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台湾Unalis董事長Louis Cheng氏特別インタビュー
日本市場参入の狙いと世界戦略を聞く。「少女兵器WEB」ヒットの秘密とは?
(2013/2/5 13:49)
台湾Unalisは、ブラウザゲームやモバイルゲームなどを台湾で展開しているオンラインゲームパブリッシャーだ。2013年1月に日本のスマートフォン市場にゲームアプリを投入する計画を発表し、第1弾としてiOS向けに戦略シミュレーションゲーム「ノルナゲスト戦記 ~運命の女神たち~」を1月23日に配信を開始した。
今回、日本市場参入にあたり、台北のオフィスを訪問し、Unalis董事長のLouis Cheng氏と、国際事業開発部長のHans Chuang氏にインタビューを行なった。Unalisはこれまでどのような活動を行なってきたのか、日本市場にどういった戦略を持って取り組んでいくのか、そして今後どのようにビジネスを展開していくかといった質問をぶつけてみた。
Unalisは日本と中国両方のコンテンツに親しんできた台湾ならではのセンスと経験を活かし、ビジネスを展開していく。さらに戦車や戦闘機といった兵器を美少女化するという、日本的なセンスを持った台湾クリエイター達と協力し、「少女兵器WEB」というブラウザシミュレーションゲームをサービスし成功しているという。このタイトルは、日本でもサービス予定だ。
中国と日本の間にある台湾メーカーならではのカルチャライズで、コンテンツを展開
Unalisは設立は1976年で、最初はPCソフト全般、そして海外のPCゲームを台湾国内で販売する代理店業務を行なっていた。Ubisoftや、Activision、Blizzard Entertainment等のメーカーのゲームを販売し、特に「Diablo II」は台湾国内だけで100万本という大ヒットを生み出した。以来、コンソールゲームにはタッチせず、PCゲームの販売のみを行なっていたという。
その後、台湾でオンラインゲーム市場が熟成していく中で、Unalisはオンラインゲームパブリッシャーとして様々なタイトルを手掛けていった。基本的な姿勢は中国や韓国でのタイトルを、台湾国内でサービスを展開している。韓国JOYMAXの「シルクロードオンライン」や、中国盛大のタイトルを台湾でサービスし、現在はMMORPGやブラウザゲームを中心として、20タイトル程をサービスしている。
特に2010年からサービスしている、中国の菲音というメーカーが開発した「明朝時代」や「凡人修真」という武侠をテーマにしたブラウザゲームが人気だという。UnalisはPCゲームパブリッシャーから、オンラインゲームパブリッシャーになったとき、会社の規模が大きく変化した。PCゲーム時代の社員は十数名だったが、現在はビルの中の3つのフロアに120名の社員が勤務している。
社員の中で大きな割合を占めるのがGMだ。彼等は24時間3交代制で勤務し、ユーザーからの要望に迅速に対応している。またサービスに対応する技術スタッフも雇っている。
「オンラインゲームの運営を行なってみて、ユーザーはこんなにもゲームに熱狂するものなのか、と驚かされました。販売のみを行なうPCゲームと違い、オンラインゲームはユーザーと近い距離で情報をやりとりする。また1つのタイトルを1度に数万人、数十万人がプレイしている、というスケールの大きさもPCゲーム時代には実感できないことでした。Unalisはオンラインゲームへの体制で、大きく変化しました」とCheng氏は語った。
そして、Unalisの新しい戦略が「台湾産コンテンツの強化」だ。これまでは、中国産コンテンツを台湾国内で展開するという方法をとってきたが、台湾国内の他のパブリッシャーと差別化を図るためにFriendly Landという作家集団がIPを持っている、兵器を美少女化した「兵器少女」のライセンスを獲得し、台湾国内の開発会社と共同でオリジナルのブラウザシミュレーションゲームを開発した。台湾では2012年の6月からサービスを行ない、すでに30万人以上の会員を獲得している。今後もFriendly Landとのゲーム開発は続けていく方針だという。
もう1つのUnalisの新戦略が「海外進出」である。Unalisは多くの中国産タイトルを台湾でサービスしていく中で、「中国でのタイトルの中には、日本でも通用するタイトルはあるのではないか」と考え、その白羽の矢を「ノルナゲスト戦記」に立てた。このタイトルは中国の新進メーカーが開発しているが、Unalisから見ればアップデート計画や運営部分で改善点が見つかった。そこで、まず台湾でのサービスにあたり、アップデート計画や、ゲームのバランスに関して大きく手を入れた。台湾ユーザーの要求にかなうバランスのゲームに作ったのだ。
日本でサービスを行なう「ノルナゲスト戦記」は、この台湾版がベースとなった。ここからさらにUnalisはゲーム内でのイラストを日本のイラストレーターの北千里氏のものに差し替え、プロモーションムービーに登場するキャラクターの1人を声優の井上喜久子さんに担当してもらうなど、日本の他のゲームと比べて、違和感のないようにローカライズを行なった。「ノルナゲスト戦記」は1月23日に販売を開始したが、App Storeのトップセールスランキングで初登場10位、最高6位というUnalisの予想を上回る評価を得た。
「台湾は、中国と日本のどちらのコンテンツにも触れています。中国はゲームの作りとして大味なところがあるし、日本は細かすぎるところがある。台湾という中間に位置する私達を通すことで、中国と日本の良いゲームをそれぞれの国に合わせたカルチャライズ・運営を行なっていけるのではないか、そう考えています」とCheng氏は語った。
Unalisの日本進出は自社のコンテンツを日本にサービスするためだけではなく、日本の開発会社と組んで、台湾や中国でコンテンツをサービスするための足がかりにしたいという狙いももっている。Unalis日本オフィスは、日本のデベロッパーに働きかけ、台湾・中国に向けてのコンテンツ開発を行なうための窓口にしたいという。日本のオフィスは窓口としての業務と、メディアへの対応が中心だが、台湾から日本へ何らかのアクションがあるときの監修なども行なっていくという。
Unalisが日本に投入するタイトルは、まず台湾を通すのが鉄則だとCheng氏は語った。台湾で運営のノウハウをつかんだ上で、日本市場に合うか、どうすればより日本のユーザーの心をつかめるか検討を重ねた後、サービスを実施する。Unalisは韓国にも同じようにカルチャライズしたタイトルをサービスしたいと考え、現在タイトルを検討中とのことだ。
「まず台湾のユーザーの反応が私達が日本にゲームをサービスする為の判断基準になります。ユーザーの反応でコンテンツの特徴がはっきりして、そこから社内と、日本オフィスのスタッフとも話してタイトルを決めていきます。このため、日本へのタイトルの投入は多くのものを投入するのではなく、慎重に検討してやっていきます」とChuang氏は語った。
美少女+メカ、台湾による日本風IPによりヒットした「少女兵器WEB」。夏には日本展開へ
Unalisの新たな看板タイトルとなった「少女兵器WEB」は、Friendly Landがこれまで育ててきた「少女兵器」というIPを、ブラウザシミュレーションゲーム化したものだ。こちらに関しては、Friendly Land総経理の王士豪(Debut Wang)氏を交えて話を聞いた。
「少女兵器」はFriendly Landがこれまで資料集や図鑑、そしてカードゲームを販売してきた。Friendly LandのスタッフであるイラストレーターのZECO氏が中心となって“兵器の美少女化”というコンセプトで様々な作品を生み出している。ZECO氏は「少女兵器」のスピンオフとして第二次大戦の戦艦を美少女化した「Battleship Girl -鋼鉄少女-」という作品がワニブックスのコミックガムで連載されている。
ブラウザシミュレーションの「少女兵器WEB」は戦車や戦闘機などの兵器を美少女化したユニットをコレクションし、強化してシナリオを進めていく。戦闘はシミュレーションバトル形式で、戦闘時には少女兵器達の必殺技が炸裂する。お気に入りのユニットを集めて、育て上げるのが楽しい作品だ。さらにみんなで巨大な敵に挑むイベントや、育て上げたユニットで戦うPvP要素もある。現在すでに50人以上のユニットがいて、今後続々と投入していく予定だ。
「少女兵器WEB」は2012年の6月にサービスがスタートし、現在は会員数30万人、最大同時接続者数1万5,000人というヒットタイトルとなった。現在30ものサーバーが用意されている。人気の理由の1つに“日本のアニメ文化への親和性”だという。本作は台湾でのみサービスされているにもかかわらず、プレーヤーをサポートする“秘書”の声に日本の声優を起用しているのだ。
熱血系の秘書に野中藍さん、クール系の秘書に浅野真澄さんを起用している。彼女たちのボイスは日本語のままで、ゲームでは彼女たちの日本語ボイスに合わせて中国語の字幕が入る。また、Friendly Landによって日本人イラストレーターが描いたユニットも今後投入予定だという。
Cheng氏は本作の成功に関して、「ライバルのいない作品を作ることができた」と語る。台湾のクリエーターが作り上げた世界観、美少女達にフォーカスし、ブラウザゲームとして作り上げるという試みはこれまで台湾では行なってこなかった。Friendly Landというクリエーター集団が作り上げた世界観があったからこそだからだという。
「少女兵器WEB」は日本へのサービスに向け、日本のパブリッシャーと交渉を重ねているところで、2013年夏のサービスを目標としている。Unalisは今後もFriendly Landとの関係を強化し、ゲームを製作していく予定だ。現在すでに「鋼鉄少女」のキャラクターが登場する作品を企画中だという。さらにFriendly LandとUnalisでオリジナルIPによるゲームも進められており、これらは近日正式な発表を行なう予定だ。
最後にユーザーへのメッセージとしてCheng氏は「現在、『少女兵器WEB』の日本サービスに向けて、日本の方の意見を必要としています。こんな声優を起用して欲しいなど、色々なアイデアをいただければと思います」。
王氏は「Unalisさんと協力して、『少女兵器WEB』の魅力を伝えていきたいと思っています。もっと緊密にコラボレーションし、良いゲームを作っていきます。期待してください」と語った。
今回インタビューを行なう前までは、MMORPGはおろか、ブラウザゲームのブームも過ぎている段階で、なぜ今頃台湾メーカーが日本市場に参入をするのか疑問だった。しかし、実際に話を聞いてみて、Unalisは日本法人を設立して大規模に展開していくという意識は薄く、あくまで台湾に根を下ろし、現地のユーザーと一緒にコンテンツを磨き上げてから、台湾から海外にサービスを行なうという姿勢であることがわかり、それなら理解できると思った。
そしてFriendly Landとのコラボレーションにも注目したいところだ。台湾は同人活動はあっても、商業に繋がらず、結果としてクリエイターが育ちにくい環境にあった。台湾や韓国ではオンラインゲームがクリエイターを志す人達への目標となったが、今後もゲームを通じて様々なクリエイターが育っていくのではないかという期待感を持った。台湾メーカーが、自国のIPを積極的に応援し、マーケットを形成しようという活動も応援したい。「少女兵器WEB」の日本展開も注目したいところだ。