「ファイナルファンタジー XIV」新プロデューサー吉田直樹氏インタビュー(後編)
PvPシステムは“必ず実装”、序盤やバトルも大幅てこ入れか


12月21日収録

会場:スクウェア・エニックス本社会議室


 インタビュー後編では、インタビュー前編に引き続き、「ファイナルファンタジー XIV」プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏に、具体的なゲームコンテンツの改良や拡張の方向性について話を伺っている。



■ 「FF XIV」の拡張計画について。バトルは15人パーティーの妥当性も含めて再検討

これから松井氏とやり合うという吉田プロデューサー。「FF XI」のバトルを設計した松井氏と、数々のオンラインゲームをプレイしてきた吉田氏のコンビは、バトルシステムの大幅な変更を予感させる
「FF XIV」のバトルは15人までパーティーを組むことができる柔軟性の高さがウリ。ただ、それがために現在は緊張感や戦略性に欠ける部分がある。今後はより少人数でのパーティーシステムの再設計が行なわれるのではないか

編: ゲームコンテンツの拡張計画について質問させてください。まずバトルについてですが、「FF XI」と比較して戦略性や爽快感といったものがまだまだ薄いと感じています。今後「FF XIV」のバトルはどのように変わっていくのでしょうか。

吉田氏: それはまさに明日、松井とやり合おうとしているところです(笑)。ドラスティックにどこまでというのは難しい問題です。僕個人としては、まずパーティープレイのために、ヘイトのシステムがユーザーさんの感覚にきちんと伝わるように調整していきたい。いま僕が触っても「あれ?」と思う部分が多数ありますし、松井も現場に入ってバリバリ現状を認識していまして、「俺はこう思うんだけど、どう?」というのをやり合おうと思っています。あとは、15人という現在のパーティー人数がパーティープレイにとって適切かどうか、ヘイトコントロール、クラウドコントロールの強弱、アイテム耐久度消費まわりという基本的なところです。

 僕はMMORPGは経済が回っていかないと絶対に成功しないと思っているんです。生産、採取、消費というサイクルは現実と同じ。その中でバトルってアイテムや武器の消費の場であり、採取の場でもあると思っているんです。武器の交換や、摩耗による消費、デスペナルティーによる消滅といった消費ですよね。一方でバトルのリワードとなる、モンスターのドロップは採取だと考えます。さらにここに鉱石など、ギャザラーによるオブジェクト採取があり、これらがクラフターの手により合わせられて姿を変える、つまり生産が行なわれて、再びバトルに持ち込まれる。このサイクルがきちんとしなくてはいけないと思っています。これに魔法付加のような概念が入ってくると、「加工」が加わってさらに発展する。そう考えています。だからこそバトルが大事なんです。

編: 「FF XI」のバトルは、「エバークエスト」のバトルがひな形としてあって、カッチリした6人での戦いにフォーカスし、さらに連携システムにより「エバークエスト」を凌駕しましたよね。「FF XIV」はβテストの頃から思っていることですが、どういうバトルを目指しているのかがよくわかりません。目指すところはいったいどこなんでしょうか?

吉田氏: 現時点では僕が軽々しく話せません。やはり約束になってしまいそうなので。まだ松井とも議論していない段階ですからね。現在は全体の問題把握に時間をかけていて、テクニカルの問題や、パラメーター制御など、そういったデータは松井が集めてくれているので、それらを全部インプットした上で判断したいと思います。

編: 経済に関しては、現状、競売システムがなく、リテイナーによるバザーシステムが流通のメインですよね。12月のアップデートではサーチ機能の実装や、ストリートの再編が行なわれましたが、経済の柱を担うアイテムトレーディングシステムは今後どのように進化しますか?

吉田氏: 旧体制ではアイテムサーチをお約束しており、22日に実装される予定です。ただ、現在は競売以前の問題として、現状、プレーヤーが欲しいものが、探せないという状況を何とかしていきたいと思っているんです。トレーディングシステムはその先で、まずは欲しいものが探せないという現状を何とかせいやと。まずサーチ機能、そして年が明けてからも最低限、プレーヤーが欲しいものをちゃんとどこに売っているかわかるようにしてあげてからだと思っています。欲しいものを探せる、というのは、最低限必要なものの1つだと思っています。

編: その通りだと思います。「リテイナーが1人から2人になる」というアップデート項目を見たとき、それはそれで便利なのですが、問題の本質が理解できていないんじゃないか、と思いました。わかりやすい比較例として「FF XI」を持ち出しますが、「FF XIV」の流通システムが、「FF XI」程度の水準まで整備されるのはいつくらいでしょうか?

吉田氏: それも優先順位次第で、現在はお話しできません。それぞれのコストは出ていないのです。もちろん経済に関する処理の優先順位は高いのですが、限られたコスト、スタッフ、さらに運営を続けていくという状況の中で、次のアップデートで主にするのは何だ、次は何だ、という考え方をしないと、結局全部突っ込もうと約束して満足を得てもらえないという状況を繰り返してしまうのではないかと思っています。

 ちゃんと順位をつけ、どのくらい時間がかかるかを見極めていきます。スピードが求められているならベストではなく、ベターを繰り返すという方法もありだと思います。本質から遠ざかるアップデートはしたくないですが、もしある程度の期間我慢していただけるのなら、時間をかけてベストを入れる。それはお客様の熱意とか、温度感で決めていくべきだと思っています。



■ 多すぎるアイテムは今後減らすことも。フィールド要素の欠如は「大きな問題」

吉田氏は具体的なことは何も語らなかったが、基本的な方向性としてはリデザイン。その上で、入り口から遊び直して貰いたいという考えのようだ
メインクエストの拡張時期については明言を避けた。世界の拡張の前に、手直しが先と考えているようだ
機能性に乏しいフィールド。吉田氏は「大きな問題」と認識していることを明らかにした

編: 本来、11月や12月のアップデートで実装が予定されていた、新規コンテンツやメインクエストといった「FF XIV」のMMORPGとしての拡張は、今後どのように実装されていきますか?

吉田氏: 最も強く声を発しているお客様をまずはしっかり見て、適切なアップデートは何なのかを決めます。その上で、たとえば序盤のわかりにくさを何とかしようと僕が決断した場合、今のプレーヤーの皆さんに、ゲームの序盤をもう1度遊んでいただくというのもありだと思っています。そうなれば、開発コストはその辺の周辺のコンテンツやクエストに割り振ることになります。パーティープレイのための調整に力を入れるとか。そのときは、すでに高ランクになっているプレーヤーの皆さんのために「セカンドキャラクターキャンペーン」をするのもありかなと。「わかりやすくなったし、一緒に遊べるから帰ってこいよ」とお友達を呼んで貰えたらハッピーですから。そういったアイデアはたくさんありますが、まずは皆さんとの対話があってから、どれをやるのかを決断しようと思います。

編: 序盤という点では、既に告知されている「チュートリアルシステム」は、いつ頃に、どのような内容のものを実装する予定ですか?

吉田氏: 僕はゲームをプレイしながらチュートリアルをしていきたい方です。「エバークエスト」ではチュートリアルディスクというシステマチックなものを用意しましたが、そういう方法もありだと思います。僕の理想としては、「いつの間にかゲームのルールを覚えている」というものですが、スピードとコストを考えると、1ディスクにまとめるのもいいのかもしれません。コスト精査中なので、いずれもあり得ますね。

編: 現在の戦闘システムやUIは一新しようと考えているのでしょうか。それとも少しずつ改善を加えていこうという方向なのでしょうか。

吉田氏: 開発に対して方針は出していますが、まだお答えはできません。一旦全方向で考えています。今のシステムをがらっと変えた方が、お客様はうれしいんじゃないかと思ってはいます。レスポンスは向上し、使い勝手も向上する。しかしその分開発コストは非常に膨大になってしまう。しかも、いくつかはお客様に不利益も生じるかも知れない。そして現在進めている今のUIをちょっとずつ改修している作業も、全体を入れ替える場合には無駄になってしまう可能性もある。だからといって改修を止めて、入れ替え作業に没頭してしまえば、お客様に苦しい思いを強いてしまいます。だからこそ最大効率を見定めようとしています。

編: 経済に関しては、戦闘で得たアイテムが、誰が必要としているのかわからない点が問題だと思います。この点をどうしていきますか。

吉田氏: ゲーム内でのアイテムの価値がわかりにくいですね。ドロップアイテムはべらぼうに多く、生産に必要なレシピでのアイテムもやたら細かい。結果としてアイテムの数が多くなりすぎ、特にゲームを始めたばかりのプレーヤーは1つ1つの価値を判別できない。しかも売りに行こうにもリテイナーの集団の前に途方に暮れる……。これは、一旦いろいろなものを減らそうか、ということも考えられると思います。アイテム個々のステータス表示や価値表示だけでは、まかないきれないんじゃないか、と。

 システムの改変の他に、わかりやすくするために減らす、ということは必要なことだと思います。これはすごく勇気のいることですが、プロデューサーとディレクターを僕がやっているからこそ、最悪僕がお客様に怒られれば済む。それで、ちゃんとわかりやすさが提供できれば、それもいいと思っています。ホント色々なことを考えていて、全部コストを考えています。僕は決断が早い方ですが、情報の正確性が保証されないまま、決断を下すほどバカでもないので。

 僕もプレーヤーとして、MMORPGではクラフターをやっていて、自分が作ったアイテムが、どう使われていくか、需要ってどうなのか、バトルをやっている人も、クラフターのために素材を市場に流してくれる、その循環もわかっているんです。戦闘している人も、クラフターに求められるアイテムがわかってくる。価格に関してもNPCがちゃんとアイテムの価格を設定して、プレーヤーにそのアイテムの価値の目安を提示するとか、こういった点はシステムに手を入れなくてもできることで、ここの落としどころを考えています。気の遠くなるようなイメージを持たれるかもしれませんが、ひとつひとつの可能性を考え、コストを出してみて決断する。結果的にそれが一番早く、皆さんにとって有益かと思います。僕やリードスタッフが、死にものぐるいで働けば、さらに結論は早くなるので。今はまず一歩一歩だと思います。根こそぎ変えるのは確かに楽なのですが、時間とコストがかかります。

編: ゲームをプレイしていて、「冒険者とはどんな存在なのか」、「僕はこの世界で必要とされているのか」という点が足りないと感じます。ストーリードリヴン要素を強めるための施策は何か考えていますか。

吉田氏: ここに関してはちょっとした仕掛を1月1日にする予定です。面白そうだな、とは感じてもらえると思います。

編: 現時点ではオープニングムービーで見ることができる世界観と、ゲームのプレイ風景が、かみ合っていない。完全に乖離していると言っても良い状況だと思います。

吉田氏: 限られたスケジュールの中各スタッフはそれぞれの分野で全力を尽くした結果、全体としてわかりにくくなってしまった、というのが「FF XIV」の現状だと思っています。デコボコがスゴイ状態になっているので、これをならしていく。ギルドリーヴやチュートリアルも含めて、ならしが必要で、その上でプレーヤーをユーザーを引っ張っていく「世界に必要とされている感」や「危機感」がもっとあるべきだろうなと。

編: フィールドに関しては、非常に広大だけどメリハリがなく、もったいないと感じています。これについては、今後フィールドをもっと作り込んでいくのでしょうか、それともこれはそのままでどんどん新地域を開放していくのでしょうか。

吉田氏: システムを変えてしまいたいと考えているところもありますが、コストを考えなくてはいけません。現在はリスクを計算しています。たとえば「World of Warcraft」では最新の拡張パックで序盤の土地を一気にアップグレードしました。これも面白いと思います。ただ、お客様にはもっともっと楽しんでいってもらいたい。巨大な改変のために、苦労を強いるというのは、できるだけ避けたいと考えています。でも、お客様が考えている以上に、ここは大きな問題だと認識しています。

編: ギャザラー、クラフターの役割はどういったものになるでしょうか。

吉田氏: たとえば、PvPはPvEとは違う消費の場所であり、それぞれに特化した生産行為が入っていくと思います。PvPに求められるアイテムのパラメーターは、PvEとは違いますし。「FF XIV」の自由度の高さは魅力的なのですが、わかりにくさも生んでいます。PvPでの戦い方も考えて、バトルをどうしていくかは考えたいと思います。PvEとPvPでルールが全く違うのはナンセンスだと思うので、どちらも楽しめるバランスを考えています。そこにギャザラーやクラフターが絡んで、発展していけたらな、と。

編: ジョブ周りに関する今後の拡張計画を教えてください。

吉田氏: 未整理状態のわからないものに対して、何かを足していく、というのは好きじゃないです。やはり今の改修計画が固まり、改修が一段落して、僕らの考える理想に近づいたあとになります。それができていない今は、無理矢理拡張しても意味がないですし、何もお約束できないと思っています。



■ 吉田氏「ワールドワイドで展開しているMMOで、PvP要素がない作品はない」

コンテンツに関して唯一踏み込んだ発言を行なったのがPvP。「DAoC」出身だけあって、グローバル展開にPvPの重要はよく理解しているという印象を持った
大人数でPvEを楽しむのが「FF XIV」の基本スタイル。もちろんこれだけに終わるはずはないが、今後どのように拡張されるのか注目されるところだ
12月22日に追加された、アイテムサーチ。カテゴリーを選ぶと、どのアイテムがいくつ売っているかがわかり、さらに売っているリテイナーの頭の上に星が付くようになった

編: 吉田さんの中で、いま最優先のものとはなんでしょうか。

吉田氏: 調べることと、パッチの頻度を上げるための環境作り、お客様の声を聞くこと、この3点です。

編: 吉田さんは現在、「FF XIV」はプレイしているのですか?

吉田氏: まだ、皆さんに誇れるほどのプレイ時間じゃないですね。なにせ運営/開発が起きている間は、駆けずり回って調査、ログインすればもう朝という状況です。年末年始に廃人プレイで追いつきます(笑)。ただ、プレイし始めれば、ランク10~12くらいで色々わかるじゃないですか。さて、これをどうするかなとか、皆さんがプレイして感じる不満点をどうしていくか。皆川や髙井のプレイメモを見ても、うーむと手が止まりますし。

編: 具体的な内容についてはまだ現時点ではお話しできないということですが、もう少し吉田さんの“カラー”を教えていただきたいです。「WoW」の初期や「DAoC」を6年プレイされたということで、じゃあたとえば今後「FF XIV」でもRvR色が強まるような事はあるのか。現在の「FF XIV」には計画として全くない要素を、吉田さんが新たに主導して実装するということはあるのでしょうか。

吉田氏: ワールドワイドで展開しているMMOで、PvP要素がない作品はないので、PvPは是が非でも入れようと思っています。時期はお約束できませんし、それをメインに今回の記事を作っていただくのも違うと思います。日本のプレーヤーが好まないにしても、PvPというコンテンツはワールドワイドで必要だと思っています。僕の個人的な意見ですが、PvPではやはりグループvsグループ(GvG)が好きです。1vs1は「ウルティマオンライン」のようなスキル制ならば成り立ちますが、「FF XI」や「DAoC」ではグループでどうメンバーを組み合わせるかを考えて戦うというのが好きでしたから。ただし、これはまだ個人の意見の範囲を出ないものです。

 まず、僕自身の色は、お約束をきちんとすること、皆さんの声に耳を傾けること、年内はまずそこから始めたいと思っています。まずそれで吉田という人間を皆さんに知って頂こうかなと。だからこそ1回目のお約束は大事だと思っています。そこでもっと具体的な事をお話ししたいです。

編: ただ、現状の「FF XIV」のキャラクター育成システムはスキルの組み合わせで自由なキャラクター像を追求できる「ウルティマオンライン」タイプですよね? ユーザーのプレイ方法を限定して、各人がロールを担う「エバークエスト」とは対照的な方向性だと思うのですが。

吉田氏: 「FF XIV」のキャラクターシステムとバトルシステムは、拡散する方向だと思っています。それがわかりにくさを生んでいる。ある程度、大胆に整える、ということも大事ではないかと思っています。自由というのは響きは良いですが、他方で無責任でもある。「UO」にしても中期以降に入ったスキルロックの仕様で、より「」制限」する方向へ進みました。付け替えもできないですしね。「俺はメイジタンクだ」って言えましたから。

編: 姉妹作である「FF XI」とのコラボレーションは何か考えているのでしょうか。

吉田氏: 弘道さん(「FF XI」プロデューサー田中弘道氏)には「ぜひ何かやりたいね」と話しています。ただ、そのためにはまずは「FF XIV」が「FF XI」と肩を並べるところまでいってから、だと思っています。2人ともMMO廃人キャラクターなのでお酒を飲みながら話しているとずっと話し込んでしまうのですが、「FF XIV」がどこまで行けるのか、まずはそこだと思います。色んなところに手を出しても、お客様に「その前にちゃんとゲームをアップデートしろよ」と言われてしまいますので。

編: すぐゲームを変えるというのは難しいと思うのですが、1年間あれば色々変わっていくと思います。1年後の「FF XIV」の姿はどういったものになるのでしょうか。

吉田氏: 少なくとも身の回りの友達に「一緒に遊ぼうぜ」と、誘って頂けるゲームにしたいです。それは1年といわずできるだけ早くしたいです。今はそう言ってもらえにくいゲームになっていると思います。だからこそいち早く誘えるゲームにしたいです。

編: 最後にユーザーへのメッセージをお願いします。

吉田氏: 新体制になりましたが、まだまだ具体的なことをお話しできず、申し訳なく思っています。ですが、スタッフ一丸となって、昼夜問わず「FF XIV」の未来に向かって突き進んでいることだけは信じて頂けたらと思います。繰り返しになりますが、きちんとお約束をして、1つ1つ達成していこうと思います。今はまだ具体的なお話ができる状態ではなく、お約束ができる準備ができていませんが、その時が来たら、もっと具体的で、もっと面白い話をしていきたいと思いますので、それまでThe Lodestoneを中心に、注目していてください。皆さんとの対話を大切にしていきたいと思いますので、これからも「ファイナルファンタジー XIV」をよろしくお願いいたします。

編: 期待しています。ありがとうございました。


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(2010年 12月 30日)

[Reported by 中村聖司]