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【GDC 2014】日本ゲーム業界のご意見番稲船敬二が語る日本のインディーズの現状
世界を代表するゲームはきっとインディーズからしか生まれてこない! 「Mighty No.9」の最新トレーラーも披露
(2014/3/21 18:13)
GDCの常連日本人スピーカーの1人である稲船敬二氏(comcept代表取締役社長)が2年ぶりのカムバックを果たした。「日本のゲーム業界は死んだ」と語るなど辛口の評論で知られる稲船氏は、自由な立場から国内外のゲーム産業を語る論客として、日本のゲーム業界の“ご意見番”のようなポジションにいる。
今回の講演では「Meanwhile in Japan(その間、日本は)」と題し、自身が昨年キックスターターで立ち上げたゲームプロジェクト「Mighty No.9」を引き合いに出しながら、モデレーターの質問に答える形で日本のゲーム産業、とりわけインディーズの現状について語った。また、講演の後半では、現在開発中の横スクロールアクション「Mighty No.9」の最新映像も披露された。
日本のインディーズは「元気に目を輝かせながらゲームを作っている」
まず、稲船氏が辛辣な評価を辞めない日本市場の現況について問われると、「大きくは変わっていない。元気がないのはみんな知っている。日本のゲームがアメリカでヒットしないのはご存じの話で、もっと頑張らなきゃいけないなと思っています」とコメント。その一方で、「かつて日本が先頭を走っていたので、日本でいま起こっていることは今後、世界で起こっていくことなのかな」と、日本固有の問題では無く、時代の流れとする見解も寄せた。
数年前にカプコンを退社し、独立系のインディーデベロッパーになったことよる環境の変化については「悪い話ばかりではなく、最近日本でもそうですし、こちらでもインディーの人たちが元気に目を輝かせながらゲームを作っている。僕もその一員となって昔のゲーム作り、昔の楽しかったときのゲーム作りがやれているんで、凄く心が健全な気持ちでやっています」とコメント。
パートナーのMark McDonald氏の解説を挟んで、稲船氏は日本のインディーズの厳しさについて「北米と比べるとツライ状況に置かれている。スタジオの成り立ち方も違うし、インディーズでがんばってどこまで夢を見られるかというところで、北米と比べて日本は夢をみれるところが少ない。インディーでモノを作っている日本人の目の輝きは、北米の人となんらかわらない。凄く楽しく自分たちがやりたいことをやっている。そこがきっと日本のインディーズを変えてくれると思っているし、今後インディーズの環境も良くなっていくと考えている」と語り、日本のインディーデベロッパーの立場を代弁した。
日本特有のインディー文化である“同人”について触れられると、「言葉の定義としてインディーという言葉が使われるが、27年前にカプコンに入ったとき、アーケードゲームが主体で、アーケードチームと、僕のようにコンシューマ担当は大きな違いがあって、アーケードは本社ビルに入って、コンシューマは隣にある借りた部屋に押し込められて、基本はアーケードのコンシューマへの移植をする担当していたが、「移植はイヤだ、新作を作りたい」といって始まったのが「ロックマン(MegaMan)」です。
「MegaMan」はファミコンチームのオリジナルタイトル。言ってみればこれってインディーズだよね(笑)。それは本社から独立して、別のビルで、本社が望む物では無く、自分たちがやりたいものを作ったから。気持ちを持って作ったものが、魂が入って、「MegaMan」のファンになってくれるという、インディーズの魂ってそういうところにあると思うので、あまり言葉の定義の問題では無いなという気はします。そのときは6人で「MegaMan」を作って、そのうち3人は新入社員。4月に入った新入社員が4月から「MegaMan」に携わる。ゆったらおかしいよね。同人ゲームと変わらない。経験がなく、気持ちだけで関わる。3人の新人は、3人ともNo.9のチームにいます」と熱っぽく語り、稲船氏自身がカプコンで取り組んでいたこともインディーのひとつであり、インディーとは枠組みや形式によって定義されるものではなく、自分たちがやりたいものをやっているかどうか、パッションや魂の問題だとした。このあたりが稲船氏の真骨頂だ。
続いて、稲船氏が今回開発費集めに利用したキックスターターというシステムについて、日本の状況について問われると、「キックスターターを始めた時に、業界人に色々言われたが、半分ぐらいは知らなくて、言葉だけで、どういうことなのと聞かれました。日本では『Mighty No.9』発表以前は、ゲーム業界ですらキックスターターというものを知らないわからないという人が多くて始めようがない。もちろん一般人はまったく知らない。ほんの一部の人しか知らない状況だったのは確かです。
ファンディングというところの難しさがあって、投資する、投資してもらうという感覚が薄くて、お金は投資するものではなく借りるものとか、ゲームに投資するという感覚が薄いのかなと。ゲームは僕自身はバクチだと思っていて、ギャンブルをして大きく儲かるというのがゲームだと思っているんだけど、そのためには投資しなければならない。その意識が日本は薄れていて、逆に成熟して昔はそういう感覚を持っていたのに薄れてしまっていて、キックスターターで思い出して貰えればと思う」と語り、ゲームへの投資熱が高まってくれることを期待。しかし、ゲームはバクチだと語り、その上で投資を募ろうという稲船氏のスタイルはやはり突出してユニークだ。
「Might No.9」の日本での反応について問われると、「キックスターターで4億集めたことは驚いてくれるんだけど、ゲーム自体に対してもクラシカルなゲームということを前面に押し出していることに対し、ポジティブな意見を寄せてくれる人が多い。あるいは無関心も多い。クラウドファンディングは『ふーん』っていう。俺は関係ないやという無関心が多い。逆にネガティブな意見を言ってくる人は少ないなというのはあります」と若干不満げに回答。北米ベースのゲームとはいえ、もう少し盛り上がってくれても良かったのではないかという思いが感じられた。
仮に日本のデベロッパーが海外のファンドに投資を求める場合、どのようなアピールをすべきかについて問われると、「キックスターターに参加したいという相談は日本でも海外でも受ける。話を聞くと、キックスターターに参加したいデベロッパーは、ゲーム作りの話しかしない。こんなおもしろいゲーム考えて、どういう風に見せていけばいいのと。『Mighty No.9』のチームで1番大きかったのは、中身は当然なんだけど、見えない中身、バックエンドのサポートを8−4中心に固めたところがあって、そこは凄く重要視した部分です。
8−4以外にも実はコミュニケーション周りをサポートしてくれるというメーカーが2社ぐらい候補があって、候補を含めて面接じゃないけど、どういう意気込みがあるのか聞いてみたら、みんなキックスターターをやったことがないというので、キックスターター成功させたことがありますというと、そこがリードするんだけど、それがない状態で決めてになったのは熱意。『稲船さんとやりたい、このプロジェクトやりたい』というのが一番強いチームが8−4だった。この『Mighty No.9』のチームには、俺とやりたいという熱のある人しかいなかったので凄くやりやすかった」と語り、バックエンドの確保と、全員が一丸となって取り組めるチーム作りの重要性を説いた。
ここで稲船氏は、「Mighty No.9」のデモを見せた。既視感のあるグラフィックス、レベルデザイン、アクション、そしてBGM。すべてに懐かしさと親しみやすさを感じるベルトスクロールアクションだった。稲船氏が「Mighty No.9」でやろうとしているのは、まさに自身による「ロックマン」の再構築だ。2012年のGDCの講演で、日本に必要なのは「初心に立ち返るということ。25年前ファミコンでゲームを作っていた頃の私たちに戻って欲しいということです」と語っていたが、まさに自らそれを実践しているということだろうか。
トレーラーの再生を終えて大きな拍手を受けた稲船氏は「僕自身が操作するプレイ映像は見せていたんですが、まだしっかり見せていなかったのでお見せしたかった。1カ月ぐらい前のもの、帰ったらまた新しいビルドが完成しているはずなので楽しみにしている」と語った。
この「Mighty No.9」の開発体制について、従来の開発体制と、今回のコミュニティからのサポートを受けながら進めていく体制との違いについて聞かれると、「キックスターターでは縁の下の力持ちが大切と言うことで8−4さんにバックエンドをお願いしたというのと同じように、このゲーム開発にはコミュニティの人たち、バッカーのひとたちが凄く大事で、ゲームを支えてくれて、このゲームのクオリティを上げてくれる。大変と言うよりはそういう意識で、責任もって作るのは自分だが、それを支えてもらう人たちということでバッカーを置いて意見を聞いています。
「Mighty No.9」は現在PCゲームとして開発されており、売れ行き次第で家庭用ゲーム機を含む他のプラットフォームへと展開していくとしている。販売形態についてはパッケージではなくダウンロード専用となっている。その理由について問われると、「Mightyは常に壁があるような状態でやっている。キックスターターという壁から、コミュニティを使ってのゲーム作り。ダウンロード配信という壁も、簡単とは言わないが、乗り越えられる。ダウンロードの良さも伝えていきたい。それによって日本のインディーズが元気になるのはたしか。そのためにも自分たちが成功しなければいけない。日本のダウンロードゲーム利用者の人口を増やしていきたい。
最後に今後日本でどういうゲームが流行ると思うかについて問われ、「日本人の良さはなんだろうと考えたときに、十分なお金、資源を与えられてがんばれる人たちでは無い。小さな島国で資源も限られてて工夫をして世界を立ち向かっていった時代があって、制限があるほうががんばれるのが日本人。たぶん、欧米の人たちからすると考えられないぐらい工夫する人たち。そういうところからすると、インディーズはまさにそこにあるわけで。インディーズの人たちは、資源も時間も何もないので、どう頑張っていくかという。これこそが本来の日本人が頑張るべきところで、こっからしか次の日本のヒーローや、世界を代表するゲームはきっとここからしか生まれてこないというのは確かだと思います」と持論を展開。自分に続いてくれる人たちが生まれてくれることを期待して講演を終えた。
参加者からのQ&Aはわずか5分だったが、いずれも鋭い質問だった。1つは最終的にキャンセルされた「MegaMan Legend 3(ロックマンDASH3)」プロジェクトが、「Mighty No.9」プロジェクトに与えた影響。もう1つは、先日コナミの退社を電撃発表した五十嵐孝司氏が「Mighty No.9」プロジェクトにインスピレーションを受けたと発言していることを踏まえ、「Mighty No.9」は日本のゲーム開発にどのような影響をもたらすと考えているか、というもの。
1つ目について「『MegaMan Legend 3』の時のコミュニティが失敗したわけでは無くて、そこから学んだというよりは、本当にやりたかったことを続けるだけ。今のコミュニティのやり方を学びながら進んでいっているだけです」と回答。
2つ目について稲船氏は、若干嬉しそうに、「五十嵐さんの勇気に感服する。先ほどから色んな人たちに来てもらってファンですといってもらうことは多いんですが、日本以外だと稲船さんがいたから、ゲームクリエイターになりましたって言ってくれる人が多い。『MegaMan』の影響を受けてアーティストになった人が多いし、それを口にしてくれる。少しでもその人の人生に影響を与えている仕事ができていたんだというのはもの凄く嬉しいこと。日本ではなかなかそういう発言をしてくれない。五十嵐さんの発言を聞いたときに、日本人にも影響を及ぼすことができて嬉しいなと(笑)。世界中の人に生きてる意味というか、自分がゲームクリエイターになった意味というものを表現して貰えるのは嬉しいし、五十嵐さんには頑張って欲しいし、今影響されて頑張っている人も絶対成功して欲しいし、五十嵐さんも成功して欲しいし、サポートできることがあればいくらでもサポートする」と再び熱っぽく語り、自らが日本のインディーズを背負って立つという覚悟を見せつけた。「Mighty No.9」をはじめとした稲船氏の今後の取り組みに注目していきたいところだ。