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【GDC 2013】ゲーマー大期待のVRヘッドセット「Oculus RIFT」
Valveの大物開発者ものめり込む、究極の仮想現実体験!!
(2013/3/29 17:01)
世界中のゲーム開発者が集まるGDCでは毎度のように注目の新ハードが登場するが、今回はいつになく異様なアツさで注目を浴びるガジェットが存在した。それは新進気鋭のVRヘッドセット「Oculus RIFT」である。
米ベンチャー企業Oculus VRが開発する「Oculus RIFT」は、ソーシャルファウンディングサイト“KickStarter”でプロジェクトを発表するや超スピードで目標を大幅に越える資金を集め、一躍注目株に駆け上がった製品だ(現在は目標額の10倍を集めている)。
基本仕様としては、両眼立体視が可能な2眼式ヘッドマウントディスプレイにヘッドトラキングセンサーをセットしたPC用VRヘッドセットであり、ゲームやバーチャルリアリティアプリでの使用に特化(というより、それ以外の用途を考えていない)ことが特徴である。
これまで存在したHMDとの最大の違いは、左右90度・対角110度という圧倒的な広視野角だ。ソニーのHMD最新モデル「HMZ-T2」が視野角左右45度だから、その倍ということになる。「Oculus RIFT」のスペックがいかに特異なものかおわかりいただけよう。
そのスペックも相まって、本製品にはゲーム開発者からの高い関心が寄せられている。なにしろ、KickStarterで本製品の資金募集が始まった当初、1番槍で支援の名乗りを挙げたのが、誰あろうid SoftwareのJohn Carmack氏なのである。
それに続いて北米を中心に大物ゲーム開発者が次々に支援・関心を表明。それを受けて多数のプロトタイプが開発され、ついに今回のGDCで製品化直前の実機が披露されることになった。
今回、GDC Expoの会場にプレイアブル展示されていた「Oculus RIFT」を実際に体験することができたほか、本製品への素早い対応を果たしたValve Softwareの大物開発者によるセッションを聴講することもできたので、この大注目のVRヘッドセットの魅力についてお伝えしていこう。
VRファンの妄想が現実と化した「Oculus RIFT」。その体験はスゴいの一言
GDC Expoへの初出展を果たしたOculus VRのブース周辺は黒山の人だかりだ。試遊を希望する行列は何と2時間待ちにもなり、ここがゲーム開発者会議の場であることを忘れるほどの人気ぶりであった。
筆者も覚悟を決め、行列に耐えて「Oculus RIFT」を体験した。今回、プレイアブル展示されていたのはGDC会期に合わせて出荷が開始された開発者向けのバージョンだ。使用ゲームはいち早く本製品への対応タイトルとなったオンラインロボFPS「HAWKEN」。コックピット越しに外の世界を眺める、本製品にピッタリのゲームである。
さて、まずは物理的な感触から。ヘッドセット本体はソニーの「HMZ-T」シリーズよりひとまわり大きく、重量さもそれなりにある。とはいえ、しっかりとした作りのヘッドバンドのお陰で装着時は殆ど重さを感じることなく、非常に快適だ。
眼をあてるレンズ部は、まるで双眼鏡のようにきっちりと眼窩にくっつく構造になっている。そのため、装着中は周囲の景色が全く見えない。そのこともあり、ウワサの広視野角の威力は想像以上だ。
本製品の視野角は左右90度。人間の眼が持つ視野角180~200度の半分程度となるが、実際ににつけてみると、ゲーム画面以外何も見えないため、実質的に視界のほとんどを覆ってしまうような印象なのである。
その映像は左右のレンズに別々に出力される仕組みで、完全な形の両眼立体視が実現している。2Dモニターで見る立体視とは違い、チラツキや輝度低下などのトレードオフがない、クリアな映像である。「HAWKEN」のコックピット内部と外の風景の距離感がキッチリとわかり、広い視野角も相まってものすごい臨場感だ。
そして頭を動かすと、コックピット内部を見回せる。リアルの頭の動きとVR空間内の視点の動きが完全に同期しており、遅延もほとんど感じられない。そして生み出される一体感は凄いの一言。「本当にコックピットの中にいるかのよう」というお決まりの表現が、あまりにも無力で腹立たしいほどである。
ならばこういう表現はどうだろうか。「HAWKEN」ならではのジェットジャンプで上空高っくにに舞い上がり、ふと下を見てみると、思わず背筋がゾクッとする。頭で考える前に、体が怖がってしまうのだ。
「これだ!」と思わずにはいられない。VRファンの理想、というより妄想だったものが、ここにある。従来存在した数々のHMDとは別次元の存在だ。大物ゲーム開発者が続々と支援を公表するのも頷ける。
今回プレイできたのは「HAWKEN」だけだが、本製品の威力の一端を垣間見ることができた。FPSのほかレースゲームやフライトシミュレーター、「鉄騎」のような乗り物感がより強いゲームをプレイできたならもっとスゴいに違いない。
もちろん、不満点が無いわけではない。今回展示されていた開発者向けバージョンは解像度1,280×800。これが両眼立体視のためサイド・バイ・サイド分離されるため実効解像度は640×800。実際、詳細感に物足りなさがある。ただし現地のスタッフによれば、消費者向けの製品版では解像度の向上を図るそうである。
また、現時点ではPCのみに対応。PS3/Xbox 360および次世代コンソールには現状で非対応だ。とはいえスタッフによれば、将来の対応可能性は否定されていない。まずはハイエンドPCゲーマーの御用達ガジェットとして人気を集め、その後さらなる展開が見込めそうだ。
【Oculus VRブース】
新時代のVRゲーミングをValveの大物開発者も強力プッシュ
「Oculus VR」についてはエキスポ出展のほかいくつかのGDCセッションが設けられていたが、その全てが満員御礼という人気ぶりであった。その中でも特に人気を集めていたのがValveによる講演だ。
ValveではGDCの会期にあわせ「Team Fortress 2」のVR対応を発表している。既にSteamで対応版が配信されており、起動オプションに“-vr”と付けるとVR対応バージョンが起動する。もちろん、対応VRヘッドセットが必要だ。
現時点の対応ヘッドセットは「nVisor ST50」(視野角50度、完全に業務用で価格は18,000ドルほど)もしくは「Oculus RIFT」開発者キット(価格300ドル)である。つまるところエンドユーザー向けではなく、開発者向けのリリースだ。
Valveが業界に先駆けてVRヘッドセット対応に取り組む背景には、PCゲームならではの遊びを推進することで、PCゲームとイコールの存在になりつつあるSteamのビジネスを活性化させる意図が感じられる。しかし、そもそものモチベーションは開発者自身の関心にあるようだ。
その中心人物は、今回“Why Virtual Reality is Hard(And where it might be going)”と題する講演を行なったValveのゲーム開発者、Michael Abrash氏である。
Abrash氏は北米のゲームプログラマーにとって伝説級の人物だ。id Softwareにて「DOOM」、「Quake」のレンダリングエンジンを作り上げ、その後の著書「Graphics Programming Black Book」は、ゲームグラフィックスプログラマーのバイブルとして長く君臨。現在はValveでVRやウェアラブルコンピューターの研究を行なっている。
Abrash氏は「Quake」の時代を振り返り、当時芽生えはじめたメタバースへのロマンを語った。その思いが現在、「Oculus RIFT」への支援、ValveでのVR研究へのモチベーションとなっている。
その上で、Abrash氏はVRヘッドセットにおける課題を、電子工学的、生理学的な視点から詳細に分析してみせた。例えばリアルの視線運動とVR内での視点移動の間に横たわるレーテンシーの問題について、液晶モニターのRGB素子それぞれの応答速度のズレにまで言及するこだわりようである。
そして、感覚と映像のズレが生じさせる違和感を完全になくすためには、フレームレート1,000fps~3,000fpsは欲しいと真顔で語る。どこまで突き詰めようというのか、そのこだわりは聴講者に当惑のどよめきを起こさせるほどだった。
そのAbrash氏に言わせれば、「Oculus RIFT」は新時代のVRガジェットであることは間違いないが、しかしまだ始まりにすぎないという。今後、技術的な研究や蓄積により、無数の問題を解決し、発展してくべき分野であると捉えているようだ。
VR=バーチャルリアリティといえば、何年かごとに注目されては、急速に飽きられ廃れることを繰り返しているキーワードである。今回もそうなるのか、それとも、「Oculus RIFT」はほんもののブレークスルーであって、Abrash氏のような開発者の手によって本物のエンターテイメントに成長していくのか。これも、次世代ゲームシーンを占う上で重要なポイントになりそうだ。
【講演「Why Virtual Reality is Hard」】