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「クロックタワー」の遺伝子を受け継いだホラー「Night Cry」がほぼ完成!
クリエイターの河野一二三氏に聞く
(2016/1/31 16:05)
「闘会議2016」に、自作ゲームなどを出展するコーナー「デジゲー博 SPECIAL」が設置されている。その一角にあるPLAYISMのブースで、ヌードメーカーが制作を進めているホラーゲーム「Night Cry」が出展されている。
「Night Cry」は、名作ホラー「クロックタワー」の精神的続編として制作がスタートした。豪華客船という限定された空間で展開する、謎の殺人鬼「Scissor Walker」に追われる恐怖が描かれる。これまで情報がなかなか出てこなかったが、制作も終盤にさしかかり、遂に公開となった。
出展されたバージョンはゲームの冒頭をプレイできるもので、Scissor Walkerが登場し追われる中、物陰に隠れるシーンなどを体験できる。ホラー映画の“感覚”を上手く再現しており、見つかってしまうドキドキ感を味わうことができる。実際にプレイした人の意見を拾ってみると、「クロックタワー」の雰囲気が再現されているという声が聞かれ、ファンも納得の心理的な恐怖が描かれている。
今回はヌードメーカーの河野一二三氏にお話を伺うことができたので、ここにお届けする。
心理的恐怖とグロテスクなハードなホラー描写との間で描かれる「Night Cry」
――まず「Night Cry」の現在の開発進行状況を伺いたいと思います。
河野氏:本当に最後のブラッシュアップに入っています。データの組み込みは、99%に近い形で終っていて、僕の方で一通りカメラワークとライティングは付け終りました。あとはデバッグというところですね。
――それは技術的なデバッグもあるでしょうし、プレイしての調整もあるということですね。
河野氏:エンディングのシナリオフラグとかけっこう複雑ですので。最近発見された1番しょうもなくて厳しいバグは、あるエンディングにどうやっても行けないことが発見されました(笑)。結構いろいろ条件があって……一本道感のないようにある程度融通が利くように(プレーヤーの自由が利くように)作っているじゃないですか。そうすると、いろいろな条件を加味すると、「ココに行く前にココに行ってしまうと、どうしてもこのエンディングにたどり着けない!」ということが判明しまして。
――ということは、ゲームシナリオ的にはかなり複雑になっているんですね?
河野氏:僕は(ゲームのシナリオやシステムを)設定した人間なのであまりピンときてなかったのですが、全てのデータを入れたバージョンをウチのマネージャーとかがプレイした時の感想が、「これ、グッドエンディングを見られる人がいるのかな?」という(笑)。
――そんなに……?
河野氏:ただ、サポートでアドベンチャーゲームなどでフローチャートで分岐を示すのがあるじゃないですか? あのシステムを導入しています。要所要所でオートセーブされますので、セーブポイントに戻り、そこをロードしてプレイできるようにはなっています。
――「かまいたちの夜」で導入されていたような、フローチャートが描かれていて、その分岐点に戻れるといった形ですね。
河野氏:そうです、そうです。ただ、(分岐点に)戻っても……(グッドエンディングに)行けるかなぁ?(笑)。一応、条件もヒントで出てくるようにはなっているんです。「あるものを、ある人に渡した」といった具合に。ですが、その“あるもの”をどうやって手に入れるのか? そしてどうやったら“ある人”に渡せるのかは全くわからないようになっています。それが結構大変です。
――以前伺ったときに、なるべくメニューなどを出さないようにして、ゲームへの没入感を高めると仰っていましたが、それらのヒントはどうやって提示されるのでしょうか?
河野氏:基本的にはセーブ/ロード画面のフローチャート画面で少し表示されるだけです。
あと、(「Night Cry」の舞台となる)船内で「これはわからんやろ?」といった謎などについては、ゲーム内に登場するスマートフォンで「Instagram」のような「Snap Post」というSNSを見ることができるようになっており、そこの写真を見ればわかるようになっており、さりげなくヒントを出してはいます。
――割と硬派な作品に仕上がっているんですね。ゲームを好きな人は割とそういったヒントを探し当てていきますが、ライトな層には硬派な作品に感じるかもしれませんね。
河野氏:そうですね。正直いって今はネット時代で、ある程度攻略法などをやり取りできるじゃないですか。そういった意味では、あえて硬派な内容でも今回は良いのかなと思っています。
――「Night Cry」では基本的に、主人公が殺人鬼から逃げて物陰などに隠れてやり過ごすということになります。部屋がたくさんありますが、逃げられるところは複数あって、ある程度自由に隠れることができるのですか?
河野氏:逃げ込めるところは複数あってプレーヤーが選んでいけるのですが、そこの詰めをやっているところです。
――そこはゲームバランスとも繋がってくるということですね。
河野氏:そうですね。昔の「クロックタワー」では、無限に使える回避ポイントがあったじゃないですか? 今回はそれがないんです。1回使ったところに2回目に行くと使えなくなっていたりするんです。ただそれが「シビアすぎるかな?」というところで若干揺れている(悩んでいる)ところですね。そういった意味ではパブリッシャーさんと相談しながら考えたいですね。
――最初に隠れるポイントとしてクローゼットに逃げ込む方が多いですが、「いや、それバレるだろう?」と思うのですが、そのやり過ごすドキドキ感がゲームとして上手く演出されているという印象を受けました。
河野氏:ホラーって、ある意味コントに近いところもあるんですよね。ほんの小さなところに隠れていて、少しのぞき込めばわかるのになぜか追跡者はのぞき込まないという感じとか。
「クロックタワー」と同じで、今回の殺人鬼“Scissor Walker”は、やはりちょっとお間抜けな感じもあるんですよね。でも、そういったお間抜けなヤツが殺しにかかってくる方が、1番怖いと思うんです。すごくシリアスでガッチリ考えているヤツが殺しに来るというのは、結構受け入れやすいじゃないですか? でも、「こいつ、アホやなぁ」ってヤツに殺されるって倍くらい怖いと思うんです。そういった意味では今回もコミカルな感じの笑いと恐怖の紙一重なところは絶対にありますね。
――プレーヤーがバレると思っているからこそ、怖いという部分はありますね。
河野氏:(殺人鬼をやり過ごす時に発生するミニゲーム風の)カーソルを合わせるシステムが上手くいかなければ、即見つかってしまいます。
――カーソルを合わせるシステムの他にも、いくつかパターンはあるのでしょうか?
河野氏:はい、いろいろですね。連打で回避する時もありますし、ただ何事もなく回避できるときもあります。結構バラエティ豊かですよ。
ぶっちゃけゲームのコストって、こういったイベントシーンじゃないですか? 「インディゲームでこんなにイベントシーンなくても良いんじゃないか?」って思うくらい、「Night Cry」にはイベントシーンが入っていているのですが、そのイベントシーンにいちいち成功と失敗のパターンを作っているので、本当に分量はありますね。
サウンドの音付けを担当したスタッフの方が、「Night Cry」の作業量を見て「こんなインディゲーム見たことないですよ」って仰ってましたね(笑)。予算的には、一般のコンソールゲームの1/5~1/10くらいですけどね。
――でもインディゲームということで、それだけご自分の作りたい作品を作り上げることができたのではないですか?
河野氏:いや、でもそこはやはり予算の関係で、「Chapter 4」まであったところを丸ごと1つのチャプターを削ったり、例えばイベントをガッツリとカットしたりといったことはあります。しかし、決められた予算の中でどれくらいやれたかと言えば、150%やれたと。僕とスタッフとしては、今ある条件の中では最大限以上のものを出し切れたと思っています。
――船内の階が変わるとロード画面が入りますが、「これをシームレスにできないか?」とスタッフの方に伺ったら「予算の中では厳しかった」と仰っていました。
河野氏:その代わり、あのロード画面が入ることで結構広いマップをまるっと読み込めているんです。ですから、今回はそのやり方ですね。シームレスにやるとなると、もっと上手くデータ分割を行なわなければならないのですが、それは今もギリギリで作っているグラフィッカーが倒れてしまいます。
今回の背景は1人で作業しているんです。それは異常な事態ですし、1人で作業してあのクオリティに達していると言うことは、その担当者がいかに命を削ってやっているかということです。
――プレーヤーキャラクターが逃げているときに転けることがありますが、あれはどういったタイミングで発生するのでしょうか?
河野氏:それは僕からはヒミツにしておきます(笑)。プレーヤーのゲームシステムに対する不信感や不安感も、“恐怖”の演出の一環だと思って頂きたい。
今回はダブルヒロイン。キャラクターの対比を楽しんで欲しい
――「クロックタワー」では欧州風の雰囲気でしたが、今作は金髪で色っぽい女性が主人公となっています。モチーフになった女優さんとかいらしゃるのでしょうか?
河野氏:いや、今回はモチーフになった女優さんはいません。今回は新機軸として、ダブルヒロインでいこうと思ったんです。前回はダブルヒロインといってもヘレンはあくまでもサブで、ジェニファーがメインというのは固まっていたじゃないですか。
今回はダブルヒロインでいこうと決めた時点で、1人は典型的なアメリカ娘でいこうと。そして「Chapter 3」のヒロインとの対比を描きたかったんです。2人はすごく仲が悪いのですが、それがどうなっていくのか? その面白さを見て欲しいですね。
初めはあのヒロインはサブだったんです。短いチュートリアルに出てきてパッと殺されて、おしまいという感じだったんです。でも、バカなんだけど、逆に1周して僕は好きになってしまいました。この娘を1度メインに据えて、そして後半にジェニファー風の主人公が出てきて、2人の対比を描くと面白くなるなと感じたんです。ということで、大抜擢という感じで、急に前半の主人公に据えました。
――冒頭の自動販売機の場面で、血だまりになって殺人鬼が登場するシーンがあります。
河野氏:あれ、アホで面白いですよね(笑)。
――「Night Cry」の制作に入られる頃に、ルチオ・フルチ監督(「サンゲリア」、「地獄の門」、「墓地裏の家」などで知られるホラー映画の監督)を見直したと仰っていましたが、そういった片鱗を感じました。
河野氏:そうですね。今回は心理的な怖さとグロテスクなシーンの両輪で行くことにしたんです。
後半には、本当に生々しいグロテスクなシーンがあるんです。でもグロテスクなシーンだけで押すのは、僕はホラーとしては好きじゃない。ですが、そういうのを見たいという気持ちもあるじゃないですか? その気持ちに応えるのも、大事な仕事だなと思うようになったんです。それはやはり、リチオ・フルチ監督のおかげかな。
最近ホラー映画を見ていても、モキュメンタリーでカメラを動かしてグロテスクなシーンを全然見せないというのが多いじゃないですか? それはやはり逃げだなと思うようになりましたね。かといって、やたらめったらグロテスクなシーンを映しているのも才能がないと思うので。
でも最初の自動販売機のシーンはカワイイですよ。後半は本当にすごいですから。そういった点では「クロックタワー」シリーズからは進化したところですね。
――でもそれはあくまでも心理的な恐怖があってのシーンと言うことですね。今回出展されているのはほんのさわりでしょうか?
河野氏:「Chapter 1」のおしまいまでは行けるようになっています。でも普通にプレイして「Chapter 1」を終えるには2時間くらいはかかりますから(スタッフによれば、1人のプレイ時間が長くなるので、一定のところで代わってもらうようにしているとのこと)。
――リリース時期はいつ頃を予定されていますか?
河野氏:もう間もなく(リリース時期を)公開できると思います。想像より早いタイミングでお届けできるのではないでしょうか。ただ、PC用にしっかりと作ってしまっているので、まずはPCでリリースして、他のプラットフォームのリリース時期はずれると思います。
――では最後に、待っているプレーヤーの皆さんに一言お願いします。
河野氏:現状では、150%力を出せたと思います。僕もスタッフもしんどい中で、それでもここまでできたのは、ファンやバッカーの期待に応えたいという使命感でしょうか。その期待にはたどり着けたと思いますので、楽しみにして欲しいと思います。
――ありがとうございました。