西川善司の3Dゲームファンのための「ロスト プラネット 2」グラフィックス講座(後編)
「MT FRAMEWORK」のDirectX 11対応とニンテンドー3DS対応、そして今後のロードマップをチェック!







【著者近影】
 最近、iPadを持ち歩いている人が多いが、多画面マニアを自負するボクは 23インチの液晶モニターを持ち歩いている。液晶モニターの機種はスタンドレスで利用可能な重さ3kg未満のLGのE2350VR(フルHD)。 ノートPCとE2350VRを持ち歩き、E3、SIGGRAPHといった海外出張でも多画面環境で仕事をするようになった。先日も横浜で行なわれたCEDECでも小脇に抱えて横浜のホテルにチェックインした(写真)。もう完全な重度の多画面依存症患者だ。筆者のブログはこちら

 5月にPS3、Xbox 360向けに発売された「ロスト プラネット 2」(以下、「LP2」)だが、2010年10月14日にはPC版の発売が予定されている。PC版はDirectX 11への正式対応がアナウンスされており、PS3版、Xbox 360版以上のグラフィックス表現が導入されていると言うから期待が高まる。

 また、6月に開催されたE3では、カプコンは任天堂の立体視対応新型ゲーム機「ニンテンドー3DS」に「バイオハザード」の新作を提供することをアナウンスしたが、E3閉幕後に追加情報で、同作が実は「MT FRAMEWORK(以下、MTF)」で開発されていることも明らかになった。

 これらの情報を踏まえ、後編ではPC版「LP2」の最新情報と、「MT FRAMEWORK 2.0(以下、MTF 2.0)」のロードマップ情報をお届けしよう。「ロスト プラネット 2」そのものの3Dグラフィックス表現に関しては前編で扱っているので、未読の方はぜひ一読されたい。




■ PC版「ロスト プラネット 2」はDirectX 11フル対応で登場する!

PC版「ロスト プラネット 2」のデモを行なう石田氏。ベンチマークプログラムをDirectX 11モードで動作させている

 PC版「LP2」はゲーム内容についてはPS3版、Xbox 360版から大きな変化はないが、DirectX 11への積極的対応が行なわれることがホットトピックとなる。

 DirectX 11が提供する機能のうち、PC版「LP2」が対応するのは「テッセレーション・ステージ」と「DirectCompute」の2つになる。テッセレーション・ステージは、本連載の「DirectX 11講座(後編)」にて解説しており、DirectComputeについては同じく「DirectX 11講座(中編)」で解説しているので詳細解説はそちらに委ねるが、ここでも簡単に述べておこう。

 テッセレーション・ステージはDirectX 11のレンダリングパイプラインに追加された新しいシェーダーステージで、簡単に言えばポリゴンを分割したり、あるいは凹凸変移情報を記載したテクスチャに沿ってポリゴン上の頂点を盛り上げたり掘り下げたりできる仕組みのことだ。

 なお、テッセレーション・ステージは3つのシェーダーユニットから構成されている。1番目はポリゴンの分割計画を実践する「ハルシェーダー」。2番目はその分割計画に従ってポリゴンを実際に分割する「テッセレータ」。3番目は分割したポリゴンに立体的な(3D)情報を付加する「ドメインシェーダー」になる。

 DirectComputeは、DirectX 11が提供するWindows環境下のGPGPUプラットフォームという位置付けになる。GPGPUとはGeneral Purpose GPUの略で、GPUをグラフィックス以外の用途に流用することをいう。これまでGPGPUと言えばNVIDIAが提供するCUDAが有名で、続いてKHRONOSがオープンプラットフォーム向けにOpenCLを規格化したが、DirectComputeはこうしたGPGPUソリューションのWindows版ということができる。DirectComputeとComputeShaderが混用されることが多いが、DirectComputeはAPI名、ComputeShaderはDirectComputeを実践した際に起用されるGPUコア内のシェーダーユニットの役割名になる。


RADEON HD8500で実装されたTruForm機能はその実体はPN Triangle法によるテッセレーションだった

石田氏「PC版『LP2』でのテッセレーション・ステージの活用は大別すると2つに分けられます。1つはPNトライアングルによる曲面化、もう1つはディスプレースメントマッピングの適用です」

 PNトライアングルとはPoint-Normal Triangleの略で、ポリゴンの3頂点の法線ベクトルを見て、これらになだらかに変化して繋がるように新たな法線ベクトルを生成しつつ新しい頂点を決めていくポリゴンの分割手法だ。別名は「N-Patch」(Normal Patch)法とも言われ、これはかつてATI(AMD)のRADEON 8500が「TruForm」という名前で独自専用機能として実装したこともある。

 「LP2」では、一般的な3Dモデルは、このPNトライアングル法によるテッセレーションが行なわれ、曲面がなめらかになって描画されるようになる。テッセレーションは距離が近くなればなるほど積極的に行なわれ、遠ければ遠いほど行なわれにくくなる、いわゆる無段階LOD(Level of Detail)システムをGPUで実装する形となっている。

 なお、PC版「LP2」では、同時に、視点から見て3Dモデルの輪郭(シルエット)部分に相当する領域については、視点からの距離が遠くても、比較的粘り強くテッセレーションを細かめに行なうアルゴリズム(チューニング)を盛り込んでいる。これは、輪郭部分は低ポリゴンとしたときの描画時にカクカク感が目立ちやすいための配慮だ。こうした臨機応変に動的にテッセレーション精度を変化させる仕組みを「適応型テッセレーション」(Adaptive Tessellation)という。PC版「LP2」はこの適応型テッセレーションを実装しているのだ。


【テッセレーション】
PC版「LP2」ではPN Triangle法によるテッセレーションを採用した

RADEON HD8500で実装されたTruForm機能はその実体はPN Triangle法によるテッセレーションだった

 ディスプレースメントマッピングは、凹凸変移情報を表したハイトマップテクスチャに従い、3Dモデルを盛ったり掘ったりしてジオメトリレベルでのディテールを付加する効果をいう。ディスプレースメントマッピングは、ハイトマップの解像度に比べ、3Dモデル側の頂点解像度が低いと、的確な凹凸を表現できない。そこで、PC版「LP2」では、ディスプレースメントマッピングを行なう際には、PNトライアングル法は用いないまでも、ポリゴンの“素”分割のテッセレーションは行なうようにしている。この分割された各ポリゴンに対し、ハイトマップに記載された凹凸情報に従って盛ったり掘ったりを行なうのがドメインシェーダーだ。なお、ポリゴンの素分割は、PNトライアングル法の時と同じく、視点からの距離や視線から見てシルエットになる部分はより細かく分割するようになっている。

石田氏「PNトライアングル法を用いてのテッセレーションによる曲面化と、ディスプレースメントマッピングは排他仕様です。ディスプレースメントマッピング用のハイトマップがあるポリゴンに対してはディスプレースメントマッピングを行ないますが、ないポリゴンにはPNトライアングル法によるテッセレーションを行なうというイメージです」

 PNトライアングル法によるテッセレーションは人型キャラクタを始め、様々な3Dモデルに対して適用がなされるが、ディスプレースメントマッピングは巨大AKなどの、厳選されたキャラクタに対して適用されている。サンショウウオ型の巨大エイクリッド(以下、巨大AK)の皮膚などはディスプレースメントマッピングによって、かなり表情豊かなトゲトゲやら角が付加されるので見応えがある。
【ディスプレースメントマップ】
ディスプレースメントマッピングなしのゴディアント。PS3、Xbox360版はこちらに相当
ディスプレースメントマッピングありのゴディアント。PC版はこちら。元々ハイポリゴンなので分かりにくいがディテール表現が豊かになっている点に注目

 テッセレーションステージのゲームエンジンへの組み込みは、そのゲームエンジン側のグラフィックスエンジンのレンダリングパイプラインの再設計や再チューニングが必要になることから面倒くさがられてきた。実際、EPIC GAMESのUnreal Engine 3.0やCrytek Cry Engine3といった著名エンジンでは「短期的なテッセレーションステージの導入はない」というやや弱腰の姿勢をとっているほど。「MTF」は、その点はどうだったのだろうか。

伊集院氏「特に大幅な再設計もなく対応が施せました。確かに、過去に製作した3Dモデルをそのままテッセレーション対応のパイプラインに通すと『クラッキング』と呼ばれる、ポリゴンの継ぎ目部分に隙間を生じたりする不具合が出てきたりします。これは法線ベクトルが不連続な鋭いエッジ部分などで生じやすいので、対処が必要です。ただ、それも、3Dモデル製作段階にてこれから意識して行っていけばよいことですから、大きな問題とは考えていません」

石田氏「現在は、エッジ部分でなめらかに分割したいときには縮退ポリゴン(面積ゼロのダミーポリゴン)を仕込んだり、あるいは頂点パラメータとして、テッセレーション適用外属性のマスクを仕込んだりして対応しています。ただ、3Dモデル形状としてはうまく分割されて破綻が無くても、そうした特殊処理した部分でのテクスチャ適用がうまくいかなかったりすることもあるんで、気を付けなければいけない部分も多々あるにはあります」

竹内氏「テッセレーションの仕組みは、LOD処理をGPUに任せられます。『MTF2』は既に次世代機(PS3、Xbox 360の次)も想定した技術開発を『投資的』に行っているので、今から対応に踏み切りました。現行のPS3、Xbox 360には直接的には無関係な技術ではありますが、例えばゲームをPCベースで開発して、PS3、Xbox 360に落とし込む際での数段階LODモデルを生成する際にも、この技術を応用したりすればデザイナーやアーティストの3Dモデル製作の労力を削減する方向に利用することは可能でしょう」

【テッセレーション その2】
テッセレーションの際にクラックが発生しそうな箇所には頂点付随パラメータとしてテッセレーション適用外を明示するマスク情報を盛り込むなどして対応している。この画面は「LP2」ではなく、レンダリングテスト用素材のロックマン



■ DirectComputeは水面の波動シミュレーションと巨大AKの柔体物理に適用

 さて、DirectX 11が提供するもうひとつの機能であるDirectComputeの方は、主に水面の波動シミュレーションと巨大AKの表皮のブヨブヨとした質感を出すための柔体物理(ソフトボディ物理)に適用されている。水面の波動物理シミュレーションは、米テキサスA&M大学のCem Yuksel氏らがSIGGRAPH2007にて発表した「Wave Particles」をベースに独自実装したものを採用している。

 Wave Particle法とは、水面の波の力学単位をパーティクル(点)で近似して持ち、波動シミュレーションを実践する。この点で表される単位"波"は凹と凸の状態や力や速度の情報を持っており、次の単位時間後の水面の状態をDirectComputeで計算し結果をハイトマップテクスチャとして算出。単位“波”のままだと小さい凹凸だらけの水面になってしまうので、これを実際の波に近づけるためにシミュレーション結果には縦横方向に適当なブラーをかけて凹凸を膨張させる処理を施し、実際の波の形状に近づけている。レンダリング時にはこれを元に、水面のポリゴンにディスプレースメントマッピングを適用して、ジオメトリレベルで凹凸がある波として描かれる。

【WaveParticles法】
WaveParticles法は波の凹凸をパーティクルで近似してシミュレーションする手法
パーティクルのままだと波の凹凸が分離して見えてしまうので、縦方向、横方向にぼかすことで凹凸の分離感を低減させる工夫が盛り込まれている

 PS3、Xbox 360版ではやや幾何学的な周期性が垣間見られたのに対し、PC版ではこれがなく、波の動きは非常に複雑だ。これは、PS3、Xbox 360版では、水面を動かす波動が、岸に到達しても折り返さず、そのまま減退してしまうの対し、PC版では岸で折り返す波までをシミュレーションで再現するためだ。

 ただし、Wave Particle法では、岸から水が溢れたり、あるいは波の頂点から水滴が飛び出す、波自身が巻き込んで自壊するような表現にまでは対応しない。このあたりは今後のテーマといった感じだろうか。

【水面の波】
PS3、Xbox 360版相当の水面の波
PC版「LP2」では動的キャラクタの動きが水面に反映されて波が巻き起こる。岸に到達した波はちゃんと反射する点にも注目!

【さざ波 DX11バージョン】
キャプ微細なさざ波ではなく、凹凸のはっきりしたジオメトリレベルの波がWave Particles法によるものだ
さざ波表現を省略してWave Particles法による波を分かりやすく見せた動画がこちら
そしてこの時のDirectComputeによるシミュレーションを可視化した動画がこちらになる

 柔体物理シミュレーションは、頂点単位に仕込まれたバネに対してのバネ物理を計算することで実践されている。この効果はゴディアントの表皮の表現を見ると分かりやすい。ゴディアントがドシドシと歩く際に生じる荷重移動によって表皮がぶるんぶるんと揺れる様がこの柔体物理シミュレーションの効果だ。爆風などの外的刺激によってもゴディアントの皮膚はぶるんぶるんと震動する。ブルドックのアゴ下の皮膚のようで見た目にも面白い効果だ。

 カプコンでは、PC版「LP2」の製品版のリリース前に、ゲーム中の2シーンをデモ化した無料のベンチマークソフトをリリースする予定としている。本稿で紹介したテッセレーション・ステージとDirectComputeの効果というDirectX 11フィーチャーは、全てこのベンチマークソフトでも体験できるようになっているので、DirectX 11世代のGPUユーザーならば、是非ともダウンロードして、その効果の具合を自身の目で確認してみよう。

【柔体物理シミュレーション】
実は柔体物理シミュレーションはPS3、Xbox 360版においても一部のステージの木の枝葉の表現で限定的に実装されている。それらはピクセルシェーダーを用いテクスチャをワークスペースにしてシミュレーションを実行させるクラシックスタイルなGPGPU的アプローチになっている
柔体物理シミュレーションなし
柔体物理シミュレーションあり
極端に柔らかいパラメータを設定した柔体物理シミュレーションをゴディアントの全身に適用したテスト映像

 なお、PC版「LP2」は、2バージョンが提供される予定で、1つはロースペックマシン用のDirectX 9世代GPU対応バージョン、もうひとつがハイスペックマシン用のDirectX 11世代GPU対応バージョンとなる。DirectX 9世代GPU用と、DirectX 11世代GPUとでランタイムが異なっており、DirectX 9世代GPU用の方がPS3、Xbox 360版に近いグラフィックスとなる。

 本連載の前回でも触れたように、「LP2」はPCベースで開発され、デカールテクスチャや法線マップ等は全て高解像度でデザインされているため、たとえロースペックマシン用のDirectX 9世代GPUであっても、ディテール感はPS3、Xbox 360版を上回っている。

 PC版「LP2」のDirectX 11フィーチャーを全て有効にするためには、PCにDirectX 11世代GPUを搭載していなければならず、DirectX 10世代GPUでは、DirectX 11世代GPUフィーチャーを利用できない点には注意して欲しい。従って、DirectX 10世代GPUユーザーは必然的にDirectX 9世代GPU対応バージョンの方しか動作させることができない。

 ちなみに、PC版「LP2」が想定するDirect11世代GPUとは、具体的には、ATI(AMD)製ならばRADEON HD5000系、NVIDIA製ならばGeForce 400系ということになる。テッセレーション、DirectComputeの両フィーチャーはATI RADEON、NVIDIA GeForceの分け隔てなく同クオリティで実現されるので安心して欲しい。

 ところで、PC版「LP2」は立体視にも対応するが、現状、ATI RADEONに立体視ソリューションがないため、立体視対応に関してはNVIDIA GeForceの専用フィーチャーとなる。なお、PC版「LP2」はNVIDIAの3画面立体視ソリューション「3D VISION SURROUND」にも対応しているため、GeForce 400系をSLI搭載したシステムならばDirectX 11フィーチャーを全て有効にしつつ3画面立体視プレイまでが可能になる。

 「DirectX 11フィーチャー対応×3画面立体視」を公式対応に謳っているタイトルは、筆者の知る限りPC版「LP2」しかない。PC版「LP2」は、日本が放つ数少ないハイエンドPCゲームであり、その発売には全世界が注目している。



■ MT FRAMEWORKが3DSへ対応!~「BIOHAZARD:REVELATIONS」

 2010年、「MTF」は、PC、PS3、Xbox 360に加えて、新たに対応ハードウェアを広げる進化を遂げた。中でも特筆すべきは、ニンテンドー3DSへの正式対応だ。

伊集院氏「『MTF』は正式にニンテンドー3DSへ対応します。これまで培ってきた『MTF』ベースでのゲーム開発のノウハウをほぼ全て活かす形で、この新しい3DSというハードに取り組むことが出来るようになります。」

石田氏「正式名は『MT FRAMEWORK Mobile』(以下、MTFM)です。開発フレームワークとしてのベースは『MTF 2.0』としていますが、グラフィックス周りは3DSのグラフィックスハードウェアに特化した仕様にしています」

竹内氏「『MTFM』の第一弾タイトルが『BIOHAZARD:REVELATIONS』になります。これは3DSのお話があってから動き出した完全新作のプロジェクトです。進行していた別ハードウェアのプロジェクトを3DSに持って来たのではありません。ちなみに、E3で公開させていただいたときから3DS開発機でのリアルタイム・レンダリングの映像ですよ。最初、信じてもらえなかったみたいですけど、実際、3DSは、このくらいの表現力はあるということは分かっていただきたい(笑)」

【「BIOHAZARD:REVELATIONS」その1】
「BIOHAZARD:REVELATIONS」はHDRレンダリングにも対応。左がHDRレンダリング表現なし、右があり
カラー補正による画調調整はリアルタイムに実践可能。左が補正無し、右が補正あり

 現在も「BIOHAZARD:REVELATIONS」は開発中であり、また、最終的なグラフィックスの数値スペックなどは、任天堂が一切公開を禁じているため、数値的な情報は意図的に伏せられたが、「BHL」で用いられている3Dグラフィックス技術がどのようなものかについては、解説頂けた。

 まず、「BIOHAZARD:REVELATIONS」のグラフィックスレンダリングパイプラインは、俯瞰的に見るとほとんど「バイオハザード5」(「BH5」)と変わらないという。つまり、ビジュアル面での表現力は、PS3、Xbox 360版の「BH5」から大きく低下していないということだ。PS3、Xbox 360世代の3Dゲームグラフィックス表現の「三種の神器」といわれる「HDRレンダリング」「セルフシャドウ」「法線マップ」は、全て「BIOHAZARD:REVELATIONS」にて用いられているという。

 HDRレンダリングは「BH5」と同じ、相対輝度レンジ方式の疑似HDRレンダリングで、高輝度領域からの溢れ出し表現であるブルームエフェクトなども適用される。影生成はデプスシャドウ技法によるものだが、GPU側のハードウェア機能として利用できるためパフォーマンスはかなり高いという。

 フィルター系エフェクトとしては被写界深度のシミュレーション(DOF:Depth of Field)、カラーコレクション、ガンマ補正などが既に実装済みで、現在は実験的にモーションブラーの組み込みを行っている最中だとのこと。

【「BIOHAZARD:REVELATIONS」その2】
動的なセルフシャドウ表現にも対応する。左がソフトシャドウ表現なし、右がありとなる
シワやモールド、レリーフのような微細凹凸のようなディテール表現は法線マップによって再現されている。左が法線マップ表現なし、右がありとなる
被写界深度のシミュレーションのなし(左)、あり(右)の比較ショット

石田氏「基本、立体視時でも30fpsをキープできるようにグラフィックスを設計しています。モーションブラーは立体視との相性がどうなのか評価中で、最終的には立体視時にはモーションブラーをオフとする可能性があります。」

 レンダリング解像度やポリゴン数などは「バイオハザード5」と比べれば低いとは思われるが、表現力的にはほとんど変わらない。ここは特筆すべき点だろう。ただ、「バイオハザード5」の時とは違い、リアルタイム系のグローバルイルミネーション系の表現は、「BIOHAZARD:REVELATIONS」では簡略化されており、「ライトマップの適用」「頂点単位のアンビエントオクルージョン」といった事前計算して生成した静的なGI表現を行なうに留められている。

 ところで、立体視状態でどのように見えるかについては、「MTFM」上では確認できないため、これについては3DS実機で確認するような開発パイプラインになるようだ。「BIOHAZARD:REVELATIONS」のゲームは全編立体視でプレイ出来るように設計され、2D時と立体視とで、グラフィックス表現のクオリティに違いは基本的にはない。あえて相違点を挙げるとすればアンチエイリアス処理で、立体視時の時はオフになり、2D時には2x程度が適用される。

 「BIOHAZARD:REVELATIONS」について、現時点で出せる情報まではここまでだそうで、それ以上についての詳細は、実際のゲームが発売されてから改めて伺うことにしよう。

【「BIOHAZARD:REVELATIONS」その3】
モーションブラーのなし(左)、あり(右)の比較ショット。立体視との相性はどうか?

【「Super Street Fighter IV 3D Edition」】
「MTFM」で開発中の3DSタイトルとしては「スーパーストリートファイターIV」の3DS版である「Super Street Fighter IV 3D Edition」がある。



■ MT FRAMEWORKの3DS対応以外の最新動向は?

「MARVEL VS. CAPCOM 3 Fate of Two Worlds」は、外部開発スタジオがMT FRAMEWORK 2.1を使って開発しているタイトルだ
PS3/Wii向けに発売された「戦国BASARA3」は「MT FRAMEWORK Lite」を用いて開発されている

 ところで、MT FRAMEWORK Mobileというネーミングから、他プラットフォームへの展開、たとえばiPhoneを初めとしたスマートフォンやPSPへの対応なども期待してしまうわけだが、今後、そうした広がりを見せていくのだろうか。

竹内氏「今のところないですね。ただ、PSPについては、次世代機があるのならば、ハードウェアスペックも上がるでしょうし、対応する必要がでてくるとは思います」

 昨年、『MTF 2.0』の取材を行なった時に、「今後は外部スタジオにもカプコンタイトル開発に限っては『MTF 2.0』を使用していただく」という発言があったのだが、このあたりについて現状はどうなっているのだろうか。

竹内氏「『MARVEL VS. CAPCOM 3 Fate of Two Worlds (以下、MVC3)』が第一弾タイトルになります。『LP2』は『MTF 2.0』ベースでしたが、『MVC3』は『MT FRAMEWORK 2.1』ベースとなります。『MVC3』を開発されている外部開発スタジオ名についてはここでは非公開とさせていただきますが、今、アメリカでは格闘ゲームブームが再燃していることもあって、『MVC3』は海外からの期待がとても大きいようです」

 「MVC3」は、「MTF」で開発された初の格闘ゲームになる。ゲームは当然60fps固定で設計されており、MT FRAMEWORKベースでの60fps前提設計のゲームは「デビル メイ クライ4」以来のことだという。

伊集院氏「『MTF』はWiiへの対応も果たしました。これには『MT FRAMEWORK Lite(以下、MTFL)』という名前が付けられていまして、その採用第一号タイトルは『戦国BASARA3』になります。『MTFL』は『MTF 2.0』の新しい流れになる位置づけで、正確にはWiiとPS3に対応します」

 基本の開発フレームワークは「MTF 2.0」ベースなのだが、グラフィックス表現を「MTF 2.0」のメターシェーダーシステムでWiiのGPUに合わせたようなプロファイルで開発するというイメージに近いという。PS3にも対応しているというのは、実質的には、「MTFL」で開発したWiiタイトルをPS3でもリリースすることを可能にするための措置という事のようだ。実際「戦国BASARA3」はPS3、Wii版が7月29日に同時発売されている。

石田氏「メタシェーダーのシステムでWiiのGPUをエミュレーションしている感じの実装になっているので、ここをいじらなければPS3でWiiの表現がそのまま出ますし、いじればPS3専用の表現とすることもできます」

 PC、Xbox 360の兼用開発フレームワークとしてスタートした「MTF」は、1.x世代でPS3への対応を果たした。続く「MTF 2.0」では、PC、PS3、Xbox 360の3プラットフォーム全てにおいて最大のパフォーマンスと最高のグラフィックス表現を行なうためのアーキテクチャ改編を行ない、最新版では3DSとWiiという任天堂プラットフォームへの対応までが行なわれた。

 「MTF」が、一般的なゲームエンジンと違う点というか美点として挙げられるのは、世代の新しい上位プラットフォームの表現が、下位プラットフォームのスペックに引っ張られないという部分だ。

 例えば、「MTF 2.0」においてPC版はDirectX 11の最新フィーチャーを全て利用してグラフィックスを設計でき、PS3、Xbox 360のDirectX 9世代の仕様に縛られることがない。「MTFL」で開発されたWiiタイトルは、もちろんそのままのグラフィックスでPS3版をリリースすることはもちろん出来るが、PS3版だけ特別なグラフィックスに再設計する手立てもちゃんと残されている。

 この設計思想は、各プラットフォームでの最大公約数的な性能や表現力を引き出すことに特化した従来の欧米系開発ミドルウェアとは少し違うところであり、「MTF」のユニークな特徴だと思う。



■ 次期タイトルではDeferred Lighting技術で卓越したオープンフィールド表現に挑戦

現在、石田氏が開発中のDeferred Lightingパイプラインのテストショット。このシーンで目に止まる純色のローカルライトは全て動的な光源によるものだ。無数の動的光源を動的キャラクタにも適用できるのがこの手法の利点

 最後に、取材対応していただいた石井氏、伊集院氏、竹内氏の各氏に、今後注目している技術、「MTF」の今後の動向や展望などについて伺った。

石井氏「今後、グラフィックス的にやろうとしているテーマは、より洗練されたオープンフィールド表現です。これまで複雑なライティングをやろうとすると、オフラインで生成したライトマップを用いたり、事前計算した情報で疑似的なGI(大局照明)をやるしかなかったわけですが、今度は動的光源しか使わないライティングでオープンフィールド表現に挑戦してみようと思っているんです。そのためにDeferred Lightingのレンダリングパイプラインの実装を行なっています」

 補足解説をしておこう。「Deferred Lighting」とは、以前、本連載「KILLZONE2」編で紹介した「Deferred Shading」(Deferred Rendering)とよく似た手法で、CRYTEKのMartin Mittring氏がTriangle Game Conference 2009にて発表して注目を集めたものだ。Deferred Lighting(DL)とDeferred Shading(DS)、名前が似すぎているが、実際、両者の着想はそっくりだ。

 DSでは、まず、GPUのMRT(Multi-Render-Target:一度のレンダリングパスで複数バッファに異なる値を同時出力する機能。DirectX 9では4枚、DirectX 10以降では8枚の同時出力が可能)を活用してシーンの深度値(Z)、法線ベクトル、アルベド(テクスチャ適用結果)、スペキュラ強度、ハイライト強度などを複数のフレームバッファに出力する(G-Buffer)。続いて、このG-Bufferの内容を元に次のパスでピクセルシェーダーでシェーディングを行って最終的なレンダリング結果を得る。

 一方、DLでは、深度値(Z)、法線ベクトル、ハイライト強度だけをMRT出力しG-Bufferを生成し、次のパスではそれらの情報を元に基本的なライティングだけを行ない、中間バッファへ出力する。そして、もう一回、レンダリングパスを動かしてその中間バッファの内容……すなわちライティング結果を用いて、ピクセルシェーダーでシェーディングを行なって最終的なレンダリング結果とする。

 先に中間値を計算してシェーディングやライティングを後回し(Deferred)にするからDeferred~というわけで、その点で、DSとDLはよく似ている。DLはDSの亜流手法といっても間違いではない。

 さて、DSやDLでは、MRTで出力したG-Bufferを元に、「光源をレンダリングする」という一種独特の処理を行なう(この独特な概念についても詳細は本連載の「KILLZONE2」編を参照して欲しい)。これがDSやDLのキモのテクニックとなっている。

 DSでもDLでもない、一般的なレンダリングパイプライン(前方レンダリング)ではピクセルシェーダーに与えられる動的光源数は、ピクセルシェーダーのレジスタ数の制約などからどうしても数個から十数個までの有限個になる。ところが、DSやDLでは、光源の数に縛りがなくなるのだ。

 簡略した説明をすると、例えば前方レンダリングでは100個のキャラクタを4個の光源で照らしたとすると100×4=400回分のライティング計算が必要になるが、DSやDLの場合は、先に100体分のキャラクタをレンダリングして、あとで4個の光源をレンダリングしてライティングすることになるので、ライティング計算はわずか4回で済む。すなわち、動的キャラクタ数やシーンの複雑性に左右されない、実にスケーラブルなライティングを行なう事が可能なのだ。

 では、DSとDLでどのような違いがあるのか。そもそもDLというDSの亜流手法の存在価値はどこにあるのだろうか。

石田氏「去年取材いただいた時に『DSはXbox 360に適さない』というような意見を述べました。だからこそのDLなんです。DSでは、G-Bufferに出力するパラメータが多くなるので、MRTで少なくとも3枚以上のテクスチャを出力しなければなりません。これをXbox 360でやるとXbox 360-GPUの10MBのEDRAM容量制限によりタイリングレンダリングの回数が増えてしまい、結果としてジオメトリレンダリングの重複が多くなってしまいます。これではDSのメリットが半減してしまいます」

 Xbox 360への実装云々以外に、DS自体が潜在的に抱えている課題もある。それはDSのライティング時に、複数のテクスチャ(G-Bufferの内容)を参照することからテクスチャヘビーになりやすくなる点だ。また、最も重大な課題として捉えられているのが、G-BufferにMRT出力したパラメータ群を使ったシェーディングしかできないことから、材質表現の自由度がないという制限だ。

 DLは、G-BufferにMRT出力するパラメータを限定的にしているため、ライティング時のテクスチャ負荷が抑えられる。また、ピクセルシェーダーは前方レンダリングとほぼ同等の自由度を持って多様なパラメータを駆使してに複雑なシェーディングが実行できる。

石田氏「DLだと、G-Bufferパスが、深度(Z)と法線ベクトルとハイライト強度の2枚の出力テクスチャで済むためMRTを使わなくてもよくなりますから、Xbox 360-GPUでもタイリングレンダリングになりません。DLはPS3にもXbox 360にも適した動的光源を無制限に扱うためのレンダリング手法といえます」

 DLでG-Bufferを先出ししてライティングだけを先に行なう意図は、どんな材質表現にも絶対絡んでくるライティングを重複して行なわずに済ませるためであり、DSの優位点である「動的光源数に制約がない」という利点を取り込むためだ。

 DLは、ある意味、DSの美点と前方レンダリングの美点を両取りした手法ということが出来るかも知れない。ただし、DLはただの「いいとこ取り」では済まされない、デメリットもある。

 それはレンダリングパスがDSよりも一回多いことだ。特にG-Bufferレンダリングパスとシェーディングパスとでジオメトリをフルレンダリングすることになり、頂点負荷がDSよりも大きくなってしまう。DSはテクスチャ負荷が高く、DLはジオメトリ負荷が高いというわけで、DSとDLには一長一短があるのだ。

石田氏「この他、一度PS2時代の『鬼武者3』にて実装した天球シミュレーションのもっと本格的なものも開発しています。同じく、オープンフィールドがらみで実装しているのがStable Shadowですね。光源が動かないのにプレイヤーが動くだけで影のエッジが振動したりするのは、オープンフィールド表現では気になりますからね」

 天球のシミュレーションは、昼夜の空模様の移り変わりや星空の回転、月の満ち欠けなどがサポートされる本格的なものだとのこと。Stable Shadowについては、本連載「KILLZONE2」編で紹介したものと同系のテクニックであるため、詳しい解説はそちらを参照して欲しい。

 現在、石田氏らの、こうした卓越したオープンフィールド表現への取り組みは、現在進行中の新プロジェクトのためだといわれているが、そのタイトルについて、今回は発表はなかった。今から楽しみに待っているとしよう。

【天球シミュレーション】
石田氏が開発中の天球のシミュレーションのテスト画面。今回は夜空の星の動きも再



■ カプコンの開発体制の大改革が始まる!?

カプコンの開発大改革を冗談交じりで語ってくれた竹内氏(右)。東京ゲームショウではその片鱗を見せてくれるそうだが、果たしてどのような内容だろうか

 昨年、本連載で「MTF 2.0」の取材を行なった時に、伊集院氏は、今後の「MTF 2.0」の機能充実化の重要課題として「物理シミュレーションの内製化」を挙げていた。これについてのアップデートは何かあるのだろうか。

伊集院氏「物理シミュレーションの内製化は着々と進んでいます。基本的な剛体物理、ラグドールなどの実装は完了していますし、現在は車両物理、柔体物理などの応用物理シミュレーションの実装などを開始しています。ただ、我々の内製のものよりも、例えば破壊システム、流体物理などの特定のテーマについては専用ミドルウェアの方が優秀なものもありますから、各プロジェクトのテーマや開発コストによっては、今後もそちらを採用するようなケースもあるかも知れません」

 「MTF」の進化で、ゲーム開発における基本技術面の改善が進むにつれて、伊集院氏は、ゲーム開発が抱える周辺問題に目が行くようになったという。

伊集院氏「『MTF』は、DirectX 11へのような最先端テクノロジーへの迅速な対応と、3DSやWii等への対応のような幅広いプラットフォームへの展開も同時に行ってきており、カプコンとしての開発環境を見るとここ数年で劇的に高効率化してきたと実感しています。ただ、今後も、テクノロジーとハードウェアの機能はますます進化し、これに合わせて開発コストも上がっていくはずです。このままのペースだと、いずれコストが掛かりすぎてゲームが作れなくなるという事態がやってくるかもしれません。現在、ゲーム開発を振り返ってどこにボトルネックがあるのかと考えたときに、いくつか対策すべきポイントは見えてきたんです。例えば、筆頭にあげられるのはプログラマーとデザイナー/アーティストとのコミュニケーションの高効率化です」

 デザイナーが作ったデータをプログラマーがランタイムに組み込んだ際に不具合があると、プログラマーがそのデータを手直しするが、それがデザイナーにはフィードバックがなされてないことがままあるのだという。また、あるデザイナーは、あるプロジェクトに費やした時間のうち、自分のコンテンツ創作に費やした時間よりも、そのデータを実装する事へ取り組んでいる時間の方が長かったというカプコンの社内調査の結果もあり、この問題がクローズアップされてきたのだそうだ。

伊集院氏「簡単に言えば、結局、『開発環境を良くしよう』ということになってしまうんですけど(笑)。主にプログラマーとデザイナー/アーティストとのリソースのやりとり、コミュニケーションの改善を『コンテンツパイプラインの新しい仕組み』として提供しようとしています。これは、具体的に形になったときに、改めて発表しようと思っています。」  そして、カプコンCS開発を統括する竹内氏の方は、伊集院氏の進めるそうしたコンテンツパイプラインの改革を含んだ、より大局的な視点でのゲーム開発体制の改善の指揮を執るのだという。

竹内氏「役職が若干変わって『CS開発 副統括 兼 制作部 部長』となりまして、今後はややプロデューサー業からは少し離れて開発の取りまとめに力を入れるようになります。まず、その皮切りとして、開発の内部体制の大きな改革を行ないます。内容は多岐に渡るのですが、分かりやすい部分で言いますと、プログラマー、デザイナーと言った役職は全部撤廃され、そうした職種の人たちは全員がクリエイターという肩書きになります。これにともない、ゲーム開発のスタイルそのものにメスを入れます。現在開発進行中の『デッドライジング2』は海外スタジオとのコラボで製作が進んでいますが、今後は、海外スタジオとの連携も強めていこうと考えています。前者の社内体制の改革が『内へ深く』の展開だとしたら、後者の海外スタジオとのコラボは『外へ広く』という展開です」

 今後、このカプコンの開発体制の改革に関係した発表というものは行なわれるのだろうか。

竹内氏「今年の東京ゲームショウでは、この新体制で開発が進められるタイトルをいろいろと発表しようと思っています。そこで、カプコンの新しい開発スタイルというものが分かって驚いてもらえるかと思います。この組織改編やワークフローの革新などについては、2011年のCEDECでお話しできればと思いますが(笑)、東京ゲームショウではその片鱗を確実に感じてもらえるはずです。今年の東京ゲームショウではカプコンブースは全ブース中最大ですので(笑)、色んな意味で驚きがあると思いますよ。」

 来年の今頃は、この竹内氏と伊集院氏のいう「カプコンの開発大改革」の姿もかなりはっきりと見えてきているはず。ということは、来年もまた、この暑い季節に、この大阪の熱いオフィスに来る必要があるということだ。



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(2010年 9月 13日)

[Reported by トライゼット西川善司]