★DSゲームレビュー★

主人公は無職の35歳独身男!
不思議な世界でモテ男を目指す!

「いろづきチンクルの恋のバルーントリップ」

  • ジャンル:アドベンチャー
  • 発売元:任天堂
  • 価格:4,800円
  • プラットフォーム:ニンテンドーDS
  • 発売日:発売中(8月6日)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:A(全年齢対象)

 35歳。独身。無職。キモがられる容姿と小太りの体。もちろんお金もないし彼女もいない……。こんな夢のない主人公が、なんとも夢に溢れた不思議な世界を冒険していくのがこの「いろづきチンクルの恋のバルーントリップ」だ。

 チンクルはもともと、「ゼルダの伝説」シリーズ作品のいくつかに登場しているキャラクタ。全身タイツを着込んだ妖精に憧れる35歳の独身男というとてつもない濃いキャラクタが特徴で、本作はそんな彼が主人公をつとめるスピンオフ作品シリーズの最新作となっている。

 今作はアドベンチャーゲームになっていて、操作は全面的にタッチペンのみ(一部で操作を変更できるが、変更しなければタッチペンのみ)。頼もしい(?)仲間と共にシティで開かれる舞踏会を目指すという不思議な冒険を楽しむ作品になっている。



■ シティのダンスパーティ目指して大冒険! 一筋縄ではいかないファンタジーアドベンチャー

薄暗い部屋で無気力に暮らす35歳独身男のチンクル。仕事なし、お金なし、当然彼女もなし

 さてさて、まず私はこのチンクルが主人公のスピンオフ作品に一切触れたことがなかった。せいぜいテレビCMを何度か見た程度で予備知識はまったくなかった。そんな私の元に本作が届いた。まずパッケージからしてすごい。濃いピンクで彩られた、けばけばしい配色の中心に緑タイツの赤鼻のおっさんがポーズを取っている。ご丁寧にパッケージ全体にはプリズムラメのハートまで入っている。「これが主人公……だと……?」最初の感想はこうだった。

 ゲームを開始すると、なんだか夢も希望もない光景が出てきた。汚い部屋にパジャマ姿のチンクルが1人寝っ転がっていた。台所は汚れた洗い物でいっぱい。電車が通る音が響き、その振動で部屋全体が揺れる。お尻をポリポリかきながらテレビをぼーっと眺める主人公。一切の冒険も夢も沸きそうにない、ただ時間が過ぎていくだけの世界だ。

 突然テレビに不思議な映像が流れ始める。それは1冊の本を販売する通販番組で、本の内容は1人の男が両親に別れを告げて旅立ち、旅先で様々な美女と出会いつつ、数々の困難を乗り越えて最後には姫と結ばれるというもの。身を乗り出してテレビ画面に食いついたチンクルは、早速その本を注文。届いたその本を手に取ると、不思議な風がチンクルを包んでしまった。

 次の瞬間、チンクルはどこか別の部屋で眠っていた。誰かがチンクルを呼ぶ声がする。ベッドからチンクルが起きたところから操作可能になった。まずは部屋のいろんなところをタッチして調べてみると、老夫婦と子供の3人が写った写真の入った写真立てを見つけた。だが、その子供の顔は黒く乱暴に塗りつぶされている……。

 「なにこれ、怖い……」と感じつつも部屋の外へ。外にはおばあさんがいた。おばあさんが言うには、チンクルはシティのダンスパーティーに行かなければいけないらしい。そういう段取りになっているらしい。そのセリフに不気味さを感じ、また一段怖くなった……。一体チンクルに何が待っているというのか。この続きはぜひ自分でプレイしてもらいたい。


突如テレビに映し出された、うさんくさーい通販番組。緑のタイツを着た勇者が困難を乗り越え美女と出会いながら冒険する物語の本ということだが……。食いついたチンクルはさっそく本を注文するが、怪しげな風に吸い込まれてしまう
目覚めるとそこは別世界。見知らぬおうちの誰かのお部屋。子供の写真は黒く塗りつぶされ、おばあさんの言動もちょっとおかしい。独特の雰囲気を持った冒頭シーンだ

 冒頭の独特の怖さを強調してしまったが、本作は別に怖いゲームではない。ファンタジックで独特のセンスに溢れたかわいい世界を、“キモいおっさん”が冒険するという物語だ。物語のモチーフは一言で言うと「オズの魔法使い」。不思議な世界に迷い込んだ少女がブリキ、カカシ、ライオンと冒険をする例のアレだ。ただし本作の場合は主人公は少女ではなく35歳の独身男であり、仲間もちょっとひねってある。

 シティを目指す旅の途中には様々な困難が待ち受けている。シティへと続く道がなくなっていたり、無職なので身分を証明できなかったり、巨大な化け物に襲われたりと様々だ。そうした場面では、アイテムの使い方を考えたり、仲間の能力を頼るのがポイントになる。チンクル1人でも、または仲間1人だけでもどうにもならないことも、全員がそれぞれの力を合わせればなんとかなるというわけだ。

 それにしてもチンクルの“キモさ加減”は徹底している。何か役に立つかもしれないアイテムを手に入れたとき、くるっとこちら側に振り返って「ヒヒヒヒ!」と意地汚そうな笑顔を見せる。得意げな時には「クルリン~パッ!」とポーズを決めて調子に乗る。悪人というわけではないんだが、特に何ができるわけでもないし、臆病だし、表情やらリアクションの端々に気持ち悪さがにじみ出ている。少なくともかっこいいと思えたことはほぼ無かった。

 そんな情けなくてみっともないチンクルだが、すごい能力を持ったかっこよすぎる主人公よりも安心できる存在に思えるところが不思議だ。だが、そんな風に好意的に思いはじめたところにかわいい女の子と出会ってにやけているチンクルの笑顔がアップで表示されたりして、「やっぱりキモいなぁ(笑)」と思い直したりもする。

プレイ中はチンクルのキモかわいい(?)動きや顔をこれでもかと見ることができる。こんな緑のタイツを着込んだ小太りの中年なんて誰でも怖がるに決まっていて、旅の途中でもそのせいで色々と苦労することに……

 ゲームの進行は1ページ、2ページというようにページで区切られていて、ページ内はさらにいくつかのチャプターにわかれている。次のチャプターに進むために必要な物を見つけて問題を解決していくというわけだ。全体が絵本を読み進めていくような流れになっている。

 基本的に本作はタッチして調べること、何かアイテムを手に入れること、人と話したりアイテムを見せてみたりすることが中心になる。正当派なアドベンチャーゲームだが、独特な世界観とユニークな登場キャラクター、あと見た目による第一印象がすこぶるよろしくないチンクルのおかげで、一癖も二癖もある物語になっている。

 また、タッチ操作ならではのゲームも随所に出てくる。最も基本的なのはパチンコで、タッチペンで弾を引いてペンを離すと放たれる。そのほかにも振動で次々にゆるんでいくネジをタッチして締め直したり、力比べの場面で連打でタッチしたりといったものもある。どれもタッチ操作のみでボタンは使わないので、直感的にプレイできるのがポイントだ。

タッチ操作を使ったギミックが随所に登場する。写真はネジをタッチして締めたり、パチンコを撃っているところ。アイテムのパチンコは、ヒモをタッチしつつひっぱって、離すと弾を放つという作り


■ キモくてもプレゼントを贈ればわかってくれる! 稼いで贈ってバルーンでトリップ! 35歳大忙し!!

・相手の好みに合うプレゼントを考えて「ラブ・プッシュ」!

 旅先で出会う様々な美女。だが彼女たちはチンクルを見るやいなや身の危険を感じてまともに話しをしてくれない。そんな状況を打破するのが「ラブ・プッシュ」だ。

 「ラブ・プッシュ」は平たく言うとプレゼント攻撃だ。様々なプレゼントの中からこれはという物を選んで渡し、それが相手の好みに合っていればラブゲージが貯まっていく。反対に好みに合わない物を贈ってしまうとゲージが下がってしまう。

 プレゼントには、「たべもの」や「ファッション」、「インテリア」といった品物の種別に加え、それが「かわいい」のか「ゴージャス」なのかといったような様々な性質がついている。年配の女性にはアダルトでゴージャスなものを贈ったり、都会に憧れる女の子にはクールなインテリアを贈ってみたりというように選ぶわけだ。また、ブリキの能力である「ぶんせき」で女性の好みを調べてもらうのもいい。

チンクルを警戒する女の子たち。そんな時にはプレゼントを贈って警戒心をやわらげる。それが「ラブ・プッシュ」だ。プレゼントにはいろんな種類があるので女の子の好みを探りつつ渡していく
プレゼントを売ってくれる「ラブ屋」のおっちゃん

 さて、プレゼントはただで手にはいるわけではなく、「ラブ屋」という天使の格好をしたおっちゃん(往年の任天堂ファンなら、ラブ屋のおっちゃんってもしかしてあの人なんだろうか……と思うかも)から、ルピーと交換で購入することになる。そして、ルピー自体はいろんなところで稼がなければならない。

 ルピーを稼ぐ方法は、農家の野菜の収穫を手伝ったり、釣った魚を売ったりと、いろいろ用意されているが、最も稼げるのが「ダンジョン」だ。とある場所にある遺跡をダン&ジョンという2人組が改装して作ったもので、モンスターが徘徊する3Dダンジョンを探索してコインを集めつつ時間内にゴールするというゲームになっている。モンスターと遭遇するとじゃんけんの戦いになり、勝てばボーナス、負けると残り時間が減らされてしまう。コインはゴール後にルピーに換算される。


プレゼントはインテリアや食べ物、ファッションなど様々な種類があり、さらにかわいいものやアダルトなものなど、それぞれに特徴がある。もちろん購入するにはルピーが必要だ
働いてルピーを稼ぐことも重要。こちらの農作業では収穫のお手伝いをして抜いた本数に応じたルピーがもらえる。また、釣りで使う餌もここで取れる
こちらは釣り。釣った獲物を買い取ってもらうことができる
一番ルピーを大量に稼げるのがこちらの「ダンジョン」。ファミコンカセット風の装置で再現される3Dダンジョンのゲームだ。道に落ちているコインやタイムボーナスを取りつつゴールを目指していく。徘徊しているモンスターに出会うとじゃんけんで対決になる。右下の画像は見事にゴールできたところ。何とも言えない独特な味わいの絵が見られる

・ページを行き来する「ふうせん」時を駆ける中年! 「バルーントリップ」!

アイテムの「ふうせん」を使ってバルーントリップ! 本のページ(時間)を移動することができる。以前のページに戻ると「その後の世界」というページの場面のその後に行くことができる

 ページやチャプターが進むと、こうしたお金稼ぎができる場所をはじめ、以前に通った場所には行けなくなってしまうのだが、そこでアイテムの「ふうせん」を活用することになる。ふうせんはチンクルを好きな時間(ページ)へと運んでくれる不思議な力を持ったアイテムで、ときにはこの不思議な力で過去に戻って未来を変える、というような場面も出てくる。

 便利なアイテムだが、ふうせんにはいくつかクセがある。まず大事なアイテムのいくつかはバルーントリップすると無くなってしまう。そのアイテムを手に入れた場所にもう1度行けば手にはいるので大きな問題ではなく、ようするにゲームの進行がおかしくなってしまわないようにしているわけだ。

 もう1点のクセはちょっと厄介で、バルーントリップをしてから最新の時間に戻ってくるとチャプターの最初からになってしまうというもの。チャプターの終盤でバルーントリップし、戻ってくると、もう1度チャプターを最初から進めなければならない。これがけっこう厳しい制限で、例えばチャプターの途中でプレゼントやルピーが足りなくなって「ラブ・プッシュ」がクリアできないなというときに、ルピー稼ぎやプレゼント購入にバルーンで移動すると、また戻ってきたときにチャプターをやり直さなければいけなくなる(「ラブ・プッシュ」のゲージは最後の状態で保存されている)。ルピーは稼げる場所があるときやチャプターの冒頭で稼いでおいて、プレゼントも買える時にそこそこの量と種類を持っておいたほうがいい。

 バルーントリップは特定の女性にさらなる「ラブ・プッシュ」をかけるためにも使用する。「ラブ・プッシュ」は1ゲージ満タンになれば、とりあえずチンクルと会話してくれるようになってゲームが進行するのだが、女性によっては2ゲージ、3ゲージ目がある人もいる。そうした女性には先に進んでからバルーントリップで戻って会いにいき、さらに豪華なプレゼント(プレゼントにはレベルがある)を贈ることでより親密になれる。またラブゲージが鉄のようにガードされている女性もいて、そうした女性には隠された非売品のプレゼントを見つけて贈らなければならない。2ゲージ目以降のラブ・プッシュは基本的にはやり込み要素になのだが、チンクルの冒険に大きな影響を及ぼすポイントになっている。

・困った時には「ネタバレ仙人」に助けてもらおう。「せいブー」も忘れずに!

 どうしても何をすればストーリーが進むのかわからない……。そんなときに頼りになるのが「ネタバレ仙人」だ。セーブポイントにいる謎の仙人で、話しかけると「本当にネタバレが欲しいのか?」と念を押した後にどうすればいいのかを教えてくれる。ちなみに私がプレイしたときには2回ほどお世話になった。けっこう捻った謎解きもあったりして、なかなか侮れないのだ。

 ゲームのデータを記録するセーブ。本作ではこのセーブを豚が担当している。聖なる豚の「せいブー」さんだ。“聖ブー”で“せいブー”。このせいブーさんといい、35歳無職キモ男のチンクルが主人公なことといい、本作はいろいろと独特なセンスを持ったゲームになっている。

セーブポイントの役割を持つ聖なるブタさん(中央)と、ゲーム進行のダイレクトなヒントをくれるネタバレ仙人(写真右)。せいブーをこまめにしつつ、どうしても行き詰まってしまったという時にはネタバレをもらおう


■ 良質なアドベンチャーゲームで丁寧で誰でも楽しめる作品。プレイリズムはちょっとゆっくり?

ちょっと笑ってしまうような小ネタや任天堂タイトルのオマージュが満載。丁寧に作られている作品だ

 シンプルなタッチ操作のみで楽しめるファンタジーアドベンチャー。非常に丁寧な作りで、時間を行き来する複雑な作りなのに破綻も見られないなど、“よくできている”と感じられるゲームだ。チンクルのインパクト、冒頭から感じられる謎めいた雰囲気、かわいらしいファンタジックな世界に溢れる独特なセンスなど、味わい深いゲームになっている。

 少々気になったのはゲーム全体のテンポで、全体が非常にまったりとしたスピードで進行するほか、タッチして移動して行動して、と全部が丁寧に表示される。また、表示のスキップなどもできないので、繰り返し何かをしたりするときにもけっこうな時間がかかってしまう。また、前述のようにバルーンでチャプターの最初に戻ってしまうとやり直しになってしまう。2度目のときは表示をスキップする機能などがあったら嬉しかった。

 全体に非常に丁寧で、良くも悪くもまったりとした雰囲気とリズム、大人も子供も楽しめそうなとっつきのいいゲームだ。オズの魔法使いをモチーフにした物語も魅力的だった。この35歳無職男ことチンクルの冒険の果てに何が待っているのか? ぜひご自身の手で楽しんでもらいたい。


(C)2009 Nintendo

(2009年 9月 15日)

[Reported by 山村智美 ]