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【GDC 2014】色と形の抽象パズル「Color Zen」の長い黒字化への道のり

有料モデルも広告モデルもダメ。窮地を救ったのは意外なアプローチ

3月17日~3月21日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

Avalanche StudiosのRobert Meyer氏

 我々遊び手は、ヒットしたモバイルゲームは安直に“儲かっている”と考えがちだが、実はそうでもない。「Smartphone & Tablet Games Summit」のセッション「Reaching COLOR ZEN: From Prototype to Chart Topper in Three Weeks」ではそんな意外なレポートが報告された。

 Large Animal Gamesで「Color Zen」を手がけたRobert Meyer氏からは同一タイトルで様々なビジネスモデルにトライしながら、マネタイズの難しさを身をもって体験したという基調報告が行なわれたのでご紹介したい。

【Color Zen - Universal - HD Gameplay Trailer】

「Color Zen」のプロトタイプ
プロトタイプからリリースまで
リリース後の収益化の取り組み

 「Color Zen」は、同色のオブジェクトをくっつけることで色を消していき、1色に塗り替えるとクリアという、アーティスティックな美しさが印象的なパズルゲーム。消す度に画面が色に染まる演出が美しく、日頃あまりゲームに興味がない層も気分転換に遊べる内容となっている。

 このプロジェクトは社内のゲームジャムを通じて生まれ、プロトタイプから販売開始まで含めてわずか1カ月でのスピードリリースとなった。タイトなスケジュールで制作する手法は、小規模のデベロッパーにとって、コストとクリエイティビティの両面にとって良い作用があるとし、ひとまずiOS版を0.99ドルで売り出すことからスタートした。理由はマネタイズをじっくり考慮する時間が取れなかったためだ。

 App Storeのトップページに表示されたが、iPhoneのGrossingランキングで249位、iPadは168位、ダウンロードランキングで6位という結果に。41500ダウンロードで、30,500ドルの売上となる。

 続くAndroid版は、基本プレイ無料のF2Pモデルで投入する。収益源はこの時点では広告のみだ。ダウンロード数はiOS版の10倍以上となる476,057を達成し、大きな成果を上げるが、売上的にはiOS版の1/3程度となる10,894ドルに留まってしまう。1ダウンロード当たりの収益はiOSの0.73ドルから、0.02ドルまで低下してしまう。

 この時点までに「Color Zen」は、9週間で7人のスタッフを投入しており、差し引きで大きな赤字を抱えることになる。ここからMeyer氏の試行錯誤が始まる。

【iOS版の有料モデル、Android版の広告モデルは共に失敗】
経営者なら胃が痛くなるような数字が並んでいる

 コストを掛けずにすぐできることということで、まずはゲームのルールがわからずに辞めてしまう人が多かったため、テキストによる解説を導入する。これによりレベル10までの到達率が10%ほど向上させることに成功した。プレイする時間が長くなればなるほど収益に貢献するため、この取り組みはムダではない。

 次にアイテム課金の定番であるLevel Packや、難しすぎるステージをスキップする機能を売り出す。このLevel Packは一定の売上を出すものの、またしても掛かったコストを下回る売上しか出せなかった。

 そこでMeyer氏は窮余の策として1度限りの限定オファーということで、全4パックをバンドルしたBundling Packの提供を開始する。するとこれが奏功し、ガツンと売上を伸ばすことに成功する。セールというのはやはり有効なようだ。

【バンドルパックが成功!】
Level Packはそれほど収益に影響を及ぼさなかったが、そのセールであるBundling Packがヒットする

 次の一手として広告モデルを刷新する。従来のようにゲーム画面の一部に表示されるものではなく、ステージの終わりに動画広告を挿入し、それを視聴することで、次の5つのステージを無料で提供するというシステム。これは広告による収益を約35%押し上げ、平均の広告収益は0.044ドル(4.4セント)まで高めることができた。合わせて「Color Zen」はこの時点でiOS版も無料化に踏み切り、完全にF2Pモデルに移行する。

【広告モデルも改良】
広告モデルを、ステージ終了後に必ず見せる形に切り替え、その代わり視聴したリワードとして次の5ステージを無料とした。これも成果を上げるが黒字化には遠い

 そして最後の施策として紹介したのは、Samsungにスポンサーになってもらうというもの。Level Packを期間限定で無料配信し、ダウンロード数に応じてスポンサーからスポンサー料を受取るというモデルで、結果的にこの施策が黒字化に結びついたという。「結局、それかよ」という若干腰砕けの内容ではあるが、個人的にはマネタイズを深く考慮せずにサービスを始めると後々苦労するということと、モバイルゲームならうっかりサービスを始めてしまっても意外と何とかなる部分があるという2つの点で学びがあったセッションだった。

【最後はスポンサーの獲得】
「オチはそれかよ!」という感じの結論だが、モバイルゲームのマネタイズは設計ひとつで大きく変わるという好例だろう

(中村聖司)