謎に満ちた世界に迷い込み、少女とともに果てしないラビリンスに挑む。それがこの「ラビリンスの彼方」だ。戦闘システムを中心に独特な魅力のある作品を作り出すトライエースの最新作であり、本作もまた、とてつもなく“とんがった”一作となっている。戦術のみにポイントを絞った緻密なバトルシステム、幻想的で謎に満ちたラビリンスと、本作の魅力を一手に担う“少女”。個性的すぎてクセになる魅力に満ちた本作をレビューしていこう。
■ “少女とともにラビリンスを踏破する”驚きの導入で引き込んでくる物語
本作のメインビジュアル。上へと果てしなく広がるラビリンスの先に、一体何が待つのか |
少女とともにラビリンスを登っていく。本作の物語は非常にシンプルだが、驚きの導入と非常にユニークで独特なセンスに満ちている |
いわゆるダンジョンRPGである本作だが、「こんなに斬新なゲームは久々に見た!」というのが、筆者が最初に感じた事だ。“ラビリンス(迷宮でありダンジョン)”、“バトルシステム”、そして“少女”。この3つの要素だけで本作の魅力が構成されているといっても過言ではない。
プレイをはじめてすぐに、筆者は本作導入部のある仕掛けにすっかり虜となってしまったのだが、それこそが本作にとって実に重要なところであり、それは文章に書いてしまっては台無しになってしまうものであり、いわゆるネタバレであるので、このレビューには書かない。だから、ダンジョンRPGが好きな人にはぜひ“本作の独特な世界観を自分の目で体験してもらいたい”。
本作の世界観と冒頭シーンは不思議な魅力に満ちあふれていて、そのセンスにグッと引き込まれる。こんなに斬新で、エッジの効いた導入部のゲームは久々だ。人を選ぶところはあるかもしれないが、ファンタジックなものであったり、メタ的なものであったり、少々のホラーや奇妙さもあるだろうか? そういうテイストが好きな人なら、本作に手を出してもらいたい。遊び初めてすぐに、筆者が感じたような“何が起きているのかわからないような興奮”を感じてもらえるのではないかと思う。
というわけで、本作はざっくり言うと、少女とともに4人の人物が果てしないラビリンスを冒険するという、非常にシンプルな物語だ。大きな展開や場面転換はあまり多くないが、少女とのやり取り、ミステリアスな世界観、4人の会話などきめ細かい描写で、飽きさせない工夫が凝らされている。大きな展開はなしでも世界観と少女の魅力だけで、ゲームを遊ばせるだけの魅力を十分に出せているというのが、本作の怖いところ。作品内の要素としてはものすごくシンプルなのだが、えらく魅力的な仕上がりになっている。
実際のプレイ中の画面は上のようなもので、少女と常に一緒にラビリンスをマッピング進んでいく。いわゆるダンジョンRPGになっている |
■ ターン順をコントロールすることが重視された超戦術重視のバトルシステム
少女と4人の登場人物たちが旅するラビリンス。そこには少女が「お化け」と呼ぶ敵が徘徊している。お化けは常にラビリンス内に見えていて、一定の距離まで近づくか向こうがこちらに気づくと戦闘になるシームレスなシステム。
バトルシステムの独自性の高さが本作の大きなポイントだ。上画面には少女と敵の姿が、下画面にはパーティーメンバーや敵のステータス、戦闘のターン順が詳細に表示される。ターン順は色別に味方も敵もわかるようになっていて、“行動順”という数値によってターン順が決まっていく。プレーヤーが完全にターン順をコントロールできるようになっていて、ここをしっかりと考えないと戦闘がうまく進まない。
パーティーメンバーも敵にも、3種類の属性がある。「赤のグーテシム」、「緑のチョキロム」、「青のパーティリウム」だ。赤は緑に強く、緑は青に強く、青は赤に強いという3すくみになっている。3すくみの有利な組み合わせ、例えば赤のメンバーが緑の敵に攻撃すると大ダメージを与えられて、さらにダメージが空中に放出される。この放出されたダメージは、先ほどの組み合わせ(赤が緑を攻撃)では、緑のダメージとして放出され、次に行動した緑属性の味方か敵が吸収する。これが戦闘中唯一の回復方法だ。
つまり、行動順をうまく調節しないと、例えば赤のメンバー、緑の敵という順に行動する場合、そこで赤メンバーが緑の敵にダメージを与えても、次は緑の敵の行動になって緑の敵が放出されたダメージを吸収して回復し、先ほどの攻撃が無意味になってしまう。この場合は、赤メンバーは別の敵を攻撃するか、中盤あたりから使えるようになる“盾”を使って行動をスキップするのが望ましい。
ターン順の調節は、基本的に「攻撃の強さ」で調節する。ターンが回ってきた時に攻撃の強さを左右で切り替え可能で、強い攻撃ほど行動順の数値が大きく、ターン順が回ってくるのが遠くなる。敵の属性と残りHPを見つつ、こちらがダメージを与えてさらに放出されたダメージが敵に吸収されない順番を考慮していく。
この3すくみの要素とダメージの放出&吸収、さらに攻撃の強さの概念は、全て敵も味方も共通のルール。敵のAIもなかなか手ごわくできており、敵にとって有利な展開になるターン順に入ってくる。完璧ではないものの、敵がこちらの弱点属性を突いてきて放出されたダメージで別の敵を回復させるということすらある。考えないままに最悪のケースを続けてしまうと、いつまで経っても敵を倒せないということも起こりうる。
「行動順の値」は言い換えると“行動可能になるまでの残り時間”。例えば20の値が出る攻撃をすれば20溜まって次のターン順は後ろのほうになる。そこから5の値の敵か味方が順番が回ってくれば15になり、次に10の値の順番が回ってきたら5になる。溜まった行動順の値に対して引き算され、1番少ない値になるとターン順が回ってくるという流れだ。
最初はわかりづらいかもしれないが、これが数値で表示されているだけに非常に明白。「ここでこいつに30の攻撃をさせるとここにターン順が回るから……」という組み立てが自然にできる。頭で計算せずともグラフィカルに順番が表示されるので考えやすい。
数字とシステムが完全に整っている戦闘で、ランダム性が一切ないのが本作バトルシステムの大きなポイント。うまくコントロールすれば戦闘はサクサク進み、詰め将棋のように戦闘の流れを考え続けるというのが基本になる。ターン順を見ているうちに「あ、ここはこうしたほうがいいな」という閃きが湧く時もたくさんあって、それが想定通りにうまくいった時の気持ちよさというのは独特なものがある。
赤、青、緑という3すくみの属性がとにかく重要なバトルシステム。攻撃方法はいずれも魔法で、「攻撃の強さ」を高めるとより派手なエフェクトになってダメージも増す。ただし、「行動順の値」が大きくなり次のターン順が遅くなる |
このバトルシステムに“少女の魔法”の存在が加わってくることで、戦闘はさらにタクティカルなものになっていく。少女は4人のパーティーメンバーと違って操作はできず、毎回50の行動値ごとに自動で行動する。少女だけは3すくみの属性がなく、放出されたダメージを吸収しての回復もできない。少女のHPは非常に重要だ。少女が倒されてしまうと即ゲームオーバーとなる。
少女は最初はなにもできず、拾った石を投げるという0ダメージの攻撃をするのみ。だが、ラビリンスの奥へと進んでいくと、途中で少女は不思議な能力を手に入れる。これがバトルシステムに大きな変化をもたらす。ある意味で、これが本作ストーリーの要となる大きな展開とも言える。
まずひとつめが「マジック・ストック」。これはパーティーメンバーが敵に与えたダメージを、少女が蓄積してまとめて放つというもので、うまく使えば4人のメインメンバーには出せない大ダメージを与えられる強力な武器だ。
マジック・ストックが使えるようになると、パーティーメンバー4人の攻撃には「+」と「×」という属性が加わる。「+」は与えたダメージがそのままマジック・ストックにプラスされるというもので、「×」はダメージ量に応じてマジック・ストックの蓄積量にかけ算をするというもの。
うまく「+」で蓄積したものを「×」で大きく増幅させるのがポイントになるわけで、ここでもターン順を調節して「+」のメンバーを前に「×」のメンバーを後にするようにしたりと、コントロール次第で大きく結果が変わってくる。そうして蓄積されたマジック・ストックの攻撃力は、少女の残りHPのパーセンテージをかけた分が最終的に敵に与えるダメージになる。
もうひとつ非常に重要なのが「少女を守る盾」の魔法。これはパーティーメンバーが少女を守る盾となって少女への攻撃を代わりに喰らうというもの。タッチ操作でパーティーメンバーのステータスを触ると盾になる。ただ、盾になっている間は行動順の値も消費せず、ターン順がまわってこない。
少女は属性がなくてダメージを平均的に喰らうわけだが、盾になったメンバーが攻撃してくる敵の属性より強ければダメージを軽減できる。「少女を守る盾」を使えるようになったあたりから、敵の攻撃ターゲットが少女に集中するようになるところもあって、そこからは盾をいかにうまく使うかが戦闘の重要なポイントになっていく。
盾になっている間、盾のメンバーのHP量まで少女のHPが回復していくのも重要なポイント。少女のHPはたまに道に落ちていたり特定の敵を倒すと出現する回復アイテムや、一定の階層ごとにある回復ポイントで回復できるが、盾を覚えてからは攻撃が集中するので、いかにHP量の多いメンバーを盾にして回復し続けるかが重要だ。
盾になっている間はそのメンバーは行動できず当然回復もできないため、HPはどんどん減っていってしまう。また敵の属性に応じて盾メンバーの属性を変える必要もあるので、ターン順を見つつ敵の攻撃前にタッチ操作で盾メンバーを変えていくことになる。
この操作は結構独特で、例えば、味方、敵と続いていくターン順で盾メンバーを切り替えたい時には、味方の行動をボタン操作で決定しつつ、タッチ操作で盾メンバー入れ替えの指示をしておく。すると、次の敵の行動時には盾が入れ替わる。敵の行動まで進んでしまってから盾メンバーの入れ替えをしても間に合わない。次の行動時に入れ替わることになる。
敵の行動が連続していてその属性もばらけている時には、自動的に進んでいく敵ターン順の中で1ターン先読みで適切な盾メンバー入れ替えをしていく。敵のターンが続く時にはなかなか忙しい操作になるが、ターン順に対してタッチ操作で連続して正解を答えていくかのような、リズムゲーム的なプレイ感があってこれも独特。ターン順をコントロールしつつ観察して、「ここから敵が3体行動するから、青、赤、青と変えていけばいいな」というように操作の想定をしておいて、うまく対応するという感じになる。詰め将棋的な戦闘に、タッチ操作でクイズに答えるかのような防御の対応が加わるわけだ。
「少女を守る盾」は少女のダメージを肩代わりするだけでなく、“盾になることでターン順をスキップできる”という、本作のバトルシステムにおいてものすごく重要なメリットがある。例えば行動順の値が0になってターン順が回ってきたメンバーを盾にすると、次の順番の味方や敵にターン順が進む。その、次の敵か味方が行動中に盾にしたメンバーを戻すとターン順に復帰して、行動順の値が0だからすぐに順番が回ってくる。盾にし続ければ連続して順番をスキップできるし、好きな順番のタイミングで復帰させられるというわけだ。
こうした本作のバトルシステムは文章で説明するとすごく難しく感じてしまうかもしれないが、実際のプレイでは、パーティーメンバーがラビリンス探索中にうまい戦い方を自然と相談しはじめるということがたくさんある。そうしてひとつひとつレクチャーしてくれるので、これだけガッチリとしたシステムであるにも関わらず、非常にわかりやすい。
この「パーティーメンバー同士の会話」というのが本作のアクセントのひとつで、数分に1回ぐらいのかなり高い頻度で様々な会話をしてくれる。それは、プレイに役立つ戦い方の相談であったり、少女に対しての雑談やラビリンスへの感想であったり、本当に誰かが会話をしているかのようなテイスト。ラビリンスをひたすらに踏破していくというシンプルな本作だが、こうしたアクセントの面白さは秀逸で、飽きさせないものがある。
緻密なバトル以外は、驚くほどにシステム面の要素が少ない本作。画像は唯一のパーティーメンバーを成長できる「石版」。最大HP量のアップと、攻撃の強さの最大値アップ、属性の変更が行なえる |
バトルシステムを詳細に書いていったが、実はこれ以外の要素は非常にシンプルなものになっている。ラビリンスの至るところに落ちている「アイテム」の要素はあるのだが、ターン順をスキップしたり、3すくみの属性を変えたりと、バトルシステムに関する消費アイテムのみ。回復アイテムも存在するが入手した時点で回復効果が発揮される形式なので、戦闘中の回復はダメージ吸収によるシステムのみとなっている。
成長要素は一応あるがレベル制ではない。入手した経験値で「最大HPアップ」と「攻撃の強さの最大値アップ」ができるのみと絞り込まれている。3すくみの属性や「+」、「×」の属性変更もできるが、こちらは経験値は消費しない。
最大HPこそは増えるものの、攻撃の強さの最大値はそのぶんターン順が遅くなるので闇雲に強ければいいというものではないわけで、基本的にステータス的な有利不利はHP以外にはなく、あくまでバトルシステムのコントロールがポイントになる作りになっている。そうした意味では本作は成長要素というのもほとんど排除されていると言っていいだろう。
また、本作には実はメニュー画面もない。ステータス表示の他に、マップ画面とアイテム画面の切り替えがあるのみ。この割り切り方はかなりの潔さで、一切の複雑さが排除されている。バトルシステムこそは緻密なものになってはいるものの、それはあくまで戦闘に個性を出すためのもの。そのほかにプレイを複雑にするものはなにもない。このシンプルさがバトルシステムの魅力、キャラクターの魅力、少女の魅力を思いっきり際立たせている。
■ 少女の魅力こそ本作の本質!? ARカメラや外見のエディット機能も搭載
本作の魅力の代表というか、半分以上を占めると言っても過言でないのが“少女”の存在だ。主観視点の画面に常に見えていて、ラビリンスを一緒に旅しているという感覚を強く与えてくれる。元気で活発な少女で、ちょっと喋る内容にドジだったり変なところも垣間見える不思議な女の子。ボイス音声も豊富で、とにかく活き活きとした存在になっている。
ゲーム中に目に入ってくるのは、“ラビリンスとバトルと少女”のみなのだから、少女の存在の大きさは言うに及ばず。それだけにこれでもかと言わんばかりに少女を魅力的な存在に仕上げている。ある意味では本作は、“少女一点突破”なゲームだ。
ゲーム中にある条件を満たすと、少女の髪色や衣装をエディットすることもできるようになる。また、AR機能で少女が現実世界の空間に現われるというギミックも楽しめる。これは詳細は伏せるが、AR機能で少女がこちらの世界に現われるというのも、しっかり本作のテーマに沿ったものに仕上げている。これは実際にプレイしてもらうとわかるはずだ。“少女一点突破”なだけに、少女の魅力を活かす方向には相当に力が入っている。
ARカードで少女が現実の世界に! 実はこれ、3DSの機能を使ったお遊びなだけではなくて、本作の世界観をうまくマッチさせた要素になっている | |
少女の髪色や衣装をエディットすることも可能。とにかく“少女の魅力”がポイントな本作だけに、凝った楽しみ方もできるようになっているのは嬉しい |
最後に、本作の見過ごせない魅力、“楽曲の良さ”について。本作の曲を手がけるのは作曲家の桜庭統氏。シンセサイザーを中心に制作したという本作の曲は、ラビリンスに感じられる幻想的な世界観や謎に満ちた魅力に満ちている屈指の名曲揃いだ。移動中の曲は静けさと美しさが強調されていて、バトルになると鮮烈さが耳に残る曲になる。ゲームミュージックファンの人ならチェックして損のない作品だ。
■ 丁寧に作られたストーリー、収録楽曲の良さは音楽好きのゲームファンにオススメ!
まさにタイトル通り「ラビリンスの彼方」が世界観となっている本作。緻密なバトルシステムと謎に満ちた世界観、そして少女と、あえて魅力を絞り込んだ独特さは秀逸 |
本作はジャンルこそRPGではあるが、勇者が街で情報収集して、武器を合成して、抗えない強大な勢力に立ち向かう、というようなタイプのシステムのRPGではない。ここが人を選ぶところとは思うが、本作はあくまで“ラビリンスと少女とバトルシステム”のゲームだ。ダンジョンRPG好きというのが、本作をオススメする前提条件になるだろうか。
幻想と謎に満ちた世界観、少女の活き活きとした存在感とビジュアル、独特な面白さのあるバトル、要素のシンプルさ、そして音楽の魅力。これら本作の魅力はいずれも記憶に残るものばかり。ある意味、一点突破とも言える本作の大胆な構成は、わかりやすく、遊びやすく、少女というメインのビジュアルの魅力とともに残る。他のゲームとは“とがりかた”が全く違う。
人を選ぶのは間違いないのだが、ゲーム好き、ダンジョンRPG好きなら、手にして遊んでみてもらいたい。そう強く言いたくなるゲームだ。
(2012年 2月 20日)