかり曲がる。首や腰、腰回りの装甲も稼働し、様々なポーズをつけることが可能だ。この短い手足の関節構造は「SDX」で培った技術からのフィードバックだという。色分けだけでなく関節など、組み立ての部品がかなり細かいことが確認でき、改めて本商品が“大人向け”であることがわかる。
手の中でガンキラーを動かしてみると、シャープで細かい部品を組み合わせたからこその充実した情報量、ギミックの盛り込み、各部のディテールの細かさに圧倒される。足の裏は本商品のために改めて描き起こされているとのこと。「ROBOT魂」や「スーパーロボット超合金」など他のシリーズに勝るとも劣らない造形のこだわりを感じさせる。
そしてうれしそうにM氏が紹介するこだわりのギミックの数々。ガンキラーのメインウェポンとなる手のひらから伸びる針「キラーソード」は手のひらに穴の開いた平手パーツと組み合わせて再現できる。肩についているクナイ状の武器「ギロチンバグ」は肩から射出後は十字手裏剣のような形になる設定だが、この飛行状態のパーツも用意されている。中央裏側には穴が開いており、別売りのスタンド「魂STAGE」を使用することで投擲した雰囲気での飾りつけができる。
さらに劇中のガンキラーは“手足が伸びる”のだ。これにより敵のSDガンダム達を見下ろし威圧感を与える。その姿は通常のSDガンダムとは大きく異なるバランスで、ピンチの主人公達に感情移入する子供達を震え上がらせた。「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」は手足の“追加パーツ”によってこの手足が伸びた状態も再現できるのだ。短い手足に関節を仕込むだけでなく、追加パーツで手足の伸びた状態でも違和感のない関節の設計は本当に大変だったとM氏は語った。社内の設計スタッフの“職人芸”が光るポイントだ。
設計ポイントでは肩と胸のデザインの苦労が最も大変だったとM氏は語った。ガンキラーの胸の側面のデザインは肩の付け根を覆うようになっている。デザインを重視した造形にすると、腕が地面と水平になるまで上げられなくなってしまう。設計時、それではダメだとM氏は頑強に主張したという。腕が上げられなければ、キラーソードを突き出すポーズがとれなくなってしまう! 可動域は確保したい、しかしデザインも重視したい。設計スタッフは矛盾しまくりなM氏のこだわりをぎりぎりまで調節し、かなえてくれたとのことだ。
そして、今回聞いてみて最も驚いたのがガンキラーの「カラーリング」の話である。商品のガンキラーは黒いが、実は初登場の圧倒的な強さを見せつけたガンキラーは試作機である「0号機」で“赤いカラーリング”だというのだ。黒いカラーリングはその後作られた量産機のものだというのだ。なぜ赤ではなく黒の方にしたのか? 筆者の問いにM氏は答えた「それは、ボンボンでの作例が“黒いガンキラー”だったからです。僕が欲しかったのは、あくまで黒いガンキラーなんですよ!」。
……改めてM氏のこだわりに圧倒された。そしてその強い想いがこの商品を実現させたのだというところに、楽しさを感じた。こういったコレクタートイに限らず、エンターテイメント全ては、マーケティングやビジネスといった側面も間違いなくあるが、コアとなるのは企画者の“夢”だということを実感させられた。
商品写真にまでみなぎるこだわり。特典はシリーズが描かれたミニ下敷き
「元祖SDガンダムワールド」を復活させようという想いはM氏だけでなく、企画・開発スタッフ全体、そして本シリーズに関わったクリエイターも強く持っている。「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」ではパッケージや付属品にもその気持ちは込められている。
「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」のパッケージイラストは、これまでのシリーズの伝統を受け継ぎ、横井画伯ことSDガンダムの生みの親とも言われるイラストレーターの横井孝二氏が手がけている。左手はキラーソードを突き出しており、右腕は腕が伸びているという商品の魅力を盛り込んだデザインになっている。
パッケージにはガンキラーの活躍をイメージした商品写真が使用されるが、こちらも当時の「元祖SDガンダムワールド」シリーズの伝統を受け継ぎ、当時の撮影を担当したカメラマン高瀬氏により、“特撮”で撮影されている。あえてCGを使わず、当時の特撮テクニックを活かしての撮影は、立ち会った開発スタッフ達を強く感心させたとのことだ。
そして商品にはさらに「元祖SDガンダムワールド」ファンをニヤリとさせる要素が盛り込まれている。「元祖SDガンダムワールド復活記念」としてシリーズのリナンバー後のラインナップを掲載予定の“ミニ下敷き”を制作し、パッケージに同梱する。シリーズのラインナップが一挙に掲載されたミニ下敷きやチラシは当時の子供の“宝物”だった。子供達は何度も何度もそのラインナップを眺め、「これは持っている。お小遣いが貯まったら、次はこれが欲しい……」など考えていた。今回同梱されるミニ下敷きは、その時の記憶を刺激してくれるものだ。
「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」は、「元祖SDガンダムワールド」シリーズの“復活”を宣言するアイテムだ。バンダイコレクターズ事業部では、今後「商品化アンケート」なども行ないユーザーと共に盛り上げていくという。子供の時にかなえられなかった商品化、大好きだったキャラクターを現在の優れた表現技術でもう1度 手に取りたいという想い……M氏のように“夢”をかなえたいというユーザーはたくさんいるはずだ。「元祖SDガンダムワールド」を復活して欲しいというユーザーの声はイベント会場でのスタッフへの意見や、ネットでの意見でも強いという。彼らの熱い想いが、開発スタッフを後押ししている。今後の展開も注目して欲しい。
M氏はついに夢を実現したが「まだ実感がない」という。本当の夢の実現は、「元祖SDガンダムワールド ガンキラー」が実際に“発売”され、パッケージを手にし、家で開封した瞬間ではないかと語った。ひょっとしたら組み立て終わり、ポーズをとらせるために完成品を手に取った瞬間かもしれない。1人の“ユーザー”としてガンキラーを手にする、その時が本当に楽しみだとM氏は語った。「3個くらい買っちゃうかも」とのことだ。
M氏は最後にシリーズを楽しみにしてくれるユーザーに、「やはりユーザーの皆様に『元祖SDガンダムワールド』を支持していただきたいと思っています。お客様の声があるからこそ私たちはシリーズを復活させることができた。そして応援いただければさらなる盛り上がりへ続けていけます。今後ともぜひよろしくお願いします」とメッセージを送った。
「このおもちゃが欲しい、あの商品は絶対手にしたい」。そう思う子供は多いだろう。しかしそれを大人まで持ち続け、なおかつ実現まできちんと“努力”できる人は少ない。しかし、そういった想いを持っている人が玩具やエンターテイメントだけでなく、世界を動かしているのだと思う。個人で実現する人もいると思うが、会社として、商品として夢が実現できるというのは、すばらしいと思う。「これからの子供達にも夢を持ち続けて欲しい」というのは、本商品に限らず様々なものに開発者が託している想いだということが、改めて実感できた取材だった。
(C)創通・サンライズ
※画像は試作品のため実際の商品とは異なります。
実際の商品は成形色と、一部シールでの表現となります。