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【GDC 2013】「Myst」ポストモーテムレポート

根っからのストーリーテラーが明かす、傑作アドベンチャーゲームの裏側

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

「Myst]制作者のRobyn Miller氏。現在は映画を制作中だという

 GDC 2013では、独自の企画としてクラシックゲームを振り返る「Classic Game Postmortem」というシリーズセッションが開催されている。

 今回はその代表として、3月27日に開催された「Classic Game Postmortem: Myst」のセッションをご紹介する。「Myst」は、Mystと呼ばれる島を舞台としたアドベンチャーゲーム。いわゆるクリックアドベンチャーの草分けであり、精緻で美しい画面と難解な謎解きが特徴となっている。最初1993年にMacintosh用として発売されたのち、Windowsのほか、セガサターンなどのコンソール機などにも移植され、世界的に大ヒットを遂げた作品だ。

 登壇したのは、当時コンピューターソフトメーカーのCyanとして「Myst」を世に送り出したMiller兄弟の1人、Robyn Miller氏。発売後、約20年経ってからの登壇に驚きを隠せないと自身の心境を明かしながら、「Myst」以前の経緯から作品制作の過程を述べていった。

誰にでも受け入れられるノンリニアストーリーを追求

ノンリニアなストーリー提供というコンセプトは一貫している
初期の作品「The Manhole」。この頃からすでに「Myst」と雰囲気が似ている

 Miller氏は、「Myst」を作る以前から、「インタラクティブなストーリーを作りたい」という思いがあったと話しはじめた。一方的でリニアな物語ではなく、ストーリーが枝分かれするノンリニアなものに興味があったのだという。

 「Myst」の前身として挙げられたのは、1988年に制作された「The Manhole」というアドベンチャーゲーム。マンホールの中から草が生え、そこから物語が生まれるという不思議なコンセプトのゲームだ。最初はフロッピーディスク用だったというから時代を感じさせるが、ビジュアルはモノクロでありながら存在感があり、「Myst」に通ずる世界観が垣間見える。

 この頃の作品は、1人称視点のポイント&クリックゲーム、プレーヤーが主人公、すべての場所を探索できる、といった程度のもの。そして何作かを経て、大人のためのもの、信憑性のある登場人物、道徳的、感情を挑発させるようなもの、といったものを目指して、1990年には「The Grey Summons」という企画をActivisionに提出するが、これは「子供のゲームに固執している」と言われて失敗してしまう。

 その後日本のサン電子(Sunsoft)からゲームを作らないかと声をかけられ、Miller氏は失敗からもう1度コンセプトを見つめ直し、万人に受け入れられるようなものを目指して「Myst」に繋がるコンセプトを固める。それは以下のとおり。

ノンリニアのストーリー
信憑性のあるキャラクター
より進歩したグラフィックス
恣意的ではないパズル
道徳的選択
ミステリー

 また「Myst」制作にあたってインスピレーションを受けた作品も紹介された。物語制作の根本となっているのは「ダンジョンズ&ドラゴンズ」で、いいダンジョンマスターがいることで面白い物語が起こっていくことに強い印象を受けたのだという。

 このほか、「神話」的な部分は映画「スター・ウォーズ」シリーズから、「違う世界への扉」は「ナルニア国物語」から、「古い本とミステリアスな島」はジュール・ヴェルヌの著作から着想を得ている。

「ダンジョンズ&ドラゴンズ」から「スター・ウォーズ」まで、インスピレーションの元ネタが話された。来場者からは、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は意外だった、との声も聞かれた

パズルをパズルと思わせない。自らの課題への工夫の数々

静かな雰囲気と美しい表現も魅力の1つ。Quicktimeを使ってギミックの動きにアニメーションを入れるのも画期的なアイディア

 「Myst」の制作では、上記に掲げたコンセプトを実現するために、様々な工夫が凝らされている。まずパズル部分は、「“パズル”と言われてしまうと苦手に感じる人がいるが、いいパズルはパズルだと感じさせない」として、観察と一般的な知識で解決できるようなものを考え出した。

 例えば、島のある場所ではバルブを開けたり閉めたりして小屋の中に水を入れ、その水を動力源として島の様々なギミックを動かすことができる。確かにパズルではあるが、島の舞台装置や水という一般的な道具を使うことで、構えずに思考を巡らすことができる。

 グラフィックスは、シネマティックなものを目指して、1つ1つのショットをコツコツと制作していった。解像度は544×333ドット。使ったソフトはStratavision 3Dで、1つのショットにつき2時間から14時間のレンダリングが必要だったという。

 道徳的な選択、という点については、登場する2人の兄弟のどちらかを助けるというストーリーにすることでプレーヤーに決断を迫った。併せて「信憑性のあるキャラクター」という課題に対しては、相手が本の向こう側から一方的に語りかけくる、という状況にすることで、プレーヤーのリアクションがキャラクターに伝わらない不自然さを取り除いている。

 なおエンディングについては、クライマックスとして「アトラス」という人物を選択するエンディングが用意されている。その後テストなどをして修正を加えた後、「Myst」は世に出されることになる。

 当時の「Myst」評には、「シュールレアリズムのアドベンチャーが、あなたの世界にやってくるだろう」というものがあったという。「誰にでも遊んでもらえるように」と考えて作ったつもりだったMiller氏は「そんなことはない!」と憤っていたそうだが、今振り返れば「全くシュールレアリズムだと思う(笑)」と笑った。

 講演中には「ゲームは好きではなかった」と驚きの発言をするなど、ゲーム制作者というよりは根っからのストーリーテラーという面が強いMiller氏.。だからこそ、アドベンチャーゲームの金字塔とも言える「Myst」ができあがったのだろう。

 Miller氏は現在はゲームではなく、Zoo Break Gun Clubというプロダクションで映画を制作しているという。Miller氏がゲーム制作に返ってくる可能性にも期待しつつ、今後のさらなる活躍を見守っていきたい。

島の中心から様々な場所に行くというのは、ディズニーランドを模しているそう
建造物のスケッチであると同時に、パズルのスケッチでもある
予算は26万5千ドルだったという
美しい3D風景もコツコツとしたMiller氏の努力の賜物
登場人物はMiller氏ら兄弟が2人で演じているというのは有名な話
2人以外にも、クライマックスとして「アトラスエンド」がある
クリックで反応するポイントを思った以上に大きく広げることも、重要な要素だったと振り返った

(安田俊亮)