2017年8月18日 16:21
Aspyrが販売、Bloober Teamが開発し、8月15日にSteamで発売されたインディータイトル「>observer_」は、アーティスティックで悪夢的な雰囲気がたっぷり味わえるアドベンチャーだ。プレーヤーは刑事ダニエル・ラザルスキとなって、息子の緊急メッセージを皮切りに、街で起きている異常な事件に深く関わっていく……。
Bloober Teamは、心を病んだ画家の精神の奥深くを描くアドベンチャー「Layers of Fear」で高い評価を得た。今作では未来の科学で人間の精神をのぞき込むというサイバーパンクSFで、圧倒的なイメージを提示していく。暗く陰鬱な世界観、何か恐ろしい計画が進行している不安感の中で、真実を追い求める刑事の気分を満喫できる作品だ。
本作は英語版である。日本語字幕は今後追加予定とのことだが、ゲームパッドでも直感的にプレイでき、ゲームの目的も提示されているので、この奇妙な世界に興味を持った方は、ぜひチャレンジして欲しい。
首のない死体が物語る恐ろしい“陰謀”。この世界で何が起きているのか
主人公ダニエルは、刑事である。物語の舞台は2048年、この時代の人々は大きな戦争の後、国家に代わる大企業に生活を支えられる様になっている。ダニエルは企業の資金提供を受けた警察部隊「オブザーバー」の一員であり、神経病理学に深い知識を持つ。この時代、人々の多くは体に機械を埋め込み様々に活用しているが、オブザーバーであるダニエルはコードを接続することで対象人物の記憶を探ることが可能だ。
物語は“息子”が彼に連絡を取ってくるところから始まる。ダニエルは息子・アダムと疎遠になっていたのだが、彼の方から連絡があり、会いたいと言ってきたのだ。連絡のあった場所は怪しげなスラム街の、暗い集合住宅の一室だ。管理人にアダムの部屋を聞きそこを訪れたダニエルは、首が切り取られた死体に遭遇するのだった……。
「>observer_」は、サイバーパンクとホラーを融合させたアドベンチャーゲームだ。本作は英語版であるが(日本語字幕は後日対応予定)、ゲームパッドにも対応しており直感的にプレイできる。また現在の目的も明確に提示されるので、英語が苦手なユーザーも本作の雰囲気が気になったら、挑戦してみるのも充分アリだと思う。
プレーヤーはダニエルとして謎に迫っていく。現在まだ数時間のプレイではあるが、アクションやシューティングといった要素はなく、探索がメインのゲーム展開だ。一定のフィールドで探索し、何かトリガーを見つけることでストーリーが前進するというタイプのゲームだ。例えばアダムの部屋では、ダニエルが入った時点でセキュリティが作動し、閉じ込められてしまう。首のない死体の調査やアダムの情報を集めつつ、部屋の謎を解くことで、次の調査に向かうことができるのである。
機械を体に埋め込む「オーグメンテーション」を施されたダニエルは常人を遙かに超える調査能力を持つ。通常の視界の他に「バイオビジョン」、「EMビジョン」という2つの視界を持っており、対象を調査できる。バイオビジョンでは死体の傷口や、流れ出た血、そして死体につけられた鉤爪の後も見ることができる。大型の肉食獣のような傷はどんな生きものが刻んだかわからなかったし、そして被害者の血液からは被害者の身元はわからなかった。この死体は何者なのか……。
ゲームでは綿密な“調査”が鍵となる。プレーヤーは3つの視界を使い分けながら部屋中をくまなく調査していくこととなる。ドアなどインタラクション可能なものや、重要なオブジェクトはマークがつくのできちんと調査を進めていけば時間はかかるが詰まらずに進めていけるだろう。
本作の大きな魅力はその“雰囲気”にある。薄汚れた未来都市。映画「ブレードランナー」や、ゲームの「デウスエクス」などで描かれる“サイバーパンク”の世界が楽しい。ゲームのメカニクスは古典的であり、暗い世界観も相まって最新のゲームにもかかわらずレトロなゲームをプレイしているような感触もある。次々と提示される謎にはまり込んでいくようなプレイが楽しめる作品だ。
こちらの正気が失われそうな、圧倒的な精神世界の描写
本作の大きな目玉となるのが、“精神へのダイブ”がある。最初のダイブは重傷を負い今にも死にそうな男。彼の首には機械が取り付けられており、しゃべることができない。ダニエルは彼の体にあるインターフェイスに自分のコードを直結する。
そこから展開するのはグロテスクでめまいがしそうなイメージの氾濫だ。「>observer_」における“サイコダイブ”は、不定形で、支離滅裂で、不明瞭だ。プレーヤーの前に提示されるのははっきりした記憶や、直接的なヒントではなく、抽象画の絵のような、そして恐ろしい“イメージ”なのである。
ダニエルがダイブした男は元囚人であり、悲惨な人生を送るところを女性と出会い救われたようだ。しかしプレーヤーがそれを認識するまで、明滅するオブジェクトや、悲鳴が繰り返される床、何度も同じ場所を繰り返す路地などを越えていくこととなる。
ゲームとして必要な情報を提示し、ストーリーを前に進めるという要素よりも、「人の精神を描く」、「混乱した人の心による歪んだ感情や記憶を視覚化する」というところに情熱が置かれており、プレイしていく内にその狂気に満ちた心象風景がプレーヤーの心そのものが侵されていくような感覚に囚われる。「狂気の深淵」をのぞき込むようなゲームと言える。
「>observer_」はこのように様々な人の精神にダイブしていくゲームだ。ある女性の心はきわめて排他的で、その精神世界では突風が吹き荒れており、プレーヤーは一定時間で押し戻されるフィールドをじりじりと進んでいきメカニクスを作動して突破していくこととなる。イメージを優先するあまりちょっと操作性に難があるなどインディーゲームらしいセンス優先なところも感じた。
ゲームのヒントは少なく、試行錯誤や探索に時間を掛けるゲーム性である。探索がうまくいったときの喜びは大きい。腰を落ち着け、この世界と、クリエイターのセンスにどっぷりつかるのが楽しいゲームである。この精神世界の描写は怖く、不気味で、実際に正気を侵されるような危険な感じがあるが、魅力的で、圧倒される。
頽廃的な未来世界は閉塞感があるし、インターフォン越しに会話する他のアパートの住人は全員が正気を疑うような受け答えばかり。なにより根幹の殺人事件も非常に危険な予感がする。この恐怖に満ちた物語がどんな展開を見せていくかとても気になるところだ。
そしてやっぱり感じるのは「日本語字幕が欲しい」というところだ。話の流れはわかるのだが、筆者のように英語が苦手だと、会話中心に展開する本作のようなタイプのゲームは細かい部分で“物語とのフィット感”が得られなくなってしまうのは、やはり寂しい。日本語化は、実は本作は発売前には対応がアナウンスされていたのだが、ローンチ直前にその表記が削除されてしまったのである。
Steamのコミュニティではこの件に対してユーザーが質問しており、開発者が「後日他言語と共に対応予定だ」と答えている。ちょっと時間はかかってしまうかもしれないが、日本語字幕には大いに期待したい。
サイバーパンクという世界観は非常に魅力がある。「>observer_」はここに“精神世界と狂気の描写”という強烈なイメージを盛り込んだインパクトの強い作品である。アーティスティックな作品に触れたい、“最先端”を体験したいという濃いゲームファンに特にオススメである。ゲームは映画やコミックスとは一味違う“物語体験”をもたらしてくれるメディアである。ぜひ「他人の精神世界を旅する」この経験を味わって欲しい。