(2016/5/19 00:00)
ベセスダ・ソフトワークスが5月19日に発売するPS4/Xbox One/Windows用FPS「DOOM」。1993年末に発売されたオリジナルの「DOOM」から数えて、なんと22年越しの“復刻”となる作品だ。
本作を開発したのは、id Software。1993年の「DOOM」、1996年の「Quake」と、FPSというジャンル自体を築き上げたとして、PCゲーム業界に非常に大きな影響力を持っていたスタジオだ。とはいえ、現在では当時のコアメンバーの多くが別の道に進んでおり(例えばリードプログラマーのJohn Carmack氏は現在、OculusでVRの研究をしている)、2016年版の本作の開発を担当したのは、オリジナル「DOOM」当時にファンボーイだった世代が中心だ。
そこで気になるのが、本作が果たして「DOOM」の名を関するにふさわしい作品かどうか、ということだろう。今思えばオリジナルの「DOOM」というゲームは、非常に尖った作品だった。禍々しいデーモンたちに対するは、過剰なほどの機動力と火力を持った主人公。どこからともなくワラワラと出現するデーモンの群れが、瞬く間に血肉の塊と化していく。ハイテンションな戦闘が楽しめるかと思えば、一方では広大なステージ全体にたくさんのシークレットエリアが散りばめられ、3D空間を探索する面白さもバランス良く備えていた。オリジナル「DOOM」が今でも繰り返し話題にのぼる理由は、このようにゲームの個性が非常に強かったことも大きい。
本稿では2016年版「DOOM」のシングルプレーヤー部分についてのレビューをお届けするが、筆者がひととおりプレイした上で結論から書いてしまうと、新生「DOOM」の“「DOOM」ぶり”には太鼓判を押したい。本作は単に「DOOM」らしいというよりも、その「DOOM」らしさを現代的な方法でうまく再表現したところに最大の価値があると感じられる。プレイの各所でオリジナル「DOOM」を髣髴とさせる感覚を得られるだけでなく、最新のFPSタイトルとして、現代の他のタイトルと比べても「かなり尖っているな」という印象があるのだ。
その「DOOM」の世界をid Softwareの最新エンジン“id Tech 6”で高品質に描き出しつつ、往年の「DOOM」プレーヤーに随所でデジャヴを感じさせる内容になっている。オリジナル抜きに単体として考えても、他に似たゲームを見つけられない、かなり尖った作品であることも間違いない。
現代に蘇った「DOOM」らしさとは?
本作の舞台は火星。あるいは不完全な技術で荒野の惑星に進出した人類を見舞ったエネルギー問題に対し、あるグループが地獄由来のエネルギー、すなわち“ヘルエネルギー”を利用しようとし、そして暴走したことから物語が始まる。
オリジナル「DOOM」の舞台が火星の衛星であるフォボスとダイモスであったことからわかるとおり、本作はオリジナル版と設定が異なる。というのも、本作のプレイを進めてみればわかるのだが、本作ではオリジナル版と別の時代を舞台としているのだ。
火星に拠点を置いているのはオリジナル版と同じ組織のUnion Aerospace Corporation (UAC)だが、オリジナル「DOOM」で主人公が着用していた宇宙海兵隊のコンバットスーツ(ドゥーム・マリーン・スーツ)は既に歴史の遺物として扱われているなど、本作がオリジナル版よりも後の時代を舞台にしていることが伺える。オリジナル版主人公の戦いは伝説化しており(いったん火星基地が壊滅したことで情報が失われたのだろう)、黙して語らぬ本作の主人公の姿もまた、非常にミステリアスだ。
オリジナル「DOOM」で描かれたのが“第一次ヘルポータル事件”だとすれば、今作で描かれるのは“第二次ヘルポータル”事件だと言えるだろう。人類は既に地獄の存在を知っており、そのエネルギーや超科学的な住人たちを、人類のために応用しようという研究が進んでいる。ヘルポータルを通じて地獄の探索を行なう試みも、繰り返し行なわれたようだ。しかし、破滅した。地獄は、人類の手には余る存在だったのだ。
こうして本作は、ほぼ完全に壊滅したUACの火星基地からスタートしていく。目を覚ました主人公は、自分の正体もわからぬまま、ドゥーム・マリーン・スーツに身を包み、デーモンの群れに対峙していくのだ。
「DOOM」といえば暴力ゲームの代表格
オリジナル「DOOM」のゲーム的な特徴といえば、やはり第一にあげられるのはその暴力性だ。大人が眉をひそめる暴力ゲームの筆頭格として長らく君臨したのも当然、様々な武器を駆使してデーモンの群れを次々に肉片に変えていく爽快感が、ゲーム的な気持ちよさの根幹を成していた。
本作で特に力が入っているのがまさにこの部分だ。ロケットランチャーやスーパーショットガンといった強力な武器を直撃させれば、たいていの敵が1発で肉片となり、派手に飛び散る。チェーンソーで叩き斬れば、「バロン・オブ・ヘル」など最も強力な種類の敵も一撃で真っ二つだ。特に雑魚的に過剰な火力をぶつけていくのが非常に痛快だ。
それだけでなく、ダメージを与えて弱った敵に近接攻撃を行なうと、首をちぎり飛ばす、踏み潰す、ねじ切るといった様々な処刑アクションが実行される“グローリーキル”システムを搭載し、さらに暴力表現に磨きをかけている。このシステムは、オリジナル「DOOM」のファンメイド派生バージョンとして今も更新が続けられている「Brutal DOOM」の影響が強く感じられる。
オリジナル「DOOM」と同様に、武器のバリエーションも豊富である。チェーンソーからBFG-9000まで、オリジナル「DOOM」を飾った全ての武器が収録されていることに加えて、「Quake」的な要素の強いヘビーアサルトライフル、ガウスキャノンといった武器も搭載。さらに各武器はMODシステムで2系統の形に変化させることができる。例えばロケットランチャーなら、3連誘導ミサイルモードと遠隔起爆モードをセカンダリファイアボタンで利用できる。
その中でも「DOOM」ファン的にニッコリしてしまうのが、やはりスーパーショットガンだ。オリジナル「DOOM」で最も強烈なインパクトを残した武器であるこの武器は(当時はコンバットショットガンとかダブルバレルショットガンとも呼ばれていたが)、時代にそぐわぬ原始的な銃器であるため、MOD機能はない。その代わり、雑魚刈りに関しては本作で最強と言える火力、使い勝手、爽快感を持っているのだ。実際、筆者はスーパーショットガンの入手後、ボス戦を除いてはほとんどこれのみで無数の雑魚を狩りまくり、最後まで到達した。
デジャヴを刺激する個性的なモンスターたち
本作では全ての敵キャラを“デーモン”と称しているとおり、主人公に襲いかかるのはすべて、地獄の住人もしくはデーモン化された元人間だ。一部、新規追加されたデーモンもいるが、やはりそのほとんどはオリジナル「DOOM」からそのまま登場する。
フラフラと近寄ってくる元人間を肉片に変えつつ、名物デーモンのインプ(ゲームを通じて何百匹倒したからわからないほど大量に出る)が投げつけてくる火球をかわし、コンバットショットガンの一撃で真っ赤な塊に変えていく。強烈な突進力を備えた大型デーモン、ヘル・ナイト。2匹同時に相手するのは極めて厄介だ。両肩にロケットランチャーを装備したガイコツ、レヴナントは、本作ではジェットパックによる飛翔能力も手に入れた。
突進するしか脳のないピンキーデーモン。ふわふわと空中からエネルギー弾を吐き出してくるカコデーモン。巨体を揺らしつつ強力なロケット弾を連打してくるマンキュバス。そして地獄の番人、巨大で真っ赤なバロン・オブ・ヘル。それらのデーモンに出会うたび、オリジナル「DOOM」の記憶が強烈に蘇ってくるのだ。
ただ、戦闘のテンポは少々違っている。オリジナル「DOOM」のデーモンたちは移動速度が遅く、のそのそ動いているのを機動力を活かして撃破しまくるという感じが強かったが、今作のデーモンたちはかなり素早い。ヘル・ナイト等が良い例で、プレーヤーにものすごい勢いで突進、ジャンプ攻撃を加えてくるため、プレーヤー側としては、マップの立体性を活かしつつ回避し、ここぞというところで近接しての一撃を叩き込むというスタイルが中心になる。それでも、ステージが進むごとに過剰気味となっていくプレーヤーの火力の前に、これらの雑魚敵は次々に肉片となっていく運命だ。
なお、「DOOM」で最も強烈な印象を残した2つのデーモンについては、本作ではボスキャラとして登場させるという選択をとっている。現代に蘇った、あの禍々しく巨大で、プレーヤーに絶望感ばかりを与えるあのデーモン達の登場は、本作のプレイを進めていく上で最も楽しみな要素のひとつだ。
これでもかと散りばめられたシークレットに加え、現代的なやりこみ要素も
ゲーム全編を通じ「DOOM」らしいプレイ感にあふれる本作だが、オリジナル「DOOM」の特徴のひとつであった探索性についても、こだわりをもって踏襲されている。
まずもって各ステージのマップが極めて広大だ。きょうびのFPSとしてはありえないほど広く複雑なマップには、各所にイエローキー、ブルーキーといった鍵を入手して通行できるようになる扉も存在し、普通にクリアするだけでも迷路のようなマップ各所を行ったり来たり、「ここはどうやれば突破できるんだろうか?」と頭を悩ませながらのプレイが進行する。このあたり実に「DOOM」っぽい。
さらに、オリジナル「DOOM」でも各所で見られたシークレットエリアも、本作では大量に存在する。普通なら見過ごすような場所に隠し通路があり、その先には強力なパワーアップアイテムや、コレクタブルアイテムが存在するというやつだ。これらを全て見つけるのは至難の業で、相当注意しながらゲームを進めた筆者も、まだ半分程度しか見つけられていない。
本作の各ステージは、クリア後、再度単体として再挑戦することができるので、繰り返しプレイして思わぬシークレットを見つけるというのも面白さのひとつだ。先のステージで手に入れた武器や装備のアップグレードはそのままにプレイできるので、雑魚を蹴散らす爽快感もさらに向上した形でプレイできるので、繰り返しのプレイにもきちんと新鮮味がある。
そういった発見困難なシークレットの中でもぜひコンプリートしたいものが、オリジナル「DOOM」のマップを再現するシークレットだ。これは通常のシークレットとは仕組みが違い、思わせぶりに開かない扉の近く、わかりにくい場所に扉を開くスイッチがあるというもの。扉を開き中に入ると、そこにはオリジナル「DOOM」の低解像度テクスチャとローポリで描かれた、そのまんまの風景が広がる。往年の「DOOM」ファンならニヤニヤしてしまうこと間違いなしだ。
武器や装備のアップグレードシステム
現代的なやりこみ要素としては、各武器の機能を強化したり、主人公が装着するドゥーム・マリーン・スーツをアップグレードしていくアンロック要素がある。
武器のアップグレードは戦闘で得られるポイントを消費して行なうタイプで、各武器を強化していくごと、かなりドラスティックにプレーヤーの火力や、戦い方の幅が広がっていく。例えば最弱武器であるピストルですら、最終段階まで強化すると、セカンダリファイアで発動するチャージショットの連打によりロケットランチャー並の火力を手に入れる。全ての武器がこんな感じなので、最終段階まで強まったプレーヤーの破壊力は、まるで暴風のようだ。
スーツの強化は、各マップに散在する「エリートガード」からパーツを回収していくという、探索要素に紐付いたシステムだ。中にはかなり難しいシークレットエリアに到達しないと得られないものもあるので、全ステージクリア後も続くやりこみ要素のひとつといえる。スーツを強化することでプレーヤーはさらにタフに、機敏に、そして探索能力も向上していく。最強に強まった状態で序盤のステージをリプレイすると、笑ってしまうほど強い。
もうひとつ、探索と結びついたアップグレード要素として「ルーントライアル」がある。これはマップ各所に隠された巨大ルーンに触るとスタートするチャレンジゲームで、各種の条件・目標をクリアすると、対応するルーンが獲得できるというもの。全十数種類の各ルーンから最大3つ装備することでプレーヤーの機動力や戦闘能力を、選択的に向上させることができる。雑魚敵の処理に向いたルーン構成、ボス戦に向いたルーン構成、いろいろと組み合わせがあるので、自分のプレイスタイルと相談して探してみよう。
現代的なFPSとしても充分にユニークかつ手応えのある出来映え
全種類が異なる攻撃方法を持ち、個性的な動きでプレーヤーを追い詰めるデーモンたち。過剰なほどのバリエーションが用意された武器の数々。最近のFPSはというと、ほとんどがピストル、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフルの類型でゲームが進行するきらいがあるが、本作は敢えてクラシカルな構成に集中することで、その真逆をいくユニークなプレイ感覚を実現している。
そして戦闘が一段落したあとの探索要素。1本道のレールシューターとは対極に位置する本作のマップ構成やシークレットの配置は、原理的には極めてクラシカル。だが、今あらためて遊んでみると却って新鮮な印象なのだ。最近のFPSで、ここまで丁寧にマップを歩きまわったことがあっただろうか?
オリジナル「DOOM」は、3Dゲーム時代の幕開けの時期にあったことで、3Dゲームならではの面白さを純粋に追求した側面がある。そして2016年版の「DOOM」は、その初心を活かすことで、現代的なFPSに慣れきったプレーヤーたちに、もう一度、FPSの持つプリミティブな面白さを教えてくれる存在になった、と言えるかもしれない。最近の小綺麗なFPSに慣れきった皆さんにこそ、1度本作をプレイしてもらいたいものだ。