★ブラウザゲームレビュー★
世界を席巻したブラウザゲームが日本上陸!! 弱肉強食の古代ヨーロッパシミュレーション 「トラビアン」 |
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MMORPG市場の成長が、中央~南西アジア/アフリカ地域など、もっぱら残された空白地への浸透へと戦略をシフトせつつある昨今、世界で急成長しているPC発のゲームジャンルがブラウザゲームだ。インストール不要、強力なマシンパワー不要、長時間の連続プレイ不要のブラウザゲームは、グラフィックス技術を中心にリッチな表現を追い求めるゲーム“主戦派”の動きとは別に、その地歩を拡大しつつある。
ニンテンドーDSやPSPは、ゲームを外出先や移動中に楽しめるようにすることで市場を広げた。同様にブラウザゲームは、あえてロースペック指向を採ることによって、世界中で新規プレーヤーを獲得しつつある。たとえ手元に自分のPCがなくても、インターネットカフェさえあれば、世界のどこにいようが支障なくゲームがプレイできる。それどころか、空港に置いてあるメールチェック用PCやPDA、携帯電話からだって遊べてしまう。そういうゲームジャンルなのである。
そうしたムーブメントの主役となっているのが、2004年にドイツで開発/サービス開始されたバトルロイヤル形式のMMOリアルタイムストラテジー「トラビアン」(Travian)である。2009年6月現在、英語、ヨーロッパ諸言語、繁体字/簡体字中国語、ベトナム語、タガログ語、アラビア語、韓国語、日本語などなど世界の各言語、アフリカを含む世界各地を対象としてサービスが展開され、ワールドワイドの総登録ID数は49ドメイン合計で523万、日本語サービスのID数だけでも約5万を数える(2009年6月10日現在)。
ローマ、ガリア、チュートンという古代ヨーロッパの3民族いずれかの村の長となり、周囲の村と戦っては資源を略奪して自分の村を成長させ、各地に入植していく。そして、やがては自分の同盟勢力を結成して、ほかの同盟とサーバーの覇権を争うというのが「トラビアン」のプレイ内容だ。リアルタイムストラテジーとして捉えると、いたってシンプルな部類なのだが、何千人ものプレーヤーが合従連衡を考えつつ、戦って生き残ることを目指すこのゲームは、1日2~3回、十数分程度のアクセスで対応できる進行ペースとは裏腹に、なかなか熱い。本稿ではその独特の魅力を紹介しよう。
■ 古代ローマやガリアの部族長となって合従連衡を繰り広げる
プレイのメインとなるのは、資源タイル表示画面。ここでは資源産出量や、軍隊の移動状況も表示される |
2004年にドイツでスタートした「トラビアン」は、古代ヨーロッパ、ローマ人やガリア人が織り成す部族社会同士の抗争をモチーフにしたMMORTSだ。自分の村を開発するとともに軍隊を育成し、周囲の村々から生活資源を略奪して自分の村をさらに栄えさせ、やがては同盟相手の村々と一緒にサーバー内の覇権を目指す。村一つから出発して自勢力を拡大していくという、ゲームコンセプトのわかりやすさもさることながら、それを数千人が一斉に繰り広げられることによって、さまざまなドラマが生じる。餌食とすべき周囲の村もすべて他プレーヤーが担当しているのだから、逆にいつ自分が餌食にされないとも限らず、油断できない。
戦闘場面は存在せず、マップ上には移動中の自軍すら表示されないというストイックな画面構成だが、なかなかどうして、これが面白い。所要時間と必要資源を念頭に、最適な発展手段を考えて実行していく箱庭ゲーム的な魅力は、1日2~3回、1回あたり十数分のアクセスでも十分に堪能できる。また、ほかの村に軍隊を送って相手の軍隊を蹴散らし、略奪した資源をどっさり抱えて自軍が帰ってくるまでにはしばしば数時間かかるので、プレーヤーは余裕を持って指示を出し、結果を確認して、さらなる指示を出しておけばよい。画面に張り付いている必要も、操作を急ぐ必要もないリアルタイムストラテジー、それが「トラビアン」だ。
なお、集中してハイペースで進めたい人のためには、日本サービスでは時間当たりの資源産出量が3倍に設定されたスピードサーバーも用意されている。このサーバーでは、最終勝利条件に関わるイベントなど、サーバーの運営スケジュールもほぼ3倍の進行ペースで進むので、お急ぎの方はこちらがお勧めである。
左が通常サーバー、右がスピードサーバーの資源産出量。同じくレベル1と2の「農場」だが、スピードサーバーでは産出量がぴったり3倍。スピードサーバーが「どんどん戦争しなさい」というバランスなのに対し、通常サーバーは「余剰資源を生み出すのはたいへんです」という感じだ |
■ サーバー内時間で進むRTSで、考えるべきは投資効率
トラビアンのマップは正方形のマス目で区切られた座標そのもの。最初の村を作るに当たって指定できるのは象限(北東/南東/南西/北西)のみで、村ができる位置はランダムだ。ゲームで扱われる資源は、木・粘土・鉄・穀物のみとシンプルであり、これらの産出施設である「資源タイル」のレベルを上げていくのが第一の仕事となる。通常のRTSでは、地形に合わせて資源採集施設を複数建てたりするのに対し、トラビアンでは村のマップが確定した時点で、付属する資源タイルの数も決まる。あとは資源の再投資を繰り返して、ひたすらそこをレベルアップさせていく。ある資源の産出を増やすには、残り3種類の資源がより多く必要になるため、現在不足している資源の産出量を増やしていけば、ほぼ均等に育っていく。
資源タイルに囲まれた村の中心部には、建物を建てるためのスペースが用意されていて、ここには兵士を育てる「兵舎」や、他プレーヤーとの資源取引を可能にする「市場」、資源を貯蔵する「倉庫」や「穀倉」、そして、のちのち新たな村を開拓するために必要な政治施設などが建てられる。こちらも、資源を投じてレベルアップさせていく仕組みだ。ちなみに住民は独立したパラメータとなっておらず、各種施設のレベルが上がるにつれて自動で増えていき、時間あたりの穀物消費が増えるようになっている。
資源タイルも建物も、アップデートには資源だけでなく、一定の時間がかかるようになっているのがミソだ。高レベルになるほど必要な資源と時間が増大するので、各施設は原則として均等に上げていくのが効率的である。ただし、例えば建物の建設、資源タイルのレベルアップには普通、穀物よりも木と粘土を多く使う。このため、それらの産出が多めになるよう早くから調整するといった傾斜生産が、成長のための重要なテクニックとなる。また、あらゆる施設のレベルアップ所要時間を縮める施設もあって、これは使うタイミングが重要だ。このゲームの資源タイルは枯渇しないので、施設が早くレベルアップできれば、結果として多くの資源が手に入る。だが、資源の溜まるペースが再投資のペースに追いつかないうち、つまり待ち時間が圧倒的に長いうちは、レベルアップ所要時間だけ縮めてみても資源の無駄使いとなってしまうだろう。
こうした、シンプルで管理しやすい資源構成とレベルアップの所要時間設定によって、プレーヤーは資源が溜まった頃を見計らってアクセスし、必要な建設/レベルアップ指示を与えてログアウトするという、実にブラウザゲームらしいペースでプレイできる。ちょっとした手間をかけるだけで開発が進捗し、徐々に村が発展していくのを見るのは楽しい。
「トラビアン」のプレイは基本無料だが、現金で購入できる「金貨」を使えば、特定の資源産出をブーストアップしたり、戦闘時の攻撃/防御にボーナスをつけたり、データの並び替えなどインターフェイス操作がちょっとだけ楽になる「トラビアンPlus」サービスが利用できたりもする。常時課金状態にするのはたいへんだと思うが、サーバースタート時のダッシュや、これから大戦争を始めようというタイミングを選んで、金貨を使うプレーヤーも多いようだ。
ちなみに、画面に表示される村のレイアウトは円形で、建物の集まる中心部は城壁で囲めるようになっている。これがなかなか古代ヨーロッパらしい雰囲気で、シンプルながらも箱庭ゲームらしい魅力の源泉となっている。
■ 古代戦ならでは? “割に合う”戦争を成り立たせる略奪
ほかのプレーヤーによって立てられた、トレード項目。この画面は大きな戦争が一段落したタイミングのもので、穀物相場がかなり下がっている |
「市場」をクリックすれば、トレードに合意した資源の到着タイミングが確認できる |
村を発展させ、やがて新しい村を作るための「開拓者」ユニットを育てて、配下の村を増やしていく。「トラビアン」には不作も天災もなく、無駄な投資項目が非常に少ないため、経済シムとしてはとにかく再投資を続ければよいという、プラスサムの世界だ。プレーヤーが考えるべきは、施設ごとのアップグレードコストと発揮効果によって生じる、投資効率の差=成長ペースであり、貪欲にプレイするつもりならそこに、他プレーヤーといかにお得な資源トレードをするかが加わる。例えば穀物は平時において、ワールド内での供給量がほかの資源より多いため買い叩かれがちだが、ひとたび大同盟同士が戦争を始めると、需要が膨らんで良い商品になる。そして、大きな戦いが何度か行われると、今度はサーバー内の兵力人口が減って、とたんに余り出す。
トラビアンにおける資源トレードは、「市場」から開けるトレード画面で、売りたい資源と買いたい資源の量を設定して、サーバー内の全プレーヤーに公開するという、いたってシンプルなもの。プレーヤーごとの事情や開発方針によって、余る資源、不足する資源が異なるため、トレードをうまく活用すれば、双方の利益になる。ゲーム内の経済動向を見据えつつ、当座余りそうな資源を元手に投資的な運用ができるようになれば、村の発展ペースはさらに向上するだろう。
だが、そうした実にオンラインゲームらしい協調的な競争はあくまで、ゲームの一側面にすぎない。なぜなら「トラビアン」はただの多人数箱庭シムでなく、れっきとした戦争ゲームだからである。プラスサムの経済構造のなかで、いったいなんのために戦争をするか? 実は戦争もまた、より多くの資源を労せずして手に入れるための有効な手段なのだ。
「トラビアン」における戦争は通常のRTSと大きく異なり、基本的に相手の村の破壊や住民の絶滅を目指す性格のものではない。軍隊がほかの村に攻め込み、守備隊を制圧したあとにやるのは、実に古代戦らしい資源の略奪だ。史実におけるローマ人やガリア諸部族の相互関係を考えると、確かにこれはリアルだし、1回1時間くらいでサクッとプレイを切り上げるRTSと異なり、継続的なプレイを前提とするブラウザゲームの展開について、よく考えられた仕組みといえる。
略奪に遭った側はもちろん、心穏やかではいられないだろう。かくして歩兵や騎兵による反撃の応酬が始まり、やがては相手の村を直接破壊するカタパルト類が引っ張り出されて、戦争がエスカレートしていく。そうなることを前提に考えたとき、各民族の違いがいっそう際立ってくる。
ゲーム運営サイトのFAQには、略奪対策に関するケーススタディも載せられている。自分の身は、あくまで自分で守るしかないゲームコンセプトがよくわかる |
トラビアンには、ローマン(ローマ人)、ガウル(ガリア人)、チュートン(ゲルマン人)という民族の設定があり、プレイ開始時に選ぶことになっている。ただし、これらはあくまで自分の村に付与する特性であって、何らかの陣営分けではない。ローマ人の村がほかのローマ人の村と自動的に同盟状態になったりはしないし、チュートンの村同士が互いに略奪しあっても、一向におかしくないのである。
3民族のうち、中庸かつ大器晩成型なのがローマ人である。彼らの兵士/兵器はいずれも強力だが高価、その代わり建築に秀で、資源タイルと街中の建物の建設/レベルアップを、同時にできるという特技を持つ。資源の足りない最序盤はあまり活用できないが、資源が溜まったあとの伸びは、倍近いペースになる。優れた歩兵が多い点も含め、確かにローマ人っぽい。
ガウルはとにかく防御に秀でている。「トラビアン」では資源を備蓄しておく「倉庫」「穀倉」のほかに、それぞれの容量の一部を敵の軍隊に発見されないよう指定して、略奪から守るための「隠し倉庫」という施設がある。その隠し倉庫の容量が、ガウルでは他民族の2倍あるのだ。また、攻めてきた敵の兵士を捕らえる「わな師」という安価な防備を持てるほか、防御に向いた兵種が豊富で、それらの足が総じて速い。結果として村から村へ兵を差し回しつつ、敵の侵攻に対処できる。いっぽう攻撃の側面で見たとき、歩兵に強い騎兵も騎兵に強い歩兵も欠けている点が悩みどころではあるものの、カエサルの登場まで、ローマを長期にわたって悩ませたガリア諸部族らしい、独自の強さが設定されている。
ガウルとちょうど反対の位置づけ、最も攻撃に適した民族がチュートンだ。彼らの軍隊には攻撃が得意な兵種が多く、足こそ遅いものの安価でバランスがとれ、大兵力を組織しやすい。そのうえ略奪が得意で、相手の隠し倉庫の容量を3分の2として計算でき、そこから溢れた分は普通に略奪できる。西ローマ帝国の末路を想像するまでもなく、ゲルマン人に襲われるというのは、そういうことなのかもしれない。ゲームシステム上、村の衆が意味もなく殺されたりしないだけマシと考えるべきだろう。
とにかく安全にプレイしたいなら、もちろんガウルを選ぶべきだし、あまり頻繁にアクセスできないなら、一度に多くの指示を出せるローマン、比較的頻繁にアクセスして、襲い襲われを楽しみたいならチュートンがおすすめ、という感じになるだろうか。
経済シムとしてプラスサムで進められるために誤解されがちだが、「トラビアン」は戦争ゲームである。なにしろこのゲームのオンラインマニュアルでは、各民族でどの兵種が略奪に適しているか解説されているくらいだし、戦争と略奪にはなんのペナルティもない。それどころかゲーム内では、優秀な攻撃者・略奪者・防衛者のランキングが週単位で更新されている。そして、兵の維持費を見るだけで、このゲームがミリタリーシムとしてかなり手堅く作られているのがわかる。
トラビアンの世界で最強の兵士は、ローマの騎兵「エクイーツ・カエザリス」だが、このユニットは歩兵一般と比べたとき、維持費として4倍の穀物を消費する。マーチン・ファン・クレフェルトらの研究を参照すれば分かるように、これは騎兵の基本的な維持コストとしてかなり正しい計算だ。馬は藁や牧草を食べるものと想像されがちだが、軍馬はもっと高たんぱくの食事を与えられるのが普通で、その戦力維持には大豆や麦が消費される。そして実際に、ナポレオン戦争時期くらいまでの騎兵の維持コスト(=糧秣を現地調達するために空けておくべき行軍間隔)は、歩兵部隊の4倍ほどだったのである。一般に軍隊は、大隊が3~4個集まって連隊、連隊が3~4個集まって師団を構成するという仕組みになっているが、例えばナポレオン時代の騎兵師団は、人数からいえば歩兵連隊相当だった。補給/兵站の側面で見たとき、それが合理的な考え方というわけだ。
話を戻すと「トラビアン」の世界では、騎兵の維持コスト設定がほぼ妥当で、育成により時間がかかるなど、各種歩兵と比べたときの利害得失に、かなり注意が払われている。さすがは経済シム大好き、パラメータ大好きのドイツ人がデザインしたゲームといえようか。
■ 同盟による集団安全保障とその限界が描かれる世界
同盟の設立や同盟への参加には「大使館」が必要。しかし、自分の村に漠然と「大使館」を建てられるのはちょっと変。適訳は外務省? 外交部? |
敵の軍隊がこちらに向かっていることが、画面右上の赤い文字、通称“赤ランプ”で示される。この画面ではガウル得意の機動防御を試みているが、主力不在のタイミングを狙って相手の村に侵攻するカウンター戦術など、さまざまな対処が考えられる |
略奪という行為は便利で効果的だが、その一方で意図せぬ負の連鎖を巻き起こしてしまう。略奪が頻繁に行なわれれば、互いにゲームから転落しない分だけ恨みの応酬が長く続くし、相手の村を破壊するためのカタパルト類は高価なうえ、基本的に回収できない投資だ。おまけにそこまでやっても、相手のプレーヤーアカウントと最小限の資源産出は残るため、村の再建は可能。このゲームにおける戦争は、一方のプレーヤーがあきらめない限り、そう簡単には決着しない。
そうした負の連鎖を未然に防ぐべく、「トラビアン」では「同盟」という、プレーヤー同士のコミュニティで、集団安全保障と、戦争の抑止を図るようになっている。「同盟員への攻撃は、同盟全体への攻撃と見なして反撃しますよ」と、内外に宣言するわけだ。また、大規模な同盟に属さないまでも、「○○さんと個人協定を結んでいます」とプロフィール欄に明示することで、抑止力を働かせようとするプレーヤーは多い。
しかしながら、現実社会がしばしばそうであるように、集団安全保障が、単に集団同士による大規模な戦争を招くだけに終わることも多い。そして、社会システムの再現としてはそれでよいというのが「トラビアン」のスタンスである。「PAX ROMANA」(ローマの平和)という言葉が、ローマ帝国最大の対外拡張期を示すことからも分かるように、このゲームでは戦争でなく平和こそが人工物であって、それは努力して“勝ち取る”べきものとして扱われている。
考えてみれば、ローマ、ガリア、チュートンといった古代民族を描くことは、ヨーロッパ世界の原風景を抽象レベルで再現することである。そこには自ずと、彼らヨーロッパ人が自身のルーツをどんな風に捉えているか、そしてやや大げさに言うなら彼らの基本的な世界観が反映される。近代という時代が、取りも直さず彼ら、このゲームなら特にチュートンの価値観がグローバルスタンダード化した時代であることを思うとき、このシンプルなゲームがどうして侮れないのか、その理由の一端が見えてくる。
どこまでも主体的=利己的に振舞う人間社会の導き手たることこそが、このゲームで“プレイ(演技)”を求められる“ロール(役柄)”である。それはときに、我々日本人の平均的な倫理観とは大きく隔たるシロモノだが、そのギャップこそがひとつの楽しみどころとなるのだ。
■ 「ワンダー」をめぐる最終決戦でクールが循環する
サーバー進行上、ワンダー建設のための前提条件が整ったタイミングで、特別メッセージが入ることも |
ナタール兵の強さは、公式サイトでも伏せられている |
自動進行型のブラウザゲームである「トラビアン」は、通常サーバーの場合、1年から1年半ほどを1クールとしてプレイが循環する仕組みになっている。クールの終了条件は「ワンダー・オブ・ザ・ワールド」の建設で、これはRTSや文明シムではおなじみの趣向である。
そのカギを握っているのが、架空のNPC民族「ナタール」だ。ゲーム終盤に登場するナタールの村を、ローマンなら「議員」、ガウルなら「首領」、チュートンなら「元首」を派遣して政治的に併合し、さらに別のナタール村から設計図を入手しないと、ワンダーの建設は開始できない。また、「トラビアン」に出てくる通常の建物がせいぜいレベル20を上限としているのに対して、ワンダーはレベル100でようやく完成である。そこまでに費やされる時間と資源は破格の水準だ。
ワンダーの建設は同盟(最大60プレーヤー)ないし、同盟が複数集まった連合体単位で取り組む大事業だが、最初に完成させた同盟が勝利者となるため、終盤は互いにワンダーを建てながら、相手のワンダーを破壊すべく、全サーバー規模のバトルロイヤルが展開される。ワンダーの建設に取り組むプレーヤーを、資源で支援する同盟員、防御兵力の提供で支援する同盟員、膨大な防御兵力のためにひたすら穀物を送り続ける同盟員、そして、敵のワンダーや補給拠点に斬り込む同盟員が取り囲んで、1~2か月くらい“戦争の季節”が続く。ワンダーがカタパルトで直接狙われるのはもちろん、例えばワンダー建設中の村の穀倉を壊すことで、守備兵力の兵糧を絶つなど、有効な間接的アプローチもしばしば見られて面白い。
ちなみにワンダーがレベルアップしていくと、NPCナタールも、ゾウ兵まで連れて定期的に攻めてくるため、それはそれでシャレにならない。当初はワンダー建設5レベル刻み、終盤では1レベル刻みで押し寄せるナタール軍を撃退するのも、勝利のために必要な課題だ。そんな感じでプレイが循環して、次のクールにはまたゼロからスタートする(購入した金貨は持ち越し/他サーバーへの移転が可能)。
詳細版のオンラインマニュアルが、FAQの奥の奥にあるとか、ゲーム内での用語説明や効果の範囲などが、原語のせいか訳語のせいか、たいへん分かりにくい(例えば「本部」のアップデートが、実は街の建物だけでなく資源タイルのレベルアップペースも向上させること、「粉引き場」ほかによる資源産出量のブーストアップ効果は1レベルあたり5%であることなどが、たいへん分かりづらい)といった細かな欠点は多々あるものの、飽きずにじっくり取り組める、たいへんバランスのよい箱庭経済シムなのは確かだ。
ペナルティなき無差別戦争の側面は、日本人にとってなかなかなじみにくいと思うが、前述のようにおそらくこれが、欧米人の根っこなのである。そういうものだと思って楽しみたいところだ。実際、弱い者いじめとしか思えない略奪に、誰もが一度や二度は遭遇する一方で、パッケージソフトの対戦型RTSと異なり、それで決定的にゲームから転落するようなことはない。複数のプレーヤーからえんえん袋叩きにされ続けたらさすがに厳しいものの、そうやって成長を妨げられた村は、いつしか獲物として美味しくなくなるものだ。むしろ「いつの日にか復讐を」という、プレイモチベーションを与えてくれるエピソードだと思って、粘り強く対処したい。そもそもケチのついたアカウントは、きちんと抹消して再チャレンジする限り、誰にはばかる必要もないのがこのゲームである。
■ 導入の始まった新バージョン「T3.5」の目玉は「秘宝」と新施設
ローマに新しく導入される「馬の水飲み場」。建設メニューで見られる説明は、相変わらず情報不足であるが |
レビューの最後に、「トラビアン」の最新情報をまとめておきたい。さて、現在「トラビアン」の日本語サービスは、4つの通常サーバーと、スピードサーバーの計5サーバーが運用されている。そして、2009年4月と最も新しく開設されたjp4サーバーでは現在、新バージョンであるT3.5へのアップデートが進められている。T3.5では軍事ユニットや建物の能力が微調整されてプレイバランスが整えられるとともに、民族ごとの特徴がより強化され、さらに「秘宝」と呼ばれる各種ブーストアップアイテムが、プレイの進展とともに登場する予定だ。
プレイバランス調整として重要なのは、資源のトレードや運搬に使う「商人」の、積載量を増やすための「貿易事務所」が、ローマンに限って2倍の効果を発揮するようになったこと。ローマンとガウルでは、資源の最大輸送量が2倍くらい違ったため、終盤に強いはずのローマンが、兵站問題に足を取られて力を発揮できないケースがしばしばあった。それに対する救済措置といえよう。また、ローマンに関しては安価な汎用軍団歩兵「レジョネア」の生産コストがさらに引き下げられた。相対的に見て高価な軍事ユニットばかりで、序盤の自由が利かない点にも、若干ながらテコ入れが行なわれたことになる。
ガウルに関しては、防御特化型の歩兵「ファランクス」が運べる略奪資源量が引き上げられた。ガウルにはもともと、ファランクスとさほどコストが変わらない攻撃歩兵「ソードマン」がいることを考えると、やや意図の読みづらい改良だが、「せっかく守りが堅いんだから、序盤からどんどん行きなさい」という、開発サイドからのサジェスチョンなのかもしれない。
反対にチュートンに関しては、略奪時のボーナス効果が20%に削減された。つまり敵の隠し倉庫が3分の2計算でなく、5分の4計算になるため、いままでほどの荒稼ぎはできなくなる。日本サーバーでは、チュートンは割とプレイが難しい民族と目されているのだが、略奪ランキングのトップ10は、ほとんどチュートンプレーヤーで占められている。そのあたりの是正を狙ったものだろうか。
新規要素についてはまだ詳細が不明な点も多いが、例えばローマンでは「馬の水飲み場」という建物が追加される。効果としては騎兵の生産スピードが上がるのがひとつ、各種騎兵の維持コストを、建物のレベルアップにつれて引き下げられるのがもうひとつだ。資源タイルが枯渇しないこのゲームで、軍隊の規模を最終的に制約するのは維持コストであるから、このアップデートでローマンプレーヤーは騎兵を大いにに活用できるようになる。騎兵としてはゲーム中最高の維持コストを持つ「エクイーツ・カエザリス」も、他民族の最強クラス騎兵と同じ程度に運用できるようになるはずだ。
同様にチュートンで追加されたのは「醸造所」。これによって実行可能になる「壮行会」コマンドは1回あたり72時間の効力を持ち、その間自軍兵士の攻撃力にボーナスが付与され、敵軍の攻撃手段/効果が減殺される。「ニーベルンゲンの歌」もかくやといった、盛大かつ勇壮な酒宴が催されているに違いない。
ガウルに新施設の追加はないものの、建物「わな師」が設置できるわなの上限が2倍に増える。従来のプレイでも、例えばガウルの村を偵察して守備隊が100人未満だったとして、200人そこそこで襲撃をかけたら、全員わなに捕まってしまったなどという展開があり得たわけだが、その危険が400人規模にまで拡大する。ただし、T3.5では同時に、ほかの民族にも「わな師」が導入される予定のため、むしろガウルならではの特徴は薄くなっている。
ゲーム中盤に追加されるブーストアップ要素として、プレイの新しいポイントになるのが「秘宝」だ。これは「ワンダー・オブ・ザ・ワールド」と同じく、架空の民族ナタールにまつわる神秘の数々という設定で、手に入れると、村の建物が丈夫になる、兵士の移動速度が上がる/生産速度が上がる/維持費が減る、隠し倉庫の容量が100~500倍に上がる、いままで「ワンダー・オブ・ザ・ワールド」との関連でしか建てられなかった「大倉庫」「大穀倉」が建てられるようになる、各種メリットが24時間ごとにランダムで切り替わって付与される、といった、特殊効果が設定されている。
「秘宝」にはユニークと一般があり、効果がより強力なユニーク秘宝はマップ中央付近に置かれ、一般の秘宝はマップ各所に置かれる。プレイに与える影響も入手手段も、現行バージョンに存在する資源ブースト地形「オアシス」の占拠に似ていて、手に入れるには「英雄」率いる軍隊で、護衛のNPC軍を討伐する必要がある。いずれにせよ「秘宝」の入手如何で、個々人のプレイバリエーションが広がるのは間違いない。
■ 市場黎明期ならではの“異質さ”こそ大事にしたい
建設中のワンダー。プレイノウハウに関するネタバレを防ぐため、詳細はご容赦を |
jp1サーバーは現在、「ワンダー・オブ・ザ・ワールド」をめぐる大戦争の最中であり、おそらくは2~3か月ほどの間に、クールのリセットタイミングが来る。またスピードサーバーではつい先日の6月8日の明け方にワンダー戦が終結して、現在は次クール開始タイミングのアナウンス待ち状態となっている。「トラビアン」を本格的に楽しむためには、サーバーの再スタート時に参加するのがベストであるから、興味を抱いた人はいまのうちにほかのサーバーで慣れておき、公式サイトのアナウンスを確認しつつ、万全の体制で新クールの開幕を待つのがよいだろう。
「トラビアン」の成功を受け、いままで活用されなかった時間やPC環境をビジネスチャンスとすべく、世界中で多数のブラウザゲームが開発されつつある。国内メーカーを中心として「日本人に合ったブラウザゲームを」という模索も続いているが、それとは別に、海外製の作品がこれから続々と上陸するものと見込まれている。
願わくは、そこに刻印された開発サイドの趣向や開発国の文化を、意識的に楽しめるようであってほしい。例えばMMORPGの黎明期に欧米人と一緒にプレイしていた人にはピンと来る感覚だと思うが、最終的にはそうした姿勢こそが、ゲームの多様化とジャンルの発展に繋がると思うからだ。
そんな、直接のゲームプレイとは異なる部分で、例えば「ヨーロッパ人が考えるヨーロッパ人像」についての興味まで掻き立ててくれる、海外作品らしい海外作品というのが、傑作ブラウザゲーム「トラビアン」の持つ、もうひとつの顔なのである。
ゲーム内では各同盟のワンダー建設状況がいつでも確認できる。この画面はスピードサーバー末期のもので、いちばん右の列、ワンダーのレベルのすぐ右に示されたアイコンは、その村への攻撃が予約されていることを示す | ワンダーの完成とクールの終了を告げるアナウンス。ワンダーを完成させたプレーヤー/同盟が“時代の勝利者”として讃えられる一方で、保有村数のベスト3、最優秀攻撃/防御者のアカウントネームも列挙される |
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(2009年 6月 11日)