ゲーミングノートPCレビュー

初の3D立体視可能なモバイルゲーミング環境!
PCゲーミングの未来はここにある!? -前編-

「ASUS G51Jx 3D」



ASUSの新ブランド「Republic of Gamer」を代表するゲーミングノートPC

 近年、ゲーミングノートPCが益々パワーアップを続けている。取り回しのよいノート型コンピューターに、PCゲーミングの性能をぎゅっと詰め込んだ筐体。据え置き型にはないオールインワンの使い良さと、箱から出して即使える利便性は、ゲーマーにとって大きな魅力だ。

 モバイル向けのCPUやグラフィックスチップの性能向上により様々なバリエーションが整いつつあるこのゲーミングノートPCの分野の中でも、ASUSTekが4月末に発売した新モデル「G51 Jx 3D」は格別の存在だ。ノートPCとしては初め3D立体視に標準対応し、PCゲーミングの最新ソリューションを買ってすぐに楽しめる。

 今回は、この「G51 Jx 3D」をゲームユーザーの視点で検証してみた。話題の3D立体視をはじめ、ゲームパフォーマンス、総合的な使い勝手など、どのような楽しみを提供してくれるかを詳しくご紹介していきたい。テーマはずばり、「果たして『G51 Jx 3D』は将来のスタンダードを先取りするゲーミングPCなのだろうか?」、だ。 前後編でお届けする本記事の全編では、本製品のハードウェア面をクローズアップしてみよう。後編では3D立体視性能をレビューするのでぜひこちらも注目いただきたい。



■ 15.6インチ120Hz液晶搭載のヘビー級ゲーミングノートPC

筐体デザインはシンプル。15.6インチモニターは120Hz対応
キーボードにテンキーもついているのが地味に嬉しい
左側面にはHDMIポートも装備。ここから大型TVなどに出力できる

 まずは基本的なスペックから見ていこう。本製品「G51 Jx 3D」の最大の特徴は、液晶パネルにある。15.6インチの液晶パネルは「NVIDIA 3D Vision」によるシャッターグラス方式の立体視ソリューションに対応するため、120Hz という通常の2倍のリフレッシュレートを持つものが採用されている。

 パネルの解像度は1,366×768ドットで、LEDバックライトを採用。表面は光沢処理が施されたグレア型で、反射が強く、基本的には屋内での利用を前提としたデザインだ。輝度、発色ともに通常のノートPCよりも強力な水準にあり、後述するバッテリーの持ちを度外視したゲーミング仕様と言うことができるだろう。

 動画性能は非常に高い。これについては明確な理由がある。120Hzという高いリフレッシュレートが基本になっていることで、通常の60Hzモニターよりも残像感が減り、動きがなめらかに見えるという仕組みだ。実はこの点だけをとっても、120Hzモニターには大きな価値がある。

 パネルにひとつだけ不満があるとすれば、それは1,366×768ドットという解像度。ネットブックでも珍しくない解像度ということで、Webブラウジングや一般のデスクトップ作業では手狭さを感じる。このサイズのノートPCであればより広大なデスクトップが欲しいところだが、本製品は120Hzを実現した上で、ゲーム用途に特化した仕様としてこの解像度を選択したようだ。

 そして本体サイズは375×265×34.3mm~40.6mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約3.3kgと、ヘビー級。カバンに入れてあちこち持ち運ぶのは少々辛いという重さだが、本製品の特製から言って、メインの使用形態は固定場所でガッツリとゲームをプレイする、ということになるだろうから、この点は問題のないトレードオフだ。

 そのヘビー級ボディに入っているCPUはCore i7-720QM(1.6GHz)。そこらのデスクトップPCにも引けをとらないパワーを持つクアッドコアCPUだ。そしてこのCPUは、本製品にプリインストールされているASUSTeKのユーティリティ「Power4Gear Hybrid」にて「超ターボ」モードを選択することで、最大動作クロックが最大2.9GHzまで上昇する。

 グラフィックスチップはNVIDIA GeForce GTS 360M。ノートPC向けのGPUファミリーであるGeForce 300Mシリーズの最上位版であり、フルHD解像度の最高級ゲーミングノートPCにもよく搭載されているモデルだ。その実際の性能については、後述する各種ベンチマークで検証してみよう。

 その他、ハードディスクは7,200RPMの500GB 2.5インチSATAドライブ、光学ドライブとしてBD-ROM/DVDスーパーマルチコンボドライブを搭載。出力端子としてUSB 2.0×4、IEEE 1394、eSATA、ExpressCard/54スロット、Gigabit Ethernet、メモリカードスロットなどを網羅。さらにアナログRGB出力とHDMIと2種の外部映像出力端子を備える。特にHDMI端子が備わっているのは、本製品の拡張性において非常に重要なポイントだ。これについても後述しよう。

 本製品の基本スペックについては、姉妹誌PC Watchの記事、「HotHotレビュー ASUSTeK『G51Jx 3D』~NVIDIA 3D Vision対応液晶搭載のハイエンドノート」でも詳しくご紹介しているので、そちらも併せてご覧になると良いだろう。本稿ではゲーマー的視点でさらに評価をしていきたい。


重量は約3.3kgもあり、常時持ち運ぶという用途には向かないが、その重量に見合ったハイパワーを備えるゲーミングノートPCだ
液晶は高輝度で動画性能も高い。光学ドライブはBD-ROM/DVDスーパーマルチタイプ。3D版のブルーレイ映画を楽しむこともできる


付属ユーティリティ「Power4Gear Hybrid」。ここからハイパワー設定、省エネ設定といったマネジメントができる。ゲーマーなら「超ターボ」モードで常用するしかない?


■ 「NVIDIAのゲーミングプラットフォーム」という捉え方で「G51 Jx 3D」を見る

同梱の「NVIDIA 3D Vision」特製パッケージ
なかには3Dグラス、エミッター、ケーブル類が入っている
グラスが120Hzの映像を適切に分離してくれる

 本製品のウリとなっている「3D立体視」は、近年にわかにデジタルエンターテイメントの新境地として注目されつつある要素だ。現在、立体視を楽しむための方式は多数あり、メジャーなものだけでも「偏光グラス方式」、「アクティブシャッター方式」といったものを挙げることができる。

 本製品で採用されているのは、後者の「アクティブシャッター方式」だ。これは、モニター側で右目、左目用の映像を高速に切替えて表示して、それに合わせて3Dメガネのシャッターを開閉することにより、ユーザーの左右の眼にそれぞれ適切な視差を持つ映像を見せるというもの。この方式では、映像のチラツキを最低限にするため、120Hzという高速リフレッシュレートのモニターが必要とされている。

 そして、PCゲーミングの世界において、この方式を実現するソリューションは、現在のところ「NVIDIA 3D Vision」だけだ。これはアクティブシャッター方式の3Dメガネの製品名であり、NVIDIAが提供している立体視ソリューション全体を指す名前でもある。

 順を追って説明すると、3D映像を作り出すためには、まずPC側に120Hzのステレオ映像を作り出す3Dグラフィックスドライバーが必要だ。これはNVIDIAの独自技術で実装されているものがデファクトスタンダードとなっているため、NVIDIAのGeForceシリーズしか選択肢はない。次に、120Hzのステレオ映像を正しく両目に受像させるための3Dメガネが必要だ。それが本製品に標準添付されている「NVIDIA 3D Vision」である。

 「NVIDIA 3D Vision」は、単体で購入するとおよそ2万円程度となる製品だ。そこで本製品「G51 Jx 3D」の実売価格を考えると、これだけの基本スペックを備えたゲーミングPCに「NVIDIA 3D Vision」が標準添付されて店頭で20万円を切るというのは、それだけでも有力な選択肢と言えそうだ。

 さらにNVIDIA GeForce GTS 360Mを搭載することで、本製品は96個のCUDAコアを持つという言い方もできる。CUDAは現在最も活用が進んでいるGPGPUプラットフォームで、ゲーム的な使い道としては、最新ゲームでの採用例が豊富な物理エンジン「NVIDIA PhysX」などがある。新しいゲームほど、そのパワーを実感できるというわけだ。

 こうしてみると、本製品は「NVIDIAのゲーミングプラットフォーム」という言い方も可能だ。ライバルであるAMD/ATIのRadeonを搭載したゲーミングノートPCも数多いが、本製品が立体視機能や物理エンジンのアクセラレーションといった最新トピックを幅広くカバーできるのはNVIDIAならではの強みだ。特にノートPCは購入後のグラフィックスチップの代替が効かないため、今後「NVIDIAか、ATIか」という選択はより本質的なものになりそうだ。

 その点で重要視されるのは、やはり実際のゲームでのパフォーマンス。いくら3D立体視ができても、物理エンジンが高速化できても、やりたいゲームで満足なフレームレートが出ていなければゲーミングPCとは言い難い。早速そこのところを見てみよう。


「3D Vision」を接続すると自動的に3Dゲームの立体視ができるようになるが、付属ツールで見え方を確認することも可能。画面がブレブレになっていればステレオ表示状態だ


■ 実際のゲームパフォーマンスは如何に?

 というわけで早速、複数のゲームでベンチマークを行なってみた。今回の基準は2つあり、ひとつは「通常(2D)モードで必要なパフォーマンスが達成されているか」というもの。そしてもうひとつは「3D立体視モードでどれくらいのフレームレートが出るか」というもの。

 また、本製品「G51 Jx 3D」は1,366×768ドットという解像度のパネルを搭載しているため、実際のゲームで使用する解像度として1,280×720ドット、あるいは1,366×768ドットというものを想定した。この状態で常時60fpsを達成できれば理想的と言えるが、30fpsを超えていれば十分に実用的であるとも言える。

 ベンチマークに利用したソフトは、定番の「3DMark 06」をはじめ、DirectX 10世代代表兼「NVIDIA 3D Vision」最適化タイトル代表としてカプコンの「BIOHAZARD 5」、DirectX 11世代代表としてCodemastersの「Colin McRae DiRT 2」、DirectX9世代/FPS代表としてValveの「Team Fortress 2」、ヘビー級タイトル代表としてEA「Crysis Warhead」を使用した。



「3DMark 06 1.2.0 Build 1901」


 まずは定番の3DMarkの結果から見ていこう。解像度は1,280×720ドットを使用し、他はデフォルト設定でベンチマークを実行した。スコアはご覧の通り、2D時で9,435 3D Marks、3D時で6,555 3D Marksとなっている。

 数値を詳しく見てみると、CPUスコアは2D、3D時の両方とも3,180前後で、そこらのデスクトップPC並の数字が出ている。しかし、グラフィックスチップの性能指標であるSM3.0、SM2.0のスコアでは、3D時に大きな落ち込みが見える。その差およそ3割といったところだろうか。これがトータルスコアに影響していることが伺える。

 3Dモードでレンダリングする際、グラフィックスドライバーが自動的に左右両目分の映像をレンダリングするため、単純計算でグラフィックスチップの負担は倍になる。これが実質3割程度の影響にとどまっているのは、レンダリングの前段階で行なわれる3Dシーンのセットアップが1回だけで済んでいるためだろう。



「BIOHAZARD 5」


 「NVIDIA 3D Vision」に最適化した世界初のタイトルとして知られる「BIOHAZARD 5」。本製品「G51 Jx 3D」で楽しむにはまさにうってつけのゲームと言えるだろう。ベンチマークは1,280×720ドット表示、2Dと3Dモードのそれぞれで、アンチエイリアス(AA)、モーションブラーを用いない「中設定」、両方を用いる「高設定」で実施した。

 ご覧の通り、実際のゲームシーンに近いベンチマークテストAの結果では、2Dモードでは中設定で64.7fpsと非常に高水準の数字が出ている。また、高設定でも50.3fpsと、申し分のないパフォーマンスだ。しかし、3Dモードでは、中設定で31.4fps、高設定で24.6fpsと、数値が半分程度まで落ち込んでいる。

 以前、デスクトップ用GPUであるGeForce GTX 285で行なった同様のテストでは、3Dモード時にここまでの落ち込みは見られなかった。今回、これだけの差がついた理由は明確ではないが、3D時のGPUにかかる負荷が非常に高くなっていることは伺える。いずれにしても、3Dで楽しむ場合は実用レベルの平均30fps以上が確保される「中設定」相当の映像品質で、ということになりそうだ。



「Colin McRae DiRT 2」


 次にテストしたのはDirectX 11にも対応しているレースゲーム「DiRT 2」。解像度は1,280×720ドット、アンチエイリアス(AA)4xを適用し、あとはデフォルトという状態でベンチマークを行なった。レースゲームでもやはり30fps以上の平均値は欲しいところだ。

 結果としては、2Dモード時に平均37.6fps、3Dモード時に20.4fpsと、4割ほどの差がついた。こちらも3Dモード時はGPUへの負荷が非常に高くなっているように思われるため、実際に立体視でゲームをプレイする際は解像度やテクスチャ品質などグラフィックスオプションを調整することが必要になるだろう。

 ちなみに今回の検証で、3Dの視覚効果が非常に得られたタイトルのひとつが本作品である。この体験的な話については、後編で詳しく取り上げよう。



「Team Fortress 2」


 DirectX 9世代代表、もしくはFPS代表として「Team Fortress 2」を取り上げた。最近ではオンラインFPSでも使われているSourceエンジンのゲームであり、「NVIDIA 3D Vision」との相性も良好なタイトルのひとつだ。PCゲームらしく非常にスケーラブルな設計で、状況によってフレームレートの変動が非常に激しいのも特徴のひとつである。

 軽めのゲームということもあり、今回は液晶パネルに一致する1,366×768ドット表示でテストを行なった。国内の32人収容の大人数サーバーでプレイした3分ほどのシーンをゲーム内機能で録画し、再生しながらフレームレートを計測。大人数が入り乱れるシーンと、誰もいない基地内のシーンで大幅なフレームレートの変動があった。

 結果を見ると、2D時はAAありでも平均72.1fpsと、プレイ上理想的な数値が得られている。最低FPSは23と非常に低いが、これは画面中に大量のプレーヤーやその破片が入り乱れている瞬間の値なので、妥当なものだろう。

 3D時は平均が30前後まで下がっているが、これは記録された最大fpsが2D時288に対し3D時59と、「NVIDIA 3D Vision」によってリフレッシュレートが固定されてしまったが故に余計平均値が下がってしまったようだ。これを勘案すると3Dモード時の体感fpsはもう少し高い感触で、プレイ上全く問題を感じることは無かった。



「Crysis Warhead」


 最後に、ヘビー級ゲームの代表格として「Crysis Warhead」でのテスト結果をお伝えしよう。ちなみにこのゲームでは、あまりにもGPU負荷が高いためか、高品質の映像設定で3Dモードを利用するとポリゴンの欠けや表示の乱れが発生し、結局2Dモードでしかベンチマークを行なうことができなかったことをご承知願いたい。

 基準となる「中品質」、「高品質」、「最高品質」は、それぞれゲーム内の映像設定で「MAINSTREAM」、「GAMER」、「ENTHUSIAST」に相当する。結果を見ておわかりの通り、「中品質」では十分に快適なフレームレートが達成されているが、それ以上は“観賞用”という感じの数字だ。

 ちなみに本製品に搭載されているGeForce GTS 360MはDirectX 10世代のGPUなので、「最高品質」の設定で完全な品質の映像がレンダリングされる。それはそれは見事なクオリティなのだが、いかんせんフレームレートが出ない。もっとも、筆者がメインで使用しているGeForce GTX 285搭載のデスクトップPCでも快適には程遠いフレームレートとなる設定なので、むしろノートPCでこれだけ動くということに感心。




■ さすがヘビー級ゲーミングノートPC。バッテリーの持ちは……

 さて、ベンチマークの結果をまとめると、本製品「G51 Jx 3D」は多くの本格的ゲームで満足できるフレームレートを得られるということが言える。2Dモード時に限っては、そこらのゲーミング仕様デスクトップPCでゲームをプレイする事と変わらない感触だ。さすがヘビー級ゲーミングノートPCといった按配である。

 ただし、3Dモードの場合は、少々GPUのパワー不足が感じられる面も否めない。例えば「バイオハザード5」や「DiRT 2」では、プレイアビリティを優先するには映像品質を少々犠牲にする必要があるだろう。このあたりは、実際にプレイするゲームの要求性能と相談しながらベストなセッティングを煮詰めていくことも求められそうだ。そもそも、3D表示はデスクトップ型PCにも荷が重い処理なのだ…‥。

 当然、本製品はノートPCなので、多少のモバイル性能も気になるところ。というわけでバッテリーの持ちがどれくらいか、簡単な実験を行なった。フル充電状態で電源ケーブルを外し、そこから「BIOHAZARD 5」を3Dモードでいけるところまでプレイするという実験だ。

 結果は、約40分でバッテリー残量が7%まで低下。第2ステージをプレイ中(というより立体的に見える風景やオブジェクトを眺めて散策中)にシステム保護のため強制的にシャットダウンがかけられた。まあ、3Dゲームをフル回転で動作させて1時間弱持てば立派なものだろう。出先で友達にゲームを見せて自慢するくらいのことはできるが、CO-OPを楽しむというところまでは難しい。

 というわけで、前編となる今回は本製品「G51 Jx 3D」のハードウェア的な性能についてお伝えした。次回、後編では「3Dを楽しむ」ことに注目し、本製品と3Dの魅力、いちゲーマーとしての評価をお届けしよう。




(2010年5月25日)

[Reported by 佐藤カフジ ]