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「東京インディーフェス 2015」キックスターターのリアルな現実と希望とは?
稲船氏、イシイジロウ氏、河野氏がトークショー
(2015/5/9 19:26)
ゲームの開発者や開発スタジオが集まり開発中のタイトルなどを出展しているイベント「東京インディーフェス 2015」が9日から一般にも公開された。開催期間は10日までで、会場は秋葉原UDX。チケット価格は当日1,500円より。
また、8日と9日にはワークショップが開かれている。9日にもRoute24の西 健一氏、Toyboxの和田康宏氏、Onion Gamesの木村祥朗氏、Nyamyamの東江亮氏、Q Gamesの伊藤雅哉氏、NIGOROの楢村匠氏ら蒼々たるメンバーが登場し、それぞれのテーマについて語り合った。
そして本稿では、2Dアクション「Mighty No. 9」を制作中のComceptの稲船敬二氏、「428 ~封鎖された渋谷で~」や「タイムトラベラーズ」などを手がけてきたFreelance Creatorのイシイジロウ氏、現在「クロックタワー」の精神を受け継いだと言われるホラーアドベンチャー「Project Scissors: NightCry」を制作中のNudemakerの河野一二三氏が、ゲーム作りについて重要な位置を占める資金調達をテーマとしたワークショップ「キックスターター ~ ゲームのためのクラウドファンディングや資金調達」についてお伝えする。
それぞれの経験談を語り合う形式となったワークショップだが、いきなり稲船氏は「裏で(3人で)話してたら『大変だよね』と愚痴が出た」と笑いながら語り始めた。
1つはキックスターターの信用性だ。これまでにキックスターターで資金を集めながらも作品を完成させることができずに失敗してしまうケースがあり、「本当に作品が完成するのか?」疑われるケースがあるという。このことから「Mighty No. 9」のしても「NightCry」にしても開発状況をまめに公開しているのはそのためだ。また、イシイジロウ氏がインディーズアニメーション「Under the Dog」に関して米国で行なわれたコミックスコンベンションでスケジュールを発表したのも「キックスターターの投資者がほとんど米国だから」という理由からだ。
稲船氏は「何度、進行状況を発表しても信用してくれない」というように、ここがシビアな状況であると同時に、単に投資された金額を、単純にゲームの開発のみに使うことができない実情もある原因となっているようだ。さらにこの状況に拍車をかけているのが、投資者への「リワード」だという。たとえば多く投資してくれたヒトにはサイン入りの画集を作成する約束をしてしまい、その代金、発送の料金、サインをする工数など様々なネガティブ要因が発生した。
こういった問題点はまさに“経験したこと”で明らかになった話で、ある意味貴重だ。ネットでは「Mighty No. 9」に対して「4億円のゲームなのか?」といった声も聞かれると言うが、パッケージなどを作成している大手ゲームメーカーの人たちから見れば、ゲームの“商品化”にどれだけの工数と資金が、どのように使われており、その上でのクオリティを逆算できるわけで、そういった人からはクオリティ評価が高いのだという。
河野氏によれば「日本発のキックスターターが2件頓挫すれば信用を失い日本への投資はなくなる」という。逆にイシイ氏は海外から「日本人は信用できる」と話されるという。こういった状況の中で稲船氏、河野氏、イシイ氏の3名は「(キックスターターを成功させ次に繋げるために)日本チームの代表として成功させなければならない」と口をそろえた。
順序は逆だが、では、キックスターターの良さとは何なのか? そしてキックスターターを利用したときに何が重要なのだろうか? 稲船氏は「銀行から借りればそれはただのお金だが、キックスターターのお金はただのお金ではない。ファンの人の想いが詰まったお金。その想いを返さなければならない。それはプレッシャーではない。ただ自分の作りたいものを作れば良い」とコメント。
メーカーにいると「利益や様々なことで、自分の作りたいゲームを作れない」という。例えば「デッドライジング」。個人的にはキャッチーな内容だし、ゾンビ好きとしてはたまらないゲームで、反対する要素は全くないように思っていたが、稲船氏によれば「頭を吹っ飛ばしたりすると会社のイメージもあるし、ゾンビといえば『バイオハザード』シリーズもある。最後までいい顔をしない人もいたと思う」と振り返る。これは会社員をしているとうなずける話で、いろいろな考え方から、なかなか諸手を挙げて話が進むことは少ない。
つまり、クリエイターが作りたいものを作れない状況があるなかで、ユーザーとクリエイターを直接結びつけ、ユーザーの想いに答えるために「自分の好きなものを作る」。キックスターターのシステムは、ここに尽きるわけだ。もちろん、投資者の望むクオリティをクリアすることは重要だが、その端緒は前述の「自分の好きなものを作る」にあるというわけだ。
こういった観点から、稲船氏はインディゲームの定義を「人員規模とかではない。作りたいものを作っているのか。だから大手ゲームメーカーでも作りたいものを作ればインディゲーム。河野氏が作った『鉄騎』もインディゲーム」と語っている。
キックスターターならではの“意外”な悩みがあるわけだが、「Twitterなどでも質問に答える(イシイ氏)」と協力を公言。河野氏も「別に大金を集める必要は無く、日本の数百万円集めるキックスターターから利用して小規模で開発する手段もある」を語っている。悩みを共有し合いながら、世界に向けてゲームを作っていくことは実は難しいことではなくなる時代が来つつあるのかもしれない。
ちなみに、河野氏が制作中の「Project Scissors: NightCry」だが、制作快調ということで、早くて今年の年末にはリリースすることができるという。キックスターターで資金調達を行なったことでゲームとしてのクオリティも格段に高まったと言うことだ。公開されているPVも非常に興味深いので、注目の1作品だ。
インディーズのためのコミュニティー作り ~ 作品の話題性作りのヒント
「キックスターター」のワークショップに先だって行なわれたのが、「インディーズのためのコミュニティー作り ~ 作品の話題性作りのヒント」だ。Nyamyamの東江亮氏、Q Gamesの伊藤雅哉氏、、NIGOROの楢村匠氏、Petit Depottoの川勝徹氏によるトークだが、非常に辛口な開発者へのエールとなっており、面白いものだった。
東江氏は「コミュニティなどいらない」というが、それはコミュニティを作ってもキチンと話に参加する人は少なく、「コミュニティに入っても何も起こらない。自分から踏み込んで話さないと」という想いからだ。伊藤氏も「匿名ではなく、キチンと話をしてもらえれば、熱心に対応できる」としている。今回のイベントに出展しても話しかけてもらうことは少ないと言い、直接コミュニケーションを取ることの重要性を説いている。
一方で作家性が強く、自分の想いだけで作品を作っていると言われかねないインディゲームだが、東江氏は「こういったイベントの場で出展してプレイしている人を見ていると、重要なことは言ってくれない。クソゲーと面と向かって言われたことはない。重要なのはゲームをやめる瞬間。何が原因でゲームをやめるのか、その行動に起こしている場面を見て考える」という。細かい調整は揺らぐことはないが、どうやってゲームをしているのかは注視しているのだという。楢村氏も「インディゲームは作家性が高いので、人の言うことは聞かない。でも、意見を拾っていけば自分にはないものを取り入れることはできるかもしれない」と語り、全てはゲーム作りのためにあるようだ。
最後に、インディゲームを作り続けることについて東江氏は「自分の想い」で制作することが重要で、そこに間違いは無く、その状況に合わせ、自分で決めていくことが大切と語った。そして川勝氏が最後に語った「ゲームを好きでいることが大切。ゲームで生きていこうとするとゲームを嫌いになることがある。ゲームを好きでいる環境を作ること」と語ったのが印象深かったワークショップだった。