(2016/4/15 12:00)
「ゲーマーなら無線マウスは避けるべし」というセリフをこれまで何度聞いてきたかわからないが、これからは違う。トップクラスのゲーマーを皮切りに、「ゲーマーなら無線マウスで決まり」という認識が普通になる時代がまもなくやってくる。
そのパラダイムシフトを引き起こすのが、ロジクールが4月14日に発売したワイヤレスゲーミングマウス「G900 Chaos Spectrum(以下『G900』)」だ。G900は、ボディ、センサー、無線プロトコルの全てに最高の仕様を取り入れたハイエンドモデル。ゲーミングマウス史上最も高性能な製品といって間違いない仕様を備えた製品だ。
本製品については詳しいインプレッションを既にお届けしている通り、ゲーミングマウスとして必要な性能の全てを、無線マウスとは思えないレベルどころか、有線マウスを凌ぐほどのレベルで備えている。その性能が空前絶後なら、価格も21,130円と前代未聞の高付加価値製品だ。
G900の特徴を一言で言うなら、「無線マウスの弱点をすべて克服した無線ゲーミングマウス」と言うことができる。トラッキング性能……業界最高クラス。応答速度……最高級の有線ゲーミングマウス並みかそれ以上。重量……大半の有線ゲーミングマウスより軽い。バッテリー……連続24時間以上使用可。そしてもちろん、ケーブルフリー。
10日あまりの使用を通じ、実際に使用しなければわからない面も含め、全くスキのないワイヤレスゲーミングマウスであることがわかった。
すべてが有線マウスと同等以上の無線ゲーミングマウス
G900について、まずは基本スペックから見ていこう。
センサー性能はG303、G502と同等
G900の心臓部となるセンサーには、G303、G502にも採用されたオプティカルセンサー(型番:PMW3366)を搭載。トラッキング解像度は200-12,000CPIで、最大スピードは7.5m/秒と、業界最高クラスの性能を誇るセンサーだ。
最大スピードについては、史上最速のトラッキングスピードを誇るG402の10.67m/秒に比べるとやや低いが、G402では最大トラッキングスピード3m/秒程度のオプティカルセンサーと内蔵加速度センサーを補完的に組み合わせることで性能を実現していたことに比べ、PMW3366はオプティカルセンサー自身のみで最高性能を発揮するという点がポイント。最大加速度についてはG402の20Gから40Gに引き上げられており、トータルなトラッキング性能で最高クラスの性能を誇っている。
またオプティカルセンサーはレーザー方式に比べて様々なタイプのマウスパッドで安定した性能を発揮するのが特徴のひとつだが、本製品ではG303、G502と同じく「Logicool ゲームソフトウェア」での設定で、それぞれの滑走面に合わせたセンサー出力を自動チューニングすることができる。
これによりクロスタイプ、ハードタイプ、その他のゲームパッドで最適なリフトオフディスタンス距離を得られる。筆者は布パッドにガラス粒子を敷き詰めたハイブリッドタイプの特殊なマウスパッドを使っているが、その環境でも、キッチリコイン1枚分くらいの最適なリフトオフディスタンスと確実なトラッキング性能を得ることができた。
高い無線性能と超長時間の使用が可能なバッテリー
無線レシーバーは、ロジクール製品ではおなじみの指先サイズの超小型タイプ。独自プロトコルの2.4GHz無線でマウスとの通信を行なっており、有線ゲーミングマウスに匹敵するかそれ以上の応答性能を発揮するというのがウリだ。
接続方法は、付属のUSBアダプターを使って、専用ケーブルの先に無線レシーバーを取り付ける方法がオススメだ。これなら有線・無線を切り替える際にPCに手を伸ばさずに手元だけで作業できる。こういった地味なユーザビリティの部分にもしっかり配慮してあるのがG900のいいところだ。
そして無線マウスでよく問題になるバッテリーの持ちも、文句なしの出来だ。G900は720mAhのバッテリーを内蔵しており、省電力コアのおかげもあって、フル充電から24時間以上の連続使用が可能。しかも、「Logicool ゲームソフトウェア」を使ってLEDの点灯をオフにするなど最大限の省電力設定にすると、35時間もの連続使用が可能だ。この場合、1日5時間PCゲームをするとしても、1週間は充電なしで持つ。しかも、付属の専用ケーブルを繋げば使いながらの充電が可能なので、数秒たりともゲームプレイをストップする必要がない。
また、無線マウスにありがちな「スリープ復帰時の無応答問題」も、本製品では一切感じられない。筆者はこれまで10日あまりG900を使用してきたが、本製品はいついかなるタイミングでも臨戦態勢だ。いつでも鋭い初動と安定したトラッキング性能を見せてくれている。マウス無操作時間の長くなりがちなMMO系のゲームをヘビーにプレイするユーザーには特にありがたい特性と言えそうだ。
無線マウスとしては破格の軽量ボディ
さらなる注目点は、無線マウスとしてはありえないレベルの軽量性だ。G900の重量は107gであり、ライバル各社のどのワイヤレスゲーミングマウス(「Sensei Wireless」120g、「Razer Mamba」124g)よりも10g以上も軽い。有線マウスの本体重量のみで比較すると、ロジクールの主力有線マウスであるG502よりも軽く、軽量のG402とほぼ同等、最軽量のG303よりは少し重いという塩梅だ。ワイヤレスゲーミングマウスとしては破格の軽さである。
体感的にも、筆者がこれまで常用してきたG402との違いがわからないレベルで、高速な操作を必要とするFPSやMOBAジャンルのゲームをプレイする際に非常に快適だ。マウス背面のソールの作りはG402、G502と同等ながら、その軽量さとケーブルフリーの自由度によって、より快適で安定した操作性能を実現している。これはもう店頭サンプル等を触ってみれば数秒で理解できるほどの凄さだ。
左右対称の形状は好き嫌いが分かれる
G900はこれまでのGシリーズのどの製品とも異なる形状に特徴がある製品だが、大きな特徴のひとつが左右対称のボディ形状だ。従来のロジクールの主力であるG502やG402といったフルサイズのマウスでは左右非対称の形状を採用し、ボディ右側面をなだらかに傾斜させることで右手の薬指・小指の“おさまり”を確保していたが、G900にはそれがないため、薬指・小指がストーンと下に落ちる格好となる。
このため、親指・薬指・小指の先でボディの左右を固める“つまみ持ち”には良いものの、手のひら全体でホールドする“かぶせ持ち”時の収まりが悪い。手のひら全体で力を伝えようとするときに、薬指・小指の第2関節あたりにやたらと圧力が集中してしまう感じだ。唯一この点が、G900の弱点らしい弱点である。
「プレイ人口の多い右手に最適化されていない」という問題を除けば、本体の作りは贅沢そのものだ。独特の形状をした左右メインボタンは、どこを押しても安定したクリック感が得られる。押下時の抵抗は緩く、“戻し”の抵抗は鋭く、比較的手の小さな筆者が浅めにホールドしても正確な操作が可能だ。また、ホイール部分にはロジクールのハイエンドシリーズで採用されてきた「クリッカブル/高速スクロール切り替え」機能を搭載し、左右チルト操作にも対応するフルスペックぶりだ。
着脱可能なボタンと高いカスタマイズ性
プログラマブルなボタン数は最大で11。最大で、というのは、左右4つのサイドボタンがマグネット式の着脱可能ボタンになっているからだ。右利きユーザーなら右側、左利きのユーザーなら左側のサイドボタンを外し、付属カバーで覆うことで、手のひらでサイドボタンを誤爆してしまう状況を完全に防止できる。このあたりの物理的なカスタマイズは「Logicool ゲームソフトウェア」側でも反映できるようになっている。
すべてのカスタマイズ可能なボタンに、任意のマウスコマンド、キーストローク、あるいはキーマクロをを割当できるのは従来のロジクールG製品シリーズと同じ。G900の場合、DPIのアップ・ダウンボタンがホイールのすぐ下という使いやすい位置にあるので、このあたりに何かと多用するゲームコマンドやメディアコマンドを割り当てるのが王道になりそうだ。
FPS用ハイエンドマウスのG502ではマウス本体のオンボードメモリに3つのプロファイルを登録することができたが、G900ではそれが5つに拡張されている。プロファイルの切り替えはマウス裏側にある四角いボタンで行なう仕組みで、プレイ中の誤爆を徹底的に避ける設計になっているのが嬉しい。また、PC側に保存されたプロファイルをゲームごとに呼び出す機能も従来通り搭載されている。
このようにカスタマイズ性についてはG502を更に拡張した格好となっていて、ほとんどの状況をオンボードメモリ側のプロファイルでこなせるようになっている。オンボードメモリの設定はPCを跨って有効なので、複数のPC環境でプレイすることの多いアクティブなプレーヤーなら積極的に活用したいところだ。
体感上も優れた応答性能を発揮。ケーブルフリーの自由度がたまらない
実際にゲームで使用してみると、そのパフォーマンスの高さ、安定性を実感できる。ロジクールではG900の応答速度について「Razerの有線マウスDeathAdderより速い」と主張しているが、それどころか、筆者がこれまで常用してきたG402(これも相当応答性能が高いマウスだ)よりも反応がよく感じられてしまうのだから驚きだ。
その理由は、技術的には無線によるオーバーヘッドが極限まで縮められ、有線並にまで最適化されていることと、マウス内部のエンジンとドライバの工夫でさらに遅延を軽減していることなどが考えられるが、体感的に大きいと思うのは、やはりケーブルが存在しないことによる“抵抗のなさ”だ。
有線マウスではどうしても、マウスの操作に対してケーブルの重さや抵抗が若干ながら常にかかってくる。これはケーブルアンカー等の追加グッズを使用したところで根本的に避けることができない問題だ。G900にはそのわずかな抵抗すら存在しない。存在するのは純粋に、マウスの重さと、マウスソールとマウスパッドの表面が生み出す摩擦のみ。この摩擦抵抗は対称性が高く、どの方向に動かしても一定である。これに対して有線マウスのケーブルによる抵抗は、ケーブルを引っ張る方向と縮める方向で異なる抵抗がマウスにかかってくる。これが操作性に大きく影響する。
こうして実際に感じられるのが、まるで“マウスを動かす前にカーソルが動いているかのような”応答性だ。無線マウスにありがちなカーソルの飛びやジッターといった不安定な挙動も一切見られない。従来の有線・無線マウスを問わず、決して得られなかった正確かつ高応答性の操作環境がここにある。
ゲームプレイ上でその違いを体感するためには、60Hz程度で動作するペースの遅いゲームでは役者不足だ。120Hz~144Hzモニター上のフルフレームレートで動作する、ペースの早いゲームではじめて実際にこのパフォーマンスを味わえるようになる。
「Counter-Strike: Global Offensive」のようなごく古典的なFPSは格好の題材だ。正確なエイミングを一瞬で決めてヘッドショットを当てれば勝ちというこのゲーム性で、G900の有り難みがわかる。
筆者がこれまで常用してきたG402(を含む過去の有線マウス)では、ケーブルの抵抗で微妙にエイムがずれるように感じられるような瞬間が度々あり、余計に力を込めて抵抗を相殺するようなプレイになりがちだったが、G900ではそれがまったく無い。ごくごく力を抜いてリラックスした状態で、狙った場所に1発で照準を持っていける気持ちよさがある。それでも弾が当たらないのは、単に狙いが悪いだけだ。さあ、エイムに集中しよう。“ケーブルの抵抗”とか“遅延”とか、余計なことを一切考えずにゲームに打ち込めるのは幸せである。
マウス操作が非常に忙しいMOBA系のゲームでも恩恵は大きい。MOBA系代表格タイトルのひとつ「Dota2」はハイリフレッシュレート環境での動作にも対応しており、120fps以上のフレームレートがフルに出ているとカーソルの動きが非常に滑らかだ。それだけに遅延が生じているとモロにわかってしまうのだが、G900でのカーソル動作はクイックそのもの。従来の有線ゲーミングマウスとの違いは全くわからない。それでいてケーブルフリーによる滑らかかつ正確な操作感が得られるというのは、MOBAプレーヤーにとっては夢にまで見た環境だといえるだろう。
ミニマップを飛び回り、前線を小刻みに移動し、ミニオンのラストヒットを取り、敵味方が入り乱れた状況で的確な相手にスキルをターゲットし、ショップで必要な買い物を素早く済ます。全てにピンポイントのマウス操作が必要なMOBAは、あらゆる操作が抵抗なくスムーズに行えるG900の能力を100%発揮できるジャンルと言える。
有線マウスは役割を終えたか?
このように文句なしのパフォーマンスを実現したワイヤレスゲーミングマウスG900。1度手にして使い始めてしまえば、もう以前の環境には戻れないことは必定だ。筆者もレビュー用サンプルを試用したのち、以前のG402/G502の環境に戻るのが非常に嫌なほどである。
無線マウスが有線マウス以上のパフォーマンスを実現した以上、もはや有線マウスは無用である……と言いたいところだが、それはまだ先の話だ。何しろG900は、ゲーミングマウスとしては前代未聞の2万円超えという高額商品である。ゲーミング予算に余裕のあるゲーマーや、大会シーンで活躍する競技ゲーマーは迷わず買えばいい。全てにおいて格上の環境が実現する。だが、普通のゲームファンがおいそれと買える価格ではない。
逆説的には、5,000円程度で買える有線のゲーミングマウスは、ケーブルの存在にさえ目をつぶれば2万円超えのG900と体感上で同等の性能がある、と言える。安価なマウスは思いき入り使い潰せるし、代替品の購入も気軽にできる。多くのゲーマーは引き続きそれらの有線ゲーミングマウスを使い続けることだろう。
とはいえ時間の問題でもある。G900で培った技術がロジクールのより安価なモデルに応用されはじめたら、いよいよ有線マウスはお役御免だ。G900は、そんなゲーミングマウスのパラダイムシフトを先取りする、業界全体におけるフラッグシップモデルである。