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【GDC 2014】3,000万本超のヒット作「Grand Theft Auto V」のサウンド制作手法

広大なオープンワールドに命を吹き込んだRAGE Audioの深淵に迫る

3月17日~3月21日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

 2013年の大きなトピックは、Rockstar Gamesから「Grand Theft Auto V(グランド・セフト・オートV)」が無事発売され、3,000万本という信じられないようなヒットを記録したことだ。

 昨年のヒット作はGDCで講演する、というのはゲーム業界の慣習になっているが、Rockstarだけはこの方程式が通用しない。あれほど世間を騒がせ激賞を集めた「Grand Theft Auto IV」や「Red Dead Redemption」においても彼らは一切沈黙を守った。

 開発を手がけた英国スコットランドに本拠を置くRockstar Northは極端な秘密主義で知られ、プロデューサーを筆頭にコアメンバーがメディアに露出することはほとんどない。トップランクのAAAタイトルを作りながらE3に出展しないのはRockstarぐらいで、ましてや知見の共有が目的のGDCへの出展などは夢にも考えず、せいぜいChoice Awardsをもらう場所ぐらいにしか考えていないのではないか、という感じすらあったが、今年ついに講演を行なったのだ。講演を行なうことが話題になるのはこれまたRockstarぐらいのものだろう。

 講演の内容は、残念ながら(というとスピーカーに失礼だが)ゲームデザインやビジュアルアーツに関したものではなくサウンドだった。「The Sound of Grand Theft Auto V」と題した講演では、「GTAV」のサウンドの秘密が明らかにされた。

メタデータは「GTAIV」の4倍、ゾーン数は11倍という脅威のデータ量

Rockstar North Lead Audio Programmer Alastair MacGregor氏
Rockstarが生み出した最大のスーパースタートレバーのデモからスタート。自由気ままに高架下を走るトレバーだが、その後自動車を盗み、高速道路で大事故を起こして死傷する。お約束的展開に場内は爆笑に包まれた
「GTAV」で使われているサウンドエンジン「RAGE Audio」
「GTAIV」とのアセット量の違い
「GTAIV」とのBGM種別の違い
エンジン音はマイクを使って録音しているという

 講師を務めたのはRockstar Northで、Lead Audio Programmerを担当したAlastair MacGregor氏。MacGregor氏は、話のとっかかりとしてまずデモ映像を見せた。キャラはやはりトレバーで、高速道路の高架下に広がる草原からはじまり、高速道路に向けて一目散に走り、途中車を盗んで、高速道路に上がり、トンネルの途中でトップスピードまで加速したものの、対向車に激突してトレバーは身を投げ出され、ガソリンに引火する大事故になり、トレバーもろとも車が火だるまになる、というどうしようもなく「GTA」的な映像だ。

 こういう場で改めて映像を観て感じるのは、「GTAV」のBGMの素晴らしさだ。トレバーの草花を踏み倒す音に、小鳥のさえずり、高架を走る車の音、しかも1台ではなく、様々な種類の車が次々と走り抜けていくのがわかる。真下に来ると、まさに騒音というほどに大きくなり、車に乗るとさらにエンジン音が加わり、トンネルに入ると、すべての音がくぐもってくる。どうしてここまで多彩な音をごく自然に重ねることができているのか。

 Rockstarの開発環境は独自開発のゲームエンジン「RAGE」を採用している。2008年にリリースされた「GTAIV」から、「Midnight Club Los Angeles」、「Grand Theft Auto IV Episode From Liberty City」、「Red Dead Redemption」、「Max Payne 3」、そして「GTAV」と一貫してRAGEを採用しており、その中でサウンドを司るのが「RAGE Audio」と呼ばれるツール群となる。

 RAGE Audioの特徴は、クロスプラットフォームへの対応と、「GTA」シリーズクラスの特大プロジェクトへの対応、そしてメモリの効率的な使用などを前提とした高いパフォーマンス。中でもコアとなる機能は、モジュラー化されたアセットデザインや、ボイスの仮想化、そして多様な音源生成などだという。とりわけゲームにおいて重要となるボイスに関しては、独自開発のミキシングエンジンを介して使われていることなどが紹介された。

 「GTAV」のBGMで驚かされるのは質もさることながら、その量だ。「GTAV」では、架空の州「サンアンドレアス」にある都市「ロスサントス」とその周囲が舞台になっている。マップの広さは、シリーズ最大規模であり、都市だけでなく、田舎、山岳、渓谷、湖、砂漠、海中などなどありとあらゆる地形があり、都市インフラも車や自転車にはじまり、バス、列車、飛行機、潜水艦などなど現実世界同様のものが用意されており、すべてシームレスにアクセスすることができる。

 「GTAV」では、そのすべてに妥協しなかった結果、アセット量は、前作「GTAIV」と比較して、メタデータで4倍、ストリーミングアセットやダイアログのボリュームで2倍となった。倍の単位でデータが増えていることに、参加者からはどよめきが上がった。

 続いてMacGregor氏は、BGMの内訳を紹介。同種のゲームなので基本構成に変化はないと思いきやひとつ大きな違いがあった。「GTAV」にはサウンドトラック(Score)が増えており、それが全体の10%弱を占めている。また、「GTA」ならではである移動や悲鳴の類いも増えており、あらゆる点で妥協がない。

 それら様々な音を、どう鳴らしているのかが今回のセッションの柱となるが、今回「AMP」と名付けられた独自開発のツールを用いて生成されていることが明らかにされた。昨今のゲームエンジンのようにアセットがビジュアライズされた画面で、アセットをつなぎ合わせて1つの音を作るというものだ。これにより、例えば乗り物なら、歩行中、自ら走行中、高速道路、高架下、遠方、ざっくりとしたシティノイズなどなど、同じ“音のタネ”を加工し、組み合わせることで実現しているわけだ。

 会場ではAMPを使ったデモが行なわれたが、“音のタネ”1つ1つは、風のながれのようなノイズや発信音など何の変哲もない代物だが、それらを組み合わせて最終出力を行なうとあたかもそこで聞いたかのような臨場感たっぷりの音に仕上がり、会場では音を鳴らすたびに感嘆の声が上がっていた。

 おもしろかったのはその後だ。AMPを介して生成された環境音のひとつひとつを今度は、その目的に合わせて配置していくことになる。その環境に身を置き、その環境に適したBGMに身を浸すことで、圧倒的な没入感が得られるわけだ。

 この設定数が半端ではなかった。「GTAIV」と比較して「GTAV」はゾーン数で11倍、ルールで20倍、静的な発生地点数で2.5倍となっており、これには再び会場から感嘆の声が漏れた。これら環境音についても、距離に応じて音を変えたり、渓谷や洞穴など一部シーンによっては残響や反響なども盛り込み、没入感の高い世界の構築に向けて最大限の努力を払っているという。筆者はサウンドのプロではないので現場の最新事情はわからないが、さしずめすべてが度外れているということだろうか。「GTAV」は今年、DLCの登場で更なる世界の拡張が期待されるが、ゲームの内容共々、そのサウンドにも注目してみると良いだろう。

【AMP】
AMPのデモ。音を伝えられないのが残念だが、シンプルなノイズが、見事な環境音に変わっていく

【こだわり抜いた環境音】

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(中村聖司)