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【特集】ゲーム産業振興の超先進地域、バンクーバーの今 その2
内部・外部チームの高度な連携がゲーム開発を加速。大進化する外部委託メソッド
(2016/2/25 00:00)
本稿では前回に引き続き、ゲーム産業の振興に力を入れる世界でも有数の都市バンクーバーにおける、ゲーム産業の今についてご報告していこう。
バンクーバーはEAのお膝元ということもあり、大規模プロジェクトの外部委託受注を事業としてきた企業も少なくない。さらに近年では中国、ベトナム、インドネシア……といった東アジア地域の制作会社と協業することも多くなっている。そんな中、地元のゲーム開発者の中で熱いトピックとなっているのが、“External Development as an Extended Team”という考え方だ。
“External Development”というのは語義通り、日本語でいえば外部委託。物量が必要になる3Dモデルやアニメーションといったアートアセットの製作を外部の会社に発注するというのは日本国内でも珍しくないことだ。しかし、ゲーム開発の高度化・複雑化・大規模化がさらに進行していくなか、旧来の外部委託のありかたでは限界が来ているという認識が、バンクーバーのゲーム開発者たちの中にはある。外部の会社ともっと緊密に連携し、“Extended Team”、つまり開発チームの延長として一体化した開発体制を作ろう、という考え方が注目されてきているのだ。
まさにそのテーマを扱うイベントが、2015年9月にバンクーバーで開催されていた。それが、ゲーム開発者に向けて外部委託のありかたを考えるカンファレンス「External Development Summit」(外部開発サミット、XDS)である。本稿ではこのXDSの模様を枕に、現代的なゲーム開発とはどういうものかを見ていきたい。
単なる外部委託はもう古い? 内部・外部のチームが密接に連携した国際コラボレーションの時代へ
XDSは外部委託開発をテーマとしたカンファレンスで、EA内部のスタッフたちが発起人となり2014年から開催されている。現在では多数のゲーム企業やバンクーバー市による後援を受けており、その規模は急激に大きくなっていきているようだ。
2015年の開催では、外部委託の発注元となる企業としてEA、Microsoft Game Studios、Ubisoft、GREE、DeNA(バンクーバーにもスタジオがある)といった世界的ゲームパブリッシャーが揃い、その仕事を請ける側としては地元バンクーバー企業はもちろん、メキシコ、ブラジルといった米大陸エリアに加えて、中国(香港)、ベトナム、インドといった東アジア地域の制作会社も多数の出展やセッションを行なっていた。
EAのCOO、ピーター・ムーア氏を交えて開催されたトークセッションでは、まさに本稿の冒頭で述べたような問題意識が述べられていた。次世代機の登場の影響もあり、ゲーム開発はさらに高度化・複雑化しており、従来のように単なる発注元と下請けという構図の外部委託スタイルでは、できることに限界が来ているという認識だ。
例えば、背景使われるちょっとした3Dモデルでも、それが使われるシチュエーションやゲーム側のエンジン等の仕様、シーンを構成するその他の要素によって様々に要求が異なってくる。それを外部委託会社に丸投げするだけでは、納品物が必要なディティールを満たしていなかったり、必要以上に作りこまれていて無駄にマシンパワーを食ってしまったりなど、帯に短し襷に長しな問題を多数抱えるはめになる。
今度はそれを修正するために繰り返されるリテイクに外部委託会社が疲弊したり、内部チームのリソースが修正作業に取られてしまう、などの問題を引き起こしてしまうわけだ。キャラクターモデルなど、作品にとってより重要な部分を外部に任せるなら尚更である。
とはいえ、ゲームが大規模化するにつれて、重要な部分もアウトソースせざるをえないという現実が、上記のEAをはじめとする大手企業にはある。大量のコンテンツを、狙い通りの品質で、しかも一定のスケジュール(競合多社に遅れを取らない、ユーザーを余計に待たせない)で実現するにはどうすればよいのだろうか。
その端的な例が示されたうちのひとつが、EA Sportsブランドの「UFC」シリーズについてのセッションだ。シリーズ第2弾となる「UFC2」ではコンテンツ量が一気に4倍以上に膨れ上がり、キャラクターアニメーションという格闘ゲームでは非常に重要な部分の大半を、インドのTechnicolorという制作会社にアウトソースしている。コンテンツが4倍に増えるからといって、内部チームを4倍に増やすわけにはいかないからだ。
そういった要請があって自然と持ち上がってくるのが「外部会社のチームを、内部チームの延長として扱おう」という考え方だ。単に納品物の仕様を指定して丸投げするのではなく、開発環境を共有し(例えばゲーム本体のバージョン管理システムへのアクセスを与える等)、内部チームと同じくらい頻繁にミーティングをして意識を共有しながら、作品を作り上げていくというスタイルである。
「UFC」の例では、初代作ではモーションキャプチャーデータのクリーンアップ(生データ特有のノイズを取り除いてゲームで使えるデータにする作業)のみを外部委託に任せるスタイルをとっていたが、アニメーションの尺やつなぎを自然にする作業など、実際に製品に組み込むまでの様々な作業のうちかなりの部分を内部チームで行なっていたため、チームサイズや予算を増やさずに、それ以上コンテンツを増やすには限界が来ていた。そこで「UFC2」では、最終的な組み込み作業までのかなりの部分をアウトソースするという作戦をとった。
具体的には、EAの内部チームで選手を使ったモーションキャプチャーを行ない、キャプチャーデータのクリンナップ、アニメーション間のつなぎの調整、それぞれのアニメーションの尺の調整など、実際にゲームに組み込むまでの作業を、外部委託会社に任せたというわけだ。
そのためにはゲームの詳細仕様や各データの関係性・用途まで、かなりの詳細部分まで認識を共有しなければならないし、外部会社のスタッフたちのスキルレベルやプロジェクトへの理解度を、内部チームに近いところまで引き上げる必要がある。これを実現するため、「UFC2」のアニメーションチームとアウトソースディレクターの間で密接な協力が行なわれた。
例えば、プロジェクトの立ち上げ時にはインドへ2週間にわたる遠征を行ない、たくさんのミーティングやスキルトレーニング、意見の交換、詳細なドキュメントの提供、そして親交を深めるための会食等を繰り返し行なった。さらに、EA内部チームによるリファレンスデータの製作とドキュメント化といった、研究開発に属する準備も入念に行なったという。
これらは、ただ外部会社に“発注”するのではなく、外部会社を内部チームの延長にするという考えに基づく準備だ。ここにたくさんの時間をかけたおかげで、最終的には内部チームの作業を肥大化させることなく、納得できる品質のアニメーションデータを大量生産することに成功したというわけだ。
こうして培われた「内部チームの延長としての外部会社」という関係は永続的だ。またの次回作の製作はよりスムーズにはじめられるし、互いのスキルをさらに深化させていくこともできる。内部チームの窓口としてこういった仕事を行なう外部委託マネージャーという存在も、ますます重要性を増し、専門化していっているようだ。
XDSでは、このような事例がEAをはじめ、Microsoft Stuidios、Ubisoftなどから次々に紹介されていった。外部委託会社とのコラボレーションの厚み、深みや、それを実現するためのコミュニケーション方法(メール、チャット、ビデオ通話等)は様々だが、インターネット上のコミュニケーションツールの発達が支えている部分は勿論大きい。
が、XDSで紹介された多くの例において重視されていたのは、「外部委託会社のメンバーと実際に会って話をし、仲良くなること」という点だ。上記の「UFC」の例ではインド現地に長期滞在して何度もミーティングやパーティを行ない、まるで家族のような関係を構築している。そういった深い関係構築が、ゲーム開発における雑多な問題を仔細に至るまで共有するため役立つのだろう。
このように、より大きくより高度なゲームを、限られた予算で開発するため、各大手企業は外部委託のありかたを変えてきている。内部チームの延長として対等の関係を築くこと。そしてこの考え方は、何もEAのような大きな会社に限ったことではない。対等の関係を通じて得られるのは高いレベルのシナジー効果であり、むしろ中堅、小規模な会社こそ、大きな恩恵を受けられる考え方であるとも思える。
日本との国際コラボレーションを熱望する現地企業たちと先駆者
それぞれの強みを持ち寄って、国際的なコラボレーションでゲームを開発する。External Development(外部開発)の考え方は内部チームと外部チームがほぼ対等の立場でプロジェクトに携わるという方向へシフトしてきている。このXDSというイベントに参加する企業にとって、それはもはやコモンセンスであるようだ。
端的にそういった雰囲気を味わえたのは、XDSの会場で見ることのできた中堅・小規模なデベロッパーとの会話においてだった。
会場には地元バンクーバーをはじめ、南米・東アジア地域からのデベロッパーが参加し、さまざまに出展を行なっていたが、中でも特にアプリやゲーム開発で技術力を培ってきたデベロッパーの多くは、日本企業とのコラボレーションにきわめて強い関心を持っている。日本にはたくさんの有名なIPやキャラクタービジネスという強みがあり、彼らにはそれをワールドワイドで通用するアプリやゲームの形に昇華するための高い技術力という強みがあるからだ。
筆者が取材をしたデベロッパーのうち、特にその面で強い熱意を感じられたのが、バンクーバーに本拠を置く独立系デベロッパーArchiact Interactiveだ。
Archiactは2014年に設立されたばかりのVRゲームに特化したゲームデベロッパー・パブリッシャーで、設立当初から潤沢な資金を持っていたこともあり、早々にゲームデベロッパーとして中堅といえる規模に拡大。非常に勢いのある企業である。その代表を務めるDerek Chen氏は、マリオやソニックといった日本の人気IPの大ファンであることを隠さない。
現在はGear VR向けをメインにゲームを開発・パブリッシングしているArchiactだが(何しろ現在はそれ以外にマーケットがない)、将来の展開に向けて、Oculus RiftやHTC ViveといったPC向けハイエンドVRシステムでの製品開発も行なっている。その中で日本のIPをVRゲーム化する関心について聞いてみたところ、聞いたこちらが驚くほど強い関心を示してくれた。
「日本には偉大なゲームシリーズ、キャラクターがあります。もし日本の企業から共同開発のオファーがあれば、これ以上エキサイティングなことはありません。私達がこれまでに培ってきたVRゲーム開発のノウハウと完全にマッチングするはずです」(Derek Chen氏)。
同じくバンクーバーに本拠を置き、ゲーム開発・パブリッシングおよびゲーム専用広告ネットワークの開発・運営を行なっているROADHOUSE InteractiveのJudai Kubo氏も、同様に日本企業とのコラボレーションに強い関心を示していた。これらバンクーバーに本拠を置く企業は集まる人材の文化的背景が非常に多国籍で、ビジネスにおける国境の意識が非常に薄い。北米マーケットの開拓を目指す日本の中堅・小規模デベロッパーにとって、彼らは大きな架け橋のような存在となってくれるはずだ。
そういった、国際的なコラボレーションへの積極性は、バンクーバーで普遍的に感じられたことのひとつだ。この方向では実のところ日本発の企業がすでに大きな成功を収めた例が存在する。バンダイナムコスタジオバンクーバーだ。次回は、バンダイナムコスタジオバンクーバーが昨年ヒットさせた「Pacman 256」の例を取り上げ、カナダを拠点とした国際コラボレーション開発の実際についてお伝えしたい。