「カウンターストライクオンライン」“1周年記念”開発者インタビュー
「ヒューマンシナリオ」実装! オリジナルと新モードの狭間で、「CSO」が目指す方向性とは!?

【ヒューマンシナリオ】

8月19日実装



 株式会社ネクソンは8月19日、正式サービス中のオンラインFPS「カウンターストライクオンライン」の大型アップデートを実施した。今回のアップデートでは、従来の「ゾンビサバイバル」モードに続く新たな協力プレイゲームモードとなる新要素「ヒューマンシナリオ」を追加した。敵として正体不明の特殊部隊が登場し、ゾンビの謎を巡る戦いが展開されていくというゲームモードだ。

 「カウンターストライクオンライン(CSO)」は、米Valveの人気FPS「Counter-Strike」のオンライン版。韓国NEXONとの共同開発によりオンライン化を果たし、2009年8月より日本国内での正式サービスを行なっている。「CSO」はオンライン版として独自の変化を続けており、特に人気を高める要素となったのがゾンビ対人間の対決をチーム戦で楽しむ「ゾンビモード」だ。

 現在までにゾンビモードには、ゾンビチームと人間チームに分かれて対戦する「ゾンビモード1~3」と、AI制御の大量のゾンビを協力プレイで倒していく「ゾンビサバイバル」の2系統のゲームモードが実装されていた。今回のアップデートで追加される「ヒューマンシナリオ」は、後者の「ゾンビサバイバル」と対になるゲームモードで、アップデートの方向性としてはゾンビがらみの遊びを拡張する形となる。

 本来は特殊部隊同士のチーム戦を核とする「Counter-Strike」というゲームが、次第にオリジナルから離れて別物になっていく様子は、オールドファンにとっては一抹の不安を伴うものかもしれない。あるいは、ゾンビモードの登場からファンになった多くのプレーヤーにとって、協力プレイ要素の拡張はさらなる遊びごたえを予感させるものでもあるだろう。

 オリジナルと新規要素の狭間で、「CSO」はどのように発展していこうとしているのか。新モードの実装を機会として、サービスを運営するネクソン、そして開発を担当する韓国NEXONのスタッフに話を聞いた。

【新モード「ヒューマンシナリオ」】
プレーヤー対NPCの形式で進行する協力プレイモード。ゾンビサバイバルモードとは違って、敵方は人間タイプのキャラクターとなり、戦い方はガラリと変わった。敵の中には強力な装甲を持つものなど、通常の対戦プレイとも違った感触でプレイすることができる

【新武器「WA-2000」】
「ヒューマンシナリオ」向けにデザインされたセミオートマチックスナイパーライフル。反動が少なく連射が速い、その上攻撃力も高いという強力な武器となっている。デスマッチモードなどでの使用も可能



■ 韓国で開発が進められる「CSO」。日本からのフィードバックも

NEXONでFPS統括を担当するカク・ヨンシン氏
NEXONで「CSO」開発ディレクションを担当するキム・ドンソン氏
ネクソン運営チームの今濱隆一郎氏

──まず、皆さんの役割についてご紹介ください。

NEXON ライブ開発本部開発5室 室長 カク・ヨンシン氏:NEXONのFPSの総括プロデューサーをやっておりますカクと申します。

NEXON ライブ開発本部開発5室 CSOチーム長 キム・ドンソン氏:開発チーム長のキムです。「CSO」の開発ディレクションを担当しております。

ネクソン 運用部運用4チーム CSO担当 今濱隆一郎氏:ネクソンで日本側の「CSO」運用を担当しております、今濱です。よろしくお願いします。

──よろしくお願いします。まず開発体制について伺いたいと思います。NEXON側の開発チームは何名くらいの体制なのでしょうか?またその編成の内訳についても可能でしたら教えてください。

カク氏:「CSO」の開発チームは30~40名ほどです。内訳については、ライバル企業にいろいろと推測されてしまう材料になるかもしれませんので、申し訳ないのですがお話しすることができません。

──40人近くとなれば結構な大人数ですね。その開発チームと日本側の連携体制についても伺っておきたいと思います。日本側から韓国の開発にフィードバックするような形というのはあるのでしょうか?

今濱氏:まず韓国側で開発されたものや、韓国側でのアップデートスケジュールについては、ローカライズスタッフを通じて日本側のチームに伝えられます。日本側ではその内容をもとに、運用チームの視点で整理、検討します。その結果、「こういうこともやってほしい」といった提案を韓国側に伝えて、協議の結果「これでいきましょう」となることもあります。その結果、運用チームの仕事として内部用のバージョンでのプレイテストを経て、現在ですと2週間に1回のアップデート頻度でユーザー側に提供させていただくという形です。

──日本側で独自の企画を立案する、というようなこともあるんでしょうか?

今濱氏:することもあります。基本的に開発そのものは韓国側ですので、それに対する提案という形ではあります。逆に韓国側から「こういったコンテンツを実装したので、こういうイベントをされてはどうですか」といった提案が来ることもあります。そういった提案したり提案されたりの関係で折衝を続けている感じですね。



■ 中国ではユーザー数40倍という効果を生んだ「ゾンビモード」。最新アップデートの方向性とは?

インタビューでは日本、韓国双方のスタッフからそれぞれの国事情を聞くことができた

──現在「CSO」は、韓国、日本、中国、香港、台湾でサービスが提供されているとのことですが、現時点でワールドワイドのユーザー数はどの程度になっているのでしょうか?

カク氏:ちょっと計算してみないとわからないですね。すごい数だったと思いますけど……少々お待ちください。

キム氏:中国の人数がちょっと膨大すぎるので、ワールドワイドの数字にどれほど意味があるのかわからないのですが(笑)、だいたい全体で500万人くらいのアクティブユーザー数となります。これは累積登録ユーザー数ではなくて、いま活動的なユーザーの数です。

──アクティブで500万人というのはすごいですね。中国が最も多いということですが、やはりそこでも韓国でヒットしたゾンビモードが人気なのでしょうか。

キム氏:そうですね。中国ではゾンビモードが実装されてからアクティブユーザー数が40倍くらいになりました。詳しく説明しますと、ゾンビモードの投入時期は韓国が2008年の夏で、中国が2009年の1月でした。

──4倍じゃなくて40倍ですか、それはすごい。日本でもゾンビモードを実装してユーザー数の伸びというのは見られましたか?

今濱氏:実は日本ですと、ゾンビモードだからといって爆発的に人が増えたというわけではないんですよ。2倍、3倍というスケールでは徐々に伸びてはきているんですけれども、中国ほどではないですね。どちらかというと日本のユーザーは年齢層が低い傾向がありまして、中学生から高校生までの層が非常に多くなっています。そういう意味では、ゾンビだからというよりも、FPS初体験の人たちが新しいゲームとして「CSO」をプレイしているケースも多いのではないかと思っています。

──確かに日本のサーバーを見る限り、ゾンビだけでなくチームデスマッチもかなり遊ばれていますね。各ゲームモードの遊ばれる割合はどの程度になっているのでしょうか?

今濱氏:ざっくり言いますと、ゾンビモードとチームデスマッチ、それからゾンビサバイバルがそれぞれ同率くらい遊ばれています。その半分くらいの規模で他のモード、オリジナルモードやサッカーといったゲームモードが遊ばれている感じですね。

──韓国、中国では、その割合は違っていますか?

キム氏:アップデートの周期によっても変化があるのですが、韓国と中国はユーザーが好む内容が似ています。アップデートがある時はゾンビサバイバルモードが1番人気となりまして、2番目がゾンビの1~3モードとなっています。しかし普段は、やはりゾンビの1~3モードが1番人気で、40%くらいのアクティブユーザーが遊んでいる状況です。次にゾンビサバイバルが30%、その次がオリジナルモードで20%くらい、他は残りの10%というところだと思います。

──日本はチームデスマッチが多めという点はありますが、ゾンビモードの人気が高いという点では共通していますね。ということは開発でも、ゾンビがらみのコンテンツには相当力を入れているということになりますか。

キム氏:そうですね、やはりゾンビ関連のモードを楽しむユーザーが多いですので、そのあたりは持続的にアップデートをかけています。しかし韓国ではゾンビモードが導入されてもう2年、中国では1年以上が経ち、ユーザーの関心が少し薄れてきた点も否めません。そのため現在はゾンビから少し離れて、新規要素にも力を入れて開発しています。

「ヒューマンシナリオ」のメインビジュアル。敵方のキャラクターが描写されている
当初提供される「砂漠の嵐」マップ。中東都市をイメージした風景だ

──その新規要素というのが今回のアップデート、「ヒューマンシナリオ」になったということですね。

キム氏:はい。ヒューマンシナリオは、ゾンビサバイバルを継承しつつ、違う面白さを提供したいという意図からデザインされたモードになっています。ゾンビサバイバルでは敵がゾンビですのでAIのアクションは近接攻撃が主となりますが、ヒューマンシナリオでは敵が銃を持つ人間ということで遠隔攻撃が主となり、ゾンビサバイバルの単純さが改善されたというのが大きなポイントです。

カク氏:AIの攻撃が銃になりましたので、プレーヤーは建物に隠れたり、カバーポジションから狙撃を試みたりと、戦術的により幅広い遊び方ができるものになっています。

──ゲームルールについては、ゾンビサバイバルと同様のものになりますか。

キム氏:ゾンビサバイバルではマップ毎に生存系・殲滅系といろいろなミッションがありましたが、ヒューマンシナリオも同様にマップごとに異なるミッションが与えられることになります。今回公開したひとつめのマップは殲滅がミッションとなっています。またゾンビサバイバルにはなかったシステムとして、味方が自分以外全員倒されると、最後のプレーヤーは「ラストヒーロー」となって能力値が大幅にアップします。

──なるほど。敵が人間タイプになるということですが、世界設定やストーリー的なものというのはどういった内容になるのでしょうか?

キム氏:ゾンビサバイバルとヒューマンシナリオは互いに話がつながっている存在となります。ゾンビサバイバルの最後では「フォボス」という巨大ゾンビを倒すことになっていますが、そこで手に入れた生体サンプルを輸送している最中に正体不明の敵と遭遇した、というのがヒューマンシナリオの設定になっています。これからも継続的に両シナリオモードはお互いに関係しながら進んでいく形になりまして、予定としては来年の頭くらいに1個のチャプターが終わる、という計画になっています。

──ゾンビを生み出した黒幕みたいな組織、人物がほかにいるということですね。

今濱氏:そうですね。ゾンビサバイバルで「フォボス」を倒して、なぜこんなものが生まれたのかを調べるために生体サンプルを持ち帰る、その帰り道のところで新たなシナリオがスタートするという内容になっています。いまのところですと、敵部隊の所属ですとか、その正体は一切不明です。

【「ヒューマンシナリオ」登場敵キャラクター】
人間タイプのキャラクターとはいえ、その武器も装甲も様々。中でも重装備の「タイタン」というキャラクターは、倒すためにはヘッドショットでも数十発の弾丸が必要になるという



■ 「ヒューマンシナリオ」以外では新規マップ、新武器などの提供を進めていく

日本側のチームを代表して「CSO」の状況を語った今濱氏。自身は元格闘ゲームのファンで、競技性の高いゲームには思い入れがあるとも

──日本ではチームデスマッチにも人気がありますので、そちら向けのアップデートも期待してしまうんですが、そのあたりはいかがでしょうか。

今濱氏:そうですね、日本ではオリジナルの「CS 1.6」向けでまだ導入していないマップのストックがありますので、そちらも定期的にご提供していくことにはなるとおもいます。基本的にはどのモードにおいても定期的なコンテンツの追加が予定されていますので、新しいキャラクターモデル、新武器といったものもその中に入ってます。

──マップが非常に多くなってくると人気が分散しそうですが、そこで既存の不人気なマップをなくす、といったアップデートはありえるのでしょうか?

今濱氏:不人気であったとしても、やはり少数でもプレイしたいというユーザーさんがいる限りは、そのまま維持していくことは間違いないと思います。したがって基本的には新規マップの積み重ねという形になりますね。ただ既存のマップのブラッシュアップというのは当然あります。例えば遊べるモードが増えたり、新武器の追加によって既存のマップの戦略が変わるということも十分ありますので、そういう意味での変化は常にあるかと思います。

──オールドタイプのプレーヤーとしては、「CS 1.6」時代に人気のクラン戦マップだったものを網羅して欲しいという気持ちはあります(笑)

今濱氏:なるほど(笑)。マップについては、オンラインゲームですのでその時の流行り廃りというのも大きく影響していて、例えば「DUST2」が人気すぎて、他のマップをやってくれないというようなこともあったりします。そこで今回1周年記念として「ワールドツアー」というイベントを企画しています。いろんなマップのいろんなゲームモードを巡ってもらって、全部巡り終えると報奨が、というものです。

──スタンプラリー的な?

今濱氏:そうですね、まさしく企画当初の呼称はスタンプラリーでした(笑)。そういったイベントなどを通じて、いろいろなマップで遊べるよということをアピールしていければなと思っています。こちらは日本だけの企画として8月19日から1カ月間を予定しています。これに合わせてヒューマンシナリオの公開に合わせたイベントも3つ、4つほどいっぺんに行なわれる予定です。



■ ハイレベルな「CSO」本来の醍醐味。そろそろオフライン大会も

韓国側では大規模な大会も行なわれているとのことで、日本とはユーザー層の違いと、それによる運営内容の違いが出ているようだ

──「CSO」を見ていて個人的に意外なのが、あまりクラン戦みたいなストイックな遊び方が主流ではないということです。そのあたりについては、運営スタッフとしてどう見ていますか?

今濱氏:確かに「CSO」の場合ですと、5人でチームを組んでしっかりと戦術を組み立てて対戦すると非常に面白いのは確かです。ですが現状では、日本のFPS自体の遊ばれ方が海外に比べると深くない、狙って撃つという行為自体がまだそれほど浸透していないと思うんです。そういう意味で、「CSO」のオリジナルモード、本当の醍醐味を楽しむというところはまだまだハードルが高い現状があると思います。

──その点では、クランを組んで大会での優勝を目指すようなストイックな遊び方を支援強化していきたいのか、それとも別の方向、つまりゾンビモード的なライトな遊び方の拡充を目指していくのか、運営としてどのように考えていますか。

今濱氏:そのどちらも取り込みたい、と考えています。この「Counter-Strike」のエンジンを使って色んな遊び方ができるという点では、やはりオリジナルモードの面白さにもたどり着いて欲しいと。そちらもどんどんアピールしていければなと思っています。ただ、現段階ではFPSのシステム自体に慣れているユーザーさんがまだまだ少ないということで、そこは段階を踏んで行かないとと考えているんですね。

──そういえば、オフラインのトーナメント大会といったものはまだ開催されたことがありませんよね。この点も意外かなと。

今濱氏:良い質問ですね(笑)。今までネクソン自体がFPSのサービスに不慣れということや、大会以外の部分で忙しかったということもあって手を出さなかったんですけれども、そろそろ良い時期かなと考えています。大会によって「CSO」の競技性が高いということをアピールしてもいい時期かなと感じておりまして、9月に予定されているネットカフェ主催のオフライン大会に協力します。それに続いて今年中に、オンライン・オフラインの大会を運営チームのほうから提供していくという計画はあります。

 とはいえ、春に韓国で行なわれた大会を見学しまして、まだまだ日本側はそのレベルに達していないなということも痛感しています。そこで敷居を下げる必要があるということで、大会の方法にしても、まずチームデスマッチから始めてみるですとか、5対5以外の形式でやる方法なども模索中です。

──韓国で大会が行なわれたということですけれども、当地でのクラン戦の盛り上がりはいかがでしょうか?

キム氏:韓国では「CS 1.6」をプレイするユーザー数自体が少し減っています。その減ったユーザーの全てではないのですが、一定数は「CSO」に移行した形だと言えます。有名なクランの多くが「CSO」に来ていますので、大会を開催すればそういったクランが参加してくれます。

──そうするとかなりハイレベルな大会になってるんでしょうね。

カク氏:今年3月に実施した東アジア大会では、有名なクランを選抜して韓国からも代表チームを送り出しましたね。今進行中の大会は無いんですけれども、強くて活発なクランは掲示板を通じて「CSO」の中でクラン戦をやっているようです。今年の末か来年の頭くらいには、また大会を開催したいと考えています。



■ ライトとヘビーの狭間で、段階を踏んでの成長を期す「CSO」

幅広い内容のアップデートをかけていきたいという韓国側と、段階を踏んで発展させていきたいという日本側。「CSO」は単なるローカライズに終わらず、現地の実情に合わせた運営を志向している

──ゾンビモードに代表されるライトな遊びから、クラン戦に代表されるヘビーな遊びまで、「CSO」の幅は広いですね。韓国の開発チーム側としては、戦略的なレベルで、このゲームを今後どのように発展させていきたいと考えていますか?

カク氏:既存のオリジナルモードを楽しんでいるユーザーさんも沢山いらっしゃいますので、そちらも持続的に発展させていく予定です。それ以外のモードについては、新規ユーザーの方が違った楽しさを求めてくるケースが多いですので、そのためにもさらに新しいモードを開発していく予定です。FPSとしてはチームデスマッチの楽しさも絶対的なものだと思います。こちらについてはまだユーザーのニーズに応えきれてない部分もあるかと思いますので、そちらにも力を入れていきます。まだ詳しくはお話できないのですが、2010年内には「全面的な改変」を予定しています。

今濱氏:日本ですとFPSというジャンル自体になじみが薄い面がありますので、その中で言いますと、「CSO」本来の高度な面白さに至る階段の途中に居るという感触をうけています。ですからその間を埋める企画を提供していきたいなと考えています。

 具体的に言うと、まだ全然実装予定とかではないのですが、ゲームセンターにあるようなガンシューティングのような遊び、移動せずに射撃だけをすると、そういった部分から入っていけるモードの提案なども考えています。あるいは日本をテーマにした親しみやすいマップの提供など、そういったものでアピールしつつ、ユーザーさんがそれに慣れてきたらまた次の段階、というふうに進めていきたいと考えています。

──なるほど。その段階が進んで、真剣勝負の大規模な大会が開かれるような日を楽しみにしています。ありがとうございました。



(2010年 8月 19日)

[Reported by 佐藤カフジ ]