【連載第18回】開発者が語るiPhone/iPadゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

iPhone/iPod touch「ストリートファイターIV」に
アプリ内PRエンジン「CLOUDIA」が搭載された経緯に迫る!

 世界中でブームを起こしたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしての地位を得た。続いて登場したiPadも、かつてないゲーム体験を生み出す可能性を秘めている。本連載では、iPhone/iPadゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



7月2日 収録


 iPhone/iPod touch用で大ヒットしている株式会社カプコンの格闘ゲーム「ストリートファイターIV」。6月のバージョンアップで「ザンギエフ」と「キャミィ」の新キャラクターが追加となって話題を呼んだが、実はタイトル画面の「GET MORE」から見られるゲーム情報が、Safariが開いてカプコンの公式サイトに飛んでいたものから、株式会社CRI・ミドルウェアが開発したアプリ内PRエンジン「CLOUDIA(クラウディア)」を使ったシステムに変更された。

 「CLOUDIA」は、CRI・ミドルウェアとヴァルアップテクノロジ株式会社が共同開発したクラウド型のアプリ内PRソリューションエンジン。アプリ内で表示させるPRコンテンツを「CLOUDIA」専用のWEBサイトから制御できるシステムで、PRしたいコンテンツの画像をカバーフロー形式などで表示できる。App StoreやYouTubeなどの外部サイトへのリンクなども埋め込める。またAnalytics機能も充実しており、PRコンテンツの閲覧数やアプリの起動回数などの計測データも管理画面で閲覧が可能だ。アプリのユーザーは、好きなコンテンツの画像とテキストの解説も見られる。

 今回は、カプコンの手塚武氏と、CRI・ミドルウェアの幅朝徳氏に、「CLOUDIA」の誕生秘話や「ストリートファイターIV」に採用されることになった経緯、今後の展開などについてインタビューを行なった。




■ 「CLOUDIA」&「CAPCOM News」の開発秘話

CRI・ミドルウェアでiPhone & SmartPhone推進室室長を務める幅朝徳氏。最近では、iPhone関連の雑誌やイベントにも多数登場しており、iPhone業界ではかなり名を知られる存在
本コーナーには3度目の登場となる、おなじみのカプコン開発統括本部 MC開発部長兼プロジェクト企画室長の手塚武氏。今回は「CLOUDIA」を組み込んだ経緯を語ってくれた

――カプコンとCRI・ミドルウェアとの接点はいつからですか?

手塚武氏: カプコンがCRI・ミドルウェアさんのミドルウェアを使ったのはかなり昔で、私が制作に関わったものでは、ドリームキャスト版の「パワーストーン」などがあります。その時はマルチストリーム音声再生システム「CRI ADX」を採用させていただきました。

幅朝徳氏: ただ私が手塚さんとお会いしたのは、1年ぐらい前だったと思います。

手塚氏: iPhone/iPod touch用「バイオハザード」を作っている間に、お会いしたと思います。実務で形になったのは、iPhone/iPod touch用「CAPCOM News」が初めてです。

――「CLOUDIA」が誕生するきっかけは?

幅氏: まだ「CLOUDIA」の開発に着手していない頃、カプコンさんへiPhone向けの音声や動画などの既存のミドルウェアを提案に行った際に、ミーティングの最後にかねてから温めていた「CLOUDIA」の構想を初めて手塚さんにお伝えしました。

手塚氏: それを聞いて、まさに求めているソリューションだと思いました。

幅氏: 手塚さんと話したことがきっかけになって、具体的なプロジェクトが進んでいきました。

――どのくらいの期間で開発したのですか?

幅氏: 「CLOUDIA」のオフィシャルサービスは2010年の年明けくらいからを予定していたのですが、2009年9月に開催される東京ゲームショウに間に合わせることになり、結構ビックリするような短期間で開発しました。

手塚氏: 「CAPCOM News」は開発途中の「CLOUDIA」を使って作られているのですが、東京ゲームショウのタイミングで配信できれば、トレーラーを見たいというお客さんの要望に応えられるし、インストールベースも増えるだろうなという狙いもあって、CRI・ミドルウェアさんには無茶なお願いをしました。

――実際に配信してみて反響はいかがでしたか?

手塚氏: 日本ではまだiPhoneがそれほど普及していなかったことと、東京ゲームショウに来られているゲームファンが必ずしもiPhoneユーザーのターゲットと同一ではない状況でした。ただ話題性はかなりありました。iPhone自体を商品のプロモーションに使うというのは、どこもされていなかったので、いくつか取材や問い合わせがありました。海外のいくつかのニュースサイトでも取り上げていただきました。

幅氏: 当初「CLOUDIA」では、iPhone上で他のiPhoneアプリを紹介することを想定していました。それが「ロックマン」から「バイオハザード」、PSPやニンテンドーDS、Xbox 360、プレイステーション 3といったコンシューマーのタイトルまで並べたいと言われた時には、とても驚きました。各ゲーム機の解像度やアスペクト比が違うので、どのように落とし込むかで苦労しました。初の「CLOUDIA」採用事例だというのに、いきなり応用的な使われ方となり、とても面白いアプリになったと思います。


無料アプリ「CAPCOM News」では、iPodの曲のジャケット選びのような操作で、カプコンが発売しているコンシューマーゲームの情報や映像を見られる。iPhone用ゲームの情報も載っていて、App Storeへのリンクもある



■ 「ストリートファイターIV」に「CLOUDIA」を組み込むまでの裏話

――iPhone/iPod touch用「ストリートファイターIV」のバージョンアップ版から、「GET MORE」を選ぶと、「CLOUDIA」のシステムでカプコンの他のiPhoneゲーム情報が見られるようになりました。これを組み込むことになった経緯は?

手塚氏: もともと「CAPCOM News」を作っている最中から「CLOUDIA」のシステムを「ストリートファイターIV」に入れたいと考えていました。ところがゲーム本体だけでメモリがギリギリの状態になっていて、入れたいのはやまやまでしたが断念していました。しかし、3月ぐらいに「CLOUDIA」のフレームワーク版を開発していると聞きました。

幅氏: フレームワーク版である「CLOUDIA Framework」を使うと、リソースを圧迫することなく組み込めるのです。それを手塚さんに提案したところ、まだ開発段階のものでしたが採用していただくことになりました。

手塚氏: 我々としては、次のバージョンアップに組み込みたいと考え、組み込み実験からさせていただきました。これはバージョンアップのリリースには間に合ったのですが、その直前でiOS 4がリリースされ、別のトラブルが起きてしまいました。「CLOUDIA」にiOS 4に対応できていなかったところがあり、アプリが落ちる事態が発生していました。「ストリートファイターIV」のバージョンアップ版をサブミットしましたと言ってからリリースまで時間がかかったのは、実はiOS 4の対応をどうするかが問題だったのです。

幅氏: その時はちょうどサンフランシスコで開催されていたWWDCに行っていて、手塚さんにもお会いしていたのですが、「ストリートファイターIV」のバージョンアップ版の対応で大変なことになっていました(笑)。

手塚氏: 結果的にバージョンアップは、iPhone 4の発売日と完全に被ることになりました。一部ではそこを狙ったんじゃないかと言われましたが、まったくそうではないんです。“4 for 4(ストリートファイターIV for iPhone 4)”は狙っていましたが、それは配信日がどこであろうと、iPhone 4用に作られた「4」のゲームですというキャッチフレーズに使えるかなと思っていただけです。最初はWWDCの明けたタイミングでリリースすれば、Apple製品関連のニュースで盛り上がっている時期に合わせられてちょうどいいと考えていました。しかし結果的に、もっと盛り上がる時期に出せました(笑)。

――「GET MORE」で他のゲームアプリの情報を見られるようにした狙いは?

手塚氏: 「ストリートファイターIV」を買われた方は、他のコンテンツも気に入ってもらえるのではないかと考えています。純粋な広告としてではなく、もし「ストリートファイターIV」を気に入ってもらえたのならば、一緒に遊んで楽しんでもらえるのではないか、という思いから組み込んでいます。このシステムで新しいゲームに出会えるきっかけができればと思います。

幅氏: 他のアプリでは一般的に、「GET MORE」に類するものを押すとSafariが起動するケースが多いので、日本では押されない傾向があると思います。私はそこがすごく残念に思っています。でも今回の「ストリートファイターIV」では、「CLOUDIA」のシステムを使ったことで、全てアプリ内でカタログが見られます。これからは「GET MORE」を躊躇なく押していただき、カプコンさんの最新情報を見ていただければと思います。

――「ストリートファイターIV」では、カプコンのiPhoneアプリ情報だけが見られますが、今後は「CAPCOM News」のように、コンシューマーゲームの情報も見られるようになるのでしょうか?

手塚氏: コンシューマーゲームの情報も載せていく場合は、社内の調整もあります。また、見せ方や画面写真はどのようにしていくのかといった課題もあります。「ストリートファイターIV」に搭載できたものは、ギリギリのスケジュールで進行していたこともあり、私が決められる範囲のものだけを入れています。ただ今後は、サーバー側を更新すれば配信する情報も更新できるという「CLOUDIA」の柔軟性を活かし、コンシューマーゲームのプロモーションチームと相談しながらコンテンツを充実させていきたいと思っています。


「ストリートファイターIV」の「GET MORE」が一新。この項目を選ぶと、同社の他のiPhone/iPod touch用ゲームの情報が見られる。YouTubeで公開されているプレイ動画にもリンクされていて、簡単に見られる



■ 「CLOUDIA」は最新機器対応とニーズを受けたカスタマイズで進化

――「CLOUDIA」のiPad対応版の開発予定はあるのでしょうか?

幅氏: iPad用「CLOUDIA」は鋭意開発中です。iPadは解像度が違うことも含め、iPhoneとは使われ方がかなり違いますので、デザインを大幅に変えて、まったく新しいインターフェイスで構築しています。レスポンスよく、触っていて気持ちのいいインターフェイスを実現したいと考えています。またiPadの場合はネットワークに常時接続ができないWi-Fiモデルの利用者が多いので、ネットワークに接続していないときでも機能するようにケアしており、「CLOUDIA」の真価が発揮されると思います。8月下旬には、iPad版の標準エンジンをご提供する予定で開発を進めています。


開発中のiPad用「CLOUDIA」のスクリーンショット。iPadの解像度を活かし、コンテンツ情報が見やすく集約されている

――iPhone以外のスマートフォンにも展開するのでしょうか?

幅氏: サーバー側のシステムは共有化できるので、やりたいと思っています。ダウンロードコンテンツのマルチプラットフォーム化は今後増えてくると感じており、AndroidやWindows phoneへの展開も考えています。

――コンシューマーゲーム向けはいかがでしょうか?

幅氏: ゲームを買っていただいた方が、そのメーカーのファンになってくれるような環境を作っていくのが「CLOUDIA」の役目なので、コンシューマーゲーム機にも繋がっていければと思っています。ただし「CLOUDIA」の利用はインターネットに繋がることが前提となるので、その点をどのように解決していくかが課題になります。ただこれは、我々がやりたいというよりは、メーカーさん側からのリクエストが多いので、それがあればお手伝いしていきたいという方針です。

――今後はどういった展開を考えていますか?

幅氏: iPhone/iPod touchアプリをプロモーションしたくても限界があるという悩みが本当に多かったので、そこをどうやってお手伝いできるか、ということから作ったのが今の「CLOUDIA」です。しかし実際に使われ始めると、カプコンさんのようにiPhoneの性能をフルに使ったリッチゲームなどの場合、フレームワークのような形の方が組み込みやすいということもあります。また他社さんの例では、eカタログに応用してアプリではなくリアルな製品を売ろうとしたりと、私達が気づかなかったさまざまな活用方法が出てきています。ここから先は、システム利用者のニーズを聞きながら、細かいところも機能強化して、より使いやすいシステムを提供していきたいと思っています。

――カプコンでは、何か「CLOUDIA」の新しい使い方を考えていますか?

手塚氏: 「CLOUDIA」の基本機能は十分充実していると思っています。カプコンという立場を置いて個人的に「CLOUDIA」には、独立系デベロッパーの連合を「CLOUDIA」を中心に組むようなソリューションを考えると面白いのではないかと思っています。自社のコンテンツを豊富に持っているデベロッパーはいいのですが、独立系のデベロッパーで年に何本も出せない会社はいっぱいあります。そういう会社がまとまって同一のカタログを使うことにより、1つのヒットコンテンツから「CLOUDIA」経由でみんなのコンテンツが知れ渡るようになると、より活況になってみんなのビジネスが成立する可能性が上がると思います。1番気にしているのは、日本だけでしか売れないコンテンツを作るデベロッパーが増えると、コンテンツ産業全体のマイナスになることです。米国で売れるコンテンツがその中からブレイクすることで、独立系デベロッパーの新しいコンテンツを理解してもらいやすくなると思っています。とりまとめ役はぜひ幅さんにやっていただければ面白いのではないかと、勝手に思っています。

幅氏: まさにそういった取り組みが、ミドルウェアという名前を会社名に冠している当社の人的ミドルウェアみたいな役割かなという気がしています。そこはとてもやりたいです。今はオールジャパン的な発想がとても必要だと思っています。ぜひ形にしていきたいですね。




■ カプコンはiPhone 4やiPadに対応しつつ「怒涛の展開」を予定

インタビューの間も、ふとした拍子に「こういうのはどうだろう」と話を始めてしまうおふたり。今後も面白い取り組みを見せてくれそうだ

――カプコンのゲームについても少しお聞きしたいと思います。今後、iPhone 4のRetinaディスプレイに対応させたものを出していくのでしょうか?

手塚氏: 基本的には対応するのですが、ゲームによって対応の仕方が変わると思います。「ストリートファイターIV」のような2Dゲームの場合、グラフィックスのメモリ使用量が既にギリギリなので、全面的に解像度を上げるのは難しいと思います。iPhone 4専用に作れるなら可能ですが、iPhone 3Gや3GSにも対応するとなると、なかなか厳しい部分があります。ただ対応できるものからどんどん対応していきます。

――「ストリートファイターIV」のキャラクターは今後も追加していく予定ですか?

手塚氏: 今の時点では何とも言えません。キャラクターに限らず、色々なものを更新する企画は出てきています。この場では言えないのですが、「これだけで終わりではない!」ということだけは断言できます。

――今回のアップデートも、遊んでいる方たちに支持されているのが素晴らしいですね。

手塚氏: もう少し時間が経っていたら、バージョンアップすらしない人が増えていたと思います。一説によると、3カ月以上アプリを触らないでいると消してしまうというお客さんが多いと聞いていましたので、何とか皆さんが飽きるまでにバージョンアップが間に合ってよかったと思います。

――ところで先日CRI・ミドルウェアさんから、iPhoneとiPadでセーブデータを共有できるミドルウェア「栞(しおり)」が発表されましたが、カプコンさんのゲームにも使われることになるのでしょうか?

幅氏: iPhoneとiPadの両方で同じゲームを遊ぶ際にネックになってくるのがセーブデータだと思います。アプリに「栞」を導入すれば、同じゲームで遊ぶ際に家ではiPadで遊び、その続きを外でiPhoneを使って遊べるようになります。もちろんカプコンさんにも提案させていただきました。さらに、iPhone 3GSからiPhone 4へと機種を乗り換えたりする際や、万が一iPhoneが故障してしまったり、アプリを削除してしまった時にも、セーブデータがサーバーに保存されていればバックアップにもなり安心ですよね。アプリ本体は再ダウンロードできても、セーブデータは通常失われてしまいますので、ユーザーさんにとっては嬉しいサービスになると考えています。

手塚氏: 「栞」のメリットは、iPhoneとiPadの連携が1番大きなポイントだと思います。しかしiPhoneとiPadは、求められているコンテンツが違うと感じており、我々も今、iPadのコンテンツをどう作ろうかと試行錯誤している段階です。そのため「栞」が有効なコンテンツと、そうでないコンテンツは、どうしても出てくるのかなと思っています。いまのところ我々としては、iPhone/iPadの両対応を基本としつつも、もっと重要なのは、iPadでどういうコンテンツが求められるかを探すことだと思っています。今はそちらにフォーカスしているっていうのが正直な答えです。

――両立というよりは、それぞれのプラットフォームに特化したコンテンツを出していくということでしょうか?

手塚氏: 先ほども話に出ましたが、iPad用をわざわざ作るのであれば、ユーザーからの期待値も違っているはずなので、それに見合ったものを作りたいと思っています。iPadが発表になったときに「デカいiPhone」というような冗談めいた表現がありましたが、実際にはユーザーや利用シーンが全然違うので、当然、求められるコンテンツも違います。それにあったものを作るために、どんなことをしようかと考えているところです。

――今後のiPhoneやiPad向けの展開予定を教えてください。

手塚氏: 今年の後半は怒濤の展開になります。その中のいくつかは、「カプコンがそんなことをするの?」というようなノリのものも含まれています。なるべく早めに仕込んでお話ししますので、楽しみにしていてください。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

手塚氏: iPhoneは、誰でも生活の中で気軽にゲームを遊ぶタイミングを作ってくれる、人生そのものを楽しくするツールになりえると思います。カプコンのゲームに限らず、iPhoneを買ったけれどアプリを買ったことがないというお客様はまだ結構多いと思うので、ぜひ1度、無料アプリでもいいので試してみてください。自分の好きなタイミングで楽しんでいただき、楽しさを実感してほしいと思います。無料ゲームでゲームの面白さに目覚めたら、ぜひカプコンのゲームもお手に取ってみてください。いろんなお客様のニーズに答えられるように、いろんな面白さを用意したいと思います。

幅氏: ゲームを楽しまれる方は、「CAPCOM News」や「ストリートファイターIV」の「GET MORE」で、アプリ選びを実際に試してみてください。「CLOUDIA」はアプリ選びの1つの手段としての役割を果たせるよう、搭載されたアプリが増えていくように努力していきますので期待していてください。そのためにも、ユーザーさんにとって使いやすいものを今後も作っていきます。アプリの開発者さんに対しては、日本全体のコンテンツ産業が今後さらに発展していくために、「CLOUDIA」によるアプリ内でのプロモーション活動をぜひ1度試していただきたいです。現在は「CLOUDIA スタータープラン」という無料でアプリに組み込めるプランもご用意しましたので、ぜひトライしていただければと思います。

――本日はありがとうございました。


(2010年 7月 28日)

[Reported by 川村和弘]