【特集】
「水星の魔女」の次に観たい「機動戦士ガンダム MS IGLOO」【夏休み特集】
全6話で見やすく“かっこよくもかわいそうな”物語。ジオンが好きになる
2023年8月15日 00:00
TVアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女(以下:水星の魔女)」の最終回が7月2日に放送されて以来、「幻の25話(最終回は24話)」をみてしまうような「『水星の魔女』ロス」に陥っているファンを度々見かける。本稿執筆時点(8月10日頃)には続編などの話も出ていないため、ますます“ロス”は加速しそうだ。しかし、「ガンダム」シリーズには他にも沢山の名作がある。
そこで、本稿では「水星の魔女」から「ガンダム」シリーズに興味を持った人に向けて「次に何を観るか」として筆者のオススメを紹介したい。それが、2004年から2006年にかけて製作されたフル3DCGアニメ「機動戦士ガンダム MS IGLOO(読み方:イグルー)(以下:MS IGLOO)」の「-1年戦争秘録-(2004年)」と「−黙示録0079−(2006年)」の2作品だ。なお、本稿では、紹介する上で「水星の魔女」と「MS IGLOO」のネタバレを含むので、読み進める際には注意していただきたい。なるべく核心的部分は避けるつもりだが、「ネタバレは困る」という方はブラウザバック推奨だ。
まず、どういった方にオススメなのか。正直なところ、「『水星の魔女』が好きな人全員にオススメできるか」と問われると少し違うかもしれない。というのも、筆者は同作を、「水星の魔女」を観ていてソフィやノレアの境遇と死ぬ間際や、デリングやヴィム・ジェタークのような渋い大人を観ていてカタルシスを感じる方々にオススメしたいのだ。
かわいそうな境遇のなかで戦う子供たち、覚悟の決まった渋い大人独特の醸し出す雰囲気が好きな人には「MS IGLOO」は堪らないと思う。“子供”が登場するのは同作のラスト2話ぐらいなものだが、渋い大人はずっと登場する。楽しみにしてほしい。また、“かわいそうな境遇の人”の雄々しい死に様沢山用意されているので、年齢に関係なく「かわいそうなのが好きな人」にもオススメだ。
重厚な戦闘描写と生々しい人々を描く「機動戦士ガンダム MS IGLOO」とは
「MS IGLOO」は、初代ガンダム作品「機動戦士ガンダム」で描かれた「一年戦争(簡単に言うと宇宙棄民の国家・ジオン公国による地球に対する独立戦争)」を、アムロなどの「機動戦士ガンダム」主要人物とは別の視点で描いた物語。この初代から続く作品を同系列シリーズの年号から「宇宙世紀作品」と呼ぶこともある。
「MS IGLOO」では、ジオン公国軍「第603技術試験隊」の部隊員と、そこに持ち込まれる試作兵器とそのパイロット達の様子が描かれる。「MS IGLOO」の「-1年戦争秘録-」と「−黙示録0079−」は各3話で各話が30分程度なため、3時間もあれば全部観られるので視聴時間的にはお手頃だ。ただし、サブスクリプションによる配信はされておらず、見やすいところでも「Amazon Prime Video」にて各話220円のレンタルをする必要がある。
同作の映像は今見ても美しいうえに、工業製品然とした重厚な動きや散り際が印象的なMS描写や、それぞれが抱えた苦悩に四苦八苦する生々しい人の表情など、デザインもあまりデフォルメされていないので、アニメというよりはどちらかというと実写映画的な雰囲気となっている。
かわいそうだけど覚悟の決まった兵士が多数登場。年少兵の姿も
「MS IGLOO」には、同情を禁じ得ない境遇ながらも、覚悟を決めて信念をもって戦う人々が多く登場する。時代に取り残された者、他者の思惑に踊らされたものなど、それぞれに事情がある。それでも、誰も彼もが懸命に自分の矜持を貫く姿がかっこいい。
全員を紹介すると物語全部を語ることになるので、本稿では代表的な“かわいそうな境遇”を紹介する。年少兵だ。
同作に登場する年少兵のパイロットたちは、ソフィやノレアのように“強力だが自分を殺すこともある兵器”に搭乗しているわけではない。どちらかというと性能が低く、十分な訓練も受けていないために生還率が低いのだ。「どちらがマシか」というのは無粋な考えだが、個人的にはソフィやノレアのほうがマシだ。1人でも多く敵を道連れにしたい。
そんな年少兵が乗るのが、「一年戦争」末期に開発された急ごしらえの兵器「オッゴ」。みるからにシンプルで、“やられ役”といった見た目の兵器だ。
子供たちは愛する家族のために高い士気を保ったまま乗り込んで戦いに赴いていく。慣熟訓練も満足にこなしていないため、多くの年少兵が撃墜されるも、最終局面まで生き残っている機体もあるので、そこまで悪い性能ではなさそうなのが唯一の救いだろうか。
余談だが、劇中に登場する敵(地球連邦軍)のモビルポッドでボールという正気を疑うようなネーミングの兵器がある。こちらもいわゆる雑魚扱いだが、オッゴはこのボールよりは健闘していそうだった。数では圧倒的に負けているが。「戦いは数だよ兄貴」
渋い大人代表としては、ヘルベルト・フォン・カスペン大佐を紹介したい。彼は厳しい軍人らしい軍人だ。しかし、一見怖そうでも部下想いな一面もある人物として描かれている。というのも、絶望的なタイミングで救援に駆けつけるかっこいいシーンだけでなく、前述した年少兵達を庇うシーンなど、“子供を守る大人”としての姿が描かれているのだ。渋かっこいい。ほかにも、ジャン・リュック・デュバル少佐といったどこか気品を感じる悲願を抱えた人物や、普段はどこか頼りないながらもいざというときに頼れる大人枠のマルティン・プロホノウ中佐相当官(正規軍人ではなく軍属)など魅力的な渋い大人が多数登場する。
ちなみに、筆者のお気に入りはモニク・キャデラック特務大尉だ。毅然とした態度に見え隠れする若干の大人げの無さや、取り乱した時の姿がいい。本編では病的に肌が白く見えるのもいい。“病的な白さ”というのが堪らないのだ。下記画像ではそこまで肌が白く見えないが。
いろいろな人に様々な方向から“刺さる”「MS IGLOO」がオススメ! でも気になった作品を観るのが一番
ここまで「MS IGLOO」について紹介してきた。これ以上は紹介の域を超えてただのネタバレになるので控えるが、同作の魅力は前述した内容だけではない。「映像の世紀」のような歴史番組を見ている気分になれる映像や編集。ロマンあふれるロボット好きにはたまらないデザイン・性能の兵器など、いろいろな人に様々な方向から“刺さる”要素が沢山ある。
ちなみに、筆者は同作を見てジオンが大好きになった。「ジオン公国万歳。ジークジオン!」。詳しくは是非本編を観てほしいが、前述した要素が好きな人以外にも「ガンダム」シリーズのオリジナルともいえる世界線の「宇宙世紀」作品に興味がある方や、汚泥とオイルにまみれたような戦闘描写が好きな方にもオススメしたい。特に各話で登場する「ヒルドルブ」や「ヅダ」に「オッゴ」などの特徴的な兵器、それに搭乗する個性豊かなパイロット達にも注目してほしい。
なお、同作の登場人物は「水星の魔女」のように美男美女が多く登場するわけではない。だからこそ「もし自分がそこにいたら」という考えがよぎって、より感情移入できる。そこがいい。
あくまでも本稿では数多くある「ガンダム」作品のひとつを紹介したにすぎない。まずはどんな作品があるのかを調べて、自分に合っていそうな作品を観てほしい。そして、後々に気が向いたら是非同作を視聴していただければ幸いだ。他にも素晴らしい「ガンダム」作品は沢山あるので、色々と観るには時間もかかるだろう。しかし、その価値はある。
本稿が皆様の次に見る「ガンダム」作品の参考になれば幸いだ。
(C)SOTSU.SUNRISE