DSゲームレビュー

“トリツク”、“アヤツル”で死せる運命を更新!
巧舟氏の新感覚ミステリー作品!

「ゴースト トリック」

  • ジャンル:ミステリー
  • 発売:株式会社カプコン
  • 価格:5,040円
  • プラットフォーム:ニンテンドーDS
  • 発売日:発売中(6月19日)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:B(12歳以上対象)


 “逆転裁判”を手がけた巧舟氏の待望の最新作、「ゴースト トリック」がついに発売された。刻一刻と迫る死の運命を、モノに“トリツク”、モノを“アヤツル”といった、“死者のチカラ”で変えていくという、新感覚のタイトルだ。

 本作は謎に満ちたミステリーで、主人公はなんと記憶を失った“死者のタマシイ”。「目の前で起こっている事件は一体何なのか?」、「なぜ自分は殺されたのか?」、「そして、自分は誰なのか?」といった、数々の謎を追っていく。もちろん、巧舟氏ならではのコミカルでユニークなやりとりも満載だ。このレビューで、巧舟氏の新たな世界「ゴースト トリック」の魅力をお伝えしていこう。

― ストーリー ―

<<死>>から始まる、
一夜のミステリー

今夜。街の片隅で、命と記憶を奪われた“私”は、
タマシイとなって目覚めた。

私は、なぜ殺されたのか?
私は、誰に殺されたのか?
そして・・・私は、誰だったのか・・・?

…タマシイは、明日の朝“消滅”する…
一夜かぎりの“孤独な追跡劇”が、今。始まる!

 



■ 死から始まる“一夜限り”のミステリー

怪しげな男と、銃口を向けられている見知らぬ女。中央でくずおれているのがシセル。自分はすでに死んでいた
助けたくとも何もできない……。そう考えていたところに、謎の声が語りかけてきた。一夜限りの追跡劇がここから始まっていく

 物語は異様な場面から始まっていく。銃を向ける怪しげな男、そして、銃口を向けられている女。その2人のちょうど真ん中、向かい合うその間に自分はいた。というより正確には、自分の“亡きがらがあった”。意識を取り戻したとき、彼は“すでに死んでいた”のだ。“タマシイ”と呼ばれる存在になって、現実の世界を覗いていた。彼に一体何があったのか?

 主人公のシセルはこのように、気がついたら既に死んでいた、しかも死ぬまでの記憶も一切思い出せないという、何をしようにもどうにもならないという状況だ。目の前では今にも、怪しげな男が女を撃ち殺そうとしている。だが、手を出そうにも何もできない。

 そんな彼に、謎の声が語りかけてきた。

 「…のんびり死んでいる場合ではございません…」

 声の主は「クネリ」という謎の存在。トリツク、そしてアヤツルという、死者のチカラの使い方を教えてくれる。死者である自分は、現実に手を出すことも声を出すこともできない。だが、死者のチカラで影響を与えることはできる。このチカラならば、目の前で起ころうとしている悲劇を食い止められる……。

 こうして始まる一夜限りの追跡劇が、「ゴースト トリック」だ。主人公のシセルはほかの死者、または死んでいるときに1度会話した人物とは会話ができるものの、基本的には生きている現実からは外れた存在。現実に起こる出来事を一歩引いた目線から見ているあたりは、ゲームを遊んでいるプレーヤーの目線に近いのがポイントだ。

 今夜この街では何かが起ころうとしている。自分を死に追いやり、そしてさらなる死を生みだそうという何か。シセルは、自分は誰に殺されたのか?そしてなぜ殺されたのか?その真相を追って、様々な事件の瞬間、そして人々と関わっていく。謎に満ちた物語は、やがて意外な事実を明らかにしていく……。


[シセル][リンネ][カノンとミサイル][ジーゴ]


■ 死者の力で死の4分前へ!トリツク、アヤツルで死の運命を更新せよ!

タマシイであるシセルは直接何かをすることはできない。だが、モノにトリツキ、アヤツルことで、現実が変わっていく
右にある青い砂時計が、死の瞬間までの残り時間。何もしないでいても時間が流れ、事件が進行していく

 シセルはこの一夜の間に、さまざまな「死」にめぐりあう。その「死」は、運命として1度は実際に起こってしまう(簡単に言えば死んでしまう)。だが、シセルの出番はそこからだ。

 シセルが使える“死者のチカラ”は主に3つ。物に“トリツク”こと、とりついたモノを“アヤツル”こと、そして、“死の4分前にモドル”ことだ。“死の4分前にモドル”とは、その名の通り、死んでしまった人にトリツクことで、その人の「死の4分前の世界」へと戻れるチカラ。そこから、トリツクとアヤツルを駆使して死の運命を変えていくというわけだ。

 “トリツク”と、“アヤツル”はどちらもそのままの意味。「トリツク」は、自分のタマシイをタッチしてモノに存在する白く輝く「コア」に移動させとりつくチカラ。そして「アヤツル」は、とりついたモノをあやつって動かすことだ。モノをあやつって起きた動きによって現実の何かが変わり、それによって死の運命は少しずつ変わっていく。簡単に言えば、死の瞬間を邪魔するわけだ。

 シンプルな操作だが、あやつれるモノの豊富さやそれぞれの動き、それに対するキャラクターたちの反応の多彩さ、ユニークさが大きな魅力となっている。目には見えない幽霊の立場で、いろんなモノを動かしてみたらどんな反応が起きるか?という、いたずら心を刺激されるような面白さも感じられる。

 ただ何にでも自由にとりつけるわけではない。自分のタマシイが移動できる範囲は短く、モノに存在する「コア」にとりつくことでのみ移動できる。遠くに進むには、コアからコアへと飛び移るようにしなければならない。とりつくモノを移っていくだけでは限りがあるので、移動するためにも“アヤツル”を駆使していかなければいけない場面もある。

 死の運命に至るまでの出来事はリアルタイムに進んでいく。どうすれば運命を変えられるかを考えているうちにも砂時計の砂が落ちていき、時間が進んでいく。時間の過ぎた先には死の運命が待っていて、それを止められなければゲームオーバーになってしまう。

 モノにとりつく時の「トリツクビジョン」という画面では時間が止まるので、そこでどうとりつき、あやつっていくかを考えるのが基本だ。だが、時間が止まっているためあやつることができないので、あやつるために時間の流れがある元の世界に戻らないといけない。トリツクビジョン中にあやつったときの動きを想像し、元の世界で手早く実践していく。

 また、自分があやつっているモノ以外にも当然動きがあるので、それを利用するのもポイントになる。例えば、その場にいた人物がモノを運んでいったり、ぶつかってモノが落ちたり、だ。そうしたリアルタイムに起こる一瞬の動きを狙ってとりつくのも重要なテクニックで、パズル的な要素のなかに、瞬間を狙うようなアクション的な面も加わっている。


死者のチカラで死の4分前の世界に戻ってからが本格的なスタート。トリツクとアヤツルで運命を変えられなければ、死の運命が繰り返されてしまう
あやつれるモノはたくさんあるが、それがどんな風に動くのかは実際にあやつってみないとわからない。あまり意味がない動きだった場合、残り時間が過ぎてしまうだけで終わってしまう

 プレイ中には、「これをあやつったら、こういう風に動いてくれるかな?」という予想が次々に頭に浮かんでくる。なにしろほとんどの場面は、「ここからどうすれば死を回避できるんだろう?」と頭を捻ってしまうような状況ばかりで、頭の中は真っ白なキャンバス状態。そこからあれこれと試したり考えたりするう ちに、頭の中にムクムクと予想が描かれていくわけだ。

 その予想がピタリと当たって展開が変わってきた時の面白さは独特で、ひらめく気持ちよさ、それが的中した喜びが、セットになって沸き上がってくる。この面白さは、「逆転裁判」で「これを突きつけたらこういう展開になるかも?」と読みを働かせて、ドンピシャだった時の気持ちよさに通じるものがある。もちろん予想外な展開になってしまうこともあって、それに一喜一憂する面白さもある。

 なにしろリアルタイムに時間が進んでいくので、プレイ中はすごくハラハラさせられる。プレイ開始直後には死の運命を変えるための道筋は見えてこない。それどころか、タマシイの位置が事件の当事者たちから遠くて、まず近づくための道のりを細かに進んでいかなければいけない時もある。

 そこからトリツク、アヤツルを細かに積み重ねていく。次第に「もしかしたら、こうするといけるのかも……!」という閃きが生まれて形になっていく。テンションはジワリジワリと高まっていく。

 積み重ねた先に待つのは、死の運命を変えるための決定的かつ一瞬のチャンスだ。少しずつ高まっていったテンションが最高潮を迎える場面。緊張感のある一瞬をうまく乗り越えられた時は、思わず「よし!」と声が出てしまうぐらい気持ちいい。


シセルが訪れる場所のひとつ「ゴミ捨て場の管理室」。画面は常に真横から視たような視点になっている。ゴミ捨て場の管理室は横長になっているが、場所によっては狭かったり、上下に広がりのある場所もある。もちろんこの画像にもとりつけるモノ、あやつれるモノがたくさんある
登場するキャラクターたちはいずれも、シリアスなことからコミカルなことまでたくさん喋る。また、動きもスムーズかつ個性的で、見た目からもキャラクターの魅力を楽しめる

 死の運命を更新しようとしている最中には、色んな言葉や会話のやり取りも入ってくる。そのひとつは「シセルのひとりごと」で、画面に出現した吹き出しをタッチすれば聞ける。手詰まりに見える状況をどう突破するか、何を利用するのか、シセルなりの考えを教えてくれる。

 物語は当然、死の運命が迫っている時間ばかりではない。そうではない場面でもトリツク、アヤツルを駆使して事件を追っていく。そうした場面には様々な人物との出会いややり取りももちろんあって、ユニークな会話もたっぷり。シリアスなやり取りとコミカルなやり取りの両面からビシバシとキャラクターの魅力が伝わってくるところは、巧舟氏のテイストがばっちりと感じられる。物語をまっすぐ追うばかりでなく、ちょっとした寄り道をしてみるのもオススメだ。

 会話等のやり取り以外に、キャラクターの動きそのものも魅力のひとつ。状況の進展や動きが重要になっているところもあってか、各キャラクターの動きは非常に滑らかでよく動く。これには秘密があって、高性能なパソコン上で高画質に動かしたアニメーションをパターン別に取り込んで、ニンテンドーDSで再生させているということだ。

 技術的にも凝っているわけだが、それは見た目だけでなく、動きの一瞬を捉えてとりつくような“動き”が重要なゲームに欠かせないからでもあると思う。スムーズな動きのおかげで、瞬間的なチャンスも狙いやすい。

 また単純によく動くだけではなく、動きそのものがユニークで個性的なのも大きな魅力。独特なキャラクターの魅力がばっちりと伝わってくる。動きのスムーズさも、コミカルさも、「ゴースト トリック」の魅力に欠かせない存在だ。


ある方法でシセルはいろんな場所を行き来できる。訪れる場所はたくさんあり、それに伴って登場するキャラクターもたくさん。当然、死の運命もたくさん待っている


■ 様々な“動き”がプレーヤーの心も動かす、コミカル、シリアス、驚きに満ちた良質ミステリー作品!

シンプル操作ながら独特な気持ちよさと面白さがあり、謎に満ちたミステリーがその面白さと結びついて、プレーヤーの心をぐいぐいと引っ張っていく

 ちょっと変わった表現かもしれないが、「逆転裁判」は弁護士と検事が言葉で応酬するという意味で、いわば“漫才”のようなスタイルでありテイストだった(ツッコミもバシバシ入る)。それに対して「ゴースト トリック」はというと、“コント”のような印象。「シチュエーションの異なる様々な舞台」があり、そこには「動きで魅せる」面白さがある。

 トリツク、アヤツルことで舞台にある物が動く様子はコントの舞台装置のよう。あやつって手を加えると何かしらの反応があって、何かが変わっていく。この面白さは他のゲームにない特殊な魅力だ。その面白さの積み重ねが、死の瞬間を回避することに繋がり、それによって少しずつミステリーの謎が解けていくという、気持ちのいい結果へと次々に結びついていく。

 もちろん、随所にユニークなやり取りや驚きが散りばめられている。それらを楽しみつつ、細かにトリツク、アヤツルを積み重ね、それぞれの場面のクライマックスで気持ちの高ぶりは最高潮を迎える。根底に流れる巧舟氏の持ち味と言える魅力は、「ゴースト トリック」も「逆転裁判」も近いものがあると思えた。だが当然その味わいやアプローチは、ひと味もふた味も異なっている。巧舟氏が織りなす全く新しい一面だ。

 そのテイストの違いを表現するキーワードは、様々な“動き”と感じた。あやつって起こす“動き”、リアルタイムに進む事件現場の“動き”、スムーズかつコミカルでキャラクターの魅力がよく出ているアニメーションの“動き”。プレーヤーの心理でも、死の運命を変えるために少しずつ変化を積み重ねてジワリジワリと高まってくる心の“動き”と、決定的な死の瞬間をはねのけるテンション最高潮な心の“動き”があった。

 一夜限りの追跡劇。この奇妙なミステリーを最後まで楽しみ終えた先にある“心の動き”は格別の味わい。ぜひ皆さんにも味わってもらいたい。

(C)CAPCOM CO., LTD. 2010 ALL RIGHTS RESERVED

(2010年7月14日)

[Reported by 山村智美 ]