「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」レビュー

ZERO ESCAPE 刻のジレンマ

極限の状況と決断、追い詰められた人間を描くアドベンチャー

ジャンル:
  • アドベンチャー
発売元:
  • スパイク・チュンソフト
開発元:
  • スパイク・チュンソフト
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
3,800円(税別)
発売日:
2017年8月17日

 国内から海外まで、コアなゲームファンから高い評価を得ている「極限脱出」シリーズ。その完結編「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」がPS4で発売された。過去にPS Vita、3DSで発売されたものと内容は同じだが、PS4版ではグラフィックスが向上し、影の明暗などがクッキリついて格段に綺麗になっている。

 本作は、謎の人物「ゼロ」によって地下シェルターに閉じ込められた9人の男女が地上への脱出を図る謎解きアドベンチャーだ。これだけ聞くと仲間と力を合わせて進む王道の脱出ゲームのように聞こえるが、このゲームはそんな温い作品じゃあない。

 地下シェルターに閉じ込めたゼロは、主人公たちに「Decisionゲーム」というデスゲームへの参加を強いる。これが本当にイカれてるサイコなルールなのだ。地下シェルターの出口は、ぶ厚い鉄の扉で閉鎖されている。この扉を開くには6つのパスワードが必要になる。そのパスワードを手に入れる方法……それは、“ゲーム参加者の1人が死ぬこと”でパスワードが1つ発行されるというのだ。すなわち6人の犠牲者が出ない限り一生地上に出ることは不可能という狂気のゲームなのである!

 参加者以外は誰もいない、無機質な閉鎖空間での極限状態。死と隣り合わせの焦りや不安、誰も信じられず皆が皆疑心暗鬼なっていく様、追い詰められた人間の醜い部分などを痛々しいほどリアルに描いた作品なのだ。プレイ中は常にモヤモヤしっぱなしだが、だけど引き込まれてしまう! そんな本作の背徳的な魅力を極力ネタバレを避けつつ語りたいと思う。……とはいえ、かなりのネタバレがこの記事には含まれている。どうしてもネタバレしたくないという方はご注意いただきたい。

【ZERO ESCAPE PS4版プロモーショントレーラー】

目的は何なのか……主人公たちは不条理なデスゲームに巻き込まれる

 「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」ゲームとしての流れは「シネマパート」「クエストパート」「ディシジョンパート」の3つで構成されている。この3つのパートを繰り返して物語が進行していく。

9人を監禁した張本人ゼロ。音声も加工されていて素性は一切不明
デスゲームを終わらせる最低条件は6人の死。仲間の死を避けて通れない
自由な時間は限られており、活動から90分経つと薬によって意識と記憶を失ってしまう

 シネマパートではDecisionゲームに巻き込まれた9人のサバイバルドラマが繰り広げられる。前作まではテキストを読み進めるオーソドックスなアドベンチャーゲームの形式だったのだが、今作ではストーリー演出がパワーアップし、フルボイスのイベントムービーでストーリーがノンストップで進んでいく。立ち絵ではなく、キャラクターに動きがあることで、その臨場感はまるで映画や海外ドラマを見ているような感覚に近い。テキストを読むタイプが苦手な人も安心な作りだ。

 シネマパートの合間に入る、極限脱出シリーズの要であるクエストパート。カーソルを自由に動かしてシェルター内の施設や部屋を探索して仕掛けや謎を解いていく。探索範囲は基本ひとつの部屋の中だけなので、謎解きゲーム特有のいろんな部屋をグルグル探索して回るという面倒臭さは皆無だ。怪しい所があったら手当たり次第に調べていけば、謎を解くためのヒントやアイテムが手に入る。

 暗号の解読はもちろん、発見したアイテムを特定の場所で使ったり、アイテム同士を組み合わせたりなど、仕掛けを解くにはとにかく柔軟な発想力が必要となる。筆者は正直、頭を使うのは苦手だ。今回のレビューで、最初の謎解きから進まなかったらシャレ(仕事)にならんという不安も少しあった。しかし、歯ごたえのある難易度ながら、謎解きの解答を間違えるたびに仲間からヒントがもらえる。この救済処置のおかげで頭の柔軟さに欠ける筆者も時間をかければクリアできるバランス調整がされている。

 そして今作でもっとも問題のディシジョンパート。その名の通り、ここではプレーヤーに究極の決断を迫られる。閉じ込められた部屋にある怪しいボタンを押すか、押さないか。自分に死が迫るとき、仲間を犠牲にして生を取るのか……など、どの決断も正解、不正解と単純に割り切れない選択ばかり。この選択はゲームの流れに大きく影響する。決断によって物語が変わるのはもちろん、誰が死んで誰が生き残るかなども変わってくる。先にも述べた、プレイ中にモヤモヤする理由はまさにこのパートが原因だ。

 Decisionゲームの首謀者ゼロは主人公たちに「人類の存亡をかけて、Decisionゲームをしてもらう」と言う。正直意味がわからない。唐突に拉致監禁して仲間同士の殺し合いをさせるのを人類存亡のためだというのだ。犯人の目的も全く見えないままゲームがスタートする。

 ルールは3人1組みで3つのチームに分かれ、チームごとに別々の閉鎖区画でDecisionゲームが行なわれる。各チームのリーダー3人が本作の主人公。Cチームのリーダー「カルロス」は正義感が強い消防士の青年。いままで人の死を見てきていて、命の重さを誰よりも理解している。Dチームのリーダー「ダイアナ」は平和主義者で温厚な性格の看護師。一見どこにでもいるような少女なのだが、どこか影がある印象も。

 最後にQチームのリーダーは「Q」という記憶喪失の少年。頭に奇妙な球体のようなヘルメットを被っていて見た目は不気味だが、心優しい性格の持ち主。この3人の主人公を軸に、チームごとの3つの脱出物語進めていくのだ。どのチームのストーリーからでも始められて、基本どのタイミングでもストーリーを切り替えられるのでそこまで慎重に選ぶ必要はない。

 Decisionゲーム参加者は腕にはバングルが装着されており、90分間ごとに睡眠薬と記憶消去薬が体内に注入される仕組みになっている。最初はこの恐ろしさにピンと来ず、「へぇ~そうなんだ」と軽く流していた筆者だったが、物語が進むことで、「睡眠薬によっての意識の消失」と「記憶消去薬で生まれる空白の時間」の恐怖を知ることとなった。その話は後の方で語りたいと思う。

 90分間ごとに記憶が無くなるという設定は物語を盛り上げるとても良い要素だと思う。そして筆者が唸らされたポイントは、ゲームのシステム上でもこの要素がうまく落とし込められていたところだ。ストーリーはチームごとにある複数の「物語の断片」の中から好きなエピソードを選んでゲームを進めていくのだが、これがどのエピソードがどの時系列かがわからないのだ。

 13時半の記憶が最後で目を覚ましたときが0時だったとき、それは10時間近く眠っていたのか……それとも記憶を失っているだけで実は何度も活動しており、その間に幾度となく命のやり取りがあったのかもしれない……。だが、それはキャラクターにもプレーヤーにもわからない。全ての物語を紐解いていくことで、ようやく物語の断片が繋がり、物語の全貌が見えてくる作りになっている。物語が繋がった瞬間、ここで眠らされる前にこんな事が起きていたのか! と驚かされる場面もあった。

【スクリーンショット】
シネマパートでは操作は一切不要。ストーリーだけに集中できる作りになっているのはさすが
クエストパートでの仕掛けは、どれも歯ごたえのあるものばかり。謎が解けたときの達成感は大きい

目を背けたくなるような展開。デスゲームの先にあるものとは!?

 本作をプレイしていて1番面白いと感じたのはディシジョンパートだ。頭を悩ませながら謎を解いていくクエストパートももちろん面白いのだが、それを上回るほどにストーリーがとにかく面白すぎるのだ。プレイしている間は先の展開が早く見たくてしょうがない衝動に常に駆られていた。謎解きゲームでこう言うのもなんだが、個人的にはもう少し謎解きの難易度が簡単でサクサク進んでもいいんじゃないかとも思った。

カルロスは、病気の妹の為にも必ず生きて帰るという強い意志を持っている
犠牲者を出さない事を常に考える、Dチームのリーダー、ダイアナ
記憶喪失の為、自分の名前すらも分からないQ。その怪しさから犯人と疑われたりもする

 ディシジョンパートに話を戻そう。先にも述べたようにこのパートでは究極の選択を迫られる。選択の中にはプレーヤーの人間性が垣間見えるような非道徳的な選択も数多くある。人によってはゲームの中だろうと酷いことはできないという人もいるだろうが、自分は“ゲームの中だからこそ”しがらみに囚われず道理に反した選択や行動をしたくなるタイプなのだ。「グランド・セフト・オート(GTA)」シリーズでいうならば、ゲーム的には街の住人や警察官に殴りかかっても1つもメリットは無く、むしろデメリットの方が多いくらいなのだがどうしてもやりたくなってしまう。火炎瓶でパトカーを爆破してやりたくなる。……一応言っておくがゲームの中の話だ。

 選んだ決断によっては凄惨な最後を迎える場面もたくさんある。コンシューマのゲームでよくここまでのグロテスク表現ができたなと感心させられた。「うわぁこれは酷い……」と思いつつも事細かく描写された処刑シーンはつい見入てしまう。ホラー映画を怖いと思いながらも夢中になってしまうのと同じ心理だ。

 ディシジョンパートの魅力は、なにも(いい意味で)胸糞が悪くなるだけじゃあない。選択次第でその後のストーリー展開が変化するのが面白い。それも3つのチームの選択がそれぞれ複雑に絡み合い、他のチームに様々な影響を及ぼすという演出は同社のサウンドノベル「街」や「428」を彷彿とさせる。

 物語冒頭のディシジョンパートでは、3つのチームの中で消えてもらいたいチームに投票をするという狂ったデスゲームを強いられる。2票集まったチームは処刑。無投票の場合は自チームが処刑という恐ろしいルール。投票をしないという平和的な選択肢を真っ先に潰しにきている。

 3チームともバラバラの区画ごとに閉じ込められており、相談するのは不可能。通気口だけが各区画を繋いでいるが、それも人が通れる大きさではない。そこでCチームの区画にいた小型犬を見て、リーダーのカルロスが閃いた。どのチームがどこに投票するかの指示書を持たせて通気口から各区画を回らせる。これで全てのチームに情報を行き届ける事ができる。

 このゲームは票が2票入ってしまうと処刑が決定してしまう。逆をいえば2票集まらなければ処刑は執行されないのだ。そこでこの投票の指示が伝われば票を分散させることができ、死亡者を出すことなくこのゲームを突破できるのだ。

 だが、この極限状態だ。その投票の指示が伝わっても、これは自分のチームだけが必ず助かるように計算された罠なのではないのかと疑惑を持つチームも出てくる。作中ではキャラクターたちは疑心暗鬼になっているのだが、決断をするのはプレーヤーだ。票を分散するように投票すれば誰も被害者は出ずに済む。済むのだが……。

 筆者はプレイしていてキャラクターに感情移入してしまう方で、死が目前まで迫り来るという演出の見せ方やベテラン声優による鬼気迫る演技力により、物語に入り込んでいた。仲間とはいえほぼ赤の他人の集まりだ。筆者がもしこの状態だったら、やはり信用する事はできない。誰かを犠牲にしてでも死にたくないと思った。Dチームの投票の番。この局面は、別チームのどちらかが投票の指示に反していたらDチームが処刑となってしまう危険な場面。紙に書かれていた指示はQチームへの投票。たとえ罠であろうとなかろうと、どっちに転んでも自分だけは確実に生き残れる選択、Cチームに投票してしまった。

 投票を終えると、睡眠薬と記憶消去薬が投与される時間となった。シェルター内に響くゼロからのアナウンスで、今回は記憶消去薬を無しにするという。自分たちの投票が3人の人間を殺したという事を忘れさせない為なのだと。このゼロという男、素性や目的は不明だがただ確かにわかる事は、人の苦しむポイントを知り尽くしている狂った人間という事だ。

 各チームが目を覚ますと、シェルター内に無機質な機械音のアナウンスが流れ、Cチームの処刑が決定した事を告げる。ネタバレの為、処刑内容は割愛するが、執行後、3人の死亡により脱出するために必要なパスワードが3つ発行された。脱出には近づいたものの、当然喜べる訳もなく、生き残ったチームは自分たちが本当に死と隣り合わせにいるのだと嫌でも思い知ることになった。

 本作は1度見たシーンならどこにでも飛ぶことができる。この後筆者は、投票前のシーンに戻り、票が分散するようにやり直した。何でわざわざやり直したのかはうまく説明できないが、とにかくモヤモヤしたのだ。処刑シーンのあまりにもの惨たらしさに何か心に訴えるものがあったのかもしれない。投票後の全員生還したシーンを見てどこかホッとした。何故か救われた気になった。

【スクリーンショット】
Cチームが票を分散させる案を提案するも、他のチームはやはり素直に信じられない。極限状態が生む疑心暗鬼
ディシジョンパートでの処刑シーンはどれも惨たらしいものばかり。ベテラン声優の真に迫った演技も相まって絶望感が半端ではない

極限状態における人間のリアルな心理。その果てに待つ惨劇

 物語中盤、もっとも衝撃を受けたシーンがある。いつものように睡眠薬の眠りから目を覚ますところから始まる。記憶も抜けていて、今まで倒れていた場所すらもどこだかわからない状態で行動がスタートするのだが、今回ばかりはいつもと少し様子が違かった。

3人同時に薬で眠らされたはずなのに、何故1人の姿が見当たらないのか……
先が気になるところで入るクエストパート。キャラクターの心理と同じく、もどかしい気持ちになる
Cチームのメンバーしかいない密室で、何故こんな惨劇が起こったのか……

 Cチームのメンバーが目を覚ますと、メンバーのひとりである「淳平」の姿が見えない。もうひとりのメンバーで淳平の恋人である「茜」も当然淳平がいないこの状況に不安が募る。

 他の場所も探そうとするも、今自分たちがいる食料庫らしき部屋は密室状態。閉じ込められているのだった。ここでクエストパートに突入する。先が気になるところで来るのがクエストパートなのだ。逸る気持ちを抑えて、1時間程掛かったがなんとか謎を解く事に成功した。

 ロックを解除し、閉まっていた冷凍庫の中に入ると……地面は血で赤く染まっていて、棚の方に目を向けると、そこには先ほどから姿が見えなかった淳平の首が……。この展開には筆者も、うわぁ……と声が漏れた。

 一体誰がこんな事を……。この区画にはもとより3人しかいないのだ。他の区画の人間は来ることはできない状況。そこから結びつくのは、カルロスは茜の事を、茜はカルロスの事を互いに“こいつが淳平を殺したんじゃないのか”という疑いが生まれる。その瞬間、疑惑は恐怖と殺意に変わった。

 茜は錯乱し「あなたが淳平くんを殺した!!」と近くにあったチェーンソーを手に取り、カルロスに襲いかかる。カルロスも近くにあった斧を握り、茜と対峙する。冷静になるよう茜をなだめるも、恋人の凄惨な死を目の当たりにして冷静になれるはずもない。

 力では男のカルロスに勝てないのは明白。茜は部屋を飛び出し、しばらくすると部屋の電気が消え、辺りが闇に包まれる。茜はブレイカーを落として、闇の中からカルロスを襲って殺す気なのだ。

 視界は効かず、いつどこから襲って来るのかが分からない恐怖。そんな状況下の中でもカルロスは冷静に、淳平を殺した犯人は実際に誰なのかを考える。

 ここでディシジョンパートに突入する。先ほどの投票とは違い、今回の決断は犯人の名前を入力しなければならない。カルロスの中にある疑問。それは恋人の淳平を殺す理由が茜にあるのか? もしかすると記憶消去薬で忘れているだけで、自分が殺してしまったのではないかという疑惑も生まれてくる。これが先に述べた、記憶消去薬によって生まれる空白の時間の恐怖なのだ。

 この葛藤の中で、犯人と思う人物の名前を入力するのだ。誰の名前を入力するかで当然この後の展開が変化する。一体何が正しいのか……この選択の後に待つ結末とは!? この先の展開は是非自分で確認してもらいたい。これ以上は筆者からはもう何も言えない。

 今回「ZERO ESCAPE 刻のジレンマ」をプレイして思ったのは、とにかくストーリーの引き込む力が半端じゃあない。こちらの予想を超えるような残虐なデスゲームの数々、そしてそのゲームで誰が脱落していくのか……そして誰がこの地獄から抜け出せるのか、最初から最後まで先の読めない展開が続いていく。スプラッター表現が少々強めだが、それが苦手じゃなければこの極上なデスゲームを全力でオススメしたい。今回は時間を忘れて素でゲームを楽しんでいた。夜に始めて、外が明るくなるまでプレイしてしまうのなんて実にいつ振りだろうか。

 本作はエンディングも複数用意されており、遊びごたえ十分なボリューム。ひとつのエンディングを見ただけじゃあ全ての謎は明らかにならない。隅から隅まで遊び尽くして初めて、ゼロの目的やこの不条理なDecisionゲームの真の意味を知る事になる。

 「極限脱出」シリーズの3作目ではあるが、本作から入っても作品単体として十分楽しめる作りになっている。一部、前作などをプレイしていないと理解できない部分もあるので、それら全てを理解して本作を120%楽しみたいのなら前2作をプレイをオススメする。本作に登場した一部のキャラクターは過去作にも登場しているので、プレイしておけばニヤリとできること間違いなしだ。

 筆者もシリーズ2作目の「極限脱出ADV 善人シボウデス」は未プレイなので、この機会にプレイして、極限脱出シリーズを完全に完結させたいと思う。

【スクリーンショット】
淳平を殺されたと思った茜は、カルロスに武器を向ける。記憶の消去により、誰が犯人なのかわかる術はない。例え自分が犯人だとしても