西川善司の3DゲームファンのためのE3最新ハードウェア講座

Wii UのGPUはDirectX 10.1世代と判明。PS Vitaを触れてみての考察


6月7日〜9日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center


 今回のE3は、任天堂とソニー・コンピュータエンタテインメントがそれぞれ新しいハードウェアを公式発表したので、盛り上がり方が例年以上だった。「ゲーム機はソフトがなければただの箱」とはいうが、ゲームファンとしては、やはり新ハードが出てくるときにこそ、もっとも熱くなる。

 ということで、本連載のE3特別編の2回目は、再びWii Uのことと、NGP改め「PS Vita」となった次世代プレイステーションポータブルについての話題をお届けしたい。

■ Wii UのGPUはDirectX 10.1世代SM4.1対応のRADEON HD4000系であることが判明

 前回の記事で、Wii Uのハードウェアについて、想像を交えた考察を色々と行なったが、GPUについては、あまりにも確定的な情報がなく、推測的な内容が多くなってしまった。

 前回の記事執筆後に米AMDに飛び込み取材を行なった結果、いくつかの確定的な新情報が出てきたので、それからお伝えしたい。


Wii U本体 Wii U専用の新型ディスプレイ付きコントローラー

 まず、AMD(旧ATI)製のGPUだが、これはDirectX 10.1世代であることが判明した。

 DirectX 10.1世代というと、プログラマブルシェーダー仕様4.1(SM4.1:Shader Model4.1)世代と言うことになる。

 プレイステーション 3とXbox 360のGPUはDirectX 9世代SM3.0世代なので、Wii UのGPUは家庭用ゲーム機としては最も最新世代のプログラマブルシェーダー仕様に到達したということだ。

 ちなみに、PCの方では、2009年に発売されたWindows 7の時点で、DirectX 11世代SM5.0への移行が行なわれているので、残念ながら、超最先端というわけではない。ただ、これまでの「任天堂ハードは3Dグラフィックスのクオリティが低い」というような陰口は、Wii Uには通用しないと言うことになる。

 さて、そのベースアーキテクチャだが、RADEON HD4000系であると言うことがわかった。

 RADEON HD4000系は、DirectX 10.1世代GPUとして2008年にリリースされたGPUだ。その意味では3年前のアーキテクチャであるが、PS3が2005年のGeForce 7800系であることを考えれば、アーキテクチャ的には3年分、Wii Uの方が新しい。

 Xbox 360のGPUもAMD(旧ATI)の設計によるものだ。こちらは完全なオリジナル設計で、2007年リリースのDirectX 10.0世代SM4.0対応のRADEON HD2000系のアーキテクチャを先取りしたような統合型シェーダアーキテクチャを先行採用した先進設計となっていたものの、プログラマブルシェーダー世代としてはPS3のGPUと同じDirectX 9世代SM3.0対応に留められていた。


各世代GPUのレンダリングパイプラインの違い。拙著「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術」より引用。上段がPS3、Xbox 360のGPU世代。中段がWii UのGPU世代。下段が最新世代GPU

 結局のところ、DirectX 10.1世代SM4.1世代のWii UのGPUは、PS3、Xbox 360のものと比較して、もっとも先進的なものということだ。

 なお、AMDによれば、コアクロック、汎用シェーダユニット数、ビデオメモリのバス幅などは現状では非公開としているが、後日、追って続報を出す可能性があるとのことだ。

 ただ、AMDは「現状では、現行家庭用据え置き機の中では、間違いなく、最高の3Dグラフィックスパフォーマンスが発揮できる先進的なGPUである」と胸を張る。

 DirectX 9世代SM3.0対応のPS3、Xbox 360のGPUと、DirectX 10.1世代SM4.1対応のWii UのGPUとの最大の違いは、ジオメトリシェーダが追加されている点だ。DirectX 9世代までのGPUのプログラマブルシェーダは頂点シェーダとピクセルシェーダの2つのプログラマブルシェーダからなっていたが、DirectX 10世代のGPUでは、ポリゴンの増減を執り行なう第3のプログラマブルシェーダが追加されているのだ。

 ジオメトリシェーダが行なう「ポリゴンの増減」は、後述のテッセレーションとは意味合いが異なる点に注意したい。ポリゴンの増減を、わかりやすい事例で説明すれば、既存の3Dモデルに毛を生やしたり、あるいは角の生えている3Dモデルから角を消し去ったり、あるいは、何もないところにパーティクルなどを新たに発生させたりする処理系に相当する。


【参考】AMD(旧ATI) RADEON HD4800のブロックダイアグラム

 ところで、RADEON HD4000系というと、ローエンドのRADEON HD4350からハイエンドのRADEON HD4890までがあるわけだが、演算性能が1TFLOPSを超えているというAMDとは別系統からの情報もあったので、スペック的にはミドルレンジクラスのRADEON HD4000系ではなく、もしかするとハイエンド系のRADEON HD4800系に近いのかもしれない。


■ Wii UのGPUはハードウェアテッセレータを内蔵する

 さて、RADEON HD4000系となれば、前回記事で予測した「テッセレーションの搭載の可能性は低い」という部分は間違えたことになる。

 「RADEON HD4000系、すなわちRV770系コアなので、テッセレーションユニットは搭載されている。そう、Xbox 360 GPUでの実装に近い形での実装だ。RV770系なのでもちろんDirectX 11世代ではない」(AMD関係者)。

 AMD(旧ATI)は、RADEON HD2000シリーズ以降はハードウェア・テッセレータを搭載させている。ちなみに、このRADEON HD2000系のテッセレータのレンダリングパイプラインの実装形態が元となって、DirectX 11世代GPUのテッセレーションステージの仕様が決定された経緯がある。

 まとめると、RADEON HD4000系を搭載するWii U GPUも、RADEON HD2000/3000/4000系と同等の実装形態でテッセレーションユニット(テッセレータ)が搭載されているはずなのだ。

 ここで、改めて、簡単にテッセレーション機能の紹介をしておこう。

 テッセレーションとは端的に言えばポリゴン自動分割を行なうもので、最もわかりやすい事例でその機能の効果を説明すれば、例えばカクカクとしたポリゴンモデルがあったとすれば、これを自動的になめらかな多ポリゴンモデルに変換してくれるようなもの……といった感じになる(厳密には、もっとローレベルな処理が行なわれるのだが)。

 テッセレーションを行なうのがテッセレーションユニット(テッセレータ)だ。

 最新のDirectX 11世代GPUでのテッセレーションステージのパイプラインは下図のように、「ハルシェーダ → テッセレータ → ドメインシェーダ」という流れになっているが、Wii UのGPUは、DirectX 10.1世代GPUなので、このような実装形態にはなっていない。


DirectX 11のレンダリングパイプラインとテッセレーションステージ

 AMDは、RADEON HD2000系にて、DirectX 10.1の標準レンダリングパイプラインではサポートされないテッセレーションステージを、下記のような、レンダリングパイプラインの前、頂点シェーダの前に差し込んだような、悪く言えば無理矢理差し込んだような実装形態を取った。直系の後継であるWiiのGPUもこの実装形態になるとみられる。そして、この実装形態は、同じAMD系のDirectX 11世代前のGPUであるXbox 360のGPUでも同じだ。


RADEON HD4000系におけるテッセレータの実装形態。Wii UのGPUでも同じになるはずだ RADEON HD4000系のテッセレータでサポートされるテッセレーションモード RADEON HD4000系でのテッセレータの実装形態をブロック図で表したもの。Wii UのGPUもこれと同じになるはず

 Wii UのGPUがATI RADEON HD4000系のテッセレータから機能削減を受けていなければ、離散型(Discrete)、連続型(Continuous)、適応型(Adaptive)といったテッセレーションモード(=分割モード)が利用できるはずだ。

 RADEON HD4000系のような実装形態のテッセレータでは、分割された直後の各ポリゴンにおいて、テクスチャ座標(u,v)は生成されるものの、ただ分割されただけの状態のままだ。前述したような、「滑らかな曲面で紡がれたポリゴン」状態にするためには、ポリゴンの各頂点を変位させる必要がある。この処理を行なうのが、上図のDirectX 11イメージ図でいうところのドメインシェーダになる(「折り紙」イラストで言えば、実際に折っている処理系)のだが、Wii UのGPUは、DirectX 10.1世代であり、ハルシェーダを持たないため、こうした分割後のポリゴンの各頂点の変位処理は、頂点シェーダで行なうことになる。

 ところで、前回記事で紹介した「日本庭園」のテクニカルデモでは、カクカクしたポリゴンエッジが目立っていたため、依然、あのデモで実際にテッセレーションステージが使われていたかどうかは怪しい。

【日本庭園デモ】
「日本庭園デモ」の動画。果たしてこのデモはWii UのGPUのポテンシャルを使い切ったのか?

■ 実はWii UのGPUは3画面以上の出力モードが搭載されている!


異なる2視点をレンダリングし、それらを同時出力する能力を持つWii UのGPU

 AMD関係者によれば、以前は2つあったGPU開発チームは今は1つに統合されているとのことで、Wii U GPUには、最新世代GPUでサポートされているマルチ画面出力機能「Eyefinity」に近い機能が搭載されているという。

 この機能により、Wii U本体からの映像出力と、Wii Uの新型ディスプレイ付きコントローラーへの映像出力の同時出力を実現しているのだ。


このメイン画面に出ている4分割画面を同時にディスプレイに出力できるポテンシャルは持っているというWii UのGPU

 AMD関係者によれば、Wii UのGPUの設計仕様では2つの映像出力モードがあるとのことで、1つは、現在公開されているような「Wii U本体からのHD映像出力」と「ディスプレイ付きコントローラーへのSD映像出力」の2画面出力モードだ。

 もう1つは「Wii U本体からのHD映像出力」と「4つのSD映像出力」のモードだという。つまり、SD映像にはなるが、メイン画面に加えて最大同時4画面出力が可能だということになる。

 つまり、技術的には、HD映像のメイン画面1基とディスプレイ付きコントローラー4基分のSD映像をレンダリングして出力できる実力があると言うことだ。

 ただ、こちらの機能はコスト的な理由で現状では活用されていないとのこと。将来的に有効化される事があるのかもしれないが、当面は「ディスプレイ付きコントローラは1基のみWii U本体に接続可能」という仕様でいくとみていい。

■ その他のWii U関連の入手情報

 前回記事で「あの日本庭園のデモはGPUメーカーの手によるものだろう」と記したが、AMD関係者によれば、あのデモ制作に関してAMDは、一切関わっていないという。

 確かに任天堂らしからぬテイストなので、もしかすると任天堂自身の制作ではないのかもしれないが、いずれにせよ、AMDは開発に関わっておらず、任天堂側のハンドリングで制作が行なわれたことは間違いないようだ。

 もう1点。GAME Watch取材チームからの情報によれば、E3会期内に行なわれた取材の中で、記者からの「光ディスクドライブがDVDドライブは心許ないのではないか」という問いかけに、任天堂側は否定も肯定もしなかったという。筆者が、E3会期中に別口に取材した先端現場での開発者達からは「現在のゲーム開発の現場では、DVDメディアの容量(2層8.5GB)は、すでにXbox 360の経験で絶対的に不足していることは明白だ。しかも、もはやブルーレイ(2層50GB)でも十分とは言いがたい。クラウドから適宜ダウンロードしてキャッシングするのが現実的なソリューションとなるのは時間の問題だと感じている」という声が聞かれた。いずれにせよ、Wii Uの光ディスクドライブにはまだ不明瞭な点は多い。

 それと、海外著名ゲームエンジンUnreal Engine3やCRY ENGINE3のWii Uへの対応だが、開発元のEPIC GAMES、CRYTEKは共に明確なコメントは避けたが、すでに対応に向けての動きは始まっている。

 ついに著名メジャーゲームエンジンが任天堂ハードのサポートを開始するのだ。


任天堂のプレスカンファレンスで発表されたWii U対応タイトルのラッシュ映像の中にUnreal Engine3(UE3)ベースのものが表示された。「BATMAN:ARKHAM CITY」や「Aliens: Colonial Marines」は紛れもないUE3ベースのタイトルだ。UE3はWii Uをサポートする

■ PS Vitaに寄せる不安と期待〜文句なく美しい有機ELディスプレイ。不安な前面カメラ

 今年のE3のもう1つの花形、PS Vitaについてだ。


美しい有機ELディスプレイ。まさにゲームディスプレイの理想形か

 こちらは、ブースに展示されていたほぼ製品版に近い実機で、いくつかの開発途中版のタイトルが動作しており、年内の発売がかなり現実味を帯びていることを実感させてくれていた。

 本稿では、PS Vitaの実機で、様々なタイトルをプレイしてみた雑感を述べておくとしよう。

 まず、有機ELディスプレイだが、その画質は素晴らしいの一言に尽きた。とても高輝度であり、コントラスト感が素晴らしい。特に黒の表現の沈み込み具合、暗部階調のダイナミックレンジの深さは相当なものだ。

 それと、ゲーム映像のような、動きの激しい動画においても、残像感がとても少ない。現行PSPでは時々感じられるコーミング現象も皆無だ。

 5インチ、960×540ドット(QFHD:クォーター・フルHD)の解像力も素晴らしく、サブピクセルの存在がほとんどわからない。1ピクセルが、サブピクセルの合成色としてではなく、その色そのものを発色しているように見える。この“映像力”は、わざわざソニーがこだわっただけのことはあると思う。

 操作系においては、いくつか、良い点と悪い点を指摘しておきたい。

 まずは悪い点からいこう。

 ブースで展示されていた、PS Vitaならではの新しいゲームコンセプトを示す目的で展示されていたミニゲーム集をプレイしていたときに気がついたのだが、PS Vitaでは、なぜか、前面カメラが「Δ」ボタンの左上にあるのだ。

 前面カメラを使うミニゲーム集をプレイしているときに、画面の左下に肌色の得体の知れない物体が常時表示されていたので何事かと思ったのだが、その正体は自分の指だった。

 そう、成人男性、特に欧米の成人男性がPS Vitaを手にとって、「Δ」ボタン付近に指をあてたときには、高確率で、指先(爪先)が、この前面カメラに掛かってしまい、ピンぼけの巨大な指の見切り映像を画面に出してしまうのだ。


「Δ」ボタンの右上にあるのが前面カメラ。なぜここに!? 実際に手に取ってみるとこんな感じになる。ボタン操作を行なうゲームに前面カメラの同時使用はほぼ無理という印象

 ソニー関係者にこの点に指摘したところ、「『Δ』ボタンと前面カメラは基本的に同時使用しないという前提で設計されている」とのことだった。実際、会場内に掲げられているPS Vitaのポスターや横断幕をよく見ると、ちゃんと前面カメラはこの位置にあるため、この仕様が最終決定なのだろう。

 ちなみに、「なぜ、画面上部中央に実装しなかったの?」という疑問を持った読者も多いと思うが、これは物理的に不可能だ。


会場内に掲げられたPS Vitaのパネルもよく見ると、前面カメラがこの位置に描かれている。これがほぼ最終仕様のようだ

 なぜかと言えば、その物理スペースがないためだ。実は、画面上部の裏側には、すでに背面カメラがあり、さらには本体上部側面にはメモリカードスロットと拡張コネクタまでもが実装されており、実装のしようが無いのだ。

 で、あれば画面下部、現状では「PS Vita」のロゴが刻印されている位置に実装すれば良かったのでは無いかと思うのだが、これも有機ELディスプレイの駆動基板などの影響で実装できなかったとみられる。

 PS Vitaの前面カメラの取り付け位置には、「見えない苦労」を感じ取ることができる。


左が拡張端子、右がメモリカード端子。これらがあるためディスプレイ上部に前面カメラを取り付けるのは無理だったようだ 背面カメラは丁度上部中央にある。AR系のゲームを重視するならば撮影軸がずれない方がいいはずなのだが


デジタルパッドはなで回すような入力が可能

 続いて、良い点も。

 新搭載されたデュアルアナログスティックはホールド感がよい。PSPや3DSのアナログスライドパッドとは雲泥の差の使いやすさだ。これならば、今度のPS Vitaではまともにアクションゲームが遊べそうだ。ただし、PS3のコントローラーとは違い、アナログスティックの押し込み操作(R3 、L3 )には対応していなかった。

 デジタルパッドは4方向ボタン中央が窪んでいて、それでいて各ボタンが近寄っているため、デジタルパッドでありながらなで回すような入力が可能だ。これはいい。


 △□○×の4ボタンはその円状配置の半径が小さくなり、ボタンも小さくなったが、各ボタン間のスペースに大きな変更はないようだ。なんというか、ソニーVAIOのアイソレーション・キーボードのような感じで、1ボタン1ボタンを確実に押す操作には、PS Vitaのボタンは好感触だと思う。一方で、指をスライドさせて連射させるような操作はちょっとやりにくい。


ツインアナログスティックは押し込み操作は未対応だった △□○×の4ボタンは小型化

 ところで、ブースに展示されていた実機は太いコードで繋がれておりバッテリーが抜けていて、外部電源駆動となっていた。なので、正確な持ったときの重量感についてはコメントしづらいが、画面の大きさからくる印象と比較すれば軽量に感じらた。

 PS Vitaのボディは、その大画面性、本体の大きさ感、重さのバランスは絶妙だと感じる。


(2011年 6月 11日)

[Reported by トライゼット西川善司]