インタビュー

NEXONが欧米スタジオとWin-Winを目指す「NDCP」プロジェクト

欧米企業の見るアジアゲーム市場の難しさと、NEXONの戦略とは?

11月12日~15日開催

会場:韓国釜山BEXCO

 韓国NEXONは2014年から、パートナー契約を結んだゲーム会社とともに、開発者向けのイベント「Nexon Developers Conference for Partners(NDCP)」を開催している。今年は11月9日から12日までパンギョにあるNEXON本社ビルに世界中からパートナー企業や各国の現地法人の関係者など約30人を集めて、5つのセッションを開催した。G-STAR 2015には、NDCPパートナー企業の1つで、オーストリアの小規模なゲーム会社Socialspiel Entertainmentが開発したAndroid/iOS用アクションRPG「レガシークエスト」をプレイアブル出展した。本稿ではNEXONのNDPCによる取り組みを紹介したい。

お互いの不足を補い特技を強化する戦略的なパートナーシップ

現在北米欧州を中心に約10のスタジオとパートナー契約を結んでいる

 まずは簡単にNDCPがどんなイベントなのかを説明したい。NDCPはネクソンと海外パートナー企業それぞれが持つ知識や開発スキルの共有を目的に開催されている。今年のNDCPは最初の2日間はソウルでセッションを行ない、後半の2日間はG-STAR会場に移動して視察を行なった。

 セッションでは、BIG HUGE GAMESが開発し、8月にアジア各地域でローンチしたモバイル歴史戦略ゲーム「DomiNations(日本サービス名:ドミネーションズ ‐文明創造‐)」のアジアローンチ時のプロモーション戦略の紹介や、「サドンアタック」のためのライブゲーム運用やサーバー及びネットワークに関しての講演が行なわれた。

 NEXONは1999年から徐々に欧米に向けて韓国産のゲームを発信していた。2004年にはWindows用MMORPG「メイプルストーリー」をローカライズして北米で大きな成功を収めることができた。

 しかしその後投入したタイトルでは思ったような結果を出すことができておらず、戦略の転換を迫られた。そこで、自社開発の作品を持っていくのではなく、欧米の開発会社とパートナー契約を結んで欧米向けの作品を作るという方向に切り替えた。

 NDCPについて説明してくれた、NEXONのチーフビジネスデベロップメントオフィサー(CBDO)のSimon Cheong氏によれば、欧米とアジアの開発者の間にはギャップがあるという。アジアの会社はサーバーテクノロジーなど技術面で強みを持っている。一方欧米の会社はゲームのアートやデザインというアイデアの部分が非常に長けている。欧米の会社はパッケージゲームを作るのは得意だが、ライブサーバーの運営についてはノウハウがない。そういったお互いの弱点を補い、長所を生かそうというのが提携の目的だ。

 パートナー企業側には、アジア市場に詳しいNEXONと手を結ぶことで、小さなスタジオがアジアを含むグローバル市場でビジネスをするための足掛かりを得ることができる。そういった思惑が合致し、現在は10社程度のパートナー企業がNEXONと共にゲーム開発を進めている。NEXONは今後、日本市場でもパートナーとなりうる企業を探したいということだった。

“ゲームを愛する心”をどうゲームの中で生かしていくか

NEXONブースの「レガシークエスト」の試遊コーナー

 会期中にBIG HUGE GAMESのCEO、Tim Train氏とSocialspiel EntertainmentのCEO、Michael Borras氏をゲストに迎えての合同インタビューが行なわれ、欧米のゲーム会社がアジア市場を攻略する難しさなど、興味深い話を聞くことができた。BIG HUGE GAMESはベテランのゲーム開発者が集まって作ったモバイル戦略ゲーム専門の開発会社。Michael Borras氏は元Rockstar Games所属で、「Grand Theft Auto III」などのタイトルを担当していた人物だ。

 BIG HUGE GAMESが開発している「DomiNations」は、石器時代から実在する文明を発展させながら、強力な君主へと成長させていく。2015年4月に北米とヨーロッパ地域で、8月には日本、韓国、台湾などアジア市場で配信を開始している。配信開始から6カ月の累積ダウンロード数は1,300万件を突破している。

 Socialspiel Entertainmentが開発している「レガシークエスト」は、プレーヤーが作る武器を、世代を超えて継承していく「永続的な死」をコンセプトにしたダンジョン探索型のアクションRPG。キャラクターや背景はすべてキューブ状のカジュアルな見た目が特徴。2016年の第1四半期中のローンチを目指している。

【「ドミネーションズ -文明創造-」OPムービー】

【「レガシークエスト」OPムービー】

Socialspiel EntertainmentのCEO、Michael Borras氏
BIG HUGE GAMESのCEO、Tim Train氏

――欧米から見たアジア市場の難しさはどういった部分ですか?

Train氏: 欧米とアジアの市場にはかなり違いがあります。アジア市場の特徴の1つに、フリー・トゥー・プレイ(F2P)の歴史が長いことがあげられます。欧米にもゲームが好きな人は多いが、F2Pにはなじみない人が多い。アジアの会社が持っているF2Pの知識を借りることができるのが今回のパートナーを結んだ理由です。

Borras氏: ヨーロッパではF2Pが誤解されているケースも非常に多く、なかなか理解されていないのが現状です。当社では2013年からF2Pゲームの開発に取り組んでいます。アジア市場ではF2Pが浸透していることもあり、参考にしたい、かつ勝負したいと思うエキサイティングな市場です。そんなアジア市場にリーチしたいと思っていて、そのためにNEXONとのパートナーシップが貢献してくれるのではないかと感じています。

――いま開発されているのはグローバル向けのタイトルだと思いますが、アジア市場を攻略するためのカルチャライズはされているのですか? それともプロモーションでの攻略を考えているのですか?

Train氏: 「DomiNations」はゲームのテーマが世界史という世界中の人に共通するテーマなので、特に国ごとに内容を変えてはいません。プロモーションは国ごとに特徴に合わせて変化を付けています。例を挙げると、アジアではテレビのメディア効果が非常に強いので、欧米ではやっていないTVコマーシャルを取り入れて差別化を図っています。

Borras氏: 「レガシークエスト」はまだアジア地域では配信を開始していないので、今はNEXONとローンチ後のマーケティング部分に関して協議を進めているところです。マーケティングだけではなくプレイ要素にも日本やアジアの好みを取り入れたものにするための検討をしています。

 研究のために、アジアの色々な国のゲームをプレイすることを心がけています。プレイすることで、そのゲームの特徴だったり、ユーザーがどういうことを思っているのかを知る1つの判断材料になるのではないかと思っています。たくさんのゲームをすることで、アジアのゲームマーケットがどれだけすごいのか、どれだけ大きな市場なのかを同時に認識することができると思います。今はまだ開発段階なので具体的なことは申し上げられませんが、そういう色々なものを取り入れていくことで、グローバルだけれどそれぞれの国で受け入れられるゲームになると考えています。

「ドミネーションズ -文明創造-」を開発しているTrain氏は「信長の野望」の大ファン。オマージュの意味を込めて、徳川家康ではなく織田信長をゲーム内に登場させている
「レガシークエスト」を開発する過程で、NEXONからアジアユーザーの好みに合わせて、もっと打撃感を出して欲しいとアドバイスされたそうだ

――現在開発しているタイトルは最初からグローバル向けに作っているのですか? 世界でヒットするために何が必要だと考えていますか?

Borras氏: 「レガシークエスト」はコンセプトの段階からNEXONと協業をして、最初からグローバルでの配信を視野に入れています。グローバルと言っても、市場ごとに違いがあるのは認識しており、ローカルでもグローバルでも受け入れられるものを見つけることを課題として取り組んでいるところです。世界で受け入れられる要素として“PLAY to FUN”が1つのカギだと認識しています。プレーヤーが純粋にプレイして楽しいと思えるか、1回で飽きてしまうのではなく、何回もやりたいと思うような、そういうクオリティの高いゲームを作ることです。もう1つは、アクセシビリティ、プレイのしやすさです。多くの人に受け入れられるデザインでなければ、グローバルではヒットしないのではないかと考えています。

Train氏: 「DomiNations」のゲームデザインは「Civilization」から学んだところが多いです。シド・マイヤーがいつも話している「自分たちがプレイしたいゲームを作るべき」という言葉が、グローバルでヒットできる作品を作るうえで重要だと考えています。後はゲームクリエイターのパッションであるとか、ゲームへの愛情が感じられるものはよい作品として世界に受け入れられるのではないかと考えています。NEXONの代表取締役社長オーウェン・マホニーとよく話をする機会があるのですが、そこで話題に上がるのはクリエイティビティがゲーム開発者にとって非常に重要だということです。

――NEXONと提携することによって、運用面やライブサーバーなどがメリットだということですが、ほかにゲーム開発へのアドバイスなどがあれば教えてください。

Borras氏: Socialspiel Entertainmentは元Rockstar Gamesで長い開発経験を持つ、ゲーム好きの開発者が多くいます。NEXONと付き合ったときに、NEXONにも同じようにゲームが好きな人が多くいることが分かったことは大きな気づきでした。アドバイスしてもらったこととしては、ゲームのアートデザインは軽視してはいけない非常に重要な要素だと。こういうアドバイスがもらえるパートナー企業は欧米では見つけにくいのです。ほかにもF2Pについては多くのアドバイスをもらいました。自分たちのゲームに対する愛情を、ゲームの中にどう生かしていくか、協議を進めながら開発しているところです。

Train氏: Michaelさんとほぼ同じです。NEXONが持っているライブオペレーションの長年の経験は私たちにとって非常にプラスとなりました。また、アジア市場のユニークな特徴として、イベントを行なうことが挙げられます。欧米の会社は普通はイベントをしないですから。「DomiNations」をアジアでローンチした時にNEXONがイベントをしましょうとアドバイスをくれたり、方策を考えてくれたことで、アジア地域のリテンションが維持できたと思っています。そういうアジア特有の特徴について学べるところが、大きなメリットとして挙げられます。「DomiNations」というタイトルを通じて、日本の多くのユーザーと関わることができたことを嬉しく思っています。今後もアップデートを通して日本のユーザーの方にリーチして、ゲームを盛り上げていきたいと思っています。

(石井聡)