インタビュー

「デススト2」小島秀夫監督Q&Aセッションレポート

監督が気に入った役者やアーティストに直接オファーをして、出演やコラボ楽曲が決定する

――今回新たなキャストを起用されていますが、キャスティングのプロセスや基準を教えてください。

小島氏:今回はコロナ禍だったこともあり、キャスティングはかなり期間が長くて、4年ぐらいかかってます。単にコロナ禍だったというだけでなく、作業として体力と精神力を猛烈に使うんです。撮影は一様に集まっていただいてスキャンしてそれをデータにして、他にもコスチュームやメイクを決めたり……、とにかくやりとりがいっぱいあるんです。映画みたいに3~4カ月まとめて撮って、「ありがとうございました」ということができないので、作りながら定期的に集ってもらって。我々もキャストも非常にタフな環境でした。

 ADR(音声収録)もそうですね、例えばニール役のルカ(ルカ・マリネッリ)さんは、カットシーンだけでなく、NPC役もやっていただいたんで、「ウッ!!」、「ヘァ゛ッ!!」、「ゥボァ!!」みたいな収録を永遠にやるんですけど、彼らも忙しいんですからね。こうなってくると、お互いの絆で仕事をしているようなものです。

 なので、オファーするのは僕の好きな人。映画やドラマを観る中で、いつか一緒に仕事をしたいなと思うようになった人には、直接会いに行ってピッチします。中には僕のファンだったり、あるいは家族やマネージャーが僕のファンだということもありました。そこからは、オファーを受けてくれるかどうかですよね。長い付き合いになるので一緒にご飯に行ったりして、いろいろとコミュニケーションをして探っていく中で「この人ならできる」という判断をします。そこからは演出の話になるので、エージェントに連絡をします。

 レアさんは、スキャンだけでも3日はかかりましたね。歯医者に行って歯を撮ったりして、もう大変です。撮ったあとは僕らでブラッシュアップしていくんですけど、レアさんの担当者はほぼ毎日レアさんの顔を見続けることになるんです。会社行ってはレアさんの顔を直す。これを何年も続ける。もう好きじゃないとできません。

 前作においては、僕の青春の人でBlu-rayも全部持ってるぐらい大好きなリンゼイ・ワグナーさんでも、担当者の若い子はリンゼイさんを知らないんです。それでも毎日作っていたある日、彼の席行くと「The Bionic Woman」のBlu-rayボックスがあって、「なんで?」と聞いてみたら「いやぁ、(リンゼイさんを)毎日見ていたら、すっかりファンになりました。」と(笑)。そんな話もありました。

 オーディションもしますけど、基本的には人の繋がりをたどっています。これは今作っている「OD」や「Physint」も同じですね。

――この「DS2」で、とくに気に入っているキャストのパフォーマンスはありますか?

小島氏:特に気に入っているのはニールとルーシーのところですね。ルカさんは最近はいろんなところで見ますけど、昔イタリアの映画を観ていたときから気になっていたんです。ある日「マーティン・エデン」という映画を観て、いい映画だなと思ってコメントを書いたんですが、そしたらルカさん本人からDMが来まして、「子供のころからのファンだ」と。僕の書いたコメントを読んでくれたらしく、配給会社にアドレスを教えてくれと頼んだそうです。

 前作のマッツ(マッツ・ミケルセンさん/クリフ役)を超える人はどうしようと思っていたところで、ルカさんのことを思い出して、連絡したら「やりましょう」と快諾してくれました。またその年にニールの相手となるルーシー役を探していたんですが、コロナ禍なので自由に撮ることができなくて、ルカさんからも「相手役どうなってるの?」とDMが来まして「まだ決まってないです」と返したら、「うちの奥さん女優ですよ」という返事をもらったんです。その後彼女と会ったのですが、すごい頭のいい人で、ルーシー役としてピッタリでした。

 そこからコロナ禍の大変な時期に、スキャンと収録をしたんですが、ルカさんはちょうど「M. Son of the Century」というドラマを撮っていた時期で、オファーした打ち合わせのときはアラン・ドロンのように男前だったニールさんが、けっこう雰囲気が変わっていて「なんで?」と聞いたら「ムッソリーニの役をやるから」ということだったんです。それから1年後の収録に現われたときには、別人のように見た目が変わっていて、ドラマは本当に素晴らしかったんですが、スキャンデータはデジタルで直したんです。仕方ないこととはいえ、そこはちょっと誤算でしたね。

 奥さんのアリッサ(アリッサ・ユング)さんとルカさんは、2人っきりのシーンが多いんですが、これがちょっと面白くてですね……、夫婦ならではの間合いや温度感が凄かったかったんです。ルカさんは舞台俳優でもありますし、奥さんは女優であり監督でもあるので、僕を差し置いて監督しようとしたこともあって、ちょっと言い合ったりしたこともありました。

 撮影はL.A.のデカいスタジオに僕と少数のスタッフで行くんですが、そこにはメイクの人、記録する人などいろんな人がいるんです。ハリウッド映画みたいに何してるかわからん人もいっぱいいるんですけど(笑)、2人のシーンの時は、その場のみんなが寄ってきていましたね。

――本作ではなぜ昼/夜という時間の概念を導入したのでしょうか?

小島氏:「DS」ってある種の時間がテーマでもあるんです。日が昇って日が落ちて夜になって、そのときの空の美しさみたいなものも感じてほしくて、前作にはそれを入れられなかったので今回は入れました。ただ暗さをリアルにするとゲームにならないので、ライティングを何度も変えて試行錯誤しましたね。

 もっと言うと、カットシーンも時間帯によってライティングが変わるんです。シーンは演出に合わせて作らないといけないので、開発としては結構嫌ですよね。「ここはもっと映画みたいに絞って、逆光で見せたい」みたいなものあるんですが、ムービーではないので……。僕らとしてはタコメカ戦は夜にやってみてほしい、みたいなのもありますが、皆さんは自由にやっていただいてかまいません。

 配達も夜と昼でぜんぜん変わるんですよ。夜が嫌な人もいますから、時間を進める方法は意図的に入れています。ベッドで一回寝て、身体半分起こして朝まで寝ることもできます。「メタルギア ソリッド V」はタバコで時間を進めてたんですが、このゲームでは二度寝で時間を進めるようにしたんです。

――「DS2」では戦闘の戦略性に重点が置かれているように感じました。この変化はゲームデザインやストーリーテリングにどのような影響を与えたのでしょうか?

小島氏:積極的な戦闘を勧めているわけではないんです。荷物を運ぶ中で、敵に遭遇しないよう遠回りをしたり、車やバイクでやり過ごしたり、そして戦闘で戦ったり……。これらはプレーヤーが選べるような作りにしています。

 そういう選択肢を作るからには、武器も使いやすく新しくして、快適な戦闘ができるようにはしたいと考えていたんですが、戦闘のギミックをつくるうえで、かつて「メタルギア ソリッド」を一緒に作っていたスタッフも何人かいたので、「これなんかメタルギアっぽくないか?」ということになる懸念はついてまわりましたね。

 実は「繋ぐべきじゃなかった」というキーワードも、この一つのテーマに関係しています。前作のときに“棒と縄”の話をしたんですが、世の中がオンラインという縄で繋がっていても、銃という棒で撃ち合っているゲームが多いので、僕は縄のゲームを作りますと。今もいろんなところで紛争が起こっていて、結局きれい事だけで繋がることはないので、ロープだけではダメなんです。劇中でヒッグスがそういうことを言っていましたけど、繋ぐためには棒も持っていかなければならない。本作はそういうテーマにストーリーを寄せています。

――この「DS2」では敵やBTと対峙する際、よりステルスが重要な要素になっているように感じました。意図的にステルス要素を強化したかったのでしょうか?

小島氏:積極的にステルスはしなくてもいいんです。でもステルス要素が欲しい人もいるかなって思って要素を用意しただけです。僕自身のゲームスタイルもステルスはあまりやりません。

――アーティストのウッドキッドさんとのコラボレーションは、どのようにして実現したのでしょうか? また、その内容はどのようなものでしたか?

小島氏:2020年1月に、レアさんと続編の話をするためパリに行ったんです。その要件が終わって東京に帰ろうとしたとき、ヨーロッパのコーディネーターから「あるミュージシャンがヒデオさんのファンで会いたいと言っている」と声をかけられました。その後ウッドキッドさん自身がホテルのロビーまで来てくれたんですが、当時はまだ彼のことを知らなかったんです。

 軽く挨拶をして帰ろうと思ったときに、彼が「今作ってる曲を聴いてほしい」と言うので、その場で聴いたんですが……、これがもう最高の曲だったんです。発売前の「Goliath」という曲で、「なんだこれ! 天才じゃないか!」と。

【Woodkid - Goliath (Official Video)】
本楽曲は「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT ファイナル・トレーラー」にも用いられている

 そこから彼の音楽に惚れまして、秋頃に彼のアルバムの告知を見たら、あの時の「Goliath」があって、PVを見てみたところ、「DS」みたいな世界観で本当にびっくりしたんです。過去の曲を遡って聴いてみると、ある曲にビーチとクジラが出てきて更にびっくりして、本人にメールで「なんでこんなに似ているんだ?」と尋ねたぐらいで。

 その後「DS」のオープニングを作っていただいたロウ・ロアーのライアンさんが亡くなって、「DS2」のサウンドをどうしようと考えていたとき、ウッドキッドさんとの繋がりを思い出してすぐに連絡したところ快諾してくれました。2~3年前にスタジオに来て、隣の会議室で作曲をして、以降東京で杉並合唱団と録ったり、パリではオーケストラと録ったりして、楽しくやってました。

 マッツに代わるキャストも心配でしたけど、音楽はロウ・ロアーあっての「デススト」でしたので、ファンの皆さんからも「ロウ・ロアーを超える音楽体験はあるのか」とよくメールが届いていたんです。3月のイベント「SXSW 2025」ではウッドキッドと一緒に彼の曲も出して、それが世界中で評判で、そこで彼がそこで初めて「実はプレッシャーで大変だった。“ロウ・ロアーじゃないと嫌だ”、“お前なんかいらない”と言われるのが怖かった。でも、安心した」と言ったんですよ。みなさんはどうでしたか?

――ゲーム内で使用される楽曲はどのように選定されるのでしょうか? また、監督の音楽の好みはどの程度反映されているのでしょうか?

小島氏:劇伴はルド(ルドウィグ・フォシェル氏)に一任しています。ウッドキッドや他のミュージシャンの曲は、僕が普段聴いている好きな人の曲を選んでいます。キャスティングと一緒で、代理店などは通さずに直接連絡をとって曲を使わせてもらったり、あるいは相手から「新曲を書きたい」というアプローチがあって、そこからキャッチボールをして作る曲もあります。

――「DS2」では、喪失や悲しみといった感情に訴える深いテーマが描かれていますが、それは監督の個人的な経験に基づくものなのでしょうか?

小島氏:これはまあ、僕の中から出てくるものなので、半分がリアルの体験で、半分がフィクションの体験です。孤独感とかもそうですし、死んでしまった人がどこから来たとか、死んでしまっても別れずにいるとか。凄くプライベートなところから来ています。

開発においては、やり甲斐よりも無事に出せることに安堵した

――「DS2」の制作過程で、最もやり甲斐を感じた部分はどこでしょうか?

小島氏:難しい質問ですね……。コロナ禍でほとんど孤立した状態で企画書を書いていて、新ちゃん(新川洋司氏)とは週に1回くらい会社で顔を合わせいましたけど、ほとんどは顔のない人たちと仕事していたので、かなり辛い思いをして、本当に無理だと思っていました。どこのスタジオもそうだと思うんですが、撮影すらできない状況で、どうやって作ればいいんだと。でも皆さんに協力していただいたおかげで、「DS2」は完成間近です。

 パフォーマンスキャプチャーは2021年くらいに始めたんですけど、あの頃はまだ僕がロスに行ってディレクションすることも禁止だったんです。ソニーさんにブーブー言ってたんですけど、他のスタジオも同じだったそうで、仕方ないので僕はリモートで東京からロスのスタジオを繋いで指示をしていました。でも俳優さんには現地に来てもらうしかなくて、その指示がうまくできないんですよ。「そこに立って、こっちに歩いてこうする」という指示も、スマホやタブレットのあらゆるカメラを駆使してやるんですが、もう気が狂いそうでしたね。

 そんな困り果てていたときに、たまたま知り合いだったソニーの「窓」を作った人がいまして、それを使えば扉のような巨大なモニターを置いて双方向でやり取りができると。こっちから「窓」を見るとそこにロスのスタジオが見えて、双方向で音声と映像を届けることができる。もちろん窓の向こうには入れないんですけど(笑)。

 それを2セット貸していただいて、何とか収録をすることができました。ノーマン(ノーマン・リーダスさん/サム役)に窓の前に来てもらったりして、同時にやりとりするのは面白かったですね。窓の向こうでスタッフが作業をしていると、その様子が見えるので「これをこうしてああして、この仕様はなくなったからナシで」とすぐに対応ができるんですます。リモートではそれが週一や月一の報告になってしまい、かなり出遅れてしまうんです。

 最終的には“やり甲斐を感じた”というよりは“なんとか無事に出せそう”という気持ちのほうが強かったです。

――最後にメッセージをお願いします。

小島氏:先ほども言いましたけど、繋がりのゲームです。繋がるべきかどうかは置いといて……。こうして皆さんとも会えましたし、この繋がりはもう消えることはなく、もっと深く繋がることもできると思います。そんなリアルな体験と、この「DS2」のバーチャルな体験を重ね合わせていただいて、リモートではないリアルなコミュニケーションを体験をしてください。

――ありがとうございました。