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【GDC 2014】「どうぶつの森」は“シリーズの飽き”をどう克服したのか?
738万本の大ヒットを記録した「とびだせ どうぶつの森」開発秘話
(2014/3/21 12:59)
任天堂は、GDC 2014において「どうぶつの森」シリーズ最新作「とびだせ どうぶつの森」の講演「How to Turn a New Leaf at the ANIMAL CROSSING」を行なった。「とびだせ どうぶつの森」は、プレーヤー自身が村長になって条例の制定や公共事業が可能になるなど遊び方に変化が生まれ、さらに多彩なコミュニケーション要素が盛り込まれたことなどが評価され、ニンテンドー3DSのヒットとも相まって、シリーズにおける中興の祖となるような大ヒットを記録した。
日本ではあまりに売れすぎた結果、極端な品薄が発生し、岩田社長が謝罪する事態に陥ったのは記憶に新しい。今回、プロデューサーの江口勝也氏が発表した最新の販売本数は738万本と、ニンテンドーDS「おいでよ どうぶつの森」を凌ぐシリーズ最高のヒット作となったことが明らかにされた。
今回の講演は、任天堂のGDC講演の定番である成功体験の共有だが、ディレクターの京極あや氏は、前作にあたるWii版「街へいこうよ どうぶつの森」に対して、国内だけで100万本を超えるヒットを記録したにもかかわらず、「課題があったことは明らか」とこれまでに無い強い表現で前作を評価し、新作において非常に大きな覚悟で望んだかを伺わせた。
Wii版「街へいこうよ どうぶつの森」の課題は「シリーズとしての飽きと向き合うこと」
講演で最初に登壇したのは、「どうぶつの森」シリーズプロデューサーの江口勝也氏。江口氏は、2006年の「おいでよ どうぶつの森」の講演以来2度目の登壇となる。江口氏は「開発関係者なのに、娘のために限定版を手に入れることができなかった」と日本での品薄状態について触れて笑いを取りながら、「どうぶつの森」はフランチャイズとして順調にシリーズを重ねているように見えるかもしれないが、「とびだせ どうぶつの森」プロジェクトは順風満帆のスタートとはとても言えなかったことを明かし、「街へ行こうよ どうぶつの森」からディレクターとして現場を仕切ってきた京極氏に、「今回どのようにプロジェクトが始まり、2つの開発を経て、フランチャイズとして重要なことは何なのかをお話しさせていただく」と語り、京極氏とバトンタッチした。
京極氏は、流ちょうな英語で自己紹介を行ない、2003年に任天堂に入社し、EADに所属して「ゼルダの伝説」シリーズや「どうぶつの森」シリーズのスクリプトライターとしてキャリアを重ねてきたことなどを説明。「街へいこうよ どうぶつの森」については、自身が担当したというシリーズ初の試みとなるグローバル同時展開について語り、単純なローカライズのみならず、国別のイベントも盛り込むなどカルチャライズをした上で2008年のホリデーシーズンまでにグローバルで発売することができたと語った。
このWii版について京極氏は、「もともと遊んだ人すべてを満足させるのは難しいことだが、それでも『街へ行こうよ どうぶつの森』の場合は、課題があったのは明らか」と切り出し、話は「とびだせ どうぶつの森」に移った。
Wii版の課題とは「飽きと向き合うこと」。つまり、コアなファンは、すでに「どうぶつの森」のお約束に飽きが来ており、それをそろそろ認めるべき時期に来ているのではないかというわけだ。
京極氏は、シリーズごとに新しい家具などの新要素は入れながらも、1人暮らしで多額のローンを抱え、たぬきちの店で働くという流れは同じだとし、このお約束的展開は、シリーズで当然引き継ぐべきものだと誤解していたが、DS版のヒットで自分たちがその思い込みに縛られてしまい臆病になってしまった。シリーズお馴染みの要素を変えなさすぎた結果、シリーズとして閉塞感を感じるものになってしまったと語り、ディレクターとして非常に強い危機感を感じていたことを明かした。
そこでシリーズの原点に立ち返り、青沼英二氏率いる「ゼルダ伝説」シリーズと同じように“改めて当たり前を見直す”ことに着手したという。かといって全部変えたらそれはもう「どうぶつの森」シリーズではなくなってしまうため、シリーズの核となるコンセプトを探すことにした。
京極氏らが見つけた答えは「どうぶつの森」はコミュニケーションツールであるということ。「どうぶつの森」は、現実世界と同じ時間軸を過ごし、お互いがお互いのカレンダーのように機能し、手紙やプレゼントといったコミュニケーション機能が、現実世界のコミュニケーションの種となるように作られている。「どうぶつの森」で重要なのはコミュニケーションの連鎖を作ることということに気づいたという。
「遊びの種を明確化し、それを共有し、変化を恐れずに新たな種を蒔くこと」
「とびだせ どうぶつの森」では、「咲かせ終わった花を摘み取り、新しい種を植えること」を行なったという。
具体的には、ベストフレンドに登録すれば相手がプレイ中かどうかを通知してくれる機能や、世界銃のファンと交流できる仕組み、すれ違い通信を使ったデータのやりとり、ランダムマッチングによるマルチプレイ、夢見の館を使った友達の村の訪問、おもしろい村を見つけたらシェアできる機能、マイデザインをQRコードに変換してシェアする機能、画像投稿ツールによる3DSでのゲーム画像のシェア機能、秘書しずえのTwitter、Miiverseと連携した「どうぶつの森 こもれび広場」、絵心教室スケッチを使ったMiiverseのコラボ企画などなど、まさに“コミュニケーションの種”となるような要素をたっぷり導入した。
この「とびだせ どうぶつの森」の開発に際しては、仕様の共有以上に、考え方をどう共有するかを重要視したという。具体的にはWii版の反省点や課題をスタッフに伝えるために社内Webサイトに公開して、フランチャイズに対する意識を徹底していったという。京極氏は「思想の共有はとても大事」と語った。
実際の製作過程では、みんなでアイデアを出し合いながら進めていったという。たとえば、キャラクターやオブジェクトのデザインについては、担当に関わらずスケッチを出して気軽に提案できる体制を作ったという。これにより、男女、年齢層、主義志向違いなど、多様なアイデアをゲームに盛り込むことができたという。
京極氏はまとめとして、フランチャイズに必要な3つのことを紹介した。本質的な遊びの種を明確化し、それを共有し、変化を恐れずに新たな種を蒔くこと。京極氏は次の結果をGDCで報告できることを楽しみにしていると語り、江口氏に変わった。
江口氏は、プロデューサーとしてマネジメントに対する考え方を語った。
1つは、開発組織の多様化の重要性。「どうぶつの森」は年代や性別を問わず楽しめるものを目指しており、開発チームも性別や年齢のバランスが良いように意図的に構成しているという。江口氏は、「とびだせ どうぶつの森」で、スタッフの多様性をゲームの多様性に繋げることができ、自分の考えは間違ってなかったと語った。
もう1つは、プロデューサーの視点からのフランチャイズの可能性。フランチャイズを育てることにより、シリーズ展開はもちろんのこと、プラットフォームの規模も広げ、その他のフランチャイズにも展開していくという良い連鎖に広げられる可能性があるという。
「どうぶつの森」は、第1弾のニンテンドー64版では数十万本のセールスに過ぎないが、最新作「とびだせ どうぶつの森」は冒頭でも触れたように738万本という大ヒットになっている。ニンテンドー3DS本体は4,274万台普及しており、まだまだ数字は伸びそうだ。
最後に江口氏は、参加するデベロッパーに対して、3DSへの参入の呼びかけを行なった。3DSは少ない時間や労力で、小規模なタイトルからボリュームのあるものまで幅広いゲームが提供でき、販売方法もパッケージだけで無く、ダウンロード販売もでき、3DSが強い日本市場に、欧米のタイトルを広げることができると語り、お互いのフランチャイズを成長させあうことで、笑顔を増やして行きたいと考えていると締めくくり講演を終えた。