音楽をテーマにしたセガのリズムゲームというと、「スペースチャンネル5」、「サンバDEアミーゴ」、「きみのためなら死ねる」など数あるが、本作「リズム怪盗R 皇帝ナポレオンの遺産(以下、『リズム怪盗R』)」は、その系譜を受け継ぎつつ“リズム”と“シナリオ”の融合させた新感覚のリズムアクションアドベンチャー。
ストーリーをアドベンチャー形式かつアニメーションも豊富に使って展開し、3DSの多彩な操作をフルに使った様々なリズムゲームが詰め込まれている。そんな本作の魅力を紹介していこう。
■ パリの街で「怪盗R」がリズミカルに活躍! クオリティの高いアニメも必見のストーリー
アドベンチャーパートで目的地へ移動し、先へ進むために音を使ったギミックやリズムゲームをクリアしていく |
予告した美術品を盗む「怪盗R」こと、主人公のラルフ。リズムに乗って鮮やかに振る舞う姿はミュージカル的だ |
「リズム怪盗R」はストーリーが展開していくアドベンチャーを基本としている。マップを移動し、それぞれの場所にいる人々とタッチして会話をし、先へ進むために解決しなければならない問題を“音を使ったギミック”や、“リズムゲーム”で突破して進んでいく。
物語の舞台はフランス・パリ。実在する「ルーヴル美術館」や「シャンゼリゼ通り」、「凱旋門」などの、日本人にもおなじみ“芸術の都”が舞台だ。そんな芸術的な街を舞台に音楽をテーマにしているので、ある種のミュージカルっぽさを感じさせるテイストになっている。
物語は本作ストーリーの3年前に起きた「ミステール事件」から始まっていく。何者かによって皇帝ナポレオンの棺が盗まれるという奇妙な事件が起き、それから3年の月日が経った。主人公である少年ラルフは失踪した父親を探すため、“怪盗R”と名乗って美術品を盗み出していた。
“予告した美術品を盗み出しては数日後に返却する”という不思議な事件を繰り返す怪盗Rの次なる狙いは、ルーヴル美術館に展示されているティアマトの腕輪。ルーヴル美術館のセキュリティを、音をテーマにした謎解きで解除し、パリ市警の警備をリズムに合わせて像と同じポーズを取ってかいくぐり潜入していく。
ティアマトの腕輪を盗みだした怪盗Rは、ヴァイオリンを奏でる少女マリア、そしてその彼女を追いかける皇帝ナポレオンを名乗る謎の男と出会う。ナポレオンに従う悪魔の騎士団に襲われる追い詰められる2人。その時、マリアの持つヴァイオリンと、怪盗Rが盗み出したばかりのティアマトの腕輪が共鳴し、光を放ちはじめた……。マリアに隠された秘密とは? 失踪した父親はどこに? ナポレオンを名乗る謎の男は一体? 数々の謎に、怪盗Rがリズミカルに挑んでいく。
ヴァイオリンを弾く少女「マリア」との出会い、2人に襲いかかる「ナポレオン」を名乗る謎の男と騎士団達、失踪した父親、マリアに隠された秘密、いろんな要素がストーリーにたっぷりとこめられている |
美しいパリの街を舞台なのが大きな特徴。実在する有名観光地を舞台に、全体がオシャレなテイストに彩られている |
怪盗がいれば当然、対抗馬として“ダミ声の熱血漢な刑事”が欠かせないわけだが、怪盗Rを追い続けるボードワン警視はまさにそのイメージそのものな存在 |
もう1人、“頭脳明晰な探偵”も欠かせない。少年ラルフの怪盗Rを追うのは、探偵クロード。サッカーボールを使ったリズムゲームで怪盗Rと対決する |
このように始まっていく本作のストーリー。パリを舞台にしたオシャレ感、怪盗というイメージにあるスタイリッシュさ、さらにそこに、エスコートするように少女マリアを助けていくロマンスあり、ナポレオンを名乗る男や悪魔の騎士団たちとのシリアスなやり取りやバトルあり、失踪した父親やマリアの秘密を巡る物語ありと、様々なストーリー要素が込められている。
怪盗が主人公のストーリーといったらやっぱり、怪盗を目の敵にして執拗に追いかける熱血漢なダミ声刑事の存在や、怪盗を追う探偵の存在が欠かせないわけだが、このあたりもバッチリ。怪盗Rの好敵手的な存在「ボードワン警視」や探偵の「クロード」らが怪盗Rを追い詰める。
主要キャラクターのやり取りはボイスが豊富に用意され、さらに総尺30分以上のアニメーションシーンもクオリティが高い。ストーリーの見せ方もしっかりしている。特にアニメーションシーンのクオリティは高くて見応えがあり、3DSならではの3D立体視でも楽しめるというプラスアルファもある。
ストーリーは、コアでハードなものが多いと個人的に思っているセガの中でも異色と言える柔らかさを感じる暖かい物語になっている。大人も子供も安心して楽しめるコミカルさとシリアスさ、スタイリッシュさを併せ持った物語だ。また、後半のダイナミックな展開はけっこう突き抜けたものがあって、このあたりはセガらしさ(?)を感じさせるところもあった。
ストーリークリアまでの難易度は、終盤のリズムゲームに多少難易度が高めになるものがあったものの、基本的な難易度は控えめ。音を使ったパズルや謎解きに関してもいずれも易しいものだ。歯ごたえがもう少しあっても良かったかな? と感じるぐらいだったが、ストレスを感じさせるところがほとんどなく、遊びやすい。歯ごたえよりも遊びやすさが重視された方向性だ。
アドベンチャーパートでは、背景をタッチすることで隠されたアイテムが見つかるという要素もある。背景をタッチすると、ショップでアイテムを購入するためのメダルが見つかったり、サウンドギャラリーでの再生楽曲が増えるディスク、さらにクリア後のお楽しみになるアナザーチャプター開放条件のひとつである「幻の譜面」が見つかる。ちょっとしたコレクション要素ではあるが、タッチして探っているうちにパリの街並みの背景をよく観察することになり、じっくりと楽しめる。
プレイ時間はストーリークリアまでで6~7時間程度。これだけだとちょっとあっさりしているぐらいだが、本作は“リズムゲームをやりこむ”という長く楽しめる要素があるのがポイント。基本的にストーリーを一度楽しんだら終わりになってしまいがちなアドベンチャーゲームだが、いつまでも遊びこめるリズムゲームの魅力を加えたのはお得感のあるうまい組み合わせだ。
音を使ったギミックがポイントのストーリー進行。道を塞ぐ難問を“音を録音するレコーダー”を使って解決したり、音がポイントになる記憶ゲームなどのパズル要素が登場する | |
たっぷり収録されているアニメーションシーンも見所のひとつ。アニメのクオリティは高く、3D立体視でも楽しめるというプラスアルファもある |
背景をタッチすると、メダルなどの隠されたアイテムが見つかる。メダルを払ってショップでムービーのリプレイを購入したりと、コレクション要素に欠かせない |
■ タッチ&スライド、ボタン、ジャイロと様々な楽しみ方が用意されているリズムゲーム
タッチ、ボタン操作、ジャイロなど、3DSの入力方法を全て使って、50個以上のリズムゲームが楽しめる |
収録されている楽曲もバラエティ豊か。ダンス、アンビエント、ポップ、コミック、さらにはクラシックも。いずれもクオリティが高く音質も良好で、イヤフォンやヘッドフォンでプレイしたい |
セガのコンポーザー幡谷尚史と大谷智哉を中心に制作されたサウンドがなんといっても本作の魅力で、合計50個以上のリズムゲームが収録されている。曲のジャンルも多彩。
リズミカルで疾走感のある、リズムゲームらしさのある曲が中心だが、なかにはヴァイオリンの演奏をタッチペンで再現して入力するクラシックであったり、「サンバ DE アミーゴ」からのサンバ、「スペースチャンネル5」からの“アップダウン、アップダウン、チューチューチュー”なあの曲、さらには「きみのためなら死ねる」からの曲もありと、バラエティ感のある内容になっている。
これら収録曲のクオリティの高さは大きな魅力。音質も高くてしっかりと聴ける仕上がりになっており、音へのこだわりが感じられる。本体スピーカーでも充分に楽しめるが、イヤフォンやヘッドフォンで楽しめばさらに魅力アップというところだ。
リズムゲームでは多彩な入力方法を使っているのもポイント。タッチとホールド、タッチでのスライド、ボタン操作、ジャイロを使った3DS本体を傾けて操作するゲームもある。ダンスならタッチペンで手足の動きを再現するように上下左右や1回転のタッチ操作、騎士団とのバトルではボタン操作で迫ってくる騎士をリズムよくパンチ、格闘シーンでは左右や奥へと3DS本体を傾けて、まるで本当に避けるかのような操作で攻撃をかわしていく。
曲自体のテイストやリズムが曲ごとに異なっているのももちろんだが、入力方法をそれぞれの曲に合わせて多彩に用意することで、飽きの来ない、異なるリズムの楽しみ方を味わえるのが嬉しいところだ。
リズムゲームというと、曲に対して入力のリズミカルさがうまくマッチしているかによる“気持ちよさ”が面白さのポイントになってくるわけだが、本作では凝ったリズム入力をさせる点に独特なものを感じさせる。曲の中でもアクセントに入ってくる、いわゆる“きざむようなリズム”を入力する曲が多めな印象で、ちょっと玄人向けなチューニングと感じる。最初は“入力ガイド表示機能”がデフォルトでオンになっているので、ガイドを使ってリズムに合わせて入力するコツを覚えていけば、プレイが上達してくるとリズムを楽しめるようになってくるだろう。ゲーム性重視なセガらしいこだわりと感じたところで、やりこんでいくほどに気持ちよさが増していく。
ただ、この入力ガイドの表示のテンポが画一的で、例えば右スライドと1回転タッチのような入力ストロークの異なる操作も同じテンポでガイドが表示されるため、逆にプレイしづらいと感じてしまうことがあった。できれば、ストロークにあわせて入力を早めにスタートするとか、ガイドとしてはもう一息ほしかったところだ。個人的には入力方法だけ覚えたら、入力ガイド表示をオフにして遊ぶようにしたところ、画面全体を見るようになって画面の動きを楽しめるようになり、動きからリズムを取るようになってよりリズミカルに楽しめるようになった。多少慣れが必要にはなるが、ガイド表示オフでプレイしたほうがより楽しめる。これはぜひ試してもらいたいところだ。
リズムゲームはストーリー途中で絶対にプレイするものの他にも、寄り道的にプレイ可能になるものもあり、そうしたものには高難度のものもある。特に「君のためなら踊れる」あたりの難易度はなかなかのもの。また、エンドレスモードというロングプレイ+ループで3回ミスするまで記録にチャレンジし続けられるモードもある。エンドレスモードで頭を空っぽにしてリズムを刻み続けると、本作のサウンドの良さ、リズムゲームならではの気持ちよさが堪能できる。
また、入力判定が厳しくなるハードモードや、ミスしたら即終わりというパーフェクトチャレンジもあるのだが、ルールを厳しくする方向ではなく、例えば入力量がものすごく多くなるハードモードであったり、スピードが速くなったりするモードなどの、リズムゲームの気持ちよさをさらに高める方向なモードだったらより嬉しかったように思う。リズムを遊ぶという面でのやり込みが少し薄めだったのは残念なところだ。
■ 丁寧に作られたストーリー、収録楽曲の良さは音楽好きのゲームファンにオススメ!
パリを舞台に少年の怪盗Rがリズムでスタイリッシュに事件へ挑む本作。ストーリーの見せ方は、ボイスあり、クオリティの高いアニメーションシーンもふんだんにありと、丁寧で非常に遊びやすい。また、リズムゲームがアドベンチャーの物語の中に融合していることで、ゲームらしさもしっかり感じられ、ストーリークリア後にもリズムゲームを楽しんでいける。
収録されている楽曲の多彩さも大きな魅力で、疾走感のあるリズム、独特な刻み方がクセになるリズム、クラシックをタッチペンで弾くという一風変わったヴァイオリン演奏、さらに他の作品からのゲスト楽曲もありと、音楽好きのゲームファンに特にオススメ。少々チューニングや、やりこみの方向性にちょっともったいないところも感じられたものの、そのあたりは次回作に期待したい。大人も子供も楽しめる良さがあり、丁寧で遊びやすいところが光る作品だ。
(2012年 2月 15日)