東京ゲームショウ2010レポート

ハッとするゲームアイディアに唸らされた「センス・オブ・ワンダー ナイト 2010」
世界中から集まった、五感へ訴える作品の数々を紹介


9月16日~19日 開催(16日、17日はビジネスデイ)

会場:幕張メッセ

入場料:1,000円(一般/前売り)、1,200円(一般/当日)、小学生以下は入場無料


司会を務めたIGDA日本代表の新清士氏とMCのGOW(ガウ)さん

 東京ゲームショウ 2010では、メーカーのブース出展の他にも多くのイベントが開催されている。そのうちのひとつ、「センス・オブ・ワンダー ナイト 2010」は、ハッとするようなゲームのアイディアを世界中から募集し紹介するという、ゲーム開発者によるゲーム産業関係者のためのイベントだ。今回で3回目の開催となった「センス・オブ・ワンダー」では、世界十数カ国から集まった応募作品の中から、審査の結果選出された9作品が紹介された。

 作品は「新しいインターフェイスの実験」、「新しいスタイルのパズルの追求」、「感情や社会的なメッセージの表現」という3つのカテゴリーに分けられ、3作品ずつプレゼンテーションされている。今回の傾向は「触感」や「音」といった、映像以外のものでプレーヤーに訴えかける仕組みが多くみられたことだ。審査およびイベントの司会を務めたIGDA日本代表の新清士氏は、「審査にあたり今年も本当に悩みました。それと同時に、ゲームの意味自体が変わりつつあるということ、どこまでがゲームで、どこからがゲームでないのか、ということを考えながら見させて頂きました」と、作品傾向の変化について触れている。

 純粋にアイディア勝負の作品、興味本位で作ってみたものが存外面白かったという作品、あるいは商品化を目指す作品も複数登場した「センス・オブ・ワンダー 2010」。本稿では会場で紹介された9作品の模様をお伝えする。




■ 恋愛ゲームの新機軸に会場大爆笑。「新しいインターフェイスの実験」部門

・「ラブプレス++ ~俺の嫁にマッサージ~」

神奈川工科大学情報メディア学科、白井研究室による発表

 「恋愛シミュレーションの新しい形」を提案するべく生み出されたという作品は、「恋愛」を2つの要素、「恋」と「愛」に分割し、「愛」の部分を分析し、体感型インターフェイスを適用することで生まれたマッサージゲームだという。このような雲を掴むような話を冗談めかして展開したのは神奈川工科大学情報メディア学科白井研究室に所属する学生の横田氏。

 取り出したるはWiiバランスボード。何が始まるかと思いきや、横田氏はテーブルの上に置いたバランスボードの上に覆いかぶさり、両手でグイグイと押し始めた。すると、ぐいぐいと手で押すたびに「あんっ」、「いやっ」とピンク色の声が会場に響き渡る。必死な顔でバランスボードを「マッサージ」する横田氏、最後は音声に「ヘタクソッ」と言われてゲームオーバー。その様子に会場は大爆笑。

 これは、バランスボードという体感型のインターフェイスと、映像なしの音声だけで構成されたゲームだ。確かに良いアイディアだが、そのアイディアで実現されたアプリケーションの「どうしようもなさ」もまた面白さのひとつ。「iPhone版が欲しい」というユーザーフィードバックがあるとのことで、白井研究室を率いる白井暁彦准教授は「使用した結果、社会的ダメージを負っても保証しかねます」とクギを刺して、再び会場を笑わせていた。


必死にバランスボードをマッサージする姿に会場は大爆笑



・「Infinite Blank」

発表を行なったアメリカのEvan Blaster氏

 この作品は、ネットワークを介してつながる創造的なアプリケーションだ。ゲーム世界はMMO的な単一の「キャンバス」で、プレーヤーはこの世界に接続して好きな領域をペイントして、新しい空間を作り出すことができる。ネットワークを介して誰かが世界に空間を追加して、自由に絵を描いていくことで、「Infinite Blank」の世界は無限に広がっていくという仕組みだ。

 描かれた空間には当たり判定を付けることができて、そうして作られた世界を、これまた自分で描いた自分自身のアバターを使って歩きまわることができる。特にゲーム的なルールが存在しないため、ゲームと呼ぶのが適当かどうかわからないアプリケーションだが、ひとつの非同期コミュニケーションの形として評価された格好だ。

 発表者のEvan Blaster氏によると、「Infinite Blank」はPC、Mac、Linux用のクライアントが用意されており、発表の翌週に一般への公開を予定しているという。


ネットワークを介して、1つの巨大なキャンバスを舞台に非同期コミュニケーションが展開していく



・「音楽マインスイーパ」

ゲーム製作者コミュニティin札幌のメンバーが作品を発表

 ゲーム製作者コミュニティin札幌という個人開発者チームが発表したこのゲームは、Windowsユーザーなら誰もが一度は触ったことのある「マインスイーパ」を、ちょっとした工夫でより楽しく改造したという作品だ。その仕組みは簡単で、マインスイーパを解く最中に出現する「爆弾」を音符として演奏するというもの。盤面を縦横に「演奏線」が流れるようになっており、リズムに合わせて爆弾の位置に応じた音が鳴り、プロシージャルに音楽が演奏されていく。もちろん、ゲームを解いていくに従って音が増え、次第に賑やかな音楽が構成されていくわけだ。

 ゲームをクリアするとメロディパートが追加されてさらに音楽は賑やかなものに。音程や音のタイミングは、プレーヤーが盤面を解き明かしていった順番やスピードに応じて変化するため、プレイするたびに異なる音楽が生成されるというわけだ。盤面の状況に応じて自動演奏されるものであるため、どこか不思議な響きがあるが、テンポをジャズ風やユーロビート風に変更することで雰囲気がガラリと変わってくるのも面白い。


マインスイーパを「楽譜」と見立てて音楽を生成。これだけでもガラリと楽しい雰囲気になる



■ 製品化を目指す作品も登場。「新しいスタイルのパズルの追求」部門

・「Everything Can Draw!」

イランから来たMahdi Bahrami氏

 「センス・オブ・ワンダー」史上最年少の発表者という、17歳のMahdi Bahrami氏が発表した作品は、幾何学的な問題をテーマとするゲームだ。数学の先生からの質問に触発されて創り上げたというゲームのルールは、「与えられた軌跡を再現するには、運動する図形のどこに点を打てばよいか」を探し出す物理パズル。

 各ステージは2D表現された図形が配置されており、丸いものは重力に従って転がり、四角いものは衝撃で倒れるという単純な物理的ルールが働いている。そして画面上部には曲線が表示されており、これが解くべき問題だ。例えば丸い図形は、転がるときに周辺部の点が円形の軌跡を描く。中心は直線を描く。地形に段差があれば回転に応じて複雑な曲線が描かれる。これを頭の中で考えて、物質が運動する際にどの部分が与えられた曲線を描くかを考えて、点を打つのだ。

 衝突により連鎖的に反応する物理オブジェクトや独特の幾何学的なゲーム性など、非常に数学的な素養を感じる作品で、会場でも非常に高い評価を受けていた。


幾何学パズルとして完成度の高い作品。ちなみに本格的なステージエディターも統合されており、技術的なレベルも高かった



・「Spirits」

ドイツの独立系開発グループSpaces of Play

 こちらはiPhone、iPad向けの商品化を前提に作成されているというアクションパズルゲーム。「Spirits」というのは作中に登場する木の葉型のキャラクターの名前。サイドビューの2Dグラフィックスで表現された地形がパズルのステージとなっており、放っておくと右方向に直進するだけの「Spirits」を、各種の仕組みを使ってゴールへ導くことが目標だ。

 「Spirits」は、風を引き起こすギミックに変化したり、壁になったり、樹の枝を成長させて橋にしたり、地面を掘ることができる。これらのアクションに使った「Spirits」はゴールできなくなるが、大量に居るその他の「Sprits」をうまくゴールに導けばOK。ステージによっては「Sprits」の出現数制限があるなどで、かなり頭をひねらないとクリアできないものもある。

 「レミングス」や「World of Goo」に近いテイストを持ちつつ、手堅い作りのパズルゲームといえる本作。発表を行なったSpaces of Playのメンバーは、今年10月のリリースを目指して一生懸命に開発していますと語った。


手堅い作りのアクションパズルゲーム。商品化を目指して開発中とのことだ



・「Record Tripping」

アメリカの独立系開発チームBell Brothers。ちなみに双子

 アメリカから来た双子、Bell Brothersが開発したこの作品は、ターンテーブルのスクラッチ操作にヒントを得て作られたアクションパズルゲームだ。丸いものを回転させるという操作で様々なパズルを実現しており、美しいグラフィックスも相まって本格的な作品となっている。

 ゲームはステージクリア式に進んでいき、クリアするごとにより難しい課題が与えられる。最初のステージでは、タルを上手に回転させて、底面に描かれた迷路からビー玉を脱出させるというもの。次のステージはダイヤル式の金庫の鍵を、画面上に現れるヒントを用いて開けるというパズル。続いて現れるのは、風車を回して風を起こし、空から落ちてくる植物の種子を上手に導くというアクションだ。

 「回す」という操作を様々な形に展開する本作のアイディアは、まさに「センス・オブ・ワンダー」を刺激してくれる。本作は無料のFLASHゲームとして公開されており、http://www.recordtripping.com/にて実際にプレイ可能だ。


可愛らしい動物が登場する映像センスもさることながら、パズルゲームとしてのアイディアが素晴らしい作品



■ どこまでアートでどこまでがゲームなのか?「感情や社会的なメッセージの表現」部門

・「Ulitsa Dimitrova」

ドイツのLea Schonfelder氏とGerard Delmas氏

 「Ulitsa Dimitrova」というのは、ロシアのサンクトペテルブルクに実在するストリートの名前だ。ドイツのグループが発表した本作は、そのストリートに生きるストリートチルドレンの生活を描いたアドベンチャーゲーム的なもの。とはいってもクリア条件というものはなく、ゲームというよりはアート作品に近い趣がある。

 主人公はストリートチルドレンのピョートル君。ピョートルはタバコが好きで、通りにある商店の窓ガラスを割ったり、駐車しているBMWのエンブレムをもぎとったりしながら、物々交換でタバコを手にいれていく。出会う人物はシンナー中毒の少年や、アル中の娼婦、同じ境遇のストレートチルドレンの女の子などで、世界は非常に狭い。

 こうしてピョートルはなんの目的も抱かず、盗品を交換してはタバコを吸うだけの生活を続けるが、この生活にはひとつだけ出口がある。それはプレイを止めるということだ。プレイを止めるとピョートルは眠りにつき、極寒の路上で雪に埋もれて死んでしまう。これ以外の終わり方はない。現実のストリートチルドレンの状況を聞いて製作した作品とのことだが、淡々とした表現が逆に生々しく、感情に訴えかけるものがあった。


路上で生活する少年ピョートル。夢も希望も救いもない、しかし現実にある人生のひとつを体験させてくれる作品だ



・「Orfeo: a Game in Music」

シンガポールから参加のRoberto Dillon氏

 シンガポールのデジペン工科大学から参加のRoberto Dillon氏が発表したのは、「音楽によるゲーム」。ギリシャ神話に基づいたストーリーを持つゲームで、与えられた問題を解決するために「オルフェオの琴」を使う。画面に表示された琴の弦をマウスでドラッグすることにより音が生まれ、その演奏方法により「幸せ」、「怒り」、「悲しみ」、「恐れ」という4つの感情バーが動く。

 最初のステージでは女神エウリュディケの関心を引くために「幸せ」の調べを演奏する。琴の弦をやさしくテンポよくはじいていくことで「Happy」ゲージが高まり、全開になるとステージクリア。続くステージでは、死せるエウリュディケを追って死者の国へ。船頭カロンを眠らせてアケロンの川を渡るという設定で、ここでは「悲しみ」を演奏する。弦をゆったりと、ポロン、ポロンと演奏することにより「Sad」ゲージが高まっていく。

 このような形で、「怒り」は素早く荒々しい演奏、「Fear」はランダムな音の調べで不安定なメロディを演奏することで達成する仕組み。音と感情を利用したパズルのような格好で、これまでにない仕組みを持つインタラクションが実現されているのが面白い。


音楽をプレイする、ということがゲーム的にきちんと表現された作品。感情を込めてプレイすることがコツになるだろうか



・「アオノソノコノミチャン」

ゲーム開発者チーム「芸夢中心(ゲイムセンター)」

 最後の発表となったのは、音とアクションを組み合わせた3Dゲーム。音楽ゲームの新しい可能性を目指したという本作では、球形の惑星上で「このみちゃん」を操り、惑星を緑色に染めていくことでゲームを進めていく。キャラクターのアクションには音が関連付けられており、何かアクションを展開するたびに、パーカッションだけのBGMが彩り豊かなものになっていく。

 惑星ひとつを完全に緑色にしたら次の惑星へ。次第に敵キャラクターも登場するようになり、ますますキャラクターのアクションは激しく、音楽は豊かなものになっていく。音楽のトーンはプロシージャルに生成しているようで、響きは不思議なもの。テンポのよいテクノ系サウンドという雰囲気がつくられていく。爽やかなアクションと音のコラボレーションが、ゲームのインタラクションに新たな「手触り」を与えてくれるという印象だ。

 本作は1月完成予定で鋭意開発を進めているという。どのような形でリリースされるのかはまだわからないが、かなり本格的なアクションゲームになっているようなので、実際に触れる機会が得られるなら楽しみだ。


XNA Game Studioを使って開発された3Dアクションゲーム。今回の発表で最もゲームらしいグラフィックスや演出を持つ作品でもあった



(2010年 9月 19日)

[Reported by 佐藤カフジ]