■佐藤カフジの「PCゲーミング道場」■
FPSの達人たちが“強い理由”に迫る
「サドンアタック」大会3連覇クランNabDの強さの秘密を徹底検証
色々な意味で業界の「最先端」を走る、PCゲーミングの世界。当連載では、「PCゲームをもっと楽しく!」をコンセプトに、古今東西のPCゲームシーンを盛り上げてくれるデバイスや各種ソフトウェアに注目。単なる製品の紹介にとどまらず、競合製品との比較や、新たな活用法、果ては改造まで、様々なアプローチでゲーマーの皆さんに有益な情報をご提供していきたい。 |
■ 常勝無敗、最強FPSクラン「NabD」!! その強さの秘密に迫る
「サドンアタック」の公式大会、「SAOMT Season 4」。8月21日に名古屋で開催された |
「SAOMT」3連覇を達成したNabD。名実共に最強のクランとなった |
去る8月21日、名古屋にて国内最大のFPS公式大会が開催された。ゲームヤロウが主催する「サドンアタック」公式クラントーナメント、「SAOMT Season 4」だ。事前に行なわれたオフライン予選には総勢800クラン以上、プレーヤー数にして4,000人以上が参加し、規模・レベルともに最高峰と言ってさしつかえない大会。そこで優勝を果たしたのは、今回で3連覇となるクラン「NabD」だった。(弊誌レポート記事)
「NabD」は、現在国内の競技的なFPSシーンでは知らぬものはいないほどの有名クランだ。「サドンアタック」のツワモノたちが集って結成されたこのチームは、これまで公式・非公式の大会でほとんど負けを知らない。多くの強豪クランが妥当「NabD」を目指すなかで、頂上決戦ではいちども土をつけられたことのない存在。多くの「サドンアタック」プレーヤーにとって憧れの対象でもある。
この無敵チームを構成するメンバーは、リーダーを勤めるMatcha選手をはじめ、Aktm(あきちめ)選手、KeNNy選手、Flame選手、Yuki.N選手の5名。このうちKeNNy選手は、元々「Counter-Strike」の世界大会で日本代表常連だったクラン「4dN」の出身で、現在は「サドンアタック」公式インストラクターを務める身だが、以前自ら結成したクランで勝てず、本当に強いチームを求めて「NabD」に加入した経緯があり、純粋に1プレーヤーとしてメンバーに名を連ねている。
チームが強いということは、それはすなわち各個人も強いということ。そこに、FPSの上達を目指すプレーヤーにとって学ぶべきものが大いにありそうだ。今回、そんな多くのプレーヤーにとって目標となりそうな5人の達人たちに特別取材を敢行し、その実像に迫った。
4,000人が参加する大会で頂点を極め、常勝無敗を誇るプレーヤーたちがいかにゲームをプレイし、何を心がけているのか。その背景にあるのはゲームが好きという心理だろうか、単なる負けず嫌いなのだろうか。純粋な努力でそうなったのだろうか、それとも先天的な才能が決定的に作用しているのだろうか。最強クラン「NabD」の実像に迫りたい。
取材のきっかけとして行なわれたインタビューでは、まず8月21日の大会で「NabD」にとっての最大の山場となった準決勝、「NabD」対「Dynasty」戦で迎えたピンチについての話題から入っていった。
■ 大会前練習はたったの1週間? 「大会があるから真剣になれる」という心理
インタビューに答える「NabD」メンバー。左からKeNNy選手、Aktm選手、Matcha選手、Yuki.N選手、Flame選手 |
準決勝、対「Dynasty」では大変な苦戦を強いられた「NabD」 |
──優勝おめでとうございます。準決勝の対Dynasty戦はかなり苦戦しましたね。
Matcha選手:そうですね、正直あの試合がいちばんヤバかったです。オンラインの練習試合ではあまり対戦したことがなかったんですけど、予想以上に強くて焦りました。
──会場でもダークホースと言われたチームでしたが。
Yuki.N選手:普段オンライン上では目立ってなかったんですけど、実際にやってみて、びっくりしましたね。練習試合でたまに何度かやってみたときには負けることもあったんですけど、本番でまさかあそこまで実力があるとは思ってなかったという。
──3人抜きとかもされてましたもんね。個々のプレーヤーの実力も非常に高いものがあったということでしょうか。
Flame選手:そうですね、あれはもう相手がすごくて。クラン戦の基本もできてましたし、強かったですね。
──そこで最後、Dynastyがマッチポイントに達してから、NabDは守りを固めていきましたね。
Matcha選手:あそこで我慢して、しっかり守れたのがよかったと思います。
──さきほど練習試合という言葉がありましたが、皆さんが集まってクラン戦を練習するというのは、1日どれくらいやっているものなんですか?
Matcha選手:毎日9時過ぎくらいから11時半か12時くらいまでやってまして、短くて2時間、長くて3時間くらいです。
──それは平日でも?
Aktm選手:平日でも、休日でも変わらずです。
Yuki.N選手:強いクランは、どのクランもだいたい夜に集まってきて、だいたい12時から1時くらいまでやって、休憩して寝るみたいな感じですね。でもずっとそうというわけではなくて、大会前になったら集まってやるという感じで。
──今回の大会に向けては、いつくらいから練習を開始したんでしょうか?
Matcha選手:決勝戦が今日21日ですよね、僕たちが活動を再開しはじめたのが12日で。
──つまり1週間強ほど? 短いですね。
Matcha選手:決勝が決まった日が6月の下旬か7月の上旬くらいで、そこからずっと活動してなくて。それで7月の下旬にいちどだけ集まって「いつから活動する?」という相談をして「8月12日くらいでいいんじゃない?」という話になって(笑)。僕としては5日くらいからしようかなと思ってたんですけど、みんな12日からでいいって言うんで、じゃあいいかなと(一同笑)。
──それでかなり集中的に練習したわけですか。
Matcha選手:いや、12日から活動しても、なんかそんな練習というほど気合入れてやったわけじゃなくて、実際、一昨日の練習試合でも6戦くらいして1勝しかできなくて。その中でDynastyに負けた試合というのもありましたね。
KeNNy選手:最初はかなりグダってたよね。
Yuki.N選手:そのへん僕らメンバーの性格も出てて、練習では「負けてもいいや、楽しく『サドンアタック』やろうぜ」くらいのノリで。でも大会になったらみんな100%でやるという感じなんですよ。それで、見てたらわかると思うんですけど、MatchaとかKeNNyとか、自分もそうですけど、みんな声を出しながら全力で取り組むという感じですね、大会だけは。
──意外とチーム練習は少ないんですね。それとは別に個人練習みたいなことはしているんですか?
Flame選手:基本的に、練習試合といっても、それ自体がAIM(編注:銃の狙いを付ける動作)の練習みたいなもので……。
Aktm選手:クラン戦が、皆の個人練習みたいな。まあ、各個人としてはたまーにやったりとかです(笑)。
Matcha選手:1週間に、その「たまーに」があるかないかという。まあ、今回は本当そんな感じでした。
──では、「サドンアタック」自体を、1週間に1度やるかどうかというペースで、8月12日まで過ごして、そこから一斉にという感じだったんですか。
Matcha選手:(Yuki.N選手とFlame選手を指して)まあ多分、このふたりは8月12日までいっかいもやってないんじゃないかと。
Yuki、Flame選手:(笑)。
──それはショッキングですね。毎日プレイして強くなるつもりの人たちにとっては特に(笑)。
Yuki.N選手:いや、でも、自分も弱かった時期があって、そのときは「『』サドンアタック』楽しいなあ」といいつつ強い人に負けるじゃないですか。それで強い人を知って、その人より強くなりたいみたいな思いが出てきて、かなり集中的にプレイしてましたね。でも今は、どちらかというと「上」にいるじゃないですか。優勝をキープしているなかで、余裕が出てきたというか。それで練習試合はゆったりやって、試合のときは昔のように真剣に取り組むという感じですね。
Aktm選手:僕もそうなんですけど、NabDに入るまでは大会で1回も勝てなかったんですよ。でもNabD入って優勝しちゃったと。それで頂点に行けたと感じて、リラックスして。でも、また大会になると「勝ちたい」という思いが出てきて。
Yuki.N選手:やっぱり大会があるから真剣になれるという部分はありますね。
──逆に大会がなければ、ここまで強くなってなかったかもしれないと。
Yuki.N選手:というか、ゲームをやってないかもしれない(一同笑)。
Matcha選手:NabDに入ってもう2年半くらいですけど、昔はもうバカみたいに毎日やってまして。大会では勝ったり負けたりだったんです。それが悔しかったから毎日やってたんですけど、今このメンバーになってからは公式大会でも非公式大会でも1回も負けてないんですよ。それで、自分の中で「あ、もし自分が活躍できなくてもこいつらがなんとかしてくれる」という信頼感があります。実際今回全然練習してなくて、大変な目にあったわけですけど(笑)。
■ 「確実に当ててくるスナイパーのほうが怖い」──Yuki.N選手のスナイパー指南
──スナイパーとして有名なYuki.N選手に聞きたいのですが、自分のAIM技術がトップクラスになった、というきっかけはあるんでしょうか?
Yuki.N選手:自分はもともと、「サドンアタック」をやる前に「ガンズ(GUNZ)」という別のゲームをやっていて、そのゲームで既にAIMがそれなりにできてたんですよ。それで「サドンアタック」をやりはじめて、はじめはアサルトをやってたんですね。ある日アサルトからスナイパーに変えたら、思いのほかイケてるなと思って。それでスナイパーに専念するようになりました。
──潜在的に適正があったと思いますか?
Yuki.N選手:そうかもしれないですね。FPSではスナイパーって上級者向けというイメージがありますよね。初心者はアサルトやれよ、みたいな。自分もFPS自体を本格的にやり始めたのが「サドンアタック」で、まあアサルトでもやるかと思って。でもその時、たまたまチーム内に凄く上手な人がいたんですよ。日本一と言っても過言ではないくらいの人がいて。その人のスナイパーライフルを見て、「ちょっとカッコいいなあ」と思って使い始めたのがよかったですね。
──強い人を手本にはじめてみたら、これがハマったというわけですね。今、AIMするときはどういうことを意識していますか?
Yuki.N選手:スナイパーの上手い人は感覚でやってますね。
KeNNy選手:見たらもう、パッって。
Yuki.N選手:自然に動いちゃう感じなんですよ。見えたら撃つ、みたいな。
──なるほど、頭で考えてるようではその時点で負けなんですね。
Yuki.N選手:(笑)。でも結構考えることはありますよ。アサルトが来るか、スナイパーが来るか、それによって照準を置く位置は変わってきますし、見えてからの対応も違うことがあります。
──スナイパーだったら出た直後にキュッと止まるし、アサルトだったらそのまま行っちゃうかもしれない、という。
大会ではFlame選手がスナイパーを担当することも多く、度々チームトップのキル数を確保していた |
Yuki.N選手:そうですね。あとは、これは大会の時くらいですけど、皆まじめにやってて敵位置の報告があるようなときは、ずっと集中して見張っているよりは、報告を受けてから集中し始めたほうが疲れないし、弾がよく当たるようになります。そういう意味では、スナイパーは味方の報告を聞くのも重要な役割だと思いますね。
Matcha選手:敵の動きを読むことは常に必要だよね。
──情報を常に頭に入れておいて、次に起こりそうな可能性を絞り込んだ上で、最後は考えずに撃つと。
Yuki.N選手:そうですね、今までずっと撃ってきたスナイパーライフルの感覚で、サッと。
──ではやはり、Yuki.N選手クラスでも、予想外の動きがあったりすると、反応が遅れたりするんでしょうか。
Yuki.N選手:それはありますね、「何で後ろに居るの?!」とか。NabDは練習試合の時は本当にテキトウで、死んでも「あっ強え!」くらいしか言わないんですよ(笑)。それで「敵はどこに居るんだよ!」と思いつつ、あ、横から撃たれてるみたいなことは結構ありますね。で、焦って撃って、当たるか当たらないかは運次第みたいな。そんなノリです(一同笑)。
──狙いをつけるとき、速く撃つことを優先していますか、それとも正確に撃つことを優先していますか?
Yuki.N選手:正確に撃つことですね。日本にも結構強いときは強いスナイパーって居るんですよ。でも、そういうスナイパーは、成績が安定しないことが多いんですよね。「今日の○○さん」とかいって、その日だけ調子良くて、でも次の日会うと、今日は全然ダメだねというタイプが結構います。自分が思う強い選手は、やっぱり「安定したスナイパー」ですね。だって、時々爆発するといっても、大会の時にそれが出なかったら使い物にならないじゃないですか。だから確実に当ててくるスナイパーのほうが怖いですね。
──たとえタイミングが多少遅くても、撃てば当たる、というのが1番強いと。
Yuki.N選手:そうですね。自分とかでも、びっくりして撃って外すということはあるんですよ。でもそうすると、スナイパーは次がすぐ撃てないじゃないですか。その間に確実に当ててくるスナイパーにはやられてしまうという。なので、ファーストショットというのはかなり大事ですね。
■ 「努力型」のMatcha選手、アサルターの技術を語る
優勝できたのはメンバーのおかげというMatcha選手だが、チームリーダーとして率先して先頭に立つシーンが多かった。その積極性はアサルターとしての本能か |
──アサルター代表としてMatchaさん、腕を磨いた経緯を教えてくれませんか。
Matcha選手:僕は「サドンアタック」を3年前の9月か10月くらいに始めたんですけれども、最初はFPSというゲームを全く知らなかったんです。ただ、昔やっていた「GUNZ」というゲームで強かったプレーヤーが「サドンアタック」に来ていたので、そいつに勝ちたいなあと思ってまして。それでひたすら、強いクランに媚を売ってでもいいから入ろうと思って、そこで色々教えてもらいながらやってました。
そこでSACTL(「サドンアタック」クラントーナメントリーグ)の2007に出ることができたんですよ。でもボコボコにされましたね。それが悔しくてもっと強くなりたいなと思っていたところに、そのクランにいた人たちから「NabDを作らないか」という話をされて。そしてNabDを作って、それから勝つためにひたすらずーっと野良プレイをやって、練習漬けでしたね。
Flame選手:Matchaは努力型だもんなあ。
Matcha選手:うん。何のゲームにしても最初はドヘタクソなんですよ。「操作わかんねーし」みたいな。
──いちばんのめり込んだ時期では、1日何時間くらいやってましたか。
Matcha選手:多分、10時間とかやってましたよ。
Aktm選手:ん、普通じゃん。
Flame選手:強いなお前ら(笑)。
AIM練習によいというマップ「ウェアハウス」 |
──皆すごいですね(笑)。
Matcha選手:ほんとに悔しくてずーっとやってて、それで気づいたら、目標だった人を、追い抜いたのかな、今は。どうだろうね。
Aktm選手:(笑)。
Matcha選手:まあ、それはわからないですけど、練習してた間に意識していたことは、相手チームに居る強いプレーヤーの動きだとか、タイミングを意識するということです。あとはNabDでは、どのチームとやるときでも、相手チームのクセを見るということを意識してるんですよ。相手チームの強いやつはこういうタイミングで攻めてくるだとか、ピンチになったらこういう動きをするということを頭に叩き込んで、それをもとにチームを指揮してました。そうすると勝てる、面白いなこのゲーム、と。
──アサルターというのは反射神経で勝負する部分もありつつ、意外と頭を使って戦う部分も大きいわけですね。
Matcha選手:そうですね、僕の場合は結構。最近は練習が少ないせいで全然考える余裕がないんですけど、昔いちばんやってたころは相手の動きが、壁の向こう側が見えてるんじゃないかというくらい本当にわかりましたし。それがAIMもそうですし、グレネードをどのタイミングで使うか、仲間をどう動かすか、そういう判断ができましたね。
──なるほど。
Matcha選手:スナイパーは元々考えることが多いじゃないですか。だからあまり考えすぎると頭がパニックになるでしょ。
Yuki.N選手:んー、まあそうかなあ。
Matcha選手:アサルターはその場で敵が出てきてもバーッと撃てばいいやみたいな。読みが合わなくて相手が出てきたらもうテキトウですよ本当に。敵に合わせてクリックすりゃいいやって。
■ マウスは全員「IE3.0」!! トッププレーヤーのこだわり、一問一答
KeNNy選手はFPS暦10年を超えるベテランだが、他のメンバーは3年ほどと、意外と短い。トップレベルになるまでは1年か2年程度というところか |
──ちなみに皆さんFPS歴はどれくらいですか? KeNNy選手は「CS」からだから10年くらいですよね。
KeNNy選手:そうですね。10年くらいですね。
Matcha選手:僕は3年くらいです。
Aktm選手:2年半くらいかな。
Yuki.N選手:皆3年くらいじゃないかな、オープンβからだから。
Flame選手:僕も3年くらい。
──じゃあ皆さん「サドンアタック」が始めてのFPSだったんですね。その前はどんなゲームをやっていたんですか?
Flame選手:パズルゲームやってました。
Matcha選手:「GUNZ」っていうTPSのアクションゲームですね。
Aktm選手:僕も「GUNZ」ですね。
Yuki.N選手:ちなみに、Matchaと僕は「GUNZ」のときに同じクランで活動してました。もう6年くらいの仲だよね。
Matcha選手:KeNNyは「Counter-Strike」だね。言わずと知れた有名クラン(笑)。
──ゲーム以外で、FPSの腕を磨くためにやっていることってありますか? マウス捌きや反射神経を鍛えるような。
Matcha選手:やってるというほどじゃないですけど、大会のオンライン予選の時とかは、とりあえず外に出ますね。外に出て、車とかを見て、動く物に目を慣れされるというか。
──昔の野球漫画みたいですね。
Matcha選手:(笑)。でも本当に、それが効いたなという感覚はあります。
KeNNy選手:電車が通るときに、中の人を目でこうやって追う練習とか。
Aktm選手:あー、やるやる。
KeNNy選手:あと、試合前にウォーミングアップするために、音ゲーとかやります。FPSだと横移動が基本で、音ゲーは上から降ってくるやつやってますけど、目を動かすという基本は変わらないので。
使用デバイスは滅多に変えず、特にマウスは長年同じものを使い続けているというメンバー。何よりも慣れ、無意識の感覚というものが重要ということか |
──使用デバイスについても聞いておきたいと思います。マウスについては何を重視してますか?
Yuki.N選手:やっぱり自分の手にフィットすること。自分の中ではいちばんマウスが重要なので、だからあまりコロコロ変えたくないですよね。
──皆さんもそうですか。
Matcha選手:そうですね、変えたくないですね。ここにいる全員IE3.0(Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0)だと思います。
Flame選手:あと学生が多いので、IE3.0は安いから(一同笑)。
──野球のイチロー選手みたいですね。いつものバットに体を合わせてるから、他人のバットは絶対に触らないという。
KeNny選手:はい、絶対触らないです。
Aktm選手:ちょっと触っただけで感覚がおかしくなるので。
Yuki.N選手:握った最初は、これいいなあとか思うことはあったんですよ。それで最初の数日は「俺、これ調子いい~」とか言ってたんですけど、もう2日後くらいになると「ダメだこのマウス……」みたいになって。それで結局最初のマウスに戻っちゃったりとか、そういうことは結構多かったです。
──モニターについてはこだわりがありますか?
Matcha選手:最近までずっとCRTでした。
KeNNy選手:こだわりとしては、できるだけCRTでやりたいというのはありますね。
Yuki.N選手:FPSではCRTがいいって結構言われているんですが、でも大会は液晶になっちゃったんですよね。そうなると普段家でCRTでやってるよりは、液晶で慣らしておいたほうがいいかなと。あと、アスペクト比は絶対4:3ですね。ワイドだと、横幅の感覚とか変わってきますし。
──横幅が変わるとマウス感度の具合も違ってきますからね。やはりマウス感度も固定ですか。
Yuki.N選手:基本的に変えないですね。
KeNNy選手:当日に変えることは絶対にないですね。
Matcha選手:強いて言えばマウスパッドを変えるときとかにちょっと下げたり、上げたり。あとは解像度(DPI)くらいじゃない? 気分によって変える日とか。
Aktm選手:うーん、そうかな。
■ FPSで強くなりたい人たちに、NabDメンバーからのメッセージ
──最後にひとりづつ、FPSで強くなりたい人たちに向けて、上達のためのアドバイスをお願いします。
Flame選手:練習試合のときに、相手がどこに居るのか常に動きを推測しながらプレイすると自然に上達すると思います。
Yuki.N選手:常に向上心を持ってやることですね。死んだ時も重要です。仲間の動きやその後の流れを見て、こういう時は敵がここにいるんだなということを意識する。戦ってないときにも得られる情報をフル活用することが強くなる秘訣かなと。やっぱり、定番の動きもありますから、やられてすぐに「もういいや」となってしまうより、しっかり画面を見てそういうことを学んだ方が強くなれると思いますね。
Matcha選手:個人的な強さについてはアサルトしかわからないですけど、とにかくやりこむということが大事だと思います。デスマッチをひたすらやる。まあそんな長時間じゃなくても、1日500キルやるとか目標を決めて。デスマッチは何も考えずに見えたら頭に当てる、ひたすらヘッドショットを出すことだけを考えてやる。5対5のクラン戦だったら自分から突っ込んで、囮になるくらいの勢いでひとりでもふたりでも倒せばいいという感じで、ひたすら続けることが大事かなと思います。
Aktm選手:自分よりレベルの高いクランに入って、そこで学ぶことが秘訣かなと。自分もそうだったので。ただ現状だと、本当に強いクランは5人固定でやってることが多いので難しいかもしれません。中堅クランなら入れるかもしれないので、そこで強い人の画面を見てステップアップできれば。個人練習ではデスマッチでAIMを磨いて、クラン戦のときは強い相手とやって、立ち回りを勉強することが大事たと思います。立ち回りがないと、AIMが良くても2キルはできないので。
KeNNy選手:ほとんど言われちゃったんですけど(一同笑)。まあ第1にやりこむことだと思います。僕なんかは「サドンアタック」の前に別のゲームやってたので少し例外かもしれませんけど、上手い人のプレイを見て、動きとか、AIMとか、良いところを盗んでいくというのが近道じゃないかなと思います。「サドンアタック」の場合はデモ機能とかないし、上手い人のプレイを見る機会がなかなか作れないかもしれませんけど、こういう大会の機会や、動画でレベルの高い試合を見るのもいいと思います。あとはひたすら、それを実践で確かめて、自分に合ったものを身につけて、という練習が効果的かなと。
──まず強い人のプレイを見て、頭の中にそのイメージを作って、そのイメージを自分のプレイに反映させるような練習をということですね。
Yuki.N選手:上手い人が居るポジションというのは、絶対理由があるんですよ。なぜその場所に居るのか。上手い人というのは経験を積んでいて、経験を踏まえた上でプレイしていますから、その理由を見つけて自分でプレイするというのもFPSの面白みですね。
──なるほど。研究、そして練習ですね。皆さんありがとうございました。
■ 「NabD」こだわりの使用デバイスはこれだ!
強い相手とプレイして、その技術を盗むのがいちばんだと語る「NabD」のメンバーたち。その全員が、上達するまでは1日何時間も集中的に練習してきたという点で共通している。特に興味深いのは、いったん上手くなった後は、あまりプレイせずとも高いレベルを維持しているという事実だ。大会前に集まって、慣らし運転のような練習を1週間ほど行なうだけで優勝してしまうのだから、身についた技術はそう簡単に忘れないものなのだろう。
もちろん、5人にはそれだけではない独自のこだわりがある。それが特に出ているのが、プレーヤーの目となり手となる使用デバイスだ。特にマウスに関してはプレイ感覚が大いに左右されるデバイスであり、メンバー全員が「固定」することを望んでいる。それによって感覚を守り、多くの練習をすることなく高い実力を維持しているということだろう。
「NabD」使用マウス | |
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Matcha | Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0 |
Aktm | Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0 |
KeNNy | Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0 |
Flame | Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0 |
Yuki.N | Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0 |
「Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0」 |
しかし、全員が「Microsoft IntelliMouse Explorer 3.0」を使用しているというのには筆者も驚いた。このマウスは初期モデルが2002年に発売された製品で、センサーは光学式、解像度は400DPI。もちろんゲーム向けのモデルではないので、性能的には他のゲーミングマウスと比べれば大きく劣っている。
しかし、2007年に発売された改良版はセンサー性能が向上しており、それなりの高速追従性を持つ。この点でゲーム用途にも十分使える製品ではある。それを、「NabD」のメンバー全員が使い続けている。性能は必要十分であればよく、より大事なのは「慣れ」ということだろう。
もし、「NabD」のメンバーが最新の高性能ゲーミングマウスに装備変更を行なったらどうだろう。長期的にはより強くなれるかもしれないが、短期的には違和感が先にたち、成績がふるわない期間が続くかもしれない。マウスの性能で変わるのは誤差のレベルで、だから使い慣れたマウスを使い続けて、よりプレイ感覚を研ぎ澄ませたほうがいい……という判断だろう。多数のモデルをリリースしているゲーミングデバイス企業には、少々耳の痛い話かもしれないが。
「NabD」使用マウスパッド | |
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Matcha | Zowie Swift Black |
Aktm | SteelSeries QcK 63004 |
KeNNy | Zowie Swift Black |
Flame | SteelSeries QcK Heavy |
Yuki.N | Razer Goliathus Speed Edition |
「NabD」使用マウスソール | |
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Matcha | Hyper Glide ms-3 |
Aktm | 純正 |
KeNNy | Hyper Glide ms-3 |
Flame | SteelSeries Glide MS |
Yuki.N | SteelSeries Glide MS |
マウスの能力を最大限に引き出すためにはマウスパッドの選択も重要だ。「NabD」のメンバーが使用するマウスパッドはZOWIE、SteelSeries、Razerのゲーミング3ブランドの製品にわかれた。このうちアサルターのMatcha選手とKeNNy選手がプラスチック系の「ZOWIE Swift」を選択し、対するスナイパーのFlame、Yuki.N両選手は布系の中でも生地が厚めのものを使用している点が興味深い。
また、Aktm選手を除く4選手は、マウスソールにゲーミング用のものを使用して、「InteliMouse Explorer 3.0」の操作パフォーマンスを向上させている。こういった細かい点もプレイ内容を改善するために役立っていそうだ。
Zowie Swift | SteelSereis QcK | Razer Goliathus |
「NabD」使用モニター | |
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Matcha | 三菱 Diamondtron Flat RDF19X |
Aktm | 不明 |
KeNNy | LG FLATRON W2486L-PF |
Flame | LG FLATRON W2486L-PF |
Yuki.N | LG FLATRON L1753S |
インタビューでは皆が口をそろえて「CRTが理想」と言っていたモニターについて。Matcha選手は現在でもCRT「Diamondtron Flat RDF 19X」を使用している。発売は1998年だから、もう骨董品というレベルだ。KeNNy選手とFlame選手はLEDバックライトタイプの16:9液晶を使用。ゲーミングモデルというわけではないが、TNパネル採用で遅延の少ないモデルだ。そしてインタビューで「4:3」にこだわっていたYuki.N選手は、実際に4:3タイプの液晶モニターを使用している。自宅と大会会場での環境の違いを最小にする、という意識がここに表れているようだ。
「NabD」使用キーボード | |
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Matcha | Realforce 91 UBK |
Aktm | Realforce 101 |
KeNNy | Realforce 101 |
Flame | 不明 |
Yuki.N | GMKB109BK |
「RealForce 91 UBK」 |
「立ち回り」に重要となるキーボード。「NabD」メンバー3人までが東プレの「RealForce」シリーズを使用している。「RealForce」はキータッチが軽く、長時間のタイピング作業でも疲れにくい……ということがウリとなっている製品だが、その特性はゲーム用途にも向く。国内ゲーミングブランドのDHARMAPOINTでは、「RealForce」をベースとするゲーミングキーボード「DHARMA TACTICAL KEYBOARD(DRTCKB91UBK)」を出しているほどだ。
Yuki.N選手が使用しているシグマA・P・Oの「GMKB109BK」は、FPSなどのプレイ時に同時押しするキーがきちんと反応するよう、「WSAD」まわりの複数同時認識能力を確保したゲーム向けのモデル。それ以外の使用はごくスタンダードで価格も安価な製品であるが、きちんと立ち回りが行なえるという点で必要十分のチョイスといえそうだ。
「NabD」使用ヘッドセット | |
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Matcha | Sennheiser PC350 |
Aktm | Sennheiser PC161 |
KeNNy | Sennheiser PC160 |
Flame | 不明 |
Yuki.N | DRTCHD01BK |
「Sennheiser PC350」 |
音の聞き分けは敵の位置や行動を知るために重要な要素。それだけにヘッドセットもFPSプレーヤーにとって重要なデバイスだ。「NabD」メンバーの多くは音質重視のゼンハイザー製ヘッドセットを利用している。
このうちMatcha選手が使用している「PC350」は元々ゲーミング向けにデザインされた高性能モデル。実売価格は2万円近くと、相当のこだわりがなければ選択できない製品だ。またKeNNy選手は以前、筆者との会話で「長時間疲れないことも大事」としてゼンハイザーのヘッドセットを薦めてくれたことがある。イヤーカップ周りの出来のよさも、ハードな練習を重ねるゲーマーにとっては重要なポイントなのだ。
【付録:「NabD」メンバー リアクションテスト結果】 | |
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Matcha選手 | Aktm選手 |
KeNNy選手 | Flame選手 |
Yuki.N選手 | |
最後に、「NabD」5選手の反射神経テスト結果をご紹介しておこう。テストに使用したのはフリーのFLASHゲームとして公開されている「Reaction Test」というアプリケーション。画面中央に表示された赤い円が黄色くなった瞬間にマウスボタンをクリック、というテストを5回繰り返し、平均時間を出すというものだ。筆者の場合は平均値0.20秒あたり。
数値にバラつきが見られるKeNNy選手(たまたま調子が悪かったのだろうか)を除くと、全員が平均0.20秒を下回る数値を出している。特にMatcha選手、Yuki.N選手は0.15、0.16秒台のリアクションを見せており、高い潜在能力をうかがわせている。もちろん、Matcha選手はCRTを使用しているため、液晶モニターを使っている他のメンバーに比べて表示遅延の面でやや有利ではある。
それでも、液晶モニターを使用している中でもチーム内最短の平均リアクションタイムを叩き出しているYuki.N選手が、「サドンアタック」国内最高クラスのスナイパーであることは偶然だろうか。やはり、ある種「才能」に属する部分はあると考えてもいいように思う。
しかし、「NabD」の全員を見て明らかなように、その才能を引き出すためには日々ゲームで腕を鍛える、動くものをすばやく捉えるという訓練を続けることが大事だ。KeNNy選手が言うように、強い人のプレイを見て、学び、実践を通じてそれを自分のものにしていくというプロセス。これからFPSで強くなっていきたいと思うプレーヤーは、是非自分が得意とするゲームを意識してやりこんでみて欲しい。いつか既存の限界を突破する日がくるかもしれない。
(2010年 9月 9日)