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「FIFA」シリーズを手がけたEA牧田氏が提示する「よりよい開発環境」

世界で1番優秀な人材が集まる国から、世界に向けたタイトルを!

4月23日開催

会場:ベルサール秋葉原

参加費:5,000円

 「OGC2014」のセッションの1つとして、「グローバルライブサービス時代へ」というタイトルで、エレクトロニックアーツJapanスタジオバイスプレジデントジェネラルマネージャを務める牧田和也氏が講演を行なった。

 牧田氏はEAの「FIFA」シリーズに深く関わり、「FIFA」シリーズのエグゼクティブプロデューサーも務めた人物。2013年末よりEA Japanスタジオで日本から世界にゲームを発信するために取り組んでいるという。セッションでは、牧田氏自身が持つゲーム作りへの想いが語られた。

牧田氏が考え、目指していくグローバルタイトルの開発体制

EA Japanスタジオバイスプレジデントジェネラルマネージャを務める牧田和也氏
似ていない中田選手。牧田氏の主張はカナダスタッフには理解されなかったという
アンリ選手を例に、人材の配置の重要さを説明
5月中旬サービス予定のiOS/Android向けサッカーゲーム「2014 FIFA WORLD CUP BRAZIL」

 牧田氏は最初に自らの経歴と、EAの概要を語った。牧田氏はカナダスタジオで最初に手がけたPS2版「FIFA SOCCER」で、中田選手のモデリングに関して「似てない」と感じたが、他の全てのカナダスタッフは「似ている」といったという。日本人が、日本人のCGモデルに感じる違和感は他国の人には理解されない。牧田氏は、これが“グローバル”でゲームを作ることだと強く感じたという。

 EAは1982年に設立され、1987年にロンドンオフィス設立を皮切りに、現在は世界様々な場所にオフィスを持つ。多くの魅力的なIPを持つのがEAの強みだが、昨今ではモバイルビジネスも大きくなり、モバイルのスタジオも世界中に持っている。今ではコンシューマ、モバイルを問わず、配信でのビジネスが全体の1/3を占めるという。

 現在は、パッケージでソフトを売っていた時代とは大きく異なる状況になりつつある。また、モバイルコンテンツからコンシューマーに移植されるといったタイトルも出てきている。EAはデジタルビジネスで、世界中のユーザーを対象にしたタイトルをサービスするメーカーとなった。

 こういった時代に合わせEAの取り組みが代わっていく中、牧田氏自身は「長期的ビジョン」を心がけながらゲームを開発してきたという。1つは「グローバル」。牧田氏が手がけた「FIFA」シリーズを例に取れば、全世界に36億人のサッカーファンがいる。その上で考えるのは各国の状況だ。世界の人達がどのようなハードでゲームをプレイしているのか、一世帯の収入とそこにあった課金はいくらぐらいか、使っている言語はどうか? 様々な視点でリサーチを行ない、その上でサービスができるタイトルやビジネスモデルを考えていく。

 2つめは「複数年プラン」。各国の現状を把握した上で、数年後のゴールをさだめてゲーム開発を行なっていく。そこに向かって中期ターゲットを設定し様々なことが起こってもぶれないことを心がける。「FIFA」の場合は、ゲームエンジンをきちんと確立させるためにPS3での実現を目指し、従来あったものとは異なるエンジンを数年を掛けて作っていったという。「22人のオンライン対戦を世界中のプレーヤーとで実現したい」、「コリジョンがちゃんとした選手の挙動、ボールの動きをきちんとしたい」といった明確な目的を設定し実現していった。

 3つめが「イノベーション」。生活のあらゆる環境でゲームを楽しんでもらうにはどのようなタイトルで、どう取り組んでいくか。ブラウザゲームで空いた時間に情報を確認し、昼休みでは情報を元にブラウザゲームをがっつりやり込む。そして夜はコンソールを思う存分遊ぶ。「FIFA」をテーマにした複数のタイトルで生活全てをフォローする。グローバルのゲーム開発は「ユーザーの声への対応」もできるだけ柔軟に、素早くしなくてはいけない。そしてゲームは“磨く”ことにたっぷり時間を掛けなくてはいけない。ダイヤモンドの原石を見つけるのには時間もコストもかかるが、それを美しく磨くことにも時間と手間が必要だ。この磨くところにいかに時間と人員が割けるかでゲームは大きく変わるという。

 次に牧田氏は会社としてのよりよいゲーム開発環境への取り組みとして、「3つのP」を提示した。1つめが「プロセス」。早い段階から、予算やスケジュール、オペレーションを提示していくことで、できること、できないことが明確化し、ゲームの具体像が決まりやすくなる。細かく常にぶつかり合いが生まれるが、スケジュールを間に合わせやすくなる。

 2つめは「ピープル(人材)」。牧田氏はティエリ・アンリ選手を例に出した。アンリ選手はユヴェントス時代右が利き足にもかかわらず左サイドハーフに配置されあまり活躍できなかった。しかしアーセナルに移籍し、センターバックに配置されると大活躍し、2年連続の得点王になった。「良い人材をちゃんと良い位置に置かないときちんと活躍できない」。牧田氏は良い人材の配置、1番やりやすく楽しい配置を常に考えているという。

 さらに「ワークライフバランス」として、日本人が軽んじる人が多い「仕事とプライベートのバランス」を考えているという。日本人は「がんばる」のが好きだが、海外ではバランスを重要視する。牧田氏も同じで、金曜日の夜にはビールを飲んでリラックスできる職場環境を作り、週末は極力仕事を入れないし、夜残ることも避ける。忙しい時には仕方が無いが、極力バランスを重視することで、仕事へのモチベーションも、アウトプットも全く違ってくるという。

 Japanスタジオではできるだけフラットで、意見が言い合える環境を心がけていると牧田氏は語った。良いプロセスと、良いピープルが生み出すのが3つめのPである「プロダクト」だ。現在EA Japanスタジオでは、5月中旬リリース予定のiOS/Android向けサッカーゲーム「2014 FIFA WORLD CUP BRAZIL」の開発を行っている。牧田氏が目指した開発環境で生み出された作品となる。

 牧田氏は日本しかないものとして、「タクシーのドアが自動的に開く」、「自動で泡のバランスまで調節するビールサーバー」、「多彩な機能をもつトイレ」を挙げる。牧田氏は、「これらを生み出せる日本は世界で1番優秀な人材の集まる国であり、ここからグローバルなタイトルが出てくればいいんじゃないかと思う」と語った。

【グローバルライブサービス時代へ】
牧田氏の経歴と、EAの世界のオフィス。オレンジがモバイルタイトル開発を行なう場所
EAが分析する市場と、牧田氏の目指すゲーム開発
全ての時間でゲームがプレイできるサービスを
ゲームを磨き上げるのに時間を掛ける
プライベートとゆとりをきちんと持たせた、バランスの取れた働く環境を目指す

(勝田哲也)