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【GDC 2013】「トゥームレイダー」はいかにして生まれ変わったか?

試作段階で製品状態を目指す。リブート作を成功へ導いたCrystal Dynamicsの信念

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 GDC 2013最終日となる3月29日、「トゥームレイダー」に関する講演が開発元のCrystal Dynamicsよって行なわれた。

 北米で3月上旬に発売されたばかりの「トゥームレイダー」は、アクションアドベンチャーの草分けとして1996年よりフランチャイズがスタートした人気シリーズの最新作。

 どんな強敵でも打ち倒すタフな女性としての印象が強かったララ・クロフトのイメージを一新し、誰もが共感できる弱さを持った女性として描き直すことで、シリーズ自体の刷新を図った。

 この狙いは見事に当たり、売上は現在で340万本を越えるヒットを叩き出している。このセッションではCrystal DynamicsのDarrell Gallagher氏とNoah Hughes氏が登壇し、作品がどのようにリブートされていったのか、その方法とコツを説明していった。

ゲームでもリブート作成功を。段階ごとに「完璧」さを確認

Crystal DynamicsのDarrell Gallagher氏
同Noah Hughes氏
最終の青写真が見えているからこそ、クオリティに対して正面から取り組めた
試作品段階のララ・クロフト。完成品よりもだいぶララ・クロフトしている

 Gallagher氏は、17年シリーズが続く「トゥームレイダー」シリーズを取り組むにあたり、本作には大きな変更を加えないといけないと考えた。シリーズが長く続くうちにハードの性能も向上し、「アサシン クリード」、「アンチャーテッド」なども登場した。

 またプレーヤーの世代も交代し、1996年にシリーズが始まった時には生まれていないプレーヤーもいる。そこで新しい物語を作り出し、キャラクターも深く共感できるものにするという変更案を練りだした。

 しかし、あくまで「トゥームレイダー」であるので、アクションアドベンチャーなど核となる部分は変えたくなかった。

 そこで参考となったのが、映画作品となる「007/カジノ・ロワイヤル」と「バットマン・ビギンズ」。この両作品はどちらも「007」と「バットマン」という人気シリーズに対し大胆な再アプローチを行なったことでリブート作品として成功を収めている。

 ただしこれらに類するようなリブート作品はゲーム業界では例がなく「私たちが最初にやらなければ」と考えたのだという。

 そこで色々なアイディアを検討した結果、人間としての成長を若いララ・クロフトと一緒に経験するという方向性が決まった。そこで注目したのが「サバイバル」というキーワードだ。実際の出来事が話題になって後に映画になったりするように、「サバイバルは、人間の限界を試すような物語になる」として、「A Survivor is Born」というコンセプトを打ち出した。

 今回の「トゥームレイダー」は、12時間以上程度のシングルプレイモードと、マルチプレイモードで構成されている。この12時間という数字は「通常は12時間に詰め込もうという方法だが、今回は新しい誕生の物語を作るという意義のもと、ストーリーとプレーヤーを乗せるリズムを重視した結果」と話した。

 製品制作では、制作進行上にマイルストーンを置いて、そこで毎回「とてもいい」と感じられるようにすることが大事だという。また各エピソードはチャンク(塊)として分けられ、同時並行的に制作していった。この段階では試作品ではあるが、各エピソードの終わりにはレビューと検証、リファインなどを繰り返し、試作品でありながら出荷できる状態まで持っていくことを目標にした。

 その後、チームは1.5時間分のバーティカルスライス(プレゼン用のデモ版)を作成し、本格的な制作に入っていく。かかった時間は1年間で、ここでも各エピソードは「完璧」な状態に仕上げていった。

 個人的に興味深かったのは、登場人物をモーションキャプチャーで撮影する場面で、表情だけは正面に設置したカメラで撮影していたという部分。ここはモーションキャプチャーに頼らずに、その時の演者の表情を参考に、アニメーターが表情を付けていったのだという。

今後はゲームでもリブート作品が続々と登場するのだろうか?
「生きてこそ」、「127時間」など作品化されることもある「サバイバル」
「サバイバル」の標榜。ゲームの中の各要素が総合的に立ち現れてくるものにしたかったという
試作品で「製品版」品質を目指す、という力の入れ込み具合がすごい

編集に半年、バグ修正にも半年。潤沢なポスプロ期間が作品を磨き上げる!

ゲームプレイをチャート化した図
ゲームの流れとプレーヤーの心理状態がわかるようになっている図
制作期間は4年と長いが、取り組み方は非常に真っ当

 さてこうして製品版ができあがった……というわけではない。この後にはポストプロダクションとして、編集作業とバグフィックス、そして磨き上げの作業が入る。編集作業は6カ月、それ以降の作業も6カ月と、ここでも1年間の時間をかけているが、この編集作業がクオリティを上げるための肝になっていた。

 プロダクション時点で各エピソードが完璧になっていることが目標ではあったが、12時間分ともなると違和感や気になるところも出てくるので、それを繰り返し編集していく。

 最後にはテストを行なってストーリーの理解度をフィードバックしてもらい、理解度の数値が低かったところを見直していく。このテストでは同時に、プレーヤーが特にどこで引っかかっていたか、などのゲーム的なデータも採ってリファイン用の素材とした。

 そして残りの時間はとにかく磨き上げをする。「最後のテストと磨き上げ、バグ取りにはじっくりと時間をかけること。最後の仕上げになるので、いくらやっても足りないくらい」という。

 Gallagher氏は、全体としては「何をやろうとしているか把握していること」が大事だという。今回の「トゥームレイダー」は試作品の段階からほぼ製品版と変わらない核の状態を固め、そこから核がブレないままよりじっくりと時間をかけて制作に入れたのがポイントだったと話した。

 またそのためには、すべてにおいて「とてもいい」状態と言える段階を踏むこと、その理念を制作チームに共有しておくことが必要だったという。

 話を聞いているだけでも作品の完成度の高さが伺える今作は、日本では4月25日の発売が予定されている。シリーズをプレイした人もそうでない人も、ララ・クロフト誕生の秘密を体験してみてはいかがだろうか?

ステージのイメージイラストと、カメラ位置に細かく指示を出した図
こちらは脚本
モーションキャプチャー撮影の様子。演技を終えて、すぐにその場でデモが確認できるようになっていた
テストを繰り返してフィードバックをもらう。最終的なストーリー理解度はほぼ完璧だという
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(安田俊亮)