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【Unite Japan 2014】ニコニコ生放送「小林幸子カウントダウンLIVE」の裏側

映像の“巨大衣装”でネットとリアルの融合を演出。ニコファーレVRも制作中

4月7日~4月8日開催

会場:ホテル日航東京

ドワンゴの岩城進之介氏

 2013年の年末にニコニコ生放送で放送された「ニコニコ年越し! 小林幸子カウントダウンLIVE」。会場となった六本木のニコファーレにて、VR、AR、プロジェクションマッピングなどの手法を用いて最新映像技術を駆使し、ニコファーレをまるごと歌手の小林幸子さんの“巨大衣装”としたプロジェクトだ。

 カウントダウンLIVEは“巨大衣装”の名に恥じないド派手な演出の連続だったが、これらの映像にはUnityが使われていたという。今回紹介するセッションでは、ドワンゴの岩城進之介氏よりカウントダウンLIVEの裏側が明かされていった。

 岩城氏は、「ネットとリアルの融合」をテーマとしてニコファーレの演出システムの開発などを担当している。ニコファーレには壁面をLEDで埋め尽くし、そこにニコニコ生放送のコメントが流れるようにし、また配信時にはネットからニコファーレの状況を変化させるような仕掛けをすることで、ネットとリアルの世界の境目をあいまいにしている。

 この思いは更に発展していき、MMD(MikuMikuDance)のデータをそのまま使用できる3D-ARエンジンを独自で開発、ボーカロイドがさもニコファーレの舞台に立ってライブパフォーマンスをしているかのような映像を作り出し、それを配信している。

目指すものは「ネットとリアルの融合」。岩城氏はこれまでにボーカロイドのARライブなどを手がけている

「ニコニコ年越し! 小林幸子カウントダウンLIVE」の様子。映像世界の中に小林幸子さんが入り込んだような印象を受ける

 そして実際に「ニコニコ年越し! 小林幸子カウントダウンLIVE」を見てみると、ボーカロイドのライブとは異なり、夜の街中を小林さんが浮かぶように移動して行ったり、ダンサーが動かす菱形のパネルにプロジェクションマッピングの光がぴったり当たっていたり、巨大な「小林幸子像」が映像内に登場したりと、通常見られるニコファーレとはまったく様相が異なっていた。

 では何が行なわれていたかというと、まずニコファーレの床を含めた全面をLEDで覆った。ニコファーレはもともと演者を取り囲むLEDの壁面が有名だが、それがさらに拡張されたような形で、全面を囲むことで演者ごと異世界へ移動できるような演出が可能になった。

 グリーンバックによる合成ではなくあくまで実写にすることで状況が小林さん自身にも見えるようになっており、映像に登場する「ダイオウグソクムシたん」に小林さんがアドリブで手を振るということも起こり、リアリティが増す要因になったという。

 また映像内のオブジェクトの遠近がカメラの位置によって変化するようになっており、カメラから見て床の映像と壁の映像が「繋がる」ようリアルタイムに生成される技術が採用されている。ダンサーの持つプロジェクションマッピングのパネルについては、動くパネルにリアルタイムに映像が追随するようになっていたのだという。

 ここでの狙いというのもやはり「ネットとリアルの世界の境目をあいまいにすること」が目指されており、ぱっと映像を見ただけではどこまでが実際のものでどこまでが合成なのかわかりづらいようなものになっている。

映像を通してド派手な演出が続々と登場していく
ついに全面を覆ったLED、カメラ追従型の映像演出、リアルタイムに連動するプロジェクションマッピングによってライブが演出されていたことが明かされた

自社エンジンではできないがゆえにUnityに頼ることになったが、思わぬメリットも多かったという

 これらの映像演出を実現するため自社エンジンを使わなかったのは、カウントダウンLIVEはプロに映像制作を短納期で依頼する必要があり、MMDとの互換性に特化していたエンジンではプロ用ツールとの連携が未完成だったことによる。

 しかしそんな状況も「Unityならなんとかしてくれるはず!」という理由でこれを採用するに至った。ニコニコ生放送のコメントを描画するプラグインやカメラ位置のトラッキングプラグインなどUnity用に設定することも多かったが、Unityを利用することで様々なメリットが生じたという。

 大きかったのはCGデザインスタジオとの連携で、背景などはアセットストアで購入でき、データ仕様を決める際は「Unityで読めるもの」で割りと統一できた。またスタジオ側もUnity経験があり、最終的にはパフォーマンスのチューニングやシェーダーの調整までデザイナー側で済ませてもらえたのだという。

 一方で問題点も岩城氏は挙げ、使用するUnityのバージョンを事前に決めておく必要があること、アセットストアにおいて映像素材を使う場合の規約と外部スタジオに制作を委託した場合のアセットの権利規定が曖昧であること、マルチモニタ出力に弱いところが注意点だと話した。

 またライブ演出では、演出開始のきっかけを事前に決めておくこと、「システムが落ちた/動かなかった」という場合にバックアップ手段を用意しておくこと、演出システムが効果的に使用できるよう打ち合わせを行なっておくことが重要だとした。

 なお岩城氏は現在、Oculus RIFTを使用してニコファーレのライブイベントなどを疑似体験できる「全天周映像配信システム」を制作中だという。ゲームとは違ったアプローチではあるものの、「ネットとリアルの融合」という点では共通するポイントもありそうなので、ニコファーレの仕掛ける新たなエンターテインメントに大きく期待したい。

データ仕様もツーカーで、結果的に工数削減にもなった。
岩城氏が挙げた問題点とライブ演出の際の注意点
ニコファーレとOculus RIFTを使ったVR演出が制作進行中だという

(安田俊亮)