PS3ミニゲームレビュー

The Unfinished Swan

芸術性とゲームらしさを内包する独特な作品

ジャンル:
アクション
発売元:
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン
プラットフォーム:
PS3
価格:
1,200円
発売日:
12月13日
プレイ人数:
1人
レーティング:
CERO:A(全年齢対象)

主人公モンロー(コンセプトアート)

 ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンは プレイステーション 3用アクション「The Unfinished Swan」を2012年12月13日に配信した。PlayStation Store専売タイトルで、価格は1,200円。CEROレーティングはA(全年齢対象)。

 昨年の12月にこの「The Unfinished Swan」はリリースされた。失礼を承知で言えば、静かにリリースされた印象すらある。ダウンロードコンテンツではしばしばあることだが、TVCMなどの華やかな広告はなく、いつの間にかリリースされていることがある。しかし、そういった中にも注目に値するタイトルもあり、このタイトルがまさにそうだと思う。そういった意味でも、今回取り上げてみた次第だが、ネタバレに最大限配慮したミニレビューとしてお届けしたい。

 昨年の東京ゲームショウ2012にプレイアブル出展された本作。このとき初体験した筆者は、そのアーティスティックなテイストに完全に魅了されてしまった。ストーリーはシュールな童話といった印象で、これまた好きな人にはたまらないはず。改めて説明すると、本作は主人公の少年モンロー(10歳)が不思議な世界を旅するというもの。

 母親が描いた300枚以上におよぶ未完成の絵画。モンローはそのなかから、母のお気に入りだった「白鳥の描かれた絵画」を1枚だけ持って施設に入る。ある夜、モンローが目を覚ますと、その絵画から白鳥がいなくなっていた。床に残された白鳥の黄色い足跡と、その先にある扉。モンローは母親の遺品である銀色の絵筆を持って、足跡をたどり扉のなかへと入っていく……。

【オープニングデモ】

 体験版や製品版をプレイされた人は一様に驚かれたと思うが、本作のシステムは極限までシンプルだ。まず最初、プレーヤーは一面真っ白のなにもない世界に放り出される。何もない真っ白なところなので、アナログスティックを動かしても画面には何の変化も生じない。

 ここでやれることはただひとつ。黒い絵の具が詰まった“水風船”のようなものを投げること。水風船は放物線を描いて落下し、弾けて一定の範囲を黒く染める。ここで初めて、画面内に“ひとつの基準”ができあがり、アナログスティックを動かすと主観視点で移動が可能になっていることに気づかされる。

 あちこちを黒く染め上げていくと、やがてオブジェクトの輪郭が浮かび上がり、場所などがわかるようになってくる。プレーヤーがやれることは、主観視点での移動、ジャンプ、そして水風船を投げること。たったこれだけにも関わらず、徐々に浮かび上がっていく画面とのインタラクションがあまりにも鮮明かつ刺激的。なにをどう染めるとどうなるなど、本来は詳しく説明したいのだが……完全にネタバレに直結するため伏せさせていただきたい。

水風船をぶつけるたび浮かび上がっていくディティール。シンプルだが実に刺激的だ

 一般に、こうした作品は難易度が高くユーザーを突き放しがちだが、本作はそうではない。冒頭の黄色い足跡など、世界観に基づいた“さりげないアナウンス”が要所に配置され、老若男女誰でもすぐ楽しめるよう形作られている。道筋から外れたところにある隠し要素の風船も、コンプリートクリアを目指す人には見逃せない大事なアクセント。もちろん全部とらなくてもクリアは可能だ。

 本作はチャプター1「庭園」、チャプター2「未完成の夢の国」、チャプター3「夜」、チャプター4「王様の夢」の全4章構成で、それぞれ明確なコンセプトで設計・差別化されている。なかでもチャプター1は少しずつディティールを浮かび上がらせていく“インタラクティブな魅力”が凝縮されており、筆者はその仕上がりに圧倒されてしまった。

 その一方で、こうした芸術性の高さはチャプター2以降で質実ともに大きな変化を見せていく。もしかしたら「あまりにもアーティスティックな方向に傾倒しすぎている」と判断されたのだろうか。シンプルなインタラクションはそのままに、ゲーム本編は次第に“謎解き”に重点が置かれるようになっていく。個人的にはチャプター1の方向性を突き詰めて欲しかったのだが、ゲームという大前提をないがしろにしないための配慮であることも十分に伝わってくるため、このあたり決してマイナス要素ではない。

チャプター2
チャプター3

 ゲーム本編は1日あればクリア可能で、ダウンロードタイトルとしては十分なボリューム。筆者個人としてはチャプター1の体験だけでも万人におすすめしたいのだが、唯一の難点として“3D酔いしやすい”ことをあらかじめお伝えしておく。主観視点でプレイするため、屋内などで視点をグリグリ動かすと、3D酔いしやすい人は三半規管が一気に悲鳴を上げるかもしれない。筆者は特に3D酔いしやすい体質で、モニターから距離を置き途中休憩を何度かはさんでエンディングに到達できた。

 「なんでそこまでして?」と思われるかもしれないが、それはチャプター1に代表される“インタラクティブな楽しさ”に魅了されたからに他ならない。水風船を投げて、その変化から何かを見出していく本作ならではの楽しさは、三半規管の悲鳴程度ではあきらめきれない、とても素敵な体験だ。PlayStation Storeでは、「DATURA」、「風ノ旅ビト」所有者が1,000円で購入できるキャンペーンが実施されている。両作をお持ちの方はもちろん、興味がある方はこの機会にぜひぜひチェックしていただきたい。

(豊臣和孝)