ニュース

【特別企画】昔も今もPCゲームが大好き! ポーランドゲームショップレポート

「劇場版は神作品」という謎のポーランド人にお国のゲーム事情を聞いた

2016年4月取材

 去る4月、ポーランドの首都ワルシャワで行なわれた「World of Tanks」の世界大会「World of Tanks Grand Finals 2016」の翌日、ゲームショップを求めてワルシャワの街を歩いてみた。

ワルシャワは、世界遺産の旧市街を中心に観光で賑わう
再登場のオペちゃん。驚くほどのゲーマーだった

 振り返れば今年のGDCのAnnual Game Developers Choice AwardsのGame of The Yearは、大本命の「The Witcher 3」(CD Projekt RED)が獲得し、ポーランドのゲーム開発が名実共に世界の頂点に達した。

 ポーランドのゲームが脚光を浴びはじめたのはここ数年の話だが、PCゲーム界では昔からダークホース的な存在で、「Earth」シリーズ(TopWare Interactive)や「Painkiller」(People Can Fly)、「Two Worlds」(Reality Pump Studios)といった東欧ならではの個性的なゲームを発信し、世界のPCゲームファンを楽しませてくれた。

 今も昔も名のあるデベロッパーの数はそれほど多くないものの、現在では「The Witcher」シリーズを筆頭に、「Dying Light」(Techland)や「BULLETSTORM」(People Can Fly)、そしてもはやインディの枠を超えてメジャーデビューを果たしている「This War of Mine」など、ポーランドぬきに世界のゲームトレンドは語れないと言えるぐらい優れたゲーム開発国のひとつになっている。

 コンソールゲーム黎明期の20年前、任天堂を皮切りに世界のゲームプラットフォーマーがグローバル展開する中でドイツから東はPCゲームしか売れない“PCゲームの牙城”と言われていた。それがゲームビジネスの何回かの世代交代を経て今どうなっているのか。今回、ゲームショップを通じて探ってみたいと思ったのだ。

 なお、ポーランド軍事技術博物館レポートでも登場いただいた、日本では“ポーランド最強のガルパンおじさん”として知られるオペちゃんは、実は大のゲーマーでもある。レポート後半では、ポーランド人ゲーマーとしてポーランドのゲーム事情を取材したのでそちらも併せてお届けしたい。

【ショッピングモールZlote Terasy】
Zlote Terasyはワルシャワ最大規模のショッピングモール。光をたっぷり取り入れた独創的なデザインが特徴で、平日から多くの客で賑わっている

ゲームショップのPCとコンソールの価格差に衝撃

ヨーロッパを中心に展開している家電量販店SATURN
広々とした店内には各種家電に加えて、大量のゲーム/映像コンテンツを扱っている
この一列すべてPCゲーム。日本ではもちろん、北米でもなかなか見られない光景だ
ワゴンセールもある。すべて新品だが1枚約200円
2014年に世界にその名を轟かせたポーランドタイトル「This War of Mine」のパッケージ版

 PCゲームが強いというと、かつて日本の秋葉原に存在していたOVERTOPやPC.CHAOSのようなディープなPCゲームショップが街の大通り沿いにゴロゴロあるようなイメージを持っていたが、結論から書くとまったくなかった。

 かろうじて冒頭で紹介したショッピングモールZlote Terasyに1店舗だけ中古ソフトをメインにしたコンソールゲームショップがあったぐらいで、オペちゃんによれば、今のゲーマーはPCからSteamをはじめとしたダウンロードサービスを利用してゲームを購入しているため、ゲームショップの必要がないという。日本でもPCゲーム専門店はすべて姿を消している。当時と今とではPCゲームの流通が根本的に変化してしまっている。考えて見れば当たり前の話である。

 今回、ゲームを扱う店舗の中で最大規模だったのが家電量販店SATURNだ。PS4からPCまでハード、ソフトを問わず、ヨドバシカメラやビックカメラのような規模感でたっぷりゲームを置いている。ただし、Wii Uやニンテンドー3DSはほとんど置いておらず、かなりコア寄りの品揃えだ。

 日本で同じ規模感で展開しているゲームショップというと、ヨドバシカメラやビックカメラなどの家電量販店ぐらいで、欧米ではほとんど見当たらなくなってきているためすっかり嬉しくなってしまった。なおかつ、この店ではコンソールゲームに勝るとも劣らない規模でPCゲームが並んでいる。この光景はひょっとしたら世界唯一かもしれない。

 並べられているゲームをつらつら観察していて気付いたのは、同じタイトルでもPCゲームとコンソールゲームで値段が全然違うことだ。コンソールゲームは世界共通の値段が付けられているが、PCゲームはその半額ぐらいで売られている。もちろん中古やバリューパッケージではなく新製品の話で、PCゲームは昔ながらの価格設定のまま販売されているという印象で、これではさすがにコンソールゲームは勝負のしようがなく、バリューパッケージでようやく張り合える価格設定だ。東欧圏がPCゲームが強いと言われる謎の半分ぐらいが解けた気がする。

 コンソールゲームについても、PS4やXbox Oneの取扱もあったものの、PS3やXbox 360などの旧世代がメインだった。オペちゃんによれば、PS4やXbox Oneは単純に価格が高いため手が出しにくいという事と、旧世代のマシンでも良いゲームがたくさんあるため、安く入手できて大量のゲームが用意されている旧世代が人気なのだという。日本のゲーマーは、新作ゲームを遊ぶということに大きな価値を置いているが、ポーランドのゲーマーはそこにあまり価値を置いていないようだ。

 PS3やXbox 360の売り場は、大量のタイトルが取りそろえられ、ゲーム本体も日本や欧米では見たことのないようなバンドルパッケージや本体のみのスターターパッケージなどを豊富に取り揃えており、旧世代機が全盛だった数年前にタイムスリップしたかのような勢いを感じさせた。

 ローカライズについてはポーランド語にローカライズされたタイトルはほとんどなく、多くは英語版が遊ばれている。もちろん「The Witcher 3」や「This War of Mine」のような自国のタイトルはポーランド語版が存在し、さらにロシア語版もファーストパーティータイトルを中心にいくつか確認することができた。ただ、オペちゃんによれば、ポーランドのゲームファンは英語版をプレイすることに慣れており、多くは英語を理解できるため、英語版だけでも特に不都合はないようだ。このあたりは日本とはかなり感覚の異なる部分だ。

【コンソールとPCで価格が大幅に違う】
「ストリートファイターV」が、PS4版は約6,700円なのに対して、PC版は3,700円。一例として「SFV」を出しているが、PC版も存在するゲームは基本的にすべてPC版が安くなっている

【ローカライズ】
「BEYOND: Two Souls」は英語版に加えて、ロシア語版が用意されていた
ポーランドが誇りとする「The Witcher 3」にはもちろんポーランド語版が存在する
ポーランド語ローカライズにもっとも積極的なのはSIEEのようだ

【ショップはPS4/Xbox Oneを売りたいが……】
ゲームソフト売り場の手前には、ゲームコンソールのシマが作られ、最新機を積極的にアピール。しかし旧モデルとは倍以上の価格差があり、なかなか手を出せないのが現状だ。少しでも安く見せるために、現地大手キャリアORANGEとの契約で1,000ズロチオフ(約27,000円)をアピールしているが、実際は約47,000円と日本より高い

【すこぶる元気なPS3/Xbox 360たち】
日本や欧米では、PS3/Xbox 360からPS4/Xbox Oneへの世代交代が完了しつつあるが、こちらではPS3/Xbox 360がまだまだ現役。まだ数年は現役を続けそうだ

 次に冒頭でも紹介したコンソールゲーム専門のショップにも足を運んでみた。こちらはWii Uやニンテンドー3DSなど、任天堂プラットフォームの取扱が多く、狭い店舗には似つかわしいフルサイズのWii U試遊台も置かれている。

 取り扱っているソフトは、6:4で中古が多く、先述したようにPS3やXbox 360のソフトが多い。任天堂タイトルについては、amiiboと共に、数年前のタイトルが並ぶ。「Kung Fu Panda」や「LEGO ジュラシック・ワールド」、「THE SMURFES2」など新旧を問わず映画やアニメをモチーフにしたタイトルが目立つ。

【Games World】
Zlote Terasyに一件だけあったゲームショップ
任天堂タイトルが充実している
PSやXboxのタイトルも扱っているが中古が非常に多い

 もう一軒訪れたのはSATURNよりコンパクトな家電量販店「RTV EURO AGD」。規模は小さいながらもTVから髭剃りまで主要家電は一通りあり、その中にゲームも扱っていた。こちらの取扱も新旧世代が半分ずつぐらいで、店側は利益率の高い新型モデルを売りたいが、まだ旧型モデルの需要も高いので両方置かなければならないというジレンマに苦慮している様子が窺える。

 また、ここではPCのみならず、ゲーミングキーボードをはじめとしたPC用のゲーミングデバイスもメーカー別にずらりと置かれ、やはりPCゲームの需要が高い事を伺わせてくれた。

【RTV EURO AGD】
Zlote Terasyの地下にあったRTV EURO AGD。ゲーム本体から、周辺機器、ゲームソフトまで幅広く扱っている
ここでもPCゲームは圧倒的に安い。2014年に話題を集めたアクションRPG「Shadow of Mordor」は値下げして219ズロチ(約6,100円)もする。それに対してPCゲームの多くは100ズロチ(約2,700円)以下だから勝負になりにくいだろう
店の規模からすると異様なほどゲーミングデバイスの売り場が充実している。やはりe-Sportsの国という印象がする

【LEGOショップ】
ヨーロッパでは圧倒的に強いLEGO。ここワルシャワでも確認することができた

【GAMES WORKSHOP】
英国のミニチュアゲームメーカーGAMES WORKSHOPの店舗もあった

ポーランド人ゲーマーオペちゃんにポーランドゲーム事情を聞く

 ポーランドのゲームショップから、日本や欧米とは異なるポーランドの特異なゲーム事情が見えてきたが、それではなぜこれほどまでPCゲームの需要が高いのか、逆にコンソールゲームは盛り上がらないのか、ポーランドのゲーマーは何をどのように楽しんでいるのか。オペちゃんのゲーム遍歴を含めてインタビューしてきたので、以下、Q&A形式で紹介しよう。

ポーランド軍事技術博物館でボランティア活動をしているオペちゃん。本業はワルシャワ大学の学生。趣味は「ガルパン」と同人活動とゲーム
「The Witcher 3」が119ズロチ(約3,300円)で買える

――まず、オペちゃんのこれまでのゲーム遍歴を教えて下さい。

オペちゃん: 大半のポーランド人と同じくずっとPCで遊んでました。「Halo」、「Team Fortress 2」「Heroes of Might and Magic III」、「World of Tanks」、「World of Warcraft」、「War Thunder」と、あとは様々なミリタリーシム(「ArmA」、「IL-2 1946」)などがお気に入りでした。

 コンソールデビューは割と遅くて、高校1年生だった気がします。PCの「Halo」が大好きすぎてXbox 360で「Halo 3」や「Halo Reach」を絶対に遊びたくて貯金してXbox 360を買いました。その2年後にPS3を購入して日本のゲーム遊び始めて、同時期に日本語の勉強し始めました。「アイドルマスター」、「モンスターハンター」、「龍が如く」、「アーマード・コア」、「エースコンバット」、「DARK SOULS」や「Demon's Souls」が1番印象に残った。半分ぐらいが日本から輸入したゲームで、日本語勉強にとても役に立ちました。

――ポーランドで人気の高いゲームはなんですか?

オペちゃん: 「World of Tanks」、「Counter Strike」、「League of Legends」、「DotA」といったPCゲームはとてもメジャーです。ポーランドだとゲームはPCでやるものという文化が昔から強いです。

――ポーランドと日本のゲーム市場の違いは何だと思いますか?

オペちゃん: 日本人のゲーマーはほとんどコンソールゲーマーというイメージが強い。ポーランドだとPCゲームが一般的で、ゲームを買うのならSteam等のデジタルストアを使います。

――ゲームショップでは旧世代のPS3やXbox 360のゲームコンソールが現役だったが、PS3やXbox 360を遊ぶ理由は所得が低いためか、それとも何か別の理由があるのか?

オペちゃん: 新しいゲーム機を自由に買える人がドイツなどの外国と比べたら割と少なくて、みんな旧世代で遊んでる。良いゲームがいっぱい出てるし、ハードもソフトも値段が低いです。

――ゲームソフトは、コンソール(PS4/Xbox One)とPC版で値段が大きく違いますが、このことをポーランドのゲームファンはどう思っているのですか? また、上記のような価格差があるなかで、ゲームファンはどのような基準でゲームを購入しているのですか

オペちゃん: コンソールのソフトが高くて、そしてSteamのデジタル版はよくディスカウントしていて安くで購入できます。ポーランドの物価は、ヨーロッパ諸国と比較すると結構安いけど、ゲームはほとんど同じ値段なので、一般のポーランド人から見ると高く感じる。やっぱりコストが1番大事です。だからコンソールゲームなら中古ゲームを遊びますし、PCゲームならSteamで安く手に入れます。

――ゲームショップを見た限りではポーランドのゲーム市場はあまり盛り上がっていない印象を受けました。どうすればもっと盛り上がると思いますか?

オペちゃん: みんながSteamでデジタルダウンロードを利用していて、「WoT」、「LoL」、「CS」などはもはやスポーツ扱いで、何百時間も遊べるゲームなのでそこは仕方がないと思います。みんな新しいゲームを買うより、好きなゲームで課金して遊ぶのが一般的だからです。

――ローカライズについて、ポーランドのゲームファンは、日本のゲームファンのように、母国の言語、つまりポーランド語のゲームのみを遊ぶ傾向が強いのか、それとも英語やドイツ語を学習して外国語で遊ぶ人の方が多いのですか?

オペちゃん: ポーランドだと英語能力の平均は結構高いのでほとんどのゲーマーは英語版が問題なく遊べます。ローカライズなら字幕が1番人気があります。

――オペちゃんは日本のゲームも遊んでいるということですが、一般的なポーランドのゲームファンは日本のゲームに興味はあるのですか? もしあるならどういったゲームを遊びたいと考えていますか?

オペちゃん: 日本のゲームはポーランドでも普通に知られています。人気があるのは「MGS」シリーズや「DARK SOULS」シリーズ、「ファイナルファンタジー」シリーズなどです。そのほかのもっとディープな、日本語版しかないゲームはとてもマイナーです。問題なのは興味ある人の少なさと、言葉の壁、あと値段だと思う。

――ポーランドのゲームと言えば個人的には「This War of Mine」が印象に残っています。ポーランドは良質なゲームが多いと思います。

オペちゃん: 「This War of Mine」はPlayStation Networkで何度も見かけたけど遊んだことないですね。ポーランドのゲームなら古き良き「Painkiller」と「The Witcher」シリーズも忘れちゃいけないと思います!

「World of Tanks Grand Finals 2016」は、家族連れやカップルが参加して、みんなで「WoT」の観戦を愉しむ姿が見られる

――「World of Tanks Grand Finals 2016」がポーランドのワルシャワで3年連続で開催されていますが、このことについてどう思いますか?

オペちゃん: 「WoT」はもはやポーランドの“国技”になってるので仕方ないと思います。小学生からおっさんまでみんな遊んでます。ミリタリー的な趣味はポーランドでとてもメジャーです。

――「World of Tanks Grand Finals 2016」のような大規模なe-Sports大会は頻繁に開かれているのですか? またオペちゃんは特定のチームの応援に行ったりしますか?

オペちゃん: ポーランド人はスポーツ好きでこういう大会もとても流行ってるが、個人的にはe-sportsには興味がないです。友達と一緒に遊べれば充分です。

――オペちゃんは最近、PS4版の「World of Tanks」を遊んでいると伺ったが、PC版を止めてPS4版で再開した理由は?

オペちゃん: PC版とPS4版の「WoT」は少し違うゲームです。2年ぐらいずっと遊んでて結局飽きてしまった。ポーランドで小学生からみんなが「WoT」を遊んでるのでヨーロッパサーバーのチームがどんどん酷いことになってた。ゲームの後半だと課金しないとほとんど進めないところもある。やっぱりコンソール版だともっとリラックスしていて、カジュアルにいつでも遊べるからなかなか気に入った。PS4版のコミュニティーはもっと落ち着いてるという印象です。

オペちゃん: PC版「WoT」では「ガルパン」MODが公開されていますが、オペちゃんは「ガルパン」仕様で「WoT」を遊んだことはありますか?

オペちゃん: 劇場版が公開された後に公開されたMODはとても興味深くてインストールしました。そのMODのためだけにあと何時間も遊んだ。PS4版でガルパン関係なのはあんこうチームのIV号しかないのはちょっと残念です。ヨーロッパからだとPingの関係でアジアサーバーで遊べないので、日本のPC版「ガルパン」MODはとてもうらやましいです。

いよいよ日本で発売となった「ガールズ&パンツァー劇場版」。オペちゃんは、特装限定版を2つ買ったという

オペちゃん: 5月27日に劇場版「ガルパン」がリリースされるが、オペちゃんは買いますか?

オペちゃん: もちろん特装限定版で2枚予約済みです。1枚は使って、1枚は保存用。神作品なので。日本からポーランドまでESMで配送して貰うので、3,000円ぐらい追加で掛かります。高いですが、もう慣れました(笑)。

――ポーランドのガルパンおじさんとして、「ガルパン劇場版」には期待していますか?

オペちゃん: 圧倒的なボリュームでとても楽しみにしてます。相変わらず最高の「ガルパン」クオリティーを期待してます! ガルパンはいいぞ!

(中村聖司)