【連載第12回】あなたとわたしのPCゲーミングライフ!!


佐藤カフジの「PCゲーミングデバイス道場」


これがゲーマーの毎日を快適にしてくれるアイテムだ!
夏の盛りは「ゲーミングキーボード」にこだわってみよう


色々な意味で業界の「最先端」を走る、PCゲーミングの世界。当連載では、「PCゲームをもっと楽しく!」をコンセプ トに、古今東西のPC用ゲーミングデバイスに注目して、単なる新製品の紹介にとどまらず、競合製品との性能比較や、新たな活用法の提案、果ては改造まで、 様々なアプローチで有益な情報をご提供していきたい。



 ■ 「快適」を提供してくれるデバイスとは?

ゲーマーが酷使する「WSAD」周辺はまさにゲームコントローラーの役割。今回はゲーミングキーボードを特集

 梅雨も終わり、うだるような暑い夏が始まった。こんな時期は暑さを吹き飛ばすべくアクティブに過ごしたいもの。とはいえ時には空調の効いた部屋でゆるりと好きなゲームに勤しみ、日々の疲れを癒すというのは、趣味人にとって最高の贅沢のひとつであろう。そんなヒーリング効果たっぷりのPCゲームライフには、楽しさ・面白さとおなじくらいに「快適さ」を求めたいものだ。

 快適さを与えてくれるPCゲーミングデバイスとは何だろうか? PC本体、モニター、スピーカー、いろいろ考えられるが、マウスを握ればすぐ汗でじっとりしてしまうような季節であるだけに、やはりここは手で直接触れるインターフェイスデバイスに注目すべきだろう。では、インターフェイスデバイスで、最も長時間触れているものは何だろうか?

 その答えは、ほとんどのPCゲームシーンにおいて「キーボード」ということになるだろう。ゲームパッドでプレイするゲームは例外になるが、ほぼ全てのゲームでキーボードは激しく酷使される。RPGタイプのゲーム、アクションゲーム、戦略ゲーム、はたまたFPSでも、キーボードは重要な入力装置だ。しかし、ゲーマーにはチャットやショートメッセージや掲示板などでコミュニケーションする機会が多いので、ゲーム外でも同様に重要だ。

 キーボードは何万、何百万回と「打鍵」することになるデバイスであるだけに、その操作性や利便性がユーザーに与える感覚は、少しの違いが大きな差となる。素晴らしいキーボードなら、PCゲームライフの快適さを大いに引き上げてくれるし、自分に合わないものを使えば、不快なキータッチで快適さが損なわれるだけでなく、慢性的に余計なストレスを生じてしまうことだろう。

市場には無数のキーボードがあるが、その中からゲーミンググレードの製品を抽出することで「ハズレ」を引く可能性を大きく減らせる

 しかし、意外とゲーマーの投資の対象になりにくいのもキーボードというデバイスの特徴だ。製品のグレードに応じて明確な性能差を見ることのできるマウスと違い、キーボードの違いはあくまで感覚的なものが大きいためだろう。だが、その違いが感覚的だからこそ、快適に過ごしたいこの夏、敢えてキーボードに注目してみたい。

 ではPCゲームシーンに求められるキーボードの特性とは何だろうか? これも主に感覚的な基準になってしまうが、筆者の考えるところでは、ゲーム内外の快適さにつながるポイントは以下のようなものだ。

 ・気持ちの良い打鍵感、使いやすいキー配置
 ・FPSなどで多用する複数キーの同時押しが可能
 ・長時間使用しても疲れを生じにくい
 ・無駄が少なく、限られたスペースを有効に使える
 ・用途に必要な機能(メディアキー、マクロ機能など)がある
 ・反応性を高めるために何らかの工夫が施されている
 ・ゲームに向かう気分を盛り上げてくれるデザイン

 世の中には無数のキーボード製品が存在するが、これらの全てを満たしてくれる製品は、ほとんどないと言っていいだろう。人によって求める機能の優先順位が異なるため、万人にベストフィットする製品はデザインしようがないからだ。しかしそれでも、ベターな選択に近づく方法はある。そのひとつは、はじめからゲーム用途を考えてデザインされた、「ゲーミングキーボード」を選択することだ。

 「ゲーミングキーボード」として販売されている製品であれば、複数キーの同時押しや、マクロといった機能面ははじめからクリアされているケースがほとんどだ。その上で、打鍵感、疲れにくさ、形状、その他の特性も、高いレベルでまとまっているのが通例である。というわけで、夏のゲーミングシーンを快適にしてくれそうな個性的ゲーミングキーボードを、筆者の独断と偏見でチョイスしてみた。内容と価格であなたのお気に入りの1台が見つかれば幸いだ。

【今回のラインナップ】
Sidewinder X6 Keyboard
発売元:マイクロソフト
DRTCKB102(UBK)

発売元:シグマAPOシステム販売
DRTCKB91(UBK)
発売元:シグマAPOシステム販売
steelseries 7G
発売元:steelseries aps/ゲート
Razer Lycosa
発売元:MSY
Razer Arctosa
発売元:MSY


■ テンキーユニット着脱可能! マイクロソフトの超個性的なゲーミングキーボード

【Microsoft Sidewinder X6 Keyboard】
発売元:マイクロソフト
価格:8,800円
発売日:2008年10月24日
寸法:513×234×32mm
マクロ機能:あり
特徴:テンキーユニットを着脱可能

特徴的なフォルムを持つゲーミングキーボード
テンキーユニットが着脱可能だ
多数のマクロボタンを備える

 マイクロソフトが昨年秋に発売したゲーミングキーボード「Micorosft Sidewinder X6」は非常に個性的な製品だ。最大の特徴はテンキーユニットが着脱可能な構造となっていることで、フルキー部分の左右どちらにも取り付けられるほか、テンキーレスでの使用も可能と、省スペース志向のゲーマーにとって非常にありがたい特性を有している。

 もうひとつの特徴は、キーボード全体に配置された大量のマクロキーだ。フルキーボードの左側に2モード切替可能な6つのマクロ専用ボタンがあり、さらにテンキーユニットのキー全てをマクロボタンとして使うこともできる。これらをあわせると、マクロ専用として使えるボタン数は都合30個もあり、何かと自動化したいMMORPGや戦略ゲームのプレーヤーにとっては最適の選択だろう。

 このほか、キーボード上部にはマクロ記録専用キーや、メディアコントロールキー、MMORPGなどでの移動時に便利な「特定のキーを押しっぱなしにしてくれるスイッチ」、そしてボリュームコントロールとバックライトの調整に使う2つの大きなダイヤル型入力装置がつく。見た目からして「ゲーム用」を強く主張するデザインだ。

 これだけの機能を一気に詰め込んだためか、キータッチについては特筆すべき特徴はない。キーストロークは浅めで、薄型キーボードとしては一般的なメンブレン式のスイッチを採用。打鍵感は非ゲーミンググレードの廉価キーボードにもよく見られるタイプで、軽いクリック感を経て「サクッ」と底面にぶつかる印象だ。キートップがやや不安定で、カチャカチャと音を立てるのが気になる点ではある。

 弱点としては、キーボードの構造上、背面にチルトスタンドが存在しないため、角度をつけられないことが挙げられる。また、FPS系ゲームでは重要な同時押しに若干の不安要素があり、3キー以上の同時押しで反応しなくなる組み合わせが、実用上はそれほど気にならないながらも存在する(D→F→Gといった特定の順番でそれが起きる)。

 いくつかの弱点を抱えているものの、本製品は標準価格で8,800円と、ゲーミンググレードのキーボードとしてはかなり安価だ。そして大量のマクロボタン、着脱可能なテンキーユニットなど、好ましい特徴も多いため、総合的に見ればかなりお買い得な製品といえるだろう。MMORPGや戦略ゲームを中心にプレイするプレーヤーなら、ちょうど良い選択になりそうだ。


ユニークな形状と、着脱可能なテンキーユニットが面白い製品。マクロキーボードとしても非常に柔軟性のある内容になっているので、標準価格8,800円というのはなかなかお買い得なのではないだろうか

テンキーユニットは左右どちらにも装着でき、無用ならば使わなくても良い。テンキー無しの状態では省スペース型キーボード並みのサイズになるので、机上のスペースを有効活用できる



■ ダーマポイント最新作、「黒軸」採用の省スペース型キーボード。男気を感じるWINキー省略!

【DRTCKB102UBK】
発売元:シグマA・P・Oシステム販売
価格:オープン(実売価格10,000円前後)
発売日:2008年11月21日
寸法:150×379×29mm
マクロ機能:なし
特徴:チェリー製MXスイッチ黒軸採用

過剰な装飾を廃したシンプルなデザイン。テンキー付きながら幅は380mmにとどまる
Windowsキーをなくし、CTRLキーとスペースバーを充分なサイズに配した

 国内のゲーミングデバイスブランド「ダーマポイント」からは、まず「DRTCK102UBK」をご紹介しよう。これは昨年末に発売された製品で、この次に紹介する「DRTCKB91UBK」に続いて登場した最新作だ。最大の特徴は、テンキーを含む必要なキーを全て取り入れつつ、全幅380mmという省スペースを実現していること、そしてキースイッチにドイツ・チェリー製のMXスイッチ黒軸を採用していることだ。

 チェリーのMXスイッチ黒軸は、一般にメカニカルスイッチと呼ばれるタイプの中でも、特に人気のあるモデルだ。メカニカルとはいえ「カチカチ感」は皆無で、「スッ」と心地の良い抵抗感、打鍵感だ。これだけでも高級キーボードの手触りを感じることができる。

 また、スイッチの反応ポイントが2mm程度の深さに設定されており、薄型キーボードなみの高速応答性を実現しているのもポイントだ。おかげで軽いタッチでゲームを操作することができる。これらの特徴から、本製品は長時間の使用でも疲れにくい。この点はハードにゲームをプレイする人ほど「違い」を実感できるはずだ。

 そしてテンキーを含みつつ全幅380mmというサイズは、一般的なテンキーレスキーボードとほぼ同等の省スペースぶりである。マウス操作のために大きなスペースをとりたいと考える、多くのFPSゲーマーにとって、これは非常に重要な特性である。また、本製品ではWindowsキーを廃止しており、そのぶんをCTRLキー、スペースバーの大型化にあて、操作性を向上しているのが嬉しいポイントだ。

 その一方で、省スペース化のために犠牲も払われている。一般的なフルキーボードに存在する「Insert」から「PageDown」まわりの特殊キーの集合が省かれ、これらをテンキーで代用することになっているほか、カーソルキーがかなり詰まった位置に押し込められている。

 これはノートPC用キーボードに似て、省スペースキーボードにおける標準的な配置といえる。しかし、ゲームのプレイ上は気になりにくいとはいえ、テキスト作業の多い、コミュニケーション志向のゲーマーにとっては少々やっかいな点といえそうだ。それでも、要するにこのキー配置が問題なければ、本製品は間違いなく「買い得」である。


シンプルなデザインは質実剛健を好むゲーマーに受け入れられそう。また、チェリー黒軸の打鍵感はタイピング用途にも向くため、あらゆるシーンで有効活用できる

省スペース化にともなう各種インジケーターの配置難は、キー内部にLEDを配置することで対処している



■ 質実剛健のテンキーレス。羽毛のように軽やかな打鍵感を味わえるこだわりのキーボード

【DRTCKB91UBK】
発売元:シグマA・P・Oシステム販売
価格:オープン(実売23,000円前後)
発売日:2008年5月23日
寸法:366×169×38mm
マクロ機能:なし
特徴:東プレ「RealForce」シリーズのゲーミング仕様

無駄のないシンプルなデザイン。一般のキーボードからテンキーだけをばっさり切り落としたフォルムだ
カーソルキー周りの配置は一般的なフルキーボードと同じなので、他のキーボードからの乗り換えに支障がない

 上記と同じく「ダーマポイント」ブランドの製品である。こちらの「DRTCKB91UBK」は同ブランドのキーボード第1号にあたり、製品内容としてはややオリジナリティに欠けるものの、あらゆるキーボード中でタイピストに愛されるスイッチを採用している点でユニークな存在だ。

 そのスイッチとは「無接点静電容量方式」と呼ばれる、東プレ独自の方式だ。要するにこの「DRTCKB91UBK」は、東プレ「RealForce」の派生品なのである。独自のスイッチ方式により実現された、極めて軽やかな打鍵感、「スッ」と押し込まれていく素直なキートップの抵抗を、本製品で味わうことができる。

 東プレの「RealForce」シリーズは高級キーボードの中でも鉄板の存在として知られており、特にテキスト作業を多くおこなうタイピストや、筆者のようなライターに人気だ。実際筆者も、仕事用に複数の「RealForce」を使用している。本製品はその延長線上にあるわけだが、ゲーム向けカスタム品であるが故の価格差を考慮すると、やや手が出しにくいのも確かである。

 そこで本製品独自の特性をどう評価するか。最大の違いとしては、オリジナルの「RealForce」シリーズがキーの位置ごとに異なるキー加重を設定しているのに対して、本製品では、全てのキーに最も軽い30gの加重を設定してある。ゲーム操作はタイピング時の使い方と異なり、ホームポジションが存在しないいことを考慮しての調整だ。

 この違いをはっきりと体感するにはじっくりと使い比べる必要があり、かなり繊細な感覚の持ち主でないと見抜くことは難しい。それだけに敢えて「RealForce」ではなく本製品を選ぶには、店頭で実際に触ってみる機会を設けて、時間をかけて吟味することが必要だろう。

 なにしろ実売価格で2万円以上という、ゲーミングデバイスに限らず汎用キーボードとしても最高級クラスにランクされる製品である。相当のこだわりをもって選びたいものだ。


キートップは英字のみのプリントになっているが、配列は日本語タイプに準じている。軽く快適なタイピングが可能なのでゲーム外の用途にも向く

本家「RealForce」との具体的な違いは、全キーが30g加重に統一されていることと、背面のディップスイッチでCTRLとCAPSLOCK、ESCと半角/全角キーの位置を交換できること、となる。同じ91キーの「RealForce91UBK」が16,000円台から手に入ることを考えると、少々悩ましい選択になりそう



■ steelseries流、高速応答性を重視したFPSゲーマー御用達のハイスペックキーボード

 

【steelseries 7G】
発売元:steelseries aps/ゲート
価格:22,800円
発売日:2008年3月5日
サイズ:450×135×35mm(パームレスト無し)
マクロ機能:なし
特徴:チェリー製MXスイッチ黒軸と応答性を高める金メッキ回路を採用

パームレストをつけた状態は本当にでっかい!
一方パームレストをはずすと、無駄のない形状にはやがわり。こちらの状態で使っているユーザーが多いようだ
背面には2ポートのUSBハブ、そしてヘッドセット用のオーディオコネクタがある

  北欧のゲーミングデバイスメーカーsteelseriesは、マウス、ヘッドセット、そしてキーボードと、多数の製品をラインナップする存在に成長している。そのsteelseriesが開発したキーボードの中でも、特にハイエンドで、高価ながら値段相応の価値を提供してくれそうな存在が「steelseries 7G」だ。

 特徴的なのは、まずその外観。巨大なパームレストをつけた状態の寸法は480×250mm(幅×奥行き)で、テンキーレスキーボードに比べ、タテヨコ10センチ以上大きい。箱出しの状態ではパームレストが装着されているのでついそのまま使ってしまいそうだが、はずしてしまえば450×135mmと、まったく無駄のない形状となる。この柔軟性はありがたい。

 そして、機能的な特徴は大きなところで2点ある。ひとつは、キースイッチにチェリー製MXスイッチ黒軸を採用していることだ。これはお気づきの通り、上記で紹介したシグマAPOの「DRTCKB102UBK」と同じ系統のスイッチで、打鍵感の良さは折り紙つき。サク、サクッと心地よいタイピングを楽しめる。

 ではゲーミングデバイスとしての機能はどうだろうか。それが本製品のふたつめの特徴、高速応答性である。本製品における応答性は、2つのアプローチで高速化されている。ひとつは、キーの反応開始位置を、2mmという浅い位置に設定している点。そして2つめは、全スイッチに18金のコーティングを施している点だ。

 昨年弊紙でご紹介したレビュー記事(PCゲーミングデバイスレビュー「SteelSeries 7G」)では、実際に高い応答速度を持つことが確認できている。確かにわずかな差にすぎないが、1瞬の差が命取りになるFPS系のゲームでは確実にアドバンテージになる部分だ。

 また本製品は、接続端子としてUSBとPS/2の両方をサポートしているのも見逃せない。USBでは原理的に同時押しの認識が可能なキーの数に上限があり、一般的には6キーが限界といわれる。実用的にはこれでも問題がないのだが、それ以上のキーを同時押ししたい場合は、キーボード専用のインターフェイスであるPS/2が有利だ。本製品ではPS/2接続時に「全キー同時押し」をサポートする。同時押しがらみの誤動作がないという安心感を得られるわけだ。

 価格は2万円超と最高級の位置にあり、なかなか手を出せなさそうな存在だが、機能面はとてもしっかりしている。特に様々な工夫による高速応答性は、実際にプレーヤーの実力を高めてくれそうな効果を期待できるので、少しでも「強くなりたい」と願うハードゲーマーならば、本製品を選択する充分な理由を持つかもしれない。


パームレストを装着しているととにかくでかい。しかしいったん外してしまえば、一般的なフルキーボード以下のスリムな形状となるため、一般的な机上スペースでも充分に活用できる

キーボード上部のファンクションキーの一部はメディアコントロールキーとして使うこともできる。また背面に2つのUSBポート、ヘッドセット用のオーディオジャックを備えているのは嬉しいポイント。ケーブルはUSB、PS/2、オーディオ端子がセットになっている



■ 充実のマクロ機能、そしてビカビカ光るハデさがRazer流。薄型の高速打鍵も鍵

【Razer Lycosa】
発売元:MSY
価格:13,440円
発売日:2008年1月31日
寸法:469×168x15mm(リストレスト無し時)
マクロ機能:あり
特徴:USBポート1、ヘッドセット接続端子つき。使用時バックライトが点灯

「Lycosa」はじつにRazerらしいゲーミングキーボードだ
右上のインジケーター部には、タッチセンサー式のメディアコントロールボタンが配置されている
上面にはUSB2.0ソケットがひとつと、ヘッドセット接続用のオーディオ端子がある
  ゲーミングデバイスメーカーとして世界的に有名なRazerは、もちろんキーボード製品も大量に作っている。その中で国内でも取り扱われている製品のひとつが、「Razer Lycosa」だ。本製品はRazer製キーボードとして非常にオーソドックスな製品で、一言で言うなら「ゲームパーティに持って行きたい外観と性能」を有する製品となっている。

 まず、特徴的なのは、薄型のキートップを採用し、高速打鍵を意識したデザインになっていることだ。これに加え、専用のドライバーをインストールすることによって「Ultrapolling」と呼ばれる機能がONになり、秒間最大1,000回という高速なレートでキーボードとPC間の通信が行なわれるようになる。一般的なUSBデバイスは秒間125回/秒というレートなので、確実な差が生じるわけだ。

 もうひとつの特徴は、キーボード上の全てのキーがマクロボタンとして使用できること。ドライバーをインストールすることで使えるようになるユーティリティ上で、任意のキーに対して自由なマクロ設定を行なえる。いわゆるマクロ専用のボタンというのは用意されていないが、例えばテンキーやファンクションキーをマクロ用に使うといったやりかたでかなり柔軟な運用ができるので、ボタン数に対する問題は感じられない。

 さらに、ハードウェア的な特徴としては、キーボード背面にUSBポート1つと、ヘッドセットを接続するためのステレオジャックおよびマイク端子が装備されており、デバイスの着脱をキーボード周りだけで行なえるという利便性が提供されている。そのため、キーボード本体から伸びるケーブルにはUSB端子2つ、オーディオジャック2つが束ねられている。

 また、これが特にRazerらしいのだが、全てのキーにバックライトLEDが設置されており、デフォルト設定では全キーが青く光るというオマケつき。これはドライバーユーティリティ上の設定で、完全OFF、あるいはWSAD周りだけを光らせることが可能。しかしもう一歩進んで、任意の配列で点等させることができれば、ゲームパーティなどで面白いネタを披露できて楽しさが増したかもしれない。

 本質的な話に戻るが、本製品の薄型のキータッチは「サク、サク」と小気味良い感触で、キートップにラバー系のコーティングが施されていることもあって、手触りは非常に良好だ。価格は1万円を超えるため、少々手が出しにくい範囲にあるのも事実だが、性能、機能面には死角が少なく、Razer流バックライト点灯の格好良さに惹かれてしまうのなら、良い選択肢だ。


薄型の特徴的なフォルム。チルトスタンドを立てればある程度の角度が確保できるので、タイピング用途でも抵抗はない。キータッチにはリニアでほどよいクリック感があり、キートップがラバーコーティングされているおかげか、手触りがとてもマイルド。薄型キーボードとはいえしっかりとした打鍵感を得られる



■ 求めやすく「ゲーミング」の雰囲気を味わえる廉価版キーボード

【Razer Arctosa】
発売元:MSY
価格:7,480円
発売日:2008年12月12日
寸法:469×168×15mm
マクロ機能:あり
特徴:「Razer Lycosa」からバックライトやコネクタ類を省いた廉価版

「Arctosa」は、外観や内部的な機能性は「Lycosa」とほぼ同等
キートップがやや不安定で、またキーの素材特性からか、打鍵時の「底打ち」を強く感じるため長時間の使用はちょっと疲れそう

 こちらは上記「Lycosa」の廉価版だ。今回ご紹介する中では最も安価な製品ということになるが、「Lycosa」からバックライトとUSBハブ端子、ヘッドセット接続用のオーディオジャック類を取り除いただけの製品であるため、機能面ではゲーム用途として充分な水準にある。

 ただし、廉価版というだけあって、実際に触ってみるとキースイッチが少々安っぽい感じを受ける。高速打鍵使用の薄型キートップであることは同じなのだが、素材の違いか、キートップが少々グラつきやすいのだ。このため、触ったときのカチャカチャ感が気になってしまう。

 また、各キーの押下時の抵抗特性は上記「Lycosa」とほぼ変わらないものが提供されているのだが、「Arctosa」はキートップがラバーコーティングされておらず硬いため、打鍵時の「底打ち」を強く感じることになる。このため指への負担がそれなりに強く、長時間のタイピングにはあまりオススメできない感じだ。

 そういった「値段相応」な点を除けば、本製品は「Lycosa」と同じ内容のマクロ機能や、「Ultrapolling」機能による高速応答性をそのまま継承しており、ゲーム用途のキーボードならではの使い心地を与えてくれる。確かに、予算に余裕があればワンランク上の製品を狙いたいところだが……。

 いずれにしても、実売価格では6,000円台でも手に入るという価格は魅力的。ゲーミンググレードのキーボードを「試してみよう」という気楽なノリで手に入れてみるのも一興だろう。


外形、キー配置、右上のメディアコントロールボタン、マクロ機能など、多くの点で「Lycosa」の特徴を引き継いでいる。ただ、キートップがラバーコーティングされていないため、使用感が違ってくるのは、価格相応の弱点といったところだ


■ キーボードは「高かろう良かろう」の世界。愛用の1台を末永く使いたい

たかがキーボード、されどキーボード。その選択はPCライフの快適さに大きな違いを生み出す

 というわけで、現行のゲーミングキーボード製品から6種をピックアップしてご紹介してきたが、気になる製品は見つけることができただろうか?

 もちろん、市場には他にも多種多用なゲーミングキーボードが存在するし、一般系のキーボードでもゲーム用途にバリバリ活用できるものもある。そんなキーボード市場全体を俯瞰してなんとなく見えてくるのは、キーボードが多品種・少量生産ビジネスの代表格であり、それゆえに、「良いものは高い」という単純な理屈が極端な形で成立していることだ。

 キーボードというのは、多数キーの同時押しに耐える回路や、優れたタッチ感を実現するためには、全てのキーに優れた部品を使わなければならない装置だ。ゲームパッド等なら、ボタン用の部品はせいぜい10個くらいですむのだが、キーボードは普通100個以上である。

 しかも、ゲーミングキーボードは、基本的に、一部の「違いのわかるユーザー」向けの少数生産製品であるがゆえに、安価なキーボードに使われているようなありふれた部品では仕様を満足できない。そのため嫌でも手が込んでしまい、すぐに価格がハネ上がってしまうのである。

 おおむねこのような理屈で、1万円、2万円を超える高級ゲーミングキーボードができあがる。救いは、大事に使いさえすれば、3年、5年と、長く愛用できることだ。ならば、良いものを長く使いたい。両手の10本の指が、1日に何千回と触れるデバイスであるだけに、少しの違いが大きな快適を生んでくれるだろう。


(2009年 7月 29日)

[Reported by 佐藤カフジ]