スクエニ、「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」開発チームインタビュー
プロデューサー齊藤氏、ディレクター横尾氏に、
ゲームに込められた独特の工夫の数々を聞いてみた

5月19日収録

収録場所:スクウェア・エニックス本社

 

 株式会社スクウェア・エニックスが販売、開発を株式会社キャビアが手がけた新作アクションRPG「ニーア レプリカント/ゲシュタルト(以下、『ニーア』)」が話題を呼び、しばらく品薄が続くほどの人気となった。幻想と現実、狂気と美しさが交錯する独特の世界観、そのテイストにガッチリと合った美しい楽曲。遊びやすいゲームのリズム、奥深く謎を持つ物語と、それを追って体験していけるギミック。いずれも非常に優れていて、筆者もすぐに虜になった。

 そんな「ニーア」の生みの親として、株式会社スクウェア・エニックスより本作のプロデューサー齊藤陽介氏と、株式会社キャビアより本作のディレクター横尾太郎氏にインタビューをさせて頂いた。

 開発の経緯やゲーム中からは知ることのできない設定、日本語音声や楽曲についてなど、多数伺ったほか、攻略本にも収録されないというプレイ中メッセージも掲載。さらに、DLCに収録された追加楽曲の販売の可能性についても伺ってみた。ボリュームがかなりあると思うが、じっくりと楽しくご覧頂ければ幸いだ。なお、ゲームについてかなりつっこんだ内容になっているので、これからプレイする方や、まだ途中という方は、ぜひクリアしてからお読みいただきたい。



■ アクションRPG「ニーア」製作のスタート、コンセプトやテーマ、「レプリカント」と「ゲシュタルト」にわけた理由

本作のプロデューサーを務めた株式会社スクウェア・エニックスの齊藤陽介氏
株式会社キャビアより、開発の中心としてディレクターを務めた横尾太郎氏。横尾氏はもともと対面しての取材が苦手で、基本的にはお断りしているとのこと。だが、今回はご厚意で参加頂けた。だが、顔出しだけはご勘弁くださいとのことなので、代わりにその場で描かれたこちらのイラストを掲載

――まず、「ニーア」のテーマについてお聞かせ下さい。

ディレクター横尾 太郎氏:テーマは特にありません。強いて言えば「変なゲーム」を目指しました。

プロデューサー齊藤 陽介氏:自分が当初から話していたのは「家族愛」ですね。企画当初、“あまりにも現実に嫌なニュースが多くて、ゲーム内で奇をてらったところで現実の嫌なニュースのほうがよっぽど狂気が感じられる”と思っていたんですよ。ゲームの中に多少の奇妙な物語を入れたところで、現実のほうがよっぽど怖いんじゃないかと思えて。

 “父と娘”、“兄と妹”という2つの物語になりましたが、どちらも手をつないで歩いていくような、そんなエンディングを想像できるようなものにしようと。具体的に指定したわけではないですが、「ハッピーエンドな物語にして欲しい」と話しました。「ゲームの中ぐらいはハッピーなお話がいいな」という感じですね。

 それと、「ドラッグオンドラグーン(以下『DOD』)※」の流れで横尾さんと仕事していましたから、「あの横尾さんがハッピーなお話を書けるのか!?」という、個人的にすごく興味深いものもありました(笑)。

横尾氏:書き上げました(笑)。ハッピーですよ。

※プレイステーション 2「ドラッグオンドラグーン」シリーズを手がけたスタッフが結集した新作タイトルが「ニーア」

――「ニーア」製作の出発点は「『DOD』の世界観を引き継ぐもの」だったのですか?

齊藤氏:それはないです。世界観ありきではなく、「こういう遊びを作りたい」というゲームとしての企画案からスタートしています。“お話や世界をこういう物にしたい”というプランは、スタート地点の次のステップから生まれてきたものですね。

 「DOD」の“新宿END”と呼ばれるものの続きかどうかというのは、私はこだわっていなかった。逆に“「DOD」を知らないと「ニーア」が理解できないのでは困る”というほうが頭にありました。あとはもう横尾さんが書きやすければいいな、という感じでしたね。

――まず「アクションRPGを作る」というのがスタートだったんですね。

齊藤氏:仮のタイトル案に「DOD」が入っていたわけでもないですし、最初から「ニーア」っていうタイトルでした。そこは最後まで一貫してましたね。

――開発期間と、開発の規模はどれぐらいだったのでしょう?

横尾氏:企画構想からだと3年。実制作は2年半位だと思います。規模は、社内のチームの規模としては最小時で20名、最大時で50名程度でした。社外の協力会社さんと一緒に開発させて頂いたので、実際の延べ人数はもっと多いのですが。

――開発当初にあった構想(コンセプトやテーマ)はどういうものでしょうか?

横尾氏:当初、齊藤プロデューサーからは「派手なRPGを作って欲しい」と言われました。その後アクション寄りになっていきましたが、初期の街やNPCなどは最後まで生き残りました。結果としてRPGっぽい要素が残ったのは良かったと思っています。

齊藤氏:正直な話、これは横尾さんに話したことが無かったんですが、私は「DOD」はアクションゲームとしては悔いの残る作品だと思っていて。ドラゴン戦と、上空、低空、地上とバトルのタイプがある分、開発の力のかけ方も分散してしまって、もったいないなと思っていました。それなら、今回は地上に絞って徹底的に遊べるようにしたいと思っていました。

 とはいえ、「最高峰のアクションゲームにかないますか?」と言えば、なかなかそうもいかない。言葉は悪いですが、「及第点なアクションでちゃんとやりごたえのあるもの」を作る。そこに横尾さんの世界観というRPGの骨格がうまく加われば、新しいアプローチのゲームになると思っていました。「すごいアクションゲームを作ってくれ!」と無茶振りしておけば、「合格点をあげられるアクション性までは持っていける」スタッフだと信じてましたので(笑)。

――世界観もシナリオも非常に独特ですが、スムーズに構築されていったのでしょうか? それとも、かなり紆余曲折がありました?

横尾氏:プロットや世界設定は割と初期にできていたのですが、いざ組んでみるとセリフが説明不足だったりして、かなり改変しました。全言語の同時開発を行なっていたので、ローカライズさんには大変迷惑をおかけいたしました……。

齊藤氏:ゲーム的にはブレていなかったと思います。もちろん初めの企画書と最終的にできあがったものは違っていますが。こういう形にしたい、こういう遊びを入れたいというところに関しては、大きくずれてはいないと思います。

 もちろん、試行錯誤の中で生まれたものや、逆になくなったものもあります。例えば、崖の村で横スクロール視点に変わったりするのは、企画書時点でもありましたし、開発途中の試作品段階から、シームレスにカメラ視点だけ変えて擬似2Dアクションのようにするというプランがありました。無くなったものでは、傘につかまって飛ぶような遊びがあったのですが。

PS3版「ニーア レプリカント」は主人公が少年。妹のヨナを大事に思う兄だ。「レプリカント」は日本のみで発売されており、海外ではXbox 360、PS3ともに「ゲシュタルト」の主人公である父ニーアで描かれる「NIER」が発売されている
こちらはXbox 360版「ニーア ゲシュタルト」。主人公は後ろにいるマスクをつけたお父さんニーアで、ヨナは娘となっている。ヨナとの関係性が異なるので、テーマとして同じ家族愛でも、PS3版は兄妹愛、Xbox 360版は親子愛となる

――PS3「レプリカント」とXbox 360「ゲシュタルト」で主人公の容姿を変えてあるなど違いがありますが?

横尾氏:最初に「レプリカント」(当時はそういう名前ではありませんでしたが)を提案させて頂いたのですが、齊藤プロデューサーから「海外市場を狙ってキャラクターをパワフルなものにしよう」というお話を頂きました。それが「ゲシュタルト」の親子の物語のスタートです。

 その後、海外のスタッフを交えて打ち合わせをした際に「最近のマルチプラットフォームのゲームは完全に同じじゃないとダメ」という意見を伺い、天の邪鬼な考えで「だったら、あえてプラットフォーム毎の差異を付けよう」と。ただ、最終的には「兄妹」の物語は日本国内だけのリリースになってしまいましたが。

齊藤氏:開発を開始した当時、3年ぐらい前の話になりますが、当時でいう次世代機、今で言う現世代機のマーケットを見通すのが正直難しかった。その中で、海外でも売れないと収益的には厳しいという見通しは持っていました。

 それと、当時は完成したものを翻訳だけして海外でも売るというのが一般的でしたが、今作では初めから海外のスタッフを入れて、世界観や手触り感について定期的に意見を聞きながら作っていけたらいいなと。

 ゲームの企画が固まった段階で、アメリカのマーケティングなどのスタッフ、ヨーロッパのスタッフ、日本からは私と横尾さん、デザインのスタッフがロサンゼルスに集まって、意見を出し合う場を設けました。

 そこで海外のスタッフから出てきたのが、“センの細いキャラクターが巨大な武器を振り回して敵をバタバタと倒すのは、根本的にコミカルな表現にしか見えない、アニメチックだ”というものなんです。大人のゲーマーには幼稚に見えてしまうという。私からすると、ゲームなのでリアリティが全てではないと思いますが、ファンタジーにもリアルは必要だという意見を1日中話し合っても絶対に崩さない。敵を倒すのは屈強な戦士であるべきだ、と。海外のスタッフはそれぐらいの強い意志を持っていたので、「じゃあ、そうしてみようか」と。

 そうすると今度は横尾さんが「そうは言っても、主人公をそんなに変えたら俺たち作る気なくなっちゃうから……」とモチベーションが下がってしまう。日本のPS3版だけは少年ニーアを残して欲しいと話をされました。その意見を聞いた時、実は私はその場では「うん」とは言わなかったんですよね(笑)。「とりあえずおっさんをやろう」と。

 実際、主人公の外見を変えるって、そんな簡単な話ではないんですよね。セリフを直さなければいけない、音声も別に撮らなければいけない、イベントシーンもカメラを微調整したり。横尾さんも大変だとは思っていたでしょうが、想像以上に大変だったんじゃないかなと思います。

横尾氏:大変でした……。

齊藤氏:とはいえ、最後は電卓叩いて「(2バージョンでも)なんとかなる」とふんだので、会社からの追求をかわしつつ、実現まで持っていったわけです(笑)。

――PS3の少年ニーアとXbox 360のお父さんニーアだと、身長が違っていたりするから、イベントムービーのカメラ位置等の様々な調整が必要だったんですね。

横尾氏:そうですね。カメラ位置はそれほどでもなかったんですが、ライト(光源)の処理が大変で。おやじをかっこよく見せるライトと、子供を綺麗に見せるライトが違うんですよね。それを全部付け直すことになったのが大変でしたね。



■ 美しい楽曲と、それを自然に聞かせる工夫。日本語音声収録や、仮面の街とボーカル曲の造語について

――「ニーア」は世界観と曲がとてもマッチしていて、非常に美しく感じました。楽曲を依頼されるにあたって、イメージやコンセプトを伝えられたと思うのですが、どのような指示をされたのでしょう?

横尾氏:サウンドを担当していただいたMONACAの岡部さんに、自分でサンプルの楽曲を探してそれを聴いてもらって、「こんなん作って」と指示しました(笑)。そういう失礼な事を岡部さんは嫌がらずに受けて頂けたので、お願いして本当に良かったと思っています! 皆さんも楽曲が必要な際は是非、MONACAの岡部さんに! MONACA の岡部さんに是非!(2度言いました)

齊藤氏:それでよくオリジナリティのある曲になったなと思いますけどね(笑)。

横尾氏:それは岡部さんの技量の成せるところというか(笑)。岡部さんは普段は「ニーア」みたいな曲は書かないんですよ。今回初めて作ってもらって、今回の曲の評価が高いのにはびっくりしているようです。

齊藤氏:DLCに収録しているリミックス曲が、岡部さんが普段作っている曲の感じに近いですね。

画面の左にいる女性が、イニシエノウタを歌うデボル。彼女に近づくことでインストゥルメンタルだったBGMに歌声がフェードインする。このとき内部的には屋外用、屋内用、歌(ボーカル音声)の3種類のイニシエノウタが再生されていて、ボリューム調節によって自然と変化していく仕組みになっている

――ゲーム中での曲の使い方、音の使い方にもかなり工夫がされていました。曲の繋がりがフェードで自然に切り替わったり、「イニシエノウタ」のボーカル音声が、歌っているキャラクターのデボルに近づくとフェードインしたりと。サウンド面の演出効果もかなりこだわられたのではないでしょうか?

横尾氏:曲にはかなりこだわりました。岡部さんは僕の大学の同期で、イロイロ無理を聞いてくれる事が判っていたので、今回の様な困難なプロジェクトにピッタリだと(笑)。

 ニーアでは1曲が最大で4トラックに分かれていまして、それをON/OFFする形で曲の展開を作っています。ご指摘のイニシエノウタも「歌」、「屋外」、「屋内」の3トラックで構成していて、

村の通常時 →「屋外」
噴水に近付く →「屋外」+「歌」
部屋に入る →「屋内」
酒場で歌があるとき → 「屋内」+「歌」

 というようにトラックを切り替えています。ただ、内部的には上記の3種類の曲はずっと鳴りっぱなしで、フェードで切り替えて演出をつけています。

 また、悲しいイベントがあった後、急にフィールドの曲に戻ったりすると興ざめなので、しばらくイベント曲を継続するようにしました。こうした曲のトラック指示書みたいなものを全編に渡って自分で作ったのですが、かなり面倒くさかったです。

齊藤氏:バトル中などもそうですね。

横尾氏:ボスが変形するとリズムが加わってきたりしますね。同じメロディーが鳴っているんですが、裏でずっと別の音も再生されているので、ボリュームバランスを変えるだけで変化を自然につけられるという。

齊藤氏:この部分の苦労にはユーザーさんは気づかないんじゃないかな? と思っていたんですけど、案外気づいてくれる人もいて。実際の仕組みを作ったプログラマーさんやミドルウェアを提供している会社さんの努力のおかげですね。

――シームレスに曲に変化をつけるアイデアを提案したのは横尾さんだったんですか?

横尾氏:ええ。でも、最初はてんやわんやでした。4つの曲が再生されているとステレオなので、計8本の音が流れていることになるんですね。それが平原や別の場所に出るときにクロスフェードするので、最大で移動前8本と移動後8本の16本が重なったりします。さらに、その上でロード画面中も音が途切れないようにして欲しいといったオーダーをしたり、無理難題を言いましたね。

下着姿のカイネ。きわどい容姿だけでなく、口が悪くてセリフに伏せ字がたくさん入るという、個性的なキャラクターだ。だが、彼女の物語は奥深く心に残る
移動中や戦闘中に仲間がセリフを喋るのだが、カイネは画像のように伏せ字がふんだんに混じってくる

――キャラクターについてですが、カイネは白の書に「下着女」と呼ばれるような露出の多い格好をしていますが、あの姿には理由があるのでしょうか?

横尾氏:「半身のマモノがこれ以上広がらないように、マモノの苦手な日光に体を晒している」という設定です。また、フェミニンなデザインなのは、彼女が両性具有である事にも関係しています。

 こうした設定はキャラクターデザインから生まれました。「片腕・片足が露出している」という設定で、メインキャラクターデザインのD.Kさんに描いて頂いたところ、ほとんど下着の女性がデザインされてきて一同驚愕しました。倫理的にも危うい感じだったので、どうしよう? と思ったのですが、いろんな方の尽力もあって現状の過激なデザインのまま押し切ることができました。結果として個性のあるデザインになって良かったと思います。

――カイネのセリフには伏せ字になっているようなところもありますが、翻訳に苦労されたのでは?

横尾氏:実は、伏せ字部分は最初から伏せ字で書いていました。「DOD」で非常に表現まわりで苦労しましたので、今回は最初から「ピー音」でやってしまおうと。また、シリアスなゲームでピー音が出てくる演出は今までに見たこと無かったので1度やってみたかった、ということもあります。

 英語音声では、海外の方から「ピー音はコメディに聞こえるので止めて欲しい」とうご意見を頂いたので、レーティングに収まる範囲で作って頂いています。英語では意外と過激な言葉が並んでいて嬉しくなりました。

――英語音声の「ゲシュタルト」では、ストレートに伏せ字部分の言葉も喋っていますよね。字幕は伏せ字になっていましたが。

齊藤氏:映画でよく聞くようなセリフだったりするので、英語音声では案外大丈夫だったりするんですよ。そのあたりは日本のほうが厳しいです。

カイネを担当したのは田中敦子さん。攻殻機動隊シリーズの草薙素子をはじめ、幅広く活躍している声優さんだ
カイネとしょっちゅう口げんかを起こす白の書ことシロ。シロは「DOD」ファンの方へのサービス的な観点もあり、ピーターさんが演じている

――PS3版に収録されている日本語音声ですが、迫真の演技と言いますか、圧倒されるものがありました。日本語音声についてこだわったポイントなどはありますか?

横尾氏:まず、齊藤プロデューサーから「実力重視で行こう」という方針が出ました。

 僕は声優さんに詳しくなかったので、社内の詳しい女子スタッフと、これまた声優に詳しい宣伝のK氏に案を出して頂き、みんなで決めていった感じです。

 ただ、カイネについては初期案がかなりカワイイ声だったので、僕の方から「口が悪い図太い声がいい!」と田中敦子さんを大プッシュさせて頂きました。

 白の書へのピーターさんの起用は「DOD」のファンの方へのサービス的な観点から出された案で、齊藤さんのプランです。

 詳しい方々に選んで頂いただけあって、皆さんとても上手く情感豊かに演じて頂けました。僕の方から演出の指示をさせて頂いたのは特徴ある部分(たとえばポポルの壊れるシーンとか)だけで、残りのセリフはおおむねレコーディングディレクターの方に“お任せ”で進みました。

 ちょっと話が戻るのですが、実は「ニーア」は最初英語版だけの予定だったんです。英語の声優さんをディレクションするにあたって文章指示だけでは不安だったので、知り合いの声優さんにお願いして、イベントシーンに「仮日本語ボイス」というのを作りました。英語はそれをベースに収録しました。

 後から「レプリカント」の音声が日本語になることになり、ボイスを収録する際には、英語と仮日本語ボイスをガイドにしましたので、演出面での指示はそれほど困難ではありませんでした。海外映画の吹き替えをなさっている声優さんも多かったので、進行もものすごくスムーズでしたね。

齊藤氏:私は、デバッグ作業が重なったりで、収録現場に行けなかったんですよ。現場は横尾さんにずっと任せるような状態で。本当は田中さんにお会いしたかったんですけど結局会えずじまいで……。生で聴きたかった。

横尾氏:生で聴けて大変良かったです(笑)。カイネのセリフの伏せ字部分は、伏せ字でもセリフの尺は合わせないといけないので、伏せ字の部分に汚い言葉をちゃんと入れて、それを田中さんに喋ってもらいました。そこに“ピー音”をかぶせました。

――もともと伏せ字だけで中身は無かったセリフに、日本語音声収録時に言葉を入れて喋ってもらって、それをまた隠して、音声を完成させたということですか?

横尾氏:そうです。なんとも手間のかかることをして。

プロデューサー齊藤氏のお気に入りキャラは実験兵器7号。不気味な見た目ながら、7号もまた味わい深いキャラクターだ
ディレクター横尾氏のお気に入りは仮面の街のフィーア。フィーアは仮面の街の人々の言葉がわからず困っていた主人公を、身振り手振りで案内し助けてくれる。だが、彼女が喋れない理由にも理由がある。それを理解した上で彼女の物語を見ると、またひとつ驚かされるはずだ

――お2人が気に入っているキャラクターはいますか?

齊藤氏:私はもうずーっとアートが上がってきた瞬間から、実験兵器7号が好きで。

横尾氏:全キャラ好きですが……。あえて言えばフィーアでしょうか。彼女は顔に大きな火傷を負っていて、それが原因で親に捨てられた子です。ですが、仮面の王子との交流を通して幸せを手にしようとしてるのに……という泣けるポイントが沢山あって。

 攻略本が発売されるのですが、そちらにショートストーリーの形でこのエピソードが入っています。興味のある方は読んで頂けると嬉しいです。

齊藤氏:仮面の王とフィーアは人気ありますね。

横尾氏:もともと物語としては、仮面の王とフィーアの物語を主人公の物語として扱いたいと考えていたんですよ。でも、あの物語を主人公格にしてしまうと、いろいろと問題が起きるので……。ひとつのイベントとして展開されるエピソードになりました。

――フィーアと言えば、彼女が喋れないのはなぜでしょう?

横尾氏:彼女が喋れないのは掟のためです。“戸籍がない住人は喋ってはいけない”という掟があって、親に捨てられたため戸籍がないから喋れない。喋れるようになるためには……その掟から解放されなくてはならないわけです。

――仮面の街の民といえば、彼らの言葉が造語だったり、使用曲にもオリジナルの造語を使っているものがありました。造語はどのように作っていったのですか?

横尾氏:まず、仮面の街の造語は日本語のひらがなを元に、独自の変換ツールで生成しています。かなりややこしいことをしているのですが、たまにバグで日本語の単語がそのまま出てきてしまう事があって。ただ、それが良い感じの味になっていたのでそのまま使用することになりました。仮面の人は未来の日本人という設定もあり、上手くまとまったと思います。

 楽曲の造語は、主に歌い手のエミ・エヴァンスさんに作詞して頂きました。もともと何カ国語か話すことのできる方で、いくつかの言語イメージを上手く組み合わせて未来の言語を作ってもらった、という形です。

 歌を全部造語にしたきっかけは、実は各国語版に変換したりチェックしたりするのが面倒だったのが最大の原因ですが、いろんな母国語の方が聴いても「不思議な言葉」という捉え方をして頂けたうえに、「ゲームプレイを邪魔しない」という副作用もあり、かなり良い感じになったと思っています。

――ということは、仮面の街の造語とボーカル楽曲の造語は別のものになっているんですか?

横尾氏:そうです、別ですね。エミさんの歌の造語は英語やフランス語のネイティブな細かい音がベースです。仮面の人のセリフの造語は、日本の声優さんに声をあててもらっているので、日本人でも喋りやすいようにひらがなから生成しています。発音できない音が出てこないように。

齊藤氏:ボーカル曲の歌詞カードのリクエストをたくさんいただきましたが、歌詞は攻略本に載ります。日本語訳と英語と……。

サウンドトラックCD「ニーアゲシュタルト&レプリカント オリジナル・サウンドトラック」の曲目リスト。「Ashes of Dreams」の4つのバージョンが全て収録されている

――「Ashes of Dreams」の日本語訳があるんですか?(※「Ashes of Dreams」はエミ・エヴァンスさんが歌うボーカル曲の曲名)

横尾氏:一応あります(笑)。英語版もあります。最初は造語の歌詞だけの予定だったんですが、エミさんが歌っているうちに気分が乗ってきたので、造語ばかりじゃなく英語でも1曲歌いたいとお話頂いて。それで英語版も生まれました。

――サウンドトラックには「Ashes of Dreams」の4言語のバージョンが収録されていますが、それぞれどういう違いになっているのでしょう?

横尾氏:サントラの収録順に、普通の英語版、フランス語の造語、ゲール語の造語、日本語の造語という順になっています。造語はいずれもそれぞれの言語の“未来の言葉”という設定になっています。

――なるほど、だから英語以外のバージョンには“新たなる”という説明がついてるんですね。

横尾氏:そうです。



■ 遊んでいるときの“手触り”を重視したアクション。「ニーア」らしさを追求した空気感と色彩

日本人のなれの果てをイメージしたという「仮面の街」。彼らが喋るオリジナルの言葉もひらがながベースになっている
独特な色彩が印象的なニーアのグラフィックス。色彩を変化させるフィルターをかけて独特の色を作り出している
追加ダウンロードコンテンツ(DLC)「15 Nightmares」より。色彩を調整するフィルターを強制的にかけていて、ゲーム本編中とはまた異なる雰囲気のステージになっている

――崖の村や仮面の街などファンタジー感の強い独特な場所が多いですが、モチーフにした物などはあるのでしょうか?

横尾氏:かなりアレンジされているのですが、「石の神殿」はオフィスビル、「砂の神殿」はショッピングモールなど、現代の建物の廃墟をリビルドしたイメージで作っています。

 先ほどもありましたが、仮面の街は日本人の成れの果てです。彼等は掟に縛られた奇妙な人達ですが、今の日本人もギュウギュウ詰めの鉄の箱に毎朝乗って、薄暗い色の同じ服を着て、光のチカチカする板を見ながら、食べられもしない情報を売って生きている、という辺りは十分奇妙だと思います。

――グラフィックスに関してですが、独特の色彩が印象的です。グラフィックス面からの演出にもこだわられたのではないでしょうか?

横尾氏:光の感じというか、空気感というか、そういうモノを大事にしました。

 最近は、海外のゲームもグラフィックスに力を入れているものが多く、真正面からゴリ押しで戦ってもしんどいだけだなと思ったので、独特の雰囲気になるように調整しています。

 手を入れる部分と、力を抜いている部分のバランスが他のゲームとは違うので、ちょっと独特の雰囲気を感じて頂ければな……と。

齊藤氏:色はこだわりましたね。「いわゆるCGチックなテカテカとしたのはやめましょう」と。多少にじんだりぼやけたりしてもいいから“「ニーア」の画ってこういうのだよね”と言ってもらえるようにしたかった。

 開発の序盤に、画面に映る色彩をフィルターで設定できるツールを作ってもらって、横尾さんにいろんなパターンのフィルターをかけたムービーを用意してもらって、方向性をかなり話しあいました。

横尾氏:最初は、齊藤さんはわりときつめの画作りを望んでいたんですが、あまりにきつくすると遊びにくくなってしまうのと、目が疲れちゃうので。そのあたりの落としどころは難しかったですね。

――あえてカラーバランスを崩しているような、ちょっと不気味さを感じさせるようなところもありますね。

横尾氏:そうですね、グラデーションマップという“暗いところにはこの色”という指定をしてから、カーブをかけるという特殊な処理をしているので、色味としては少しゆがんでいるんです。

 ダウンロードコンテンツの「バトルゲーム」はこのフィルターを強制的にかけている感じです。当初はあのぐらいの色味でずっとプレイするような感じだったんですが、さすがにしんどいということで、結果は製品版のような程度になりました。

――アクションRPGとして重視された点はどんなところでしょう?

横尾氏:プログラマーの片山という人間が居るのですが、彼が非常にアクションに対して拘りがあり、かなりの部分を彼の望む仕様にしています。たとえば、多くのモーションからキャンセルがかかるのですが、どのモーションからどの程度のフレームを飛ばすかは彼が直感で作っています。ガードリカバーや、回りこみ、はじき返しなどの細かい機能も、全て実装されてから僕の方で仕様書にしました(笑)。

齊藤氏:アクションの手触りには私も横尾さんも序盤はいろいろ意見を出していたんですけど、片山さんがすごくアクション性にこだわって作ってくれたので。ある一定の時期からはほとんど口を出さない感じになってました。

――早めのリズムで動いてキャンセルも効きますし、操作の手触りがすごくいいですね。

齊藤氏:序盤からアクション部分に時間をかけられたのも大きかったですね。マルチプラットフォームということでベースとなるエンジン部分を作り込む時間があったので。一時期は2つのエンジンが同時に走っているような時期もあって。その時間に横尾さんや片山さんがモーションや手触り感を作り込めたという感じです。ただそのぶん、新しいエンジンでの画面がなかなか出てこないという時期もあって、そっちでは苦労しましたね。

横尾氏:半年ぐらい画面が変わらなかった時期があったんですよ。

齊藤氏:でもそのぶん、ゲームデザインには時間をかけることができたという感じですね。

弾幕シューティングのようなマモノの攻撃。圧倒的な物量に驚かされるが、自分の攻撃や魔法で敵の弾を打ち消せるので、見た目ほどに難易度が高いわけではない。独特な戦闘が楽しめる
場面によってシームレスに視点が変化するのもポイント。真横からみた2Dアクションのようになったり、画像のような斜め見下ろしになったりする

――アクション要素、特に魔法に関してシューティングゲームの弾のような要素が多くて斬新でした。やはりシューティングゲームをイメージされましたか?

横尾氏:はい。僕はシューティングが好きで、あの弾幕がやってきた時の「ああもうダメだ感」を上手くアクションに取り込みたいと思って組み込んでいます。シューティングにはシューティングの奥深い遊びがあり、そうした「印象」を上手くRPG好きな皆さんに味わっていただければいいなあ、と。

――画面の視点も色々と切り替わったり、様々なゲームのエッセンスを感じるような場面がありました。開発当初からいろんな遊び要素を取り入れようという考えがあったのでしょうか?

横尾氏:はい。初期段階からありました。最近の僕個人の感覚ですが、ゲームをプレイするときに「30分やったらあとクリアまでの道中が大体想像できる」そういうキモチになることが増えてきました。もちろん、同じスタイルを繰り返す美学はありますが、そういった固定化された体験だけではなく、変化するゲームはどうだろう? と思ったのが事の発端です。

 もちろん、バラバラのゲームを入れるとミニゲーム集になってしまいます。そういう形にならないように「操作はそのままでシームレスにゲーム性が変化する」という点にはこだわりました。僕はもうイイ歳ですから、いちいち画面が変わってチュートリアルが出てくるとしんどく感じてしまいます。そういうモノグサな方にもいろいろ楽しめるように作ったつもりです。

フレンドリストに表示されるプレイ中メッセージの一部を公開。なお、このメッセージはネタバレが配慮されてはいるが、ある程度ゲーム内容に触れているものもある。未プレイ、もしくはプレイ中の方はクリア後にご覧頂くといいだろう

――フレンドリストに「ニーア」をプレイ中の人がいると、その人のプレイ中ゲームのコメントが「夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢」など、すごく気になる表示になります。あのコメントにもかなりの種類があるのでしょうか?

横尾氏:あのメッセージを最初適当に書いていたら、スクウェア・エニックスのローカライズの方から「普通過ぎてつまらない。今どきのメッセージはもっと超面白いんだ」と言われまして。その上「(知らない人でもわかるように)固有名詞を使ってはダメ」、「ネタバレはだめ」しかも「他のユーザーの興味を誘う面白い文章」という強烈に難易度の高いオーダーを受けました。

 あまりにも思いつかなかったので、最終的にはネタ文章に走ったのですが、後から他のゲームのメッセージを見たら意外と普通で。「だまされた!」と思いました。

 リテイクをかなりもらったこともあって、正直に言うと疲れちゃって(笑)。最初は若いスタッフに作ってもらっていたんですが、リテイクを何度も出されるし、でも面白くもなっていかなくて、どうしよう……と。最後はもう自分がお酒を飲みながら調整して……。一部のメッセージにはボクの気持ちがそのまま出てるところもあるような。

――このメッセージは自分では見られないので、プレイしている本人は知らなかったりしますよね?

横尾氏:Xbox 360だとWindowsのツールで、Xbox Liveアカウントに表示されるこのメッセージをTwitterにポストするっていうツールがあるみたいですね。でも「ニーア」のメッセージは口語体なので、その人が文章を書いているように見えるんですよね(笑)。

DLC「15 Nightmares」のPS3版の説明文。異様な雰囲気を漂わせる“それ系”の言葉がずらりと並ぶ

齊藤氏:PS3版のDLCの説明文もすごいことになってますよ。

横尾氏:あれには理由があって。PS3版とXbox 360版のDLCがあるんですが、説明文は同じにしようとしたんです。Xbox 360は説明を入れる場所が1カ所なんですが、PS3は概要と詳細の2カ所あって。「同じ説明文を入れてもいいですよ」って言われたんですが、それもなんか嫌だなと思って。

 そこで、若手のスタッフに「それ系の漢字2文字の組み合わせを300個考えて」とオーダーして、考えた挙げ句に表示領域の勘違いが発覚して、200個くらいそれ系の単語をドブに捨てたりしたことは、今となっては良い想い出です。

――世界設定も独特です。ニーアの世界は日が沈まない世界となっていますが、それはなぜでしょう?

横尾氏:あの世界は地軸が歪んでしまっているためです。星が周っている向きがもうおかしくなっているので。ずっと日が沈まないです。

――PS3版は1412年後、Xbox 360版は1312年後となっていて、物語の時代が100年異なっているのですが、それはなぜでしょう?

横尾氏:歴史を繰り返している世界なんです。歴史が繰り返されている中で、ニーアとヨナの関係がお父さんと娘だったり、少年と妹だったり。歴史的にもひとつの歴史ではないですが、どこのタイミングを見るかで変化があって。繰り返す中にいろんな可能性があるという感じです。

――プレイ中、遠くで小さなマモノたちが羊を襲っている場面を見たのですが、あれは演出として入れてあるのでしょうか? それとも偶然に起こる動きですか?

横尾氏:マモノのAIを組んだら、たまたまマモノが羊を襲ってくれたんですよね。近くにいるキャラクターを襲うというAIだったので。そこで、これは面白いなと思って。

 その反面というか、開発初期の話なんですが、あるイベントシーン中に近くにいるイノシシが突っ込んで来ちゃうという問題が起きて。イベントで「お父さんが! お父さんが!」というセリフを言っている最中に、イノシシが突っ込んできて、「お父さんが! お父さっ」“ドガン!”っていうコントみたいな感じに(笑)。マモノが動物を襲う挙動は残しつつ、イベントシーン中には問題が出ないよう調整しました。



■ 奥深く物語を楽しめるアイデアと、誰もが驚きとまどう“最後に待つギミック”について

このインタビューから感じられると思うが、プロデューサーの齊藤氏は、独創的な横尾氏のアイデアを支え許容して形にまとめていった方だ。たくさんの試行錯誤があったことを語ってくれた

――RPGとしては異例な、クリア後に奥深く楽しめる仕組みを持っていますが、あのアイデアは開発当初からあったのですか?

横尾氏:ありました。あれは工数上の問題でそうなっています。チームの開発リソースではRPGに求められる背景ボリュームを制作することに力を割くよりも、同じステージで複数回遊べるように設計するべきだと判断したからです。

 繰り返し感が強くなってしまわないか危惧していたのですが、ゲーム性や物語を変える事でなんとか飽きずに遊べるようになったと思います。

――最後の最後に待つあの仕掛けに関してはいかがでしょうか? 開発内でもいろんな意見が出たのでは?

横尾氏:チーム内では、「イヤだ」と「どうでもいい」の2種類の反応がありました。ただ個人的な思いとして「ゲームはもっとイロイロやれる」という想いがあり、今回はオプション画面で人の心を動かしてみたいと考えました。

 いろいろ反対に遭うかと思ったので、齊藤さんには結構後の方まで隠していました。

――相談するのではなく、隠してたんですか?(笑)

横尾氏:結構な時期まで隠してました(笑)。相談しようとも思っていたんですが、なかなか言い出せなくて。意を決して「実は……。」と話したところ、かなりアッサリOKが出てビックリしたことを覚えています。

齊藤氏:いや、悩みましたよ(笑)。ただ横尾さんから聞く前に、他のスタッフから聞いていたので。もちろん必然性があるということを前提にして、意味もちゃんと持っていたので、私としても問題はなかったです。やってよかったなとも思ってます。

――名前が使えなくなる理由はなぜでしょう?

横尾氏:最終的には入れなかったエンディングがあったというか……。齊藤さんに最後の仕掛けを反対されたら、別のエンディングを入れて説得しようと考えていて、もう1つ用意していたんです。そのときに名前を使う予定が……。ただ、仮にそのエンディングを入れてしまうと、ゲームの仕様的にも難しくなってしまう。仕掛けを反対されなかったこともあって、結果的にそのエンディングは入れませんでした。使えなくなる理由としては、あとは記憶であり証として、ですよね。


■ 発売直前からジワジワと注目され、発売後には品薄になるほど話題になった日本。海外の反応は?

――発売後、話題を呼んで品薄になり、サントラCDまでも品薄になるというほどの好評となりましたが、今のお気持ちはいかがですか?

横尾氏:あまりホメられたことが無いので、お尻がムズムズするような変な感じがします。

 開発チームの空気感もそうなんですが、こんなに褒められるなんて思っていなくて。じゃあ、どこが良かったんだろうってスタッフみんなで振り返っても、なんかよくわからないねっていう感想になって……。

齊藤氏:私が思うのは、世界観と音楽ですね。どちらが欠けてもダメだったと思うんですけれど。それに関しては上位に位置づけしてもいいゲームだと私は思っています。それに加えて、そこをちゃんと体験できるように手触り感にこだわったところ。内容はいいのに触り心地が悪かったりすると、「みんなこのゲームを本当にエンディングまで遊んでるのかな?」って疑問に思うような感じになってしまう。

――プレイしていてしんどくなってしまうゲームがありますね。「今日はもうこのへんでいいや」ってすぐにプレイを区切りたくなるゲームと、そうはならないゲームがある。「ニーア」は後者ですね。

齊藤氏:遊びやすさ、最後まで気持ちよく進めるというところも考慮しました。できなかったこととして「どこでもセーブ」ができるようにしたかったんですが、開発途中からその仕様に変更できるかを聞いたら、ちょっと難しいということだったので。そのぶん、コンティニューを細かく設定しました。直前から再開できて、長く戻されることがないようにしました。

――RPGとしてはかなり独特というか特徴的な作品と思います。日本では好評ですが、海外の評判はいかがですか?

齊藤氏:日本ではいい評価をしてもらえることが結構多いですけど、海外は……「この良さをわかってもらえないのかな」っていうぐらいにピンキリな感じですね。

――フランスはどうですか? 個人的に、ヨーロッパは日本の感性に近いところがあるように思うんですが。

齊藤氏:フランスのメディアは当初から「『レプリカント』が欲しい」と言っていました。発売前にイギリスとドイツとフランスのメディアの方と話したんですが、イギリスとドイツの方は「ゲシュタルト」のお父さんニーアに肯定的で、フランスだけは「レプリカント」派で「何を言ってるんだ、日本のキャラクターは最高じゃないか」って言ってました(笑)。彼らは「まぁいいさ、俺たちは日本版を輸入して遊ぶことにするぜ」って言ってましたけどね。

――やっぱり好きなセンスというか方向性に、近いところがあるような気がしますね。

齊藤氏:そうですね、北欧の開発会社なんかには、「日本のゲームが好きでゲームを作ろうと思ったんだ」というクリエイターが、アメリカより圧倒的に多いですね。アメリカでは、独自の自分たちのゲーム性みたいなものを持っていて、FPS/TPSなんかがコンシューマーでやっと広まっていったという感じが、その代表のような印象を受けます。

――好まれるセンスの違いだと、ざっくり言うとアメリカはハリウッド的というか。ヨーロッパはもう少し荒廃的なものとか、虚無感的なものにも食いつく感じが日本と近い感じがします。

齊藤氏:そういう感じですね。

横尾氏:あとゲームに対する評価の考え方もけっこう違いますね。今の北米市場の評価って、全方位に点数が高くないと評価が良くならないというか。海外サイトのレビューってグラフィックスは何点といったように要素ごとに点数がつくんですけど、ボクらが作ったものはそういう目線で見られるとガタガタというか。まるでダメになっちゃって。

 ただ、ある海外のレビューで「ニーアは濡れた醜い子犬のようだ」って表現しているところがあって。それは確かによく言い表しているなぁって(笑)。ずぶ濡れで見るに堪えないし構いたくないんだけど、なんか気になるっていう(笑)。



■ DLC「15 Nightmares」に収録されたリミックス曲が発売されるかどうかは要望次第?

――ダウンロードコンテンツ(以下、『DLC』)も販売されましたが、本編に続いてすぐに開発されていたのでしょうか?

横尾氏:本編の末期に開発しました。下世話な感じですが、予算的に大きく取ることが難しかったので、「可能な範囲でなるべく買って頂いたユーザーさんが喜ぶモノを」という感じで、スタッフ一同できることを全力でやりました。

 “貧しいけど愛情いっぱいのお母さんの手作り弁当”的な良さを目指しましたので、本編をクリアされた方は是非試してみて頂きたいです。

齊藤氏:……あと、DLCをお願いするときはもう、力尽きてたんですよね(笑)。“参加することに意義がある”的な感じになっていた。

――今後さらにダウンロードコンテンツを出される予定はありますか?

齊藤氏:どうなんですか? やりたいですか?

横尾氏:やりたいですけど。何を作るかは全くアイデアがないです。どんなDLCがいいかスクウェアエニックスメンバーズとかで募集したりしてもらえれば……。

――今のところはまったくの未定という状態ですね。DLC中にはリミックス曲が使われていますが、それをサントラCDとしてリリースされる予定はありますか?

齊藤氏:出したいですが、CDにするにはもうちょっと曲数がいりますよね。サントラに入ってない未収録曲ってまだありましたっけ?

横尾氏:いやそれが結構なくて……。ゲーム中でも例えば釣りの曲がなくて、実はあれは魔王の城の曲のリズム部分を使っていたりとか。

――サントラに入っていないものだと、イニシエノウタのインストゥルメンタル版なんてどうですか?

横尾氏:それはできますね。なんでも言ってもらえれば。ただ、完全な新曲となると時間もコストもかかりますので、できる範囲で前向きに取り組みたいです。

齊藤氏:なんにしろ、サントラが非常に好評なので、DLCの曲もせっかくなのでなんらかの形で出したいとは思います。

――ではDLC楽曲の販売実現に向けて、要望の声をぜひスクウェア・エニックス ミュージックさんへ送って下さいということですね?

横尾氏齊藤氏:そうですね。



プロデューサー齊藤氏と、ソファーの後ろにいるディレクターの横尾氏。後ろにいるのが本当に本人かどうかがわからないと思うが、間違いなくご本人の腕だ。インタビューでは開発話から世界設定まで、たくさんお話して頂けた

――最後に、ゲームファンの皆様にコメントをお願いします。

横尾氏:まずは既にプレイ頂いた方へですが、プレイして頂き、感謝感謝です! 皆さんがプレイして頂いた感想や Twitter などでの口コミで、販売も伸ばす事ができました。ここまで来られたのは、皆さんの下支えがあったおかげです。こんな地下アイドルみたいなゲームを応援して頂き、本当にありがとうございました!

 次にまだプレイされていない方へ。比較的高い評価を頂いているのですが、ニーアはかなり人を選ぶゲームだと思います。遊ぶ時は期待せずに警戒しながらプレイして頂ければ。

齊藤氏:私は発売前から、「買っても後悔させないのでぜひ買ってね!」みたいに言ってましたけど。発売後は自信を持って後悔なんてさせないゲームだと言いきれますし、エンディングまで気持ちよく遊べるゲームだと思って勧めています。

 もちろんアクションゲームが苦手な人は何度か挑まないといけないボスもいるかもしれないですけど、イージーモードもありますから。それでまずは1周目のエンディングを迎えていただいて。そこで止まっている方にはぜひ2周目もプレイしてもらって、また視点が異なるあの世界を体験してもらえると、より楽しめるんじゃないかなと思います。2周目のエンディングの後には面白映像もありますから。私はあの映像の画角が、昔のUFO発見みたいな感じで好きで(笑)。

 これからプレイしてみようかなと思っている方は、言い方は悪いですけど騙されたと思って触ってみてもらえれば。お説教くさいわけでもないですし、勧善懲悪なゲームでもないですし。なんか心に残るゲームなんじゃないかな、と思います。

――ありがとうございました。

 


 インタビューはいかがだっただろうか?非常にユニークなお話が多く、随所へのこだわりも聞けて、私自身もとても楽しんだインタビューとなった。「ニーア」は、見た目に高度なゲームではないかもしれないが、独特の世界観を持っていて、それでいて遊びやすさと奥深さも備えた、心に残る良作。面白い以上に“美しい”と感じたゲームだった。気になっている方はぜひプレイして頂きたいと思う。

(C)2010 SQUARE ENIX Co.,Ltd. All Rights Reserved. Developed by cavia Inc.

(2010年5月31日)

[Reported by 山村智美 ]