インタビュー

iOS/Android「ロックマン クロスオーバー」開発者座談会

メインテーマは2時間で作曲!? 驚異のサウンドデザイン

メインテーマは2時間で作曲!? 驚異のサウンドデザイン

――音楽面についてはいかがでしょうか。「ロックマン」らしさを表現するのに苦労はありましたか?

青木氏:今の松浦の話にもあったんですが、「X」のユーザーを主要なターゲットとして設定していました。僕自身も初代から「X」にかけての音楽がすごく好きで、僕の中には「『ロックマン』の音楽はこういうものだ!」という思いがあるわけです。どこか哀愁があって、メロディアスで、さらに「X」だったら“ロック”というキーワードがある。当時の曲をアレンジするという選択肢もありましたし、今までになかったまったく別のものにするという選択肢もありました。

 そうしたいろいろな考えがある中で、僕としては「2012年版『ロックマンX』」というつもりで、最新の「ロックマンX」の音楽の提案という形で作ることにしたんです。ただ、そういうコンセプトを決めてからの苦労はあまりなくて、楽曲自体は思いのほかすんなり出てきました(笑)。

松浦氏:青木が「ロックマンXO」の楽曲を最初に作ったスピードは、社内でも伝説になっているほどです(笑)。

――どのくらいの時間で作られたのですか? 気になります。

青木氏:最初に作ったのはメインテーマだったんですが、ざっくりとしたラフ曲で2時間くらいでした。開発の始めにあったキックオフミーティングで「X」がベースだと聞いて、すぐに頭の中で作っていった感じです。翌日昼間にはほぼ完成していました。

松浦氏:すぐに連絡が来て、「うわっ」て思わず、声を上げるほどにオドロキました(笑)。

――無茶苦茶早いですね(笑)。ちなみに、ほかの楽曲の制作時間はどうだったんですか?

青木氏:「ロックマンXO」は全体的にスピーディでした。例えば「戦国BASARA」では1曲しっかり作るとしたら1日は欲しいところです。あるいは調子悪いとか、あまり親しみのないジャンルだと2~3日はかかっちゃいますね。

――2~3日だとしてもそんなに遅いとは思いませんが、方や2時間ですからね(笑)。

青木氏:でも、本当にノッているときの作曲って、作っているというイメージはないんですよね。もう頭に中にあるものを、機械的にPCに落とし込んでるだけ、みたいなところがあります。

ウッチー氏:なんですかその天才的なフレーズは!(笑)

青木氏:いやいや。本当にたまたま、「ロックマンX」が大好きだったというだけの話ですよ。

松浦氏:サウンド開発室には、過去の「ロックマン」シリーズを手掛けた先輩方のコンポーザーがたくさんいるので、アドバイスもたくさん受けていたよね。(早く作れたのは)その影響もあったかもしれませんね。

青木氏:やはり先輩たちに胸を張れるものにしなきゃいけませんからね。そのプレッシャーが1番の苦労だったかもしれません(笑)。

――確かにそうしたプレッシャーは大きそうですね。

松浦氏:下手なもの作ったら、何をされるかわからない(笑)。最初の打ち合わせで青木にサウンドをお願いしたとき、実は「ロックマンX」の楽曲を手掛けた先輩も同席されてたんですよね。

青木氏:そうなんですよ。チェックするときはスピーカーで曲を流したりもするので、同じ部署で働いている以上は聞かれることもあります。もしそのときに「ロックマン」の楽曲として受け入れてもらえるかどうかは、心配でした。

――でもそうは言いながらも、どんどんメロディーが出てくるという。

ウッチー氏:それだけ「作りたい」という想いが、ずっと溜まっていたのかもしれませんね。

青木氏:そうですね、4年分くらい(笑)。「ロックマンXO」の曲に関しては「X」というモチーフがあるので、「X」を作った当時の先輩方の気持ちはどうだったろうとか、「X」のサントラを聞いたりしてイメージを固めています。

松浦氏:ひとつ例を挙げると、“バトルアリーナ”というPvPのモードがあります。この曲は「X」の「XvsZERO」という有名な名曲があるんですが、これを青木の解釈で作成して、とオーダーを出しましたね。

青木氏:あれは楽しく作らせていただきました。そういうふうに、コンセプトが明確にあると形も浮かびやすいですね。

松浦氏:僕は、クリエーターには自由に作ってもらいたいので、あまり細かい指示はしないんですよ。もうひとつ例を挙げると、「マスターボス」というボス戦の曲の場合は、各世代のロックマンが巨大な敵と戦っている……初代「ロックマン」から、最新作「流星のロックマン」まで全員揃って、すごい大きいボスに立ち向かう! ……そういう、作品として「ロックマン」ファンが胸が熱くなる、ラストバトルのシーンで流れる曲にしてくれとか、ざっくりとしたオーダーは出すんです。そこから青木の中で想像してもらって、ほどなくして楽曲としてアウトプットされてくるわけです。

青木氏:僕としても、そういうオーダーをしていただけるのが1番やりやすいです。「ロックマンXO」の場合、曲調に関する指定は基本的になくて、あっても「熱い感じで」とか(笑)。なので、「熱くしときますねー」って(笑)。すごく自分で想像して作りやすいので。

松浦氏:「ロックマンXO」はテキストが少ないので、ユーザーさんの想像にゆだねられる部分が大きい。「できればサウンドはその助けになるものに仕上げたい」という思いがあります。僕としては、ユーザーさんが思い描いて、想像するであろうシーンを思い浮かべながら発注していますね。

――具体的な曲調や音色ではなく、風景のイメージでオーダーしているんですね。

松浦氏:そうです。頭に浮かんだ風景を想像していますね。僕は正直言ってサウンドのプロじゃないので、下手に曲調を指定すると、コンポーザーから見ると常識ハズレなことを言っている可能性もありますから。その場面で流す曲としておかしくなければ、基本的には何の問題もないんですよ。

ウッチー氏:そうすると、結果的にすごいスピードでできてくると(笑)。

青木氏:言われてみれば、(早いのは)最初の1曲だけかなと思ったんですが、そこからすでに6曲7曲と作らせてもらっても、毎回すっと早くできてますね。最初の1曲を作るときと、何曲か作ったあとの1曲だと、心持ちも大分違いますね。ただ、そこまで作ってきた曲の横に並べて、ちゃんと世界ができるようにしなきゃいけない、というのは、最近また新たな悩みとしてあります。

――差別化しなくてはならないということですか?

青木氏:同じような曲にしても、まったく新しい曲にしても、ある意味「ロックマンXO」の曲ってこうだよね、という新たなイメージが僕の中にもできている。もちろん、お客さまの中にもできていると思います。そこをずらさないようにしないといけないという悩みですね。

松浦氏:まあ、そう言いながらチャレンジもしているよね。例えば、最近111万人のダウンロード突破キャンペーンでは、青木がいるサウンド開発室のホームページ“CAP'STONE”で「ロックマンXO」のサウンドトラックを無料でダウンロードできる仕組みを作ったんです。そのときも青木のほうで、ゲームには入れてないメインテーマのバラード調アレンジを作ったり。「ロックマンXO」の激しいイメージを別のバージョンに変えるという、新しいチャレンジもしています。

ウッチー氏:そもそも無料でダウンロードできてしまうことが、だいぶチャレンジですよね。

松浦氏:僕としては「ロックマンXO」を少しでも多くの人に知ってもらいたい。それをユーザーさんに楽しんでいただいて、こんなに青木や水野が一生懸命作ったいい曲や素晴らしいデザインがあるってことを知っていただきたいんですよね。それを考えたら当然の結果かなと思っています。

CAP'STONEでは、ディスコグラフィーの視聴が可能だが、「ロックマンXO」については、無料でダウンロードできる

新時代の「ロックマン」、「OVER」シリーズはこうして生まれた!

――あと気になるのは絵柄ですね。「X」に合わせるとなると、どこを意識してリファインするか、逆にいろんな世代のデザインラインをどう「X」に近づけるのか……そのあたりのバランスの取り方で気をつけられたところは?

水野氏:メインのデザイナーは別にいますが、「ロックマンXO」は初代「ロックマン」と「ロックマンX」の間の時間軸という設定があったんです。「OVER-5」以降については、そこを考慮して足を太めにするなどの共通点を守りながら、「X」寄りの複雑なラインを入れたりしています。

松浦氏:初代と「X」の間ということで、「X」に寄りすぎず、初代らしさも残しつつ、「X」らしさを出さなくてはならない。そういうちょっと難しいオーダーではあったので、キャラクターデザインはかなり早めに作ってもらいましたね。

――そんなに早かったんですか?

松浦氏:これは僕が悪いんですけれど、最初に納期はいつかと聞かれたときに、初期のキャラクターは「OVER-1」から「OVER-5」までの5体を1週間で描いてくれって頼みました(笑)。あの時は本当にすいませんでした……。

――えー! 1日1体ペースじゃないですか。

ウッチー氏:ムチャ振りしますね!

左上から「OVER-1」、「OVER-2」、「OVER-3」、「OVER-4」。これに「OVER-5」を加えた5体のデザインが1週間で行なわれた

水野氏:メインのデザイナーが「OVER-1」から「OVER-4」をやって、僕自身は「OVER-5」だけをやらせてもらいました。だから、僕は1週間で1作です。「OVER-1」はすべてのベースになるものなので、メインデザイナーも2日ほどかけていましたね。

松浦氏:「OVER-1」の「OVER」というのは、駄洒落でクロスオーバーの「オーバー」と、覆うという意味の「オーバー」とかけているんですが、「OVER-1」は今回の基本となる「ロックマン」です。それだけに1発目のデザインは丁寧にやってもらっています。

――なるほど。ちなみに、「OVER-1」の首の回りにはふさふさしたファーがついていますが、これには何かこだわりが?

水野氏:これはメインデザイナーの脳内にある設定なんですが、今回の「OVER」シリーズは状況や環境によっていろんなタイプに可変していきます。そのせいでCPUに負荷をかけてしまうんですね。

松浦氏:熱に弱いんですよね。

水野氏:はい、CPUがある頭脳と体をつなぐ首にも負荷がかかりやすくなってしまったので、輻射熱と衝撃から守るためにファーをつけた……という脳内設定です(笑)。

松浦氏:半分は公式みたいなものですけどね。デザイナーから脳内設定として考えていると聞かされたときに、もう「それが公式でいいじゃん!」と返しました(笑)。もともと僕がオーダーしたのは、「ロックマンXO」はモバイルタイトルですから、普通にやったら目立たない可能性があるのでインパクトが欲しいというところ。もちろんデザイナーとしても、ほかのシリーズに負けない主人公を出そうして、「OVER-1」が生まれました。ファーがついているのは「ロックマンゼロ」以来ですね。ファンにも好評で、すごくいいデザインになったなと思っています。

ウッチー氏:皆さん新しいアーマーが出るのを楽しみにしてくれていて、「次はなんだ?」とよく話題になります。「OVER-1」から順に、「1」をベースにした攻撃型や防御型に進んで、新たに属性型が来た。属性型は各属性の色がベースカラーになっているので、そうなると今度はどの属性が来るか? というような話題で盛り上がったりしています。

松浦氏:とくに水野がデザインした「ロックマン」は、外国でも人気があるんですよ。「ロックマンXO」は海外ではまだ配信していないんですが、ファンがどこかから情報を集めてきて、好きなアーマーのアンケート取ったりしています。そんなときには、「OVER-5」や「OVER-6」とかが上位に入ってくることが多いですね。

――水野さんがアーマーをデザインするときには、どんなところにこだわっているんですか?

水野氏:基本的にすべてのアーマーは、シルエットを最初に考えます。例えば炎属性の「OVER-6」は、体から火が出てるようなシルエットにして、バスターのところには熱を出すために鉄製の工業的なパーツを入れて説得力を出すようにしました。

ウッチー氏:新しいアーマーが公開されるときって、最初にシルエットだけを見せるんです。確かに、そこで毎回、「なんだこの形は!」って盛り上がるんですよね。私は開発陣ではないので、大体お客さんと同じタイミングで知るんですけど、いつもワクワクしながら見させてもらってます。

松浦氏:「OVER」シリーズは1から10まであるという設定で、今「OVER-9」まで公開されています。「OVER-10」はすべての集大成ですので、水野がすごいものを仕上げてくると確信しています、きっと。そうですよね(笑)。

――すでに水野さんの頭の中で、「OVER-10」のデザインはある程度は考えてられているんですか。

水野氏:ふわっとしたイメージですが、頭の中にはあります。

――おお、それは心強いですね。

ウッチー氏:先ほどシルエットのお話が出ましたが、ほかには例えば、クルマとか、自然物とか、どういうものを普段から見て参考にしているのかが気になるんですよね。

水野氏:あらゆるものを参考にしています。例えば風属性の「OVER-8」のデザインは、風を体内に通すために、各パーツにインテーク(空気取り入れ口)がついています。このあたりはスポーツカーからいただいたネタになります。腕の袖口や足の裾部分を広げるようにして、見た目に風を感じるようにもしています。

ウッチー氏:なるほど、そういうことだったんですねえ。

水野氏:あと「OVER-9」は雷がモチーフのデザインですので、全体的にとんがったシルエットで雷をまとったイメージにして、バスター部分はスタンガンをデザインに取り入れました。水属性の「OVER-7」であれば、バスター部分はエイヒレみたいになっていて、全体的に魚をイメージしたのと、水中で動く時のことを考えて流線型に、足の外側には実はスクリューも搭載されているといった設定です。

 「炎」と「雷」はそのもの自体の形がだいたい決まっているので、そのイメージを視覚的に取り入れて、不定形で直接デザインしづらい「風」と「水」はそれを連想させるデザインに入れました。

上から、炎属性アーマーの「OVER-6」、水属性の「OVER-7」、風属性の「OVER-8」、雷属性の「OVER-9」

松浦氏:僕がデザインの打ち合わせをしたときは、1990年代にやっていた某ファンタジーロボットアニメっぽい感じにしようという話で盛り上がりました。そのアニメの熱さを彷彿させるようなデザインにはしたいよね、と話した覚えはあります。

(氏家雅紀)