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Aiming Taiwan Brunch本社訪問レポート

内製、外注合わせて1,000人以上の絵師のネットワークを構築、目指すは世界に勝負できる台湾発のオリジナルコンテンツ

1月31日~2月4日

会場:Aiming Taiwan本社

 日本の独立系オンラインゲームパブリッシャーのAimingは、昨年、台湾、韓国、そしてフィリピンと、立て続けに子会社を設立した。台湾ブランチについては昨年の台北取材で、レポートしたとおりだが、昨年2月の段階ではまだ準備室で、取材できるような段階ではなかったため、改めて1年後にTaipei Game Showのタイミングで台湾ブランチを訪れてみた。

 今回対応していただいたのは、Aiming Taiwanで執行長を務める平田尚武氏。元バンダイナムコゲームスで台湾ビジネスやオンラインゲーム等を担当し、設立準備室の段階からAiming Taiwanに加入し、就任して丸1年となる。平田氏には、Aiming Taiwanの陣容や業務内容、今後の展望について話を伺ってきた。

【Aiming Taiwan】
Aiming Taiwanは、台北のランドマークTaipei 101のすぐ裏手にある

開発メインの支店ながら膨大な外注ネットワークを構築

入り口には、Aiming Taiwanが手がけたタイトル(一番左の「ブラウザ三国志」を除く)が紹介されている
Aiming Taiwan執行長 平田尚武氏
社内の様子。ほとんどの席が埋まり、すでにかなり手狭な印象だ
絵師捜しの際に参考しているWebサイトのひとつCGHUB。このほかにも多くのサイトを参考にしているという

 平田氏が台湾と接点ができたのは、2006年にバンダイナムコゲームスがXPECと共同で制作したPSP向けアクションゲーム「Bounty Hounds」。平田氏は、制作当時台湾のXPECオフィスに常駐し、この際に培った人脈や語学力が現在のキャリアに繋がっているという。その後、バンダイナムコオンラインの運営を担当し、オンラインゲームに関するノウハウを蓄積したという。2011年末に、Aiming CEOの椎葉忠志氏に誘われ、現在に至る。ちなみにAiming Taiwanで平田氏の右腕として働いているAmo Hung氏は、XPEC時代の開発仲間だという。

 さて、Aiming Taiwanは、厳密には現地法人ではなく支店で、日本にあるAiming本社の開発業務の一部を、現地雇用した台湾人のスタッフを使って処理するのが主な業務となっている。担当分野はグラフィックス全般で、いわゆるソーシャルカードゲームのイラスト作成から、2D、3Dを問わず、武器や防具などのアイテムの作成、キャラクターのデザイン、モデリング、モーションなどを幅広く担当している。

 ユニークなのは、UIデザインやアイコンをはじめ、「剣と魔法のログレス」ではドットデータの作成なども担当しているため、それまで台湾にはほとんど存在していなかった“ドッター”(ドット絵を手がけるデザイナー)もいる。その養成にあたっては、候補者を大阪の開発スタジオまで派遣して、教え込んだという。即戦力を雇うのでは無く、人材育成も行なっているところが大きな特徴と言える。

 Aiming Taiwanの給与は、台湾の水準より少し高く設定している。一般的なTaiwanの給与水準は韓国や中国本土より安くなっており、Aiming Taiwanとしてもこのコストメリットを活かしながら運営をしていく方針だという。印象としてはコストメリットは台湾より中国本土の方が大きそうだが、実際にはゲーム業界やイラスト業界は、昨今のソーシャルゲームブームで人件費が高騰しており、一定以上の水準のイラストレーターに発注することを考えると、中国より台湾の方が安い場合もあるという。

 また、平田氏によれば、台湾でスタジオを設立した理由はコスト面だけでなく、台湾におけるイラスト業界の環境が良くないこともあるという。Aimingはイラストが関係している製品を作っていることもあり、台湾のイラストレーターの恵まれない現状に対して、受け皿を用意したかった側面もあるという。台湾ではイラストレーター人口は急速に伸びているものの、その受け皿が少なく、給与の面でも恵まれておらず、イラストレーター一本で飯が食える人はほとんどいないのが現状だという。

 これだけ需要があるのだから、台湾にイラストレーター集団が生まれてもおかしくなさそうだが、平田氏によれば、「そこはOEMの国」であるため、自分たちで新しいものを生みだそうという動きにはなかなか結びつかないのだという。結果として、一定の実力を備えたイラストレーターを安く雇いたいAimingと、とにかく安定した環境でイラストを描きたい台湾のイラストレーターのニーズがマッチし、Aiming Taiwanという形で結実したというわけだ。

 現在のスタッフは平田氏を含め31人。内訳はイラストレーターが2人、モデラーが20人、総務・管理が数名で、内製に限って言えば、3Dモデルデータの作成が主な業務と言えそうだ。

 ただ、Aiming Taiwanがおもしろいのは、この31人という数字は氷山の一角に過ぎないところだ。Aiming Taiwanでは、イラストレーターはほとんど外注スタッフを使っており、平田氏と総務・管理の数名は、外注スタッフへの営業や進行管理の役割も担っており、仕事を発注している外注スタッフの数は「もうすぐ4桁いっちゃうかなぐらいのレベル」(平田氏)というから凄い。

 発注先は、台湾のみならず、中国、東南アジアと手広い。メインは層の厚さ、クオリティの高さ共に世界最高水準の中国だというが、毎月のようにコストが上がり、すでに台湾より中国に発注するほうが割高になるという。その代わりクオリティは「圧倒的で鼻血が出るレベル」ということだ。

 中国のイラストレーターは、欧米人が好む、濃密なイラストを得意としている人が多いため、名前は出さないものの、欧米のゲームのイメージイラストやパッケージイラストは実は中国人が描いていたりすることは少なくないという。

 このため、世界中からイラストの発注が来るため、北米大手の仕事を受けるような超大物イラストレーターは、日本円で1枚100万円を超えたり、半年先まで予約で埋まっていたりすることもあるという。こうした事情から、安定かつ大量に中国にイラストを発注するのは「すでに難しいと思う」という話だった。

 ただ、それでも日本から直接では無く、台湾を経由して仕事を発注する意味は大きいという。理由は単純に言葉の問題から、発注の仕方の違い、様々な手数料の存在などで、1つ1つは細かいものの、積み重ねると大きな違いとなって現われてくるという。

 平田氏が今後有望だと考えているエリアの1つは東南アジア。ただし、同じお題でアジア各地のイラストレーターに絵を描いて貰うと、東南アジア地域のイラストレーターは、手の曲げ方が宗教的だったり、宗教がかってしまうなど一癖あるのが難点だという。また、東南アジア地域は、コンテンツは一方的に消費する側であり、作り手に回ったことがないため、イラストレーターそのものが少ないという。それでも少しずつ増えてきており、今後に備えてリレーションを作りつつあるという。

 というわけで、現在、もっとも有望な市場は「台湾」だという。外注のほか、内製のイラストレーターを増やし、イラストレーターだけのチームを編成し、彼らの人脈も活用して、台湾のイラストレーターのネットワークを掘り起こしながら、より規模の大きな仕事をお願いしていくつもりだという。

【風水に基づく絵や木花】
この絵や木花は、風水の先生の指導に従ったものだという。ちなみにこの絵は、Aiming Taiwanのスタッフの1人が描いたもの。中国の歴史画風だが、手前の人物はタブレットやスマートフォンを手に持っている
【イラストレーターの作品】
メーカーロゴのデザインや、このAiming幹部6人の人物画はすべて台湾のスタッフが描いている。とりわけこの6人の人物画は各人の特徴をうまく描いており、よく似ている。上段中央がAiming CEOの椎葉忠志氏、下段中央がAiming Taiwan執行長の平田尚武氏

今後の目標は台湾オリジナルの自社開発タイトルの開発と運営

 Aiming Taiwanがこれまで手がけてきたタイトルと担当分野は以下の通りとなる。


・「剣と魔法のログレス」ドット絵
・「ロードオブナイツ」新規カードデザイン
・「ブレードクロニクル」設定画、キャラクターモデルデータ
・「GRIFFON(仮)」装備、モンスターデザイン、キャラクターデザイン
・「三国志LOK(仮)」カードイラスト
・「複数の未発表タイトル」グラフィックス周り

 平田氏は、XPEC勤務時代にすっかり台湾に魅せられて、中国語を覚え、「僕が日本に帰る時は、Aiming Taiwanが失敗したとき」と言い切るほどだが、それだけに台湾人のスタッフには愛を持って厳しい目で見ており、「彼らは自社でIPを作って、自社で開発しようという意識が低い」と言い切る。また、常に仕様書がある中で、その通りに作ることばかりを続けてきたため、オリジナルが生み出せず、結果として劣化コピーばかりが街に溢れる結果になっているという。

 平田氏は、台湾ゲーム業界のこうした部分に大きな不満を抱いていると言うが、最近はAiming本店から来ている仕様書をそのまま形にするのではなく、独自の感性でテイストを変えたり、より良い内容に仕上げるようになりつつあり、少しずつオリジナルの意識が生まれつつあることに満足しているようだ。

 平田氏は、将来の目標として、現在のグラフィッカーとイラストレーター中心の体制から、プランナーとプログラマーも加えて、Aiming Taiwanオリジナルタイトルを手がけることを考えているという。昨年1年間は会社としての体裁を整えることに時間を費やしてしまったが、2013年は1年後に向けて、大作ではないもののオリジナルIPの新作スマホゲームを手がけていきたいという。

 IPを持つことの強みはバンダイナムコゲームス時代に学んだと言うことで、「メインのデザイナーを台湾人にして、中華圏のかわいい系、世間でいうところのちょっとズレたかわいさを追求して、グローバル向けにアピールしていきたい」という。開発も運営も台湾が行なうつもりだという。

 最後に平田氏に中長期の目標を聞いたところ、意外な答えが返ってきた。「Aiming Taiwanを台湾でトップクラスの開発会社にしたい。日系企業の支店なので台湾の企業といえるかは微妙だが、他のメーカーにも協力しながら台湾のゲーム産業のお手伝いをして、台湾からグローバルで勝負できるようなコンテンツを生み出すことが僕の目的」と語ってくれた。気宇壮大な夢と言えそうだが、まずは順調にいけば来年完成予定のAiming Taiwanオリジナルタイトルの誕生に期待したいところだ。

【Aiming Taiwanスタッフの作画】
Aiming Taiwanの仕事は明示できないものが多いということで、ごく一部を見せていただいた

(中村聖司)