2017年6月9日 12:00
「TOKYO 42」は奇妙で、魅力的なアクションアドベンチャーだ。まずその見た目が良い。シンプルなポリゴンで表現されたような街、しかも地名は「TOKYO」だ。「ブレードランナー」の日本要素たっぷりなロサンゼルスや、「ニューロマンサー」のチバ・シティ、そしてそういったセンスを逆輸入させたと言える「攻殻機動隊」の福岡市など、“奇妙な日本センスを取り入れた未来都市”という、サイバーパンク風のイカした舞台となっているのだ。
筆者はSteamの新作で本作のPVを見てその世界観が気に入り、発売を心待ちにしていた。そして展開するユニークでありながら殺伐とした物語とゲーム性にのめり込んだ。難易度は高く、ゲームとして荒削りな部分もあるが、そこもまた8bit・16bitゲームへのリスペクトを感じさせる。低価格でもあるし、気になった人はぜひチャレンジして貰いたい。本稿ではゲームのシステムと、魅力を語っていきたい。
人が死なない街で起きた殺人。真実を見つけるために、暗殺者となる!
「TOKYO 42」の世界、2042年のTOKYO(東京)では、人は死なないようになった。奇跡の薬「NanoMed」により、人は殺されても光と共に復活するのだ。主人公の青年はある日、その世界において「殺人犯」として指名手配されてしまう。誰も死ななくなった世界において人を殺した者、世界を揺るがす大犯罪だ。警官が彼のアパートを強襲する中、主人公は相棒の「ティコ」と共に逃げ出す。
ティコは言う。「おまえは誰かにはめられたんだ。謎を解き明かすには……おまえは暗殺者になって裏世界で名声を得て上りつめるしかない!」。こうして主人公は、暗殺者になるのである。
ツッコミどころ満載のストーリーだが、ゲームとしてのユニークさ、謎の顔役「ニューババア」や、ドジで間抜けな同業者「バート」といったキャラクター達と出会い、なにより奇妙なTOKYOを歩いていると細かいことはどうでも良くなってくる。
クオータービューで描かれるシンプルなポリゴンとドット絵(に見える)フィールドは、独特で、美しい。巨大な招き猫や、薬のカプセル型のネオン、日本風だか中国風だかよくわからない建物、意味がわかるようでわからない日本語の看板……この奇妙な風景は、歩いているだけで楽しい。
キャラクターは“棒人間”のようなシンプルなグラフィックスなのだが、パンク風や、全身タイツなど、かなり強烈な印象をもたらす。主人公は、コートや武器のスキンをカスタマイズできる。プレイを進めるほど、開発者のセンスにニヤリとさせられてしまう。
プレーヤーは“暗殺の仕事”を請け負っていく。本作はステルス要素が強く、敵に見つかるとわらわらと敵が集まりまるで弾幕シューティングのように弾を撃たれて倒されてしまう。本作のバランスは非常にシビアで、ばらまかれる弾の1つでも当たってしまうとミッションリスタートとなる。
敵の視界に入らないようにしゃがみ、敵の巡回ルートを冷静に観察、音の立たない近接武器で敵を撃破していくのがクリアへの近道となる。フィールドを歩き回り最適な侵入経路を探すのも良いし、時にはマシンガンを乱射しながら突っ込むのもクリアの近道になる場合もある。正解は1つではなく、プレーヤーの幅広いアプローチを可能にしている。
面白いのが“変装システム”。薬の作用を使ったものか、主人公はボタン1つで全く別の人間に姿を変えることができる。敵に追われているとき、敵の視線をかわした時点で姿を変えれば、もう敵から逃れられるのだ。
敵のど真ん中に殴り込みマシンガンを連射、その後すぐに逃げ出し姿を変えれば、追っかけてきた敵は元の位置に戻っていく。このときに他の敵に気づかれないように近接武器で仕留めていけばだいぶ数を減らせる。
とはいえ、本作はかなり難しい。受けられる仕事にはかなりの練習や、強力な武器がなくてはクリアできないものも多い。ムキになって挑戦を繰り返すのではなく、あえて後回しにすることも大事だ。ミッションだけでなく、周りを歩き回り、行動範囲を増やしたり、隠しアイテムを探すのも楽しい。自分なりのペースで楽しんでいくゲームである。
奇妙な街を歩き、ルールを覚え、強さを身につけろ!
くり返しになるが本作は結構難易度が高い。何より敵の弾に当たると1発死だ。弾幕シューティングのような量で、弾の速度も速く、まともに撃ち合うと勝てない場合も多い。ではどうやると勝てるか? というところに頭をひねるのが本作の面白さだ。
敵の行動はパターン化しており、観察することで巡回ルートがわかる。敵が背後を向いているときは手榴弾が飛んできても気が付かない。また、地形の高低差を考えて、向こうの弾が届かない方向に移動しながら撃つのも有効だ。何度も死にながら戦い方を覚えていく。
もちろん正面切って戦うのだけが本作の戦略ではない。ビルの出っ張りを移動し裏に回り込むと忍び込める道があったりもするし、スナイパーライフルで敵を仕留めることもできる。“変装”を活用し敵をおびき寄せて分断するのもアリだ。難易度が高いだけにうまくいったときは爽快だ。
双眼鏡で周囲を探索し、敵を探し出すミッションもあるし、バラバラの方向に逃げる敵をスナイパーライフルで追うミッションもある。スナイパーライフルは遠距離まで飛ぶが弾の目標への到着には時間がかかるので、その時間を考慮して狙わなくてはならない。
そして「バイク」もある。街中をバイクで爆走し制限時間内にチェックポイントを通過したり、ターゲットと戦わなくてはいけない。バイクは移動が速いため、頻繁に視点を動かさなくてはキャラクターがすぐに建物の影に入ってしまう。さらにバイクのレースまであるのだ。
今後もどんどん要素が増えそうなのだが、現状はバイクの操作に手こずってしまいミッションがうまくクリアできず、今は足踏みしている現状がある。敵も妙に強くなっているし、ここはサブミッションをクリアして武器を揃えたり、探索に注力すべきかもしれない。
本作のフィールドは探索していくことで新たな地域がアンロックされ、いつでもテレポート可能になる。しかしフィールドはギャング達の支配地域で分断されており、行動範囲を広げるためにはこの地域に入り込み、抜けなくてはならない。面白いのはニューババア。顔がモニターになっている謎のエージェントがそこかしこにいて、ギャングの殲滅を依頼してくるのだ。TOKYOでの争乱を引き起こそうとするこの老婆の真の狙いは何か、興味が惹かれる。
新しいコートや、猫のエンブレムなど収集アイテムは様々な地形に置かれている。一見とれなそうだが、周りを探索することで到達する道が見えてくる場合もある。異なる場所を繋ぐ扉や、主人公を高く打ち出す場所などもある。主人公はどんなに高いところから落ちても足場があればノーダメージなので、時には高いところから飛び下りるのも活路を見出すポイントとなる。探索も楽しいゲームである。
「TOKYO 42」はカジュアルに楽しめるアクションゲームである。暗殺がテーマの所や、変装できるところは「ヒットマン」ぽい所もある。そしてなにより、サイバーでレトロさもあるTOKYOがいい。ドット絵風のグラフィックスも楽しいし、オシャレだ。難易度の高さも昔のゲームを思わせるところがあるし、ファミコン/スーパーファミコン時代のゲームへのリスペクトも感じさせる。まさにインディーゲームらしい、トンがったセンスのゲームである。気になった人はぜひチャレンジして欲しい。