インタビュー
Logitech G ポートフォリオマネージャー Chris Pate氏インタビュー
プロ仕様のワイヤレスゲーミングマウス「G900」はどのような経緯で誕生したのか?
(2016/3/24 16:01)
Logitechプレスツアーレポートの締めくくりは、「G900」の開発を担当したLogitech G ポートフォリオマネージャー Chris Pate氏へのインタビューをお届けしたい。
Pate氏は1996年にLogitechに入社し、スキャナー事業部のテクニカルサポートを炭層したあと、スキャナー事業部売却に伴い、1998年からゲーミング事業部に異動し、1999年よりプロダクトマネージャーとして、現在までの17年に渡ってゲーミングデバイスの開発に携わるというLogitech Gシリーズの生き字引的な人物だ。
今回は「G900」の設計思想から、そのこだわり、今後のビジョンに到るまで、Logitechのゲーミングマウスを様々な点から質問を重ねてみた。
3年前からアイデアを温めてきたハイエンドゲーミングマウス「G900」
――G900のプロジェクトがいつ頃からスタートしたのか?
Pate氏:公式なプロジェクトとしてはだいたい2年ほど前にスタートした。しかし、その前から技術レベルでプロジェクトが動いていたので、ほぼ3年間G900に関わっていることになる。
――プロジェクトがスタートしたきっかけは何か?
Pate氏:開発のきっかけは、我々のワイヤレステクノロジーを使って、プロフェッショナルグレードのゲーミングマウスが作りたいと考えたことだ。我々はプロゲーマー向け、特に競技に使うプログレードのワイヤレスゲーミングマウスを作ることができる。多くのゲーマーがワイヤレスはクオリティが良くないとか、使い勝手が悪いと感じている。我々はこういった意見を抜本的に解決するためのテクノロジーを開発するためにかなりの努力をした。
――それはG700やG700sのフィードバックから?
Pate氏:そのとおり。G700やG700sは2つの理由からプロゲーマーには受け入れられなかった。ワイヤレステクノロジーはなかなか良かったが、レーザーセンサーがプロゲーマーから好まれなかった。2つ目の理由は、マウスが重かった。G700は約150グラムもあった。G900について、我々は長い時間これらの課題を克服するために時間を費やし、G900では重量を約33%軽減することに成功した。
――G900の最大の売りは何だと考えているか?
Pate氏:繰り返しになってしまうが、プロフェッショナルグレードのワイヤレスゲーミングマウスだというところ。他のワイヤレスゲーミングに対して、あらゆる性能で上回っている。実際にプロゲーマーに対して、賞金を得るためのツールとなるために、何が不足しているのかヒアリングし、実装していったことで、素晴らしいものに仕上げることができた。
――G900は実際に体験してみて素晴らしいゲーミングマウスだと感じたが、マウスとしてはかなり高価だと思う。価格設定についてはどう考えているか?
Pate氏:G900は確かにプレミアムなプロダクトだが、それだけたくさんのプレミアムなテクノロジーやコンポーネントを使用している。同じようなプロダクトは同じような価格になっている。という点では、それほど高価な製品だとは考えていない。十分なエクスペリエンスを求めるなら高価なものを買う。例えばビデオカードもそうだ。十分なパフォーマンスを出そうと思ったら数百ドルかかる。
――開発にあたってトラブルはあったか?
Pate氏:3年もの長いプロジェクトなので、全部は語れない。このデバイスを完璧なものにするために長い時間を費やした。とてもチャレンジングだった。様々なプロトタイプを制作し、たくさんの細かい調整をした。大きなトラブルはなかったが、仕様を固めていく作業は大変な苦労だった。メカニカルエンジニアが出してくるイノベーティブなアイデアを、様々なコンポーネントにフィットさせながら、マウスの形にしていった。その結果、十分な強度を備えながらプロゲーマーの使用に耐える軽さを実現することができた。
センサー、無線、バッテリーなどG900のテクニカルディテールについて
――センサーはG502やG303と同じPMW3366だと聞いた。消費電力も同じなのか?
Pate氏:消費電力は同じ。新たにスリープタイマーを使っている。何分か動かないとローパワーモードになり、さらに操作しないとベリーローパワーモードになる。これはG700やG303と同じで、内臓のマイクロコントローラーがすべてのシステムを自動でコントロールしている。
――G900に採用された新しいRFテクノロジーについてその詳細を教えて欲しい。
Pate氏:私はエンジニアではないので、詳細に説明することはできないが、大まかに言えるのは、独自の2.4GHzワイヤレステクノロジーを採用して、数年かけて開発したものだ。そして我々はゲーマーをターゲットとし、最高のパフォーマンスを実現するため、Blutoothなどのゲーミング利用にあたって性能的な限界のある規格は最初から採用しなかった。
――G900のメインボタンは、旧ハイエンドのG9XとG303をミックスしたような性能と考えて良いのか?
Pate氏:そうではない。G900のメインボタンシステムは新しく開発したものだ。G9Xのプロトタイプのひとつにこのシステムを搭載したモデルが存在した。G9Xでは、スプリングを使わず、プラスチック製のヒンジを使っていてバーではなかった。プロトタイプを使うことには2つのベネフィットがある。1つは最高のクリック感を実現するために常に最新の技術が取り入れられること。もう1つはプロトタイプを作ることで大量生産する前にデザインフィードバックを得られること。
――G900のアーキテクチャをG303やG502の成功を踏まえて、同じようなアーキテクチャにする計画はあるか?
Pate氏:未来のプロダクトについてはっきり明言するのは難しい。我々は常にG900のような新しいプロダクトを生み出している。それはテクノロジーだけで決められるのではなく、何がユーザーにとってのベネフィットなのかを見極めることが重要だと思う。
――G900のサイドボタンはとても押しやすい。サイドボタンの数をカスタマイズするような計画はあったのか?
Pate氏:サイドに2つ以上のボタンを付ける計画は最初からなかった。我々は、左に2ボタン、右に2ボタン、両方で4ボタン、あるいは両サイドのボタンを外してゼロにするという4パターンを、ユーザーが選択できるようにした。
――なぜサイドに2ボタンというバランスを選んだのか?
Pate氏:なぜなら、ほとんどの人は2ボタンだけを使っているからだ。それ以上のボタンがあると多くのユーザーは混乱する。だからそれはやめた。今後のプロダクトではわからないが、このプロダクトではサイドは常に2ボタンだ。
――サイドボタンを交換可能にした理由を教えてほしい。
Pate氏:左右対称にして右利きの人でも左利きの人でも使えるようにするためだ。通常は4つのボタンが両サイドにあると使いにくい。もし右利きの人用にセットするには、左にボタンを配置して右にキャップをする。左はその逆になる。時には4ボタンがOKな人もいるが、嫌いな人もいる。誤操作を防ぐためにパーソナルなカスタマイズが可能になっている。
――それはG500などを使っている人たちからのフィードバックでは、2ボタンが良かったということか?
Pate氏:そうではない。G500には3ボタンで、ミドルボタンがある。3ボタンは多くのユーザーにとって判別するのが難しい。G502は3つ目のボタンがフロントにあるが、それを好きな人もいれば嫌いな人もいる。どんなプロダクトに挑戦するときも何かを作る時には目的やそうする理由がある。我々がこれに決めたのは、多くの人がそれを好んだからだ。
――なぜG900にはウェイトを調節する機能がないのか?
Pate氏:それは単純にウェイトを入れるスペースがなかったからだ(笑)。ワイヤレスモデルのG700sはとにかく重く、G900ではそれを軽くすることを追求したため、ウェイトはスペースを割いてまで実装するほど重要なギミックでは無かった。
――G900に交換可能なバッテリーの計画はあったか?
Pate氏:まったくなかった。なぜなら交換可能なバッテリーを採用したG700のバッテリーライフは悪かった。プラスチックケースに入れたバッテリーを持ち運んだり、交換可能にするための着脱機構、充電器もコストとなって跳ね返った。そのすべてのエクスペリエンスがよくなかった。
G900では慎重にバランスを見て、今のバッテリーになった。1回の充電で1週間持つ。G700は1回の充電で1日使えるかどうかで、何度もバッテリーを交換しなければならない。G900は内蔵のバッテリーで、急速充電が可能で、24時間連続駆動が可能だ。有線にすれば充電しながら使うこともできる。
――G900の内蔵バッテリーの寿命はどれぐらいか?
Pate氏:チャージは1週間に1回、そのサイクルで何年も持つ。マックスパワーのセッティングでも24時間連続で駆動できる。それで2年の保証を付けている。
――USBケーブルの接続にはType-Cコネクタがベストだと思うが、なぜMicro-B端子を採用し、さらに端子周りにユニークな形状を採用したのか?
Pate氏:この独特の形状を採用した理由は2つある。1つはコネクタを差す際に、その操作を迅速で簡単にするため。2つ目の理由は単純にこのプロジェクトがスタートした2年前にはType-Cコネクタがまだなかった。今ですら、Type-Cコネクタはまだあまり普及しておらず、高価だ。今後さらに一般的になっていけば、我々は使えるかどうか考える。それ以外にもスペースやコストの問題など様々な要因があるが、基本的にはタイミングの問題だ。
――この特殊な形状のコネクターは独特でとても使いやすいが、何かストーリーはあるか?
Pate氏:実際に接続して見せよう。このテーブルの上ではとてもスムース。このようにマウスとケーブルを掴んで動かすだけ。素早く接続できているのが分かると思う。人はクリティカルな瞬間にすぐに動かないと不安を感じる。我々は接続をとても簡単に、そしてとてもスピーディーにした。これによってゲームプレイ中でも抜き差しが可能なほど簡単に着脱ができるようになっている。
――次のゲーミングマウスの計画について話せることはあるか?
Pate氏:3年かけたプロダクトについて話す気まんまんなのに、みんな次はなんですかと聞くんだよね(笑)。
――じゃあG900についてもう少し教えてほしい(笑)。G900のまずは名前について。“カオススペクトラム”とは何ですか?
Pate氏:名前は神話からとったもので、“カオス”はメタロジカルな要素だ。もちろん、このプロダクトはカオスではない。特にカオスな経験をすることはない(笑)。ただ混乱の原因になるかもしれない。もっとはっきり言うと、このマウスは、ゲーミングマウスマーケットの中で、とても破壊的で、はっきりかつ重大な製品になるだろう。今回のメディアツアーで、メディアにはじめてベンチマークを公開し、初めてその結果が出た。そしてこのワイヤレスマウスが、ワイヤレスマウスとしてどのくらいハッキリとした進化のプロセスがあったかを理解できたと思う。
我々は未来のゲーミングマウスはワイヤレスだと信じている。これはその一歩で、パフォーマンスに妥協してはならない。大会の中でベストパフォーマンスを目指す。これがカオスエネミーの理由。ゲームで遊ぶ時に、プレーヤーはエネミーを混乱させ、我々はマーケットを混乱させる(笑)。
――G9xxは、Gシリーズのハイエンドを意味する。すでにヘッドセットのG933、キーボードのG910、そして今回マウスのG900がリリースされる。なぜ9xxにハイエンドの意味を込めているのか?
Pate氏:名前を付けるスキームには、とてもテクニカルなディティールがある。最初の番号はTierだ。2番目の数字はプロダクトのタイプ。0がマウス、1がキーボード、2はレーシングホイール。3はヘッドセット、4がマウスマット、5は欠番になっている。3番目の番号は世代の種類。G500はG502へ。G930は933へ。数字が1刻みではないのは、単純に数字の響いが良いからというのが隠されたネーミングルールだったりする。
――G900では、マウスソール単体での販売は行なわないのか?
Pate氏:アメリカのWebサイトでは扱っている。なぜ日本のサイトではそうでないのかはわからない。Amazon.comや、logitech.comの公式サイトでは売っていて、もしテクニカルな問題があったら、カスタマーケアチームがアドバイスをくれる。カスタマーケアチームにコンタクトを取ってほしい。
――ほかの国でマウスソールを販売する計画はあるのか?
Pate氏:正直、その話を聞いたのが初めてだったので、日本で売らないのかはわからない。アメリカ以外の国でもlogitech.comから直接購入が可能だ。
ゲーミングマウスの未来、そしてLogitech製VRコントローラーは!?
――ゲーミングマウスの未来はどうなると思うか?
Pate氏:10年前にある人が私にPCゲーミングの未来を聞いた。当時はPS3が出た頃で、多くの人々がPCゲームから離れつつあったが、結果はどうだろう、PCゲームはなくなっただろうか?(笑)。
それと同じで、私はゲーミングマウスは今後も進化し続けると思う。今後も大きな技術革新があって、それを我々は実装し、自分たちがベストだと思うパフォーマンスに近づけていく。このG900のプロジェクトもまさにそのひとつで、3年間開発に携わってきたが、このプロジェクトに関われて良かったし、完成して本当に良かったと思う。発売後のユーザーの反応を聞くのが楽しみだし、市場の反応も楽しみだ。新しいプロジェクトに関わるのは本当に楽しいので今後も続けていきたい。
――その進化の過程で価格は今後さらに高くなると思うか?
Pate氏:その必要はないと思う。G900はプレミアムプロダクトで、米ドルで149ドル、日本円で21,130円もする。とても高い製品だ。しかし、我々はプレミアムなプロダクトだけでなく、ミドルレンジもエントリーレンジのプロダクトも作り続けている。ブランドがどのように見られるか、カスタマーのニーズは何か、他のメーカーが何をしているか、ゲームにおける新しい体験とは何かを常に考え続けている。
たとえば、G302とG303は完全に新しいボタンデザインを備えている。「LoL」や「DOTA II」などのMOBAでは、マウスの持ち易さとクリックしやすさで、ゲーム経験が大きく変わることを我々は理解しているからだ。それはゲームによっても違う。たとえば、「スタークラフト」と「LoL」はクリックアクションが違う。だから我々はゲーム体験の進化に合わせてまったく違うボタンデザインを作った。古語もよりよいセンサー技術や、違うタイプのゲームに合わせて、新しいマウスを開発し続ける。我々のモノづくりに終わりはない。
――現在、PCゲーム市場では、VRがホットトピックになっている。今後、Logitechから、OculusやHTC Viveで使えるVRコントローラーが発売される予定はあるか?
Pate氏:VRはエキサイティングだ。どうなるかに注目している。個人的にはOculusもHTC Viveも予約している。我々のオフィスもFacebook(Oculusの親会社)のHQまでは車で10分の距離にある。台湾オフィスもHTC本社まで車で1時間のところにある。我々は彼らを知っているし、コミュニケーションも取っているが、VRに関する我々の計画についてはまだ話すことができない。
――G900の発売を待つ日本のゲーマーにコメントを
Pate氏:まず長い時間日本のゲーマーをお待たせしたことをお詫びする。また、発売直後はかなり高い価格設定となるため、皆さんが満足していただけるかどうかわからないが、ぜひディティールに注目してほしい。無数のリサーチやテストを繰り返して、精密な操作が可能なデバイスに仕上がった。日本のゲームファンにとってベストなマウスになっていると確信している。このマウスは、形が小さいだけでなく、他のゲーミングマウスに比べても軽いし、ベストなセンサーにより最高のパフォーマンスを出すことができる。このプロダクトを日本の皆さんに届けることができてとても幸せだ。どうかお気に入りの1台をなることを期待している。